♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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【番外編】『元』美桜と高校生活

「本当に気をつけなさいよ、湊」

「大丈夫だって。最近は普通だろ、俺?」

「……普通ねえ」

 

 見送りに来た母さんが微妙な顔でわたしを──別世界の湊くんになってしまったわたし、香坂美桜を見た。

 

「確かに変なことは言わなくなったけど、その髪型はなんとかならない?」

「別にこのくらい普通だろ」

 

 わたしは髪先を軽くいじりながら答える。

 疎い人にはただ乱れてるように見えるみたいだし、元の『燕条湊』ともだいぶ違うけど、流行りの髪型から()()()()に似合うのを選んでる。

 制服の着崩しだって校則の範囲。

 

「心配するなよ。今年こそちゃんと進級するからさ」

 

 笑って母さんの頭をぽんぽんと触って、わたしは学校へと歩きだした。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 別世界の湊くんと入れ替わったわたしはわけがわからないまま精神病院に入れられた。

 新しい身体と変な世界にはなんとか慣れて高校にも通えるようになったけど、そこでわたしは「勉強がわからない」という新しい問題に出会った。

 だって小学五年生だったのに、高校二年生の勉強なんてわかるわけない。

 頑張ってついていこうとしたけど全然で、テストのたびに母さんにため息をつかれた。

 

 結局、出席日数の問題もあって進級はできず、二年生をもう一回やることに。

 

 学年色の上履きや体育館履きは新しい色に新調。

 一緒のクラスだった子たちが先輩になるのはものすごい屈辱。でも、考えてみると別にわたしのクラスメートじゃないし、勉強のできなくなったわたしを馬鹿にしてきた奴らもいるからむしろこれでよかったのかもしれない。

 さすがに勉強も約一年頑張ってきたのである程度はわかるようになった。今ならもう赤点は取らない。

 

 それに、わたしはこの身体の本当の持ち主とは違う。

 

「ねえねえ、燕条くん。入院したって言ってたけどどこか悪いの?」

「持病とかそういうの?」

 

 始業式とHRが終わってすぐにわたしはクラスの女子から声をかけられた。

 二人組。特別可愛いわけでもないけどお洒落にはそこそこ気を遣ってる。

 さりげなく観察しながら笑って、

 

「ああ、ちょっと頭を打っちゃってさ。病気とかじゃないよ」

 

 すると二人はすごくほっとしたような表情。

 

「そうなんだー。あ、じゃあ勉強とか楽勝じゃない?」

「わからなくなったら聞いてもいい?」

「いいよ。でも、()あんまり頭良くないから逆に聞いちゃうかも」

「えー、なにそれ」

 

 そうそう、これこれ! こういうの!

 わたしはHRの自己紹介で自分から留年のことを話した。隠してるとあとでバレて印象悪くなるし、入院してたって言えば「じゃあしょうがないね」っていう雰囲気になる。

 むしろこうやって話をするきっかけにもなった。

 

「燕条くん彼女とかいるの?」

「いないよ。残念だけどいたことないんだ」

「うそー。すっごくモテそうなのに」

「本当? ありがとう」

 

 二人は興味を持ってくれたみたいでそのまま話を続けてくる。

 嫌な顔せずに答えているとさらに女子が寄ってきて、

 

「なになに? なんか楽しそう」

「燕条くんと話してたの」

「いいなー。私も交ぜてよ」

「もちろんいいよ。みんなは部活とかやってるの? よかったら教えてよ」

 

 私は初日から女子の連絡先をいくつも手に入れることに成功した。

 女の子、ほんとちょろすぎ。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

 別世界での男子としての生活は慣れてみるとけっこう快適だ。

 服装もしゃべり方も適当でもうるさく言われない。むしろちゃんとしてるだけで褒められたり「格好いい」って言われる。

 男がいっぱいいるから普通にしてるだけじゃ女の子寄って来ないのに、なんでみんな努力してお洒落しないのかわたしにはぜんぜんわからない。

 服を選ぶのもスキンケアも姿勢に気をつけるのも爪を整えるのも栄養バランスに気を遣うのも睡眠時間をとるのも女の子にとっては当たり前なのに。

 

 この『燕条湊』だってよく見たらそんなに顔は悪くない。

 

 見せ方がぜんぜんダメだっただけ。

 一年かけて髪型もしゃべり方も食生活もぜんぶ変えたらこの通り、女子が興味を持ってくれるようになった。

 わたしは女の子相手にお喋りするの得意だし、女の子向けのファッション誌とかむしろどんどん読みたいくらい。話そうと思えばいくらでも話せる。

 この世界には男の子だけのアイドルユニットがいくつもあってどんどん新曲を出してたりもして、そういうところは「天国かな?」と思う。このへんも普通の男子なら興味なくて乗れないけど、わたしなら簡単に乗れる話題だ。

 

「……こっちの女の子って、なんか、けっこう馬鹿じゃない?」

 

 こっちだと男と女で付き合うのが普通で、結婚して子供を作るのが普通だ。

 男と女がだいたい同じ数なんだから格好いい男は早い者勝ち。向こうの女子だったら始業式の日には告白してセックスまで持ち込んでてもおかしくない。

 なのに「イケメンには話しかけるけど告白はしない」「お姫様みたいに大事に扱われて気持ち良くなりたい」みたいな子が多すぎる。

 かと思ったら処女は別に大事にしてなくて、ちょっとおだてられただけで「運命の相手だ」とか勘違いしてセックスしちゃったりする。

 

「最高だよね」

 

 この身体に馴染むにつれて、わたしは自然と女の子に興味を持った。

 だってこの身体じゃ男の子に抱かれるのは無理だ。女の子とするほうが自然だし、ぜったい気持ちいい。

 だからわたしは彼女を作ることにした。

 彼女を作れば好きなことをし放題だ。本当はさっさと作りたかったけど、去年は勉強とこの身体の改造で忙しかったからなかなかチャンスがなかった。同じ学年の子は元の『燕条湊』を知ってたから上手く口説けなかったし。

 

 だから、留年したのは逆にチャンスだ。

 

 いっぱい彼女を作っていっぱい経験する。

 もちろんあのおまじないの本も探すつもりだけど、まったく同じ本は見つからなかった。たぶん世界が違うからだ。似たような本がないか調べたり、別のタイトルで同じ本がないか探すのは時間がかかる。その間、せっかくだからこの身体も目いっぱい楽しんでおく。

 この身体の持ち主は元に戻った時、自分が「経験済み」だって知ったらどう思うだろう。

 わたしと同じように女の子を相手にしたくても上手くいかないに決まってる。それを考えるとちょっと楽しい。

 

「待っててね、湊くん。ちゃんとまた会いに行くから」

 

 どうやったら男の子が気持ち良くなるのか。

 男の子の身体でしっかり覚えてから元に戻って、今度こそ湊くんを落とす。

 そのために『燕条湊』にはちゃんとわたしの身体を保護しておいてほしい。でも、わたしだしきっと大丈夫。お母さんやお姉ちゃんもちゃんと体調管理してくれるはず。

 

 考えていたら楽しくなってきた。

 

 始業式の夜、お風呂とストレッチを終えたわたしは日課を済ませようとスマホのスリープ状態を解除した。

 今のこの身体は十七歳。

 次の誕生日になったら堂々とえっちな本を買えるようになるんだよね。どうせだからそれも買っていろいろ勉強してから戻ったほうがいいかも。

 

「最初はどの子を落とそうかなあ」

 

 知り合った子たちの顔を思い浮かべながら、わたしは妄想に浸った。

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