♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
小学校を卒業した僕は無事に同じ学校の中等部に進学した。
中等部および高等部の敷地は我が家からだと小学校(初等部)とはほとんど逆方向になる。
制服も鞄もなにもかもが心機一転。
「……なんか、どきどきするなあ」
朝のルーティーンであるランニングを終え、シャワーを浴びた僕はいよいよ新しい制服に袖を通した。
試着は済ませているので初めてではないわけだけど、気分的にはこれが初回。
淡いクリーム色のブレザーは清らかさの象徴らしい。この世界の女子が清らかかと言うと疑問だし、お姉ちゃんは「汚れやすいうえに似合う人少ないんだよね」と文句を言っていたけど、汚れの目立つ白系は着るほうの気を引き締めてくれる。
スカートは紺で、胸の大きなリボンは赤色。
かなり伸びたせいで乱れやすい髪は大きめのバレッタで軽く留める。
姿見の前で制服をチェックするのもこれでいったい何度目か。
「よしっ」
お姉ちゃんが慣れていたのも納得だと思いつつ完璧に整えてリビングに降りると、
「お姉ちゃん、すごく綺麗!」
「ありがとう美空。いいよねこの制服」
「そうかなあ。私は早く高等部に移りたいけどなあ」
「美姫、そういうこと言わないの。本当に似合ってるわ。おめでとう、美桜」
「ありがとうお母さん」
家族が僕の制服姿を褒めてくれる。
妹の美空も小学四年生。お姉ちゃんは中三で来年からは高校生だ。
「私も早くその制服着たいなあ」
「じゃあ美空、いっそ飛び級しちゃう?」
「そうしたら早く着られるの?」
「美桜がそういうこと言うなんて珍しいわね。もしかして浮かれてる?」
「……そうかも」
美空の髪を撫でながらのセリフにお母さんが反応。
指摘された僕は少し恥ずかしくなった。
そんな僕の頭をお姉ちゃんがぽんぽん叩いて、
「中等部からは男子いないからね。美桜、覚悟しときなさいよ?」
「わたしはそのほうが気楽だよ……」
「本当にあんた勿体ないわよね。男の子と遊び放題なのにレズなんて」
「いいじゃない、美姫。嗜好は変わることもあるし、同性婚でも子供は作れるんだもの」
国民は人口を減らさないためにも人工授精で子供を作ることを推奨されている。
女の子同士で結婚してもどこかの男の種で妊娠するのが普通ということだ。……そう考えると気が滅入るけど、出産した回数に応じて補助金も出るので産んだほうがお得ではある。
他に結婚は女同士でするけど子供を作るための行為は普通に男性にねだる、というケースもあるようで──うん、深く考えるのはまだ止めておこう。自分にあてはめたくない。いざとなったらいっぱい稼いで子供は産まないという方法もあるし。
「美桜、在校生と新入生は時間違うけど学校の場所わかる?」
「大丈夫だよ。下見もしたし」
「さすが。じゃ、私は先に行くからね」
つい癖でいつもの時間に起きてしまったものの少し時間がある。
ゆっくりご飯を食べてしばらくのんびりする。その間に美空は小学校に登校していった。成長するにつれて少しずつ身体は丈夫になっていて登校できる日も増えてきている。
あの子には勉強が簡単すぎるので登校する目的は主に友達と交流するため、勉強なら研究所に行くほうがずっといい、っていう状況だけど。
「本当に美空は飛び級したほうがいいのかもしれないわね」
「美空が中等部に入る頃にはわたしもお姉ちゃんも高等部だもんね」
珍しく二人きりになったところでお母さんが呟く。
まあ、姉妹がいないからどうだということもないけど少し寂しい。
「あなたたちもお休みが増えるだろうからあまり気にしなくてもいいんでしょうけど……。今更な勉強を座って受けさせ続けるのは美空のためになるのかしら」
「難しいよね。飛び級したら友達とは離れ離れになっちゃうし」
「だからこそ、早いうちに決断したほうがいい気もするのよ」
美空には十分、飛び級するだけの学力がある。
あの子が「お姉ちゃん、これわかる?」と尋ねてきた問題が僕の宿題より難しかったことがあるので、中学一年くらいだったら余裕だろう。
飛び級すればその分だけ時間的な余裕が生まれる。
将来何をするにしても数年分の時間というのはかなりのアドバンテージだ。同世代が普通に社会に出てきた時に既に数年のキャリアを積めるのだから。
「美空には聞いてみたの?」
「必要ならする、とは言っていたわ。でも、友達と別れるのは寂しそうでもあったから」
「良い子だから余計に可哀想だね……」
友達との別れを経験したばかりの僕には猶更なんとも言えない。
学力の違う相手と一緒にいることを優先してもせっかくのチャンスをふいにするだけかもしれない。でも、友達の存在が力になることもあるわけで。
「最終的には美空次第じゃないかな。うちの家系はやると決めたら絶対やるでしょ?」
「……美桜も本当に立派になったわね」
目を細めたお母さんは「あの時は本当にどうなるかと思ったけど」と呟いて。
「結果的にはこれで良かったのかもね。あなたの胸のつかえがあのことで取れてくれたのなら」
「……うん。そう、なのかな?」
本当は香坂美桜じゃない僕にはきちんとした言葉が返せない。
しばらくすると時間になったので、僕はお母さんと一緒に入学式へ出発した。
「美桜ちゃん!」
「美桜さん、おはようございます」
恋にも玲奈にも新しい制服は良く似合っている。
恋や玲奈のお母さんとも挨拶することになった。前にも会ったことはあるけどあらたまった場で会うとなんだか緊張する。
新しい学校は小学校と比べてもかなり広い。
中等部と高等部が併設されているんだから当然だ。高等部の深い紺色の制服も交じっていて今までとは印象がぜんぜん違う。
学校に着いてしまうとお母さんたちとは別行動。校門の前で記念撮影だけしたら後はほとんど別々だった。
──気になるクラス分けは。
「やった! 一緒だよ美桜ちゃん!」
「……わかってはいましたけれど、少し残念です」
喜ぶ恋が僕に抱きつき、対照的に玲奈は深いため息。
僕と恋が普通コースなのに対して玲奈は特進──特別進学コースを選択している。その時点でクラスが違うので、確かに玲奈の言う通りある意味では当然だ。
「ああ、美桜さんも特進を選んでくだされば」
「あはは。特進選んじゃったらお仕事でお休みできないからね」
こればっかりは仕方ない。
昼休みには会えるし、休みの日にもなるべく時間を作るつもりだ。あらためてそのあたりを玲奈と約束していったん教室へ。
別の学校から来た子と挨拶したり、六年生の時に別のクラスだった子ともあらためて自己紹介をしたりして、
「あ、いたいた。香坂美桜さん」
「あ、はい」
僕は教室に顔を出した先生から呼び留められて、今度は新入生代表の挨拶を任されてしまった。
「これってこんなに急に来るんだ……!?」
「頑張って美桜ちゃん! 応援してるからねっ!」
お陰で入学式から知名度をばっちり掴めてしまった。
というか、式を撮影している大人の中にプロっぽい人がいたような。それも学校側が依頼した記録用の人だけじゃなくて、仕事先で見たことあるっぽい人が交ざっていたような……?
ひょっとしてなにかの時に使えるかもしれない、とかで撮られていたんだろうか。
なんだかすごく恥ずかしい気分になりつつ式とHRを終えて、
「香坂美桜さん。あなたが入学してくるのを待っていました。……どうか、私とお付き合いをしてくれませんか?」
自由になった僕は高等部の先輩から呼び留められると熱のこもった告白を受けた。