♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
家族との話し合いが終わった後。
僕はさっそく自分の心当たりにメッセージを送った。
幸いすぐに『電話OK』の返事が来たのでコール。
『こんばんは、美桜ちゃん。相談っていったいどうしたの? また演技のこと?』
少年俳優・
僕としてもそっちのほうが話しやすい。
「ううん。今日はちょっと違う相談で……」
かいつまんで事情を話すと一葉は『事務所に入るの?』と明るい声を出した。
『そっか。じゃあ、うちの事務所に話を通してみようか?』
「いいの?」
『もちろん。美桜ちゃんとは僕も一緒にやりたいから』
と、そこで一葉は『あ、でも』と続けて、
『せっかくだしモデル部門より役者部門に話を通したいかなあ』
「役者なんて私には無理だよ」
『でも、モデルも同じようなこと言って断ってたんじゃないの?』
「うう」
それを言われると痛い。
読モで慣れているとはいえモデルとなると勝手の違う部分もあるだろうし、奏先生から役者の基礎も教わっている。
だったら「これから覚える」という意味ではどっちも大差ないか。
僕は軽く息を吐いて、
「役者なら演技の勉強もしやすいもんね。……それもいいかもなあ」
『決まりだね。だめもとで話してみるよ。でも美桜ちゃんもすごいね。逆指名なんて』
「ええ……!? そんなつもりはなかったんだけど、でも、そうだよね。わたし、自分から『雇ってくれませんか?』って売り込みに行ってるんだ」
なかなかできることじゃない。
普通なら「じゃあオーディション受けてね」で追い返されるところ。
お姉ちゃんの事務所もそうだけどコネの力はすごい。
すると電話の向こうで一葉がくすくす笑って、
『あんまり気にし過ぎなくてもいいよ。美桜ちゃんなら、モデル部門はこっちから声かけたかったくらいだと思うし』
「ほんと?」
『今のところ僕と美桜ちゃんの関係は秘密だから詳しくは知らないけど』
「あ、そっか。わたしたちが知り合いだってバレちゃうんだ。……一葉、困らない?」
『僕は大丈夫。むしろ、あのこと知ってる人が周りにいてくれたら安心できるかな』
一葉の女装は僕たちだけの秘密だ。
そういうことならと、僕はひとまず一葉にお願いしてみることにした。
さすがにお姉ちゃんみたいに「すぐマネージャーに電話するね」とはいかないのでしばらく待つことになって──。
進展があったのは何日か後の平日、お昼休みのことだった。
『美桜ちゃん。今日の放課後、事務所に来れる?』
一葉は立ち会えないけど先方が時間を作ってくれるという。
水曜日だったのでピアノのレッスンを急遽キャンセル。事情を話すと先生も快く了承してくれた。さらにお母さんにも連絡して合流する手筈を整えた。
『でも美桜、あんな事務所にどうやって連絡を取ったの?』
「あはは。知り合いがいたから駄目もとで話をしてもらったんだ」
急な話だったのにお母さんはしっかり髪とメイクを整えて格好良く、可愛く決めていた。
「大人のすごさってこういうところなのかなあ」
「そうよ。……って、私の場合は仕事柄慣れてるだけだけどね」
お母さんはプロのメイクだ。
人の顔を整えられるのだから自分の顔だってお手のもの。
芸能関係に顔出すのが主だから服装だってTPOを弁えている。
一葉、もとは葉の所属している事務所は社屋をでん、と構えているちゃんとしたところだった。
受付で用件を伝えると応接間に通された。
お母さんは何度か来たことがあるようでわりとリラックスした状態。僕のほうは男子高校生だった頃を含めてもこんな経験ないので緊張しっぱなしだ。
編集部に来るのとはまたちょっと違った感じ。
向こうは雑誌にしてもマンガにしても「作品」を扱う場だけど、こっちは「人」を扱う場。錯覚かもしれないけど、他に誰もいない状態でさえ一挙一動を見られているような感覚がある。
お母さんによれば「慣れの問題よ」ということだけど。
「こんにちは、香坂さん」
「ご無沙汰しております」
やがて応接間にやってきたのは二人の女性。
面識があるらしく、お母さんとは少しフランクな挨拶をしている。頭だけ下げつつ成り行きを見守っていた僕は彼女たちの話がひと段落したところであらためて挨拶。
「初めまして、香坂美桜です。今日はお忙しい中お時間を作っていただいてありがとうございます」
「しっかりしたお子さんですね。さすが、香坂美姫の妹さん」
女性は片方が役者部門、片方がモデル部門の担当だという。
「本来なら専門のブースでお話をさせていただくのですが、今回は二部門同時ということでこちらをご用意いたしました」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「いえ。……それで本題ですが、当方といたしましては美桜さんを是非お迎えしたいと考えております」
もちろん最低限のテストは行うものの、僕の能力はある程度わかっている。
想定通りの実力だと証明できればあっさりと事務所に所属できるという。
「ただし、これは『モデル部門』を希望される場合です」
「花菱葉たっての希望でもありますので役者部門としてもお迎えしたいところですが、役者としての美桜さんの能力は未知数。ですのでもう少し厳しいテストを行わせていただきたいと考えております」
「具体的なお話をお伺いしてもよろしいですか?」
「はい。テストの内容は近々行われるオーディションへの参加です」
二週間後に行われる映画のオーディション。
書類選考後の実技審査からの参加。
これになんらかの役で合格できたら事務所に迎えてくれるという。
「映画の主役は花菱葉で決定しています。合格できれば二人の共演も叶うということですね」
「あの、事務所に所属していない状態でオーディションを受けさせてもらっていいんでしょうか?」
「構いません。合格した場合は当事務所所属とする、という条件で先方にも了承を得ます」
普通は所属していないと受けられないけど、コネでオーディションにねじ込んだ上で結果が出たら事務所に入れると。
「参加なさるのであればこちらを」
差し出されたのは詳しい要綱の書かれた書類。
部外秘なのでテストを受ける場合だけ持って帰っていいという。
「モデル部門としてはオーディションの結果に関わらず受け入れの意思があります。……欲を言えば直接こちらに身を預けてくださると嬉しいですけど」
「美桜、どうする? こちらの事務所ならどの部門でも安心だけど、あなたはどうしたい?」
尋ねられて僕は少し考える。
モデルとしてはお姉ちゃんに。役者としては一葉に。それぞれ期待されている状態。
じゃあ僕としてはどっちがやりたいのかと考えて、
「役者として所属させていただくことになったら、モデルの仕事は受けられませんか?」
「ああ、美桜さんは現在読者モデルをされていますからね。それは問題ありません。読者モデルとして受けていただく分には個人としての活動ですし、先方がモデルとして依頼したいということであればモデル部門との兼任も可能ですよ」
なら、答えは一つだ。
「オーディションを受けさせてください。お願いします」
二週間後とはなかなかにハードなスケジュールだけど、こんなチャンスを逃す手はない。
僕は担当さんたちの了承を得て書類を受け取り、オーディションへの参加を決めた。