♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と新しい雑誌(その1) 2017/10/7(Sat)

「お疲れ様でした~っ!」

 

 最後の撮影現場となったとある街角に女の子の高い声が重なって響いた。

 今回も無事に終了。

 秋の陽気に冬の装いで暑さを堪えるのも読モ二年目となるとさすがに多少は慣れる。今は着替えて私服モード。そのコーデには少し前に撮影で使った衣装がばっちり活用されている。

 

「ねえねえ美桜ちゃん、スイーツ食べて帰ろうよ」

「近くに美味しいお店あるんだって」

 

 撮影終わりにみんなから誘われることも増えた。

 いつの間にかほとんどの子が顔見知りになり、スタッフさんとも顔なじみに。

 むしろ新しい子にいろいろ教えてあげる機会さえ出てきていて、読者モデルという仕事が板についてきた感じだ。

 今日は特に予定もないし、つぶやいたーやリンスタのネタにもなるので快くスイーツ店に同行しようと思ったところで、

 

「あー、みんなごめんなさい! 今日は美桜ちゃんを私に貸して欲しいの!」

 

 橘さん──今回の雑誌の編集を務めているほのかのお母さんが制止の声を上げた。

 みんなはこれに「えー」と声を上げたものの「ほんとにごめんなさい!」と重ねてのお詫びがあると「仕方ないかあ」と態度を軟化。

 編集さん相手では仕方ない、というのはちゃんと心得ている。

 むしろ今度はニヤニヤと笑みを浮かべて僕に近づいてきて、

 

「美桜ちゃん、もしかしていい話だったりして?」

「専属? ついに専属契約?」

「えっと、話してもいい内容だったら後でメッセージ送るね」

「やった!」

 

 みんなと手を振って別れて、

 

「本当にごめんね。スイーツ食べたかったでしょう?」

「大丈夫です。甘いものはいつでも食べられますから」

 

 申し訳なさそうにしていた橘さんはこれで少し表情を緩めて、

 

「それじゃあせめて、どこかのお店で買って帰りましょうか」

「帰る? ほのかたちの用事ですか?」

「ううん、帰るのは会社。……実はね、ちょっと美桜ちゃんに話があって」

 

 急いで事後処理を済ませた橘さんと車で出版社へ。

 もう一つの出版社──お兄さんのマンガでも関わっているところにはよく顔を出しているけど、実は橘さんのいる会社にはあまり行ったことがない。

 ただの読モなので基本は現地集合、会社まで行って打ち合わせするということがあまりなかったからだ。向こうの会社はマンガの話をするついでに、っていうのが多かったけど。

 

「あの、どんな話なのか聞いてもいいですか?」

 

 閉ざされた車内なら誰かに聞かれる心配もない。

 車に盗聴器、とかスパイマンガじゃないんだから大丈夫だろうし。

 橘さんも「そうね」と言って教えてくれる。

 

「実はね、美桜ちゃんに新しい雑誌からオファーが来てるの」

「新しいところ?」

 

 伝えられた雑誌名は今まで僕にあまり馴染みのなかったところ。

 スマホで検索してみると、バックナンバーの表紙に映っているのはよく読むファッション誌とはだいぶ毛色の違う服と女の子。

 ボーイッシュ? マニッシュ? なんて表現するのがいちばん適切だろう。

 とにかく男の子っぽい服を取り扱った雑誌ということだ。

 

「なんか格好いいですね」

「でしょ? そういうファッションも根強い人気があるの。少なくなった男の子の代わりをしようっていうニーズなのかな」

 

 男性的な格好良さを好む女の子はやっぱり一定数いるし、同性が好きな女の子の中には「格好いい女子」になって女の子を落とそうと考える子もいる。

 そこまでいかなくても単純に格好いいからとか動きやすいからで選ぶ子も。

 うちのクラスにも似合いそうな子が何人かいる。

 

「でも、わたしでいいんでしょうか?」

「うん。私もびっくりしたけど、ほら、この前マンガのPVがアップされたでしょ? あれで興味を持ってくれたみたいで」

「え。わたしの顔はぜんぜん出てませんよ?」

「見た目じゃなくて演技のほう。私も美桜ちゃんがあんな演技できるなんてぜんぜん知らなかった」

 

 ああ、PVで男キャラを演じたことか。

 あれはSNSでもちょっと反響があった。リクエストで男の子ボイスを希望してくれる人も出てきたし。僕としても演技の幅が広がった手ごたえがある。

 

「でね、男の子っぽい演技ができるならファッションもいけるんじゃないかって」

「ちょっと思い切ってませんか?」

「そうね。でも、男の子を演じることには違いないでしょ?」

 

 実際、男の子っぽい格好もできるとは思う。

 というか中身は男なのでむしろそっちの方が素に近い。得意分野だ。

 

「とりあえず今日は相談ってことで。担当者への顔合わせと試着だけかな」

「あ、ちゃんとお試ししてからなんですね、よかった」

「それはそうよ。……あ、でも、担当者には気をつけてね。ちょっと癖の強い人だから」

「え」

 

 若干不安になりつつ訪れた出版社。

 基本的には僕が知ってるもう一つの会社とそんなに変わりないけど、内装の色調とかに社風的なものがちょっと感じられる。

 どっちにしても社員のほとんどが女性で清潔感は強い。

 向かったのは今まで訪れたことのない編集部で、

 

「いらっしゃーい、初めまして美桜ちゃん。あー可愛いー」

「むぎゅ」

 

 なんだかふわふわした声の人にふわふわした感じで抱きしめられた。

 なんとか離れてもらって見上げると、橘さんよりは少し若そうな女性と目が合う。

 胸が大きくていい匂い。髪もふわっとした感じ。綺麗というよりは可愛い系。ファッション誌の担当っぽさはあるけど、

 

「雑誌のイメージと全然違いました」

「でしょー? よく言われるの。でも、私は自分の好きな物を作ってるからー」

「好きな物?」

「私は自分がきゅんきゅんする紙面を目指してるの。だから私とイメージが違うのは当然なんだよー」

 

 なるほど。

 子供向けファッション誌だとそもそもどこも「編集者が実際にその服を着る」ということはない。本人が雑誌の色を体現している必要は必ずしもない。

 むしろ自分の見たい物を追求するというのは一つの理想的な形なのかもしれない。

 

「今日はわざわざ来てくれてありがとねー? じゃあ、さっそく着替えてみてもらってもいいー?」

「あ、はい」

 

 説明なしとは。いや、前もって聞いてたからいいけど。

 渡された紙袋に入っている服にトイレで着替える。

 いつもの服に比べるとタイトかつラフなスタイル。美桜になってからパンツ(※ズボンのほう)を穿く機会はあんまりないので少し新鮮だ。

 

「あ、髪どうしよう」

 

 長い髪を下ろしたままだと男子っぽくない。

 少し考えたうえで手持ちのヘアゴムを使い後ろで大きくポニーテールにする。本格的に結ったり編んだりすればもっとボリュームを消せるけどひとまずはこれで。

 後は立ち方や歩き方か。

 僕はいったん目を閉じるといつもの仕草をいったんリセットする。鷹城さんから何度もダメ出しをされ、演技の練習のためにトレーニングを繰り返してきたので、意識的に見え方を調整するのにもだいぶ慣れた。

 今回、思いだすのは男子だった頃の感覚。

 肩幅を広く見せる。足を開き気味にして、瞳から溢れる感情を抑えて。女子からするとぶっきらぼうなくらいのほうが男子っぽく見える。

 

「……ん」

 

 個室を出て鏡で確認するとだいぶ雰囲気が変わっていた。

 普段の香坂美桜を知っている人のほうが騙されるかもしれない。成功した手ごたえに笑みを浮かべそうになるのを我慢して編集部に戻り、

 

「すご。美桜ちゃんよね? ……格好いい」

「うんうん、すごーい! お化粧とかしてないのにここまで着こなせるんだー!」

 

 もう一回担当さんに抱きしめられた。

 

「ちょっ。離してください……!」

「あれー? ちょっと話し方も変わってる? 美桜ちゃんホストの素質もありそう」

 

 そうか、ホストも女性がやるのがメインなのか……って、そんなことはどうでもよくて。

 

「美桜ちゃん。うちの雑誌にも出て! ね、いいでしょ?」

 

 思わぬところから新しいお仕事が舞い込んできた。

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