♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
「それで、今日はなんの話だったの?」
「ああ、うん。その、マンガの話とかゆっくりしたことなかったなって」
香坂が僕の部屋にいる。
初めての経験になんだか胸がどきどきした。
学校でいつも会ってるのに、場所が違うだけでこんなに違うのか。少し離れて座ってるのになんかいい匂いがするし、ちょっとした仕草が女子っぽくてつい気になってしまう。
恋に比べたら小さいけど胸もある。
黒い──タイツ? を穿いた足に注目してしまいそうになりつつ答えると「え、それだけ?」と意外そうな顔をされた。
「なんだと思ってたんだよ」
「わからないけど、なにか大事な話かなって」
「……あー。それは、悪い」
なんの話かわからないのに家に来るなよ。
母さんが言うには「女子を家に誘ってOKされたら手を出しても大丈夫」らしい。
でも、やっぱりこいつはそこまで考えてなかった。申し訳なく思いながら「危なっかしいなこいつ」とも思った。男と付き合いたくないなら少しは警戒しないとそのうち襲われるぞ。
と、僕が心配してやってるのに、香坂は別に気にしていないと言うように「ま、いいや」と微笑んで、
「わたしもそのほうが気楽だもん。……マンガ、読んでもいい?」
「ああ」
立ち上がって本棚に歩いていく。
男の家に来て普通にマンガを選ぶなよ。女子ってこういうものなのか? ……いや、たぶんだけどこいつが特殊なだけだ。
少女マンガなんて一冊もないのになんか楽しそうだし「これは持ってるから……」とか普通の女子は呟いたりしないし。
で。
気づいたら三十分くらいお互いにマンガを読むだけの時間が続いた。
なんだこれ。
マンガ読むだけなら別に一緒にいる必要ないだろ。
まあ、男友達とはけっこうこういう遊び方をするけど。
間がもたないので僕は自分から話しかけることにする。
「なあ」
「ん?」
「マンガの原案ってどうやったらできるんだ?」
「別に特別なことはしてないよ? たまたまマンガを描く人と知り合って、アイデアに悩んでるっていうからわたしの妄想を話しただけ」
そう聞くと普通な気もする。けど、それで成功できるかは話が別。
「お前、あんな面白い話妄想してたのか?」
「あくまで原案だよ。悩んで形にしたのは先生」
そりゃそうか。いや、原案でも十分凄い。
僕はせっかくなのでさらにいろいろ聞いてみた。最初の時点でどのくらい決まってたのかとか、先生ってどんな人なのかとか、これからどうなるのかとか。
残念ながら香坂は先生のことやこれからの展開なんかについては答えてくれなかった。
「個人情報だし、展開についてはネタバレだから」
「なんだよケチだな」
「わたしが話したせいで本が売れなくなったらわたしが弁償しないといけなくなるんだよ」
「誰にも言わないって」
「じゃあ、燕条君は同じように『誰にも言わない』って仲の良い男子に言われて黙ってる自信ある?」
「……ない」
誰にも言わないならいいか、って話してしまう気がする。なるほど、秘密っていうのはそうやって漏れていくのか。
香坂は「答えられることなら答えるけど」と微笑んで、
「答えられないこともあるよ。わたしの作品じゃないしね」
「じゃあ、ヒロインがお前に似てるって話はどう思う?」
「あれはおに──先生が勝手にやったんだよ。わたしも恥ずかしいんだから」
少し頬を赤くする香坂。可愛いと思ってしまうから困る。
「読モのmioと原案のmioが同一人物なのか、って先輩と話し合ったこともあったんだぞ」
「あー、まあ、自分から言うことでもなかったしね。わざわざ名前変えるのもそれはそれで変な感じだし」
「あの動画とかどんな風に作ったんだ? 編集部ってどんなところなんだ? お前も打ち合わせ行ってるのか?」
話し出すと聞きたいことはなかなか尽きなかった。
香坂も特に嫌な顔はせずひとつひとつ答えてくれる。そうやって話しているうちにさらに三十分が経って、母さんが麦茶を持ってきた。
「香坂さん、今日は泊まっていくでしょう?」
「あ、はい、そうですね。……でも、ご迷惑じゃありませんか?」
「ぜんぜん。じゃあ、後でお布団持ってくるわね」
「って、別に僕の部屋じゃなくても」
空いてる部屋もあるだろと主張してみたけど、母さんは「あそこ物置きになってるし」と聞き入れてくれなかった。
「なんか、悪い」
うまく相手のほうを見れないまま謝ると「ううん」と軽く返事があって。
「恋たちとお泊まりしたこともあるし。別に気にしないよ」
男と女じゃ全然違うだろ。いや、女同士で結婚することもあるんだから同じなのか?
でも香坂たちが結婚……いや、うん、普通にありそうだな。
香坂と恋、玲奈がキスしてるところを想像した僕は「なんかめちゃくちゃもったいないな」と思って、
「ね。ちょっと気になってたんだけど、あれ、なに?」
香坂のほうはそんな俺のことなんてお構いなしに僕の部屋を見回して指さしてきた。
「ああ。ゲームだよ。……さすがに知らないよな」
「知ってるよ。でも、ちょっと古くない?」
「なんだと」
僕の部屋にあるゲーム機は確かに二世代くらい前のやつだ。
男向けのゲームを頑張って作っていた人たちがどんどん業界からいなくなるので、昔のゲームのほうが僕たちでも遊べるのが多い。
なのでだいたいみんな、ゲームから卒業する大人から譲ってもらったりして古いゲーム機を持ってる。
説明すると「大変なんだね」と返ってきた。そりゃ女子は今でも遊べるゲーム多いから気にならないだろう。そもそもゲームやらない女子も多いし。
「香坂はゲームとかやるのか?」
「ほとんどやらないかな。時間潰しにパズルしたりするくらい。でも、興味はあるよ」
他の女子相手なら「本当か?」となるところだけど、少年マンガを好きで読んでるこいつのことだからたぶん本当だ。
「じゃあ、ちょっとやってみるか?」
「いいの?」
「別に、友達とよくやってるし」
軽く誘ってみるとすぐに食いついてくる。
目を輝かせる様子からしてゲームがしたいだけだ。僕がゲームを繋いでいる間も「すごーい」とかわかりやすいお世辞を言ってくるどころか、「へー」「ふむふむ」とか言いながら本体やコントローラーを眺めていた。
才能がある奴ってどっか変じゃないといけないのか?
「ソフトはどんなのがあるの?」
「んー……そうだなあ」
RPGは基本一人プレイ用だ。男同士だとわいわい言いながら攻略することもあるし、こいつなら平気そうな気もするけど一応やめておく。
シューティングも上手い下手が分かれるし、クリアできないと空気悪くなるから駄目。
「これとかどうだ? クラファミ──『クラッシュファミリーズ』」
簡単に言うと他のゲームの人気キャラが殴り合うやつだ。
キャラごとに技が違うので好きなキャラが一つくらいは見つかるし、HPが0になったら負けじゃなくて吹っ飛ばされて場外になったら負けっていうルールなので女子にもとっつきやすくてけっこう人気があるらしい。
説明を聞いた香坂も「うん、これならちゃんとやれそう」と頷いた。
まあ、初心者だからきゃあきゃあ言いながら動かすのがやっとだろうけど。
これは、香坂を悔しがらせるチャンスなんじゃないか?
僕は勉強だと基本的にこいつに勝てない。運動ならそりゃ勝てるけど、それじゃ勝った気がしない。
あんまり見られないこいつの顔をこの機会に見てやる。
僕はちょっとあくどいことを考えながらソフトを本体に差し込み、スイッチを入れる。軽く説明をしながらキャラとステージを選択して、
「おい、香坂。マカロンはやめたほうがいいぞ。弱いから」
「大丈夫だよ、たぶん」
まあ、一見使いどころのないネタ技に実はもの凄いダメージ判定があるっていう玄人好み、または初見殺しのキャラなんだけど。
本当に大丈夫か? と思いながらゲームを始め、できるだけ手加減して動いていたら、
「ここで『うたう』……!」
「なっ!?」
射程ほぼゼロのネタ技を普通に当てられて僕のキャラが場外に吹っ飛んだ。
「お前、本当にこれ初めてか!?」
「初めてだよ?」
イラっとした僕は次は本気で挑んで、勝った。
「む。……燕条君、もう一回やろう。次はキャラ変えるから」
「最初からそうしてればいいんだよ」
そうそう、そういう顔が見たかった。
僕は少し気持ちが晴れるのを感じながらさらに対戦をスタートさせ、気づいたら母さんが布団を運んでくるまで香坂と二人、ゲームに熱中していた。
「湊。あんた美桜ちゃんを自分の物にする気あるの?」
「ないよ!」
向こうにその気がない以上は香坂に悪い。
僕たちはそのままもう少しゲームを続け、さらにマンガやアニメの話をした後、僕はベッドで、香坂は布団で寝た。
「楽しかった。……ねえ、良かったらたまに遊びに来てもいい?」
それから香坂は本当に、ときどき家に遊びに来るようになった。