♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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美桜と本好き仲間たち(その4) 2016/5/31(Tue)

 香坂さんは本当に可愛い。

 学校でも特別だけど、私の部屋で過ごす香坂さんの姿はさらに特別だった。

 私なんかとは全然違う。

 髪はさらさらだし、肌は白くてすべすべだし、まつ毛は長いし、声は綺麗だし、なんだかいい匂いがする。それに初めて来た場所でも自然体で、全然可愛くない私の部屋なのに香坂さんがいるだけで別世界に見えてくる。

 

「だめ?」

 

 そんな香坂さんが甘えてくるなんて本当に反則だと思う。

 

「ううん。もちろんいいよ」

 

 私は真っ赤になった顔に気づかれないかどきどきしながら答えた。そう答えるしかなかったし、特に断る理由もなかった。

 様子を窺うと彼女は「良かった」と無邪気に微笑んでいて、私は燕条君がこの子のことを好きにならないのが不思議に思えてくる。私が男の子だったら絶対放っておかないのに。

 

 ──お兄ちゃんだったらどうだろう。

 

 たぶん、お兄ちゃんは大丈夫だ。

 香坂さんもきっと大丈夫。家に来てから一回もお兄ちゃんの話をしないし、今も貸してあげた本の表紙を丁寧にめくって目を輝かせている。

 

 だったら、むしろ。

 

 私はここ最近、お兄ちゃんが抱えている悩みを香坂さんに解決してもらえないか、と思った。

 解決が無理でも何かのヒントにはなるかもしれない。

 その悩みというのは──。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 賞に応募するマンガのアイデアが思いつかない。

 

 俺はもう何日も行き詰まっていた。

 

 高校で授業を受けている間も家にいる間も考えるのはそのことばかり。

 母親には「程々にね」と言われるだけで済んだけど、昨日はとうとう歳の離れた妹に「気分転換してみたら?」と勧められてしまった。

 このままじゃいけないのはわかっているけど、打開策が見つからない。

 いったいどうしたらいいのか。

 

「ただいま」

 

 家から帰ってきてすぐにため息をつく。

 普段なら鼻歌でも歌いながら制服を脱いで趣味に打ち込むところだが、その趣味が上手く行っていないのでは宝の持ち腐れだ。

 何か本でも読んで発想を飛ばすか。自分の本は当然読んでしまっているし、ここはいっそ妹の持っている少女マンガからネタを──。

 

「ん?」

 

 俺はそこでようやく、玄関に見慣れない靴があるのに気づいた。

 サイズは妹と同じくらい。可愛らしい女の子用の靴。

 友達が来ているのか? 珍しい。大人しくて読書家の妹は誰かと遊ぶより静かに本を読んでいるのを好む。俺が女子の相手に疲れていることも当然知っているので人を連れてくることは殆どない。

 まあ、さっさと部屋に引っ込んでしまえば顔を合わせることもない。

 そう思って廊下を歩いていくと、

 

「お帰り、お兄ちゃん」

「こんにちは。お邪魔しています、お兄さん」

「あ、ああ」

 

 どういうわけか妹のほのかが部屋から顔を出してきた。

 それだけなら別にいいのだが、後ろからひょっこり顔を出した知らない女の子が問題だった。

 女子は苦手だ。

 小学校、中学校でさんざんアプローチをかけられたせいで少々トラウマになっている。なので高校は数少ない男子校を選んだ。

 登下校もタダみたいな値段で送迎を頼めるのでそれを利用している。高校に入って一年と約二か月、必要以上に女と関わらなくて済む生活はとても気楽だったのに。

 俺は彼女に「こんにちは」を返した後で妹を睨んで、

 

「おい。どうしてわざわざ」

 

 するとほのかは「大丈夫だよ」と小さく答えてさらに付け加えるようにして、

 

「香坂さんは私の読書仲間だから」

「読書仲間?」

 

 言われて、再度女の子を見つめる。

 あらためて見るとすごく可愛い子だ。

 小学校時代のクラスメートの誰より可愛い。髪はさらさらで肌はすべすべ、煌めくような瞳でこっちを見上げてくる姿はとても愛らしい。物語の世界から飛び出してきたような女の子だ。

 

「初めまして、香坂美桜です。よろしくお願いします、お兄さん」

「ああ。こちらこそ」

 

 応えながら柄にもなくドキドキしてしまう。

 こんな子が本当に「読書仲間」なのか? お洒落して男を落として幸せな生活を送るのが目標、みたいなお洒落女子じゃないのか?

 妹の制服姿は見慣れているのにこの子が着ている制服はまるで別物みたいだ。清楚で可憐、こんな子とマンガみたいな学園生活が送れたらそれは楽しかっただろう。

 と。

 

「あの。お兄さんはマンガやラノベが好きなんですよね?」

「え? ああ、好きだよ。君も読むの?」

「はい。この間『悪滅の聖槍』の既刊を読破しました」

「ああ、悪滅か」

 

 女子にもわりと知られているメジャータイトルだ。

 やっぱりファッション感覚でマンガを読んでるだけなんじゃないのか?

 

「今は一日一冊ずつ『クロスボウガール』を読んでいます」

「え、待って、なんでそこを選んだの?」

「面白そうだったので」

 

 照れるように微笑んだ彼女──美桜ちゃんを見て、僕は前言撤回した。

 『クロスボウガール』は掲載誌がメジャーなわりにかなりコアな作品だ。銃が一般的になった近未来SFの世界観にあってクロスボウという前時代的な武器に拘る美少女傭兵が主人公。血もドバドバ出るしメインキャラが死ぬこともザラなので女子には受けが悪い。

 なのに美桜ちゃんは、

 

「登場人物のバリエーションが多いのも良いですよね。筋肉質なおじさんや偏屈なおじいさん、あ、近所の悪ガキもいい味出してます」

「わかる」

 

 思わず声に出して同意してしまった。

 こほん。

 咳ばらいをして誤魔化しつつ認める。この子は確かにマンガ好きだ。気負わず俺に話しかけてくるあたりスクールカースト上位、生まれながらにして恵まれているタイプではある。ただ、ガツガツと男を「食い」に来るタイプではない。

 

「ほのか。こんな子とどこで知り合ったんだ?」

「クラスメートだよ。最近仲良くなったの」

 

 大人しいと思っていた妹がなかなか積極的だった。

 本好き仲間にそれだけ飢えていたのか。

 それにしてもびっくりした。美桜ちゃんならこのままマンガのヒロインにしても映えそうだ。

 マンガ?

 そうか、マンガだ。

 

「なあ、美桜ちゃん。良かったらもう少し話し相手になってくれないか?」

 

 俺は彼女に自分から頼んでみる。

 

「話し相手、ですか? ……もしかしてわたし、口説かれてますか?」

「違う違う。実は俺、マンガを描いててさ。何かネタになることがないかと思ってたんだ」

 

 俺とも妹とも住む世界の違う女の子。

 案外、面白いアイデアが飛び出してくるかもしれない。

 

 

   ◆    ◆    ◆

 

 

 マンガを描く人に会うのは初めてだ。

 僕はわくわくしながらお兄さんの部屋に入れてもらい、橘さん──ほのかの部屋とは違ってごちゃごちゃした部屋でこれまでの作品を見せてもらった。

 

「……どうかな?」

「すごいです。絵、上手いんですね」

 

 正直、思っていた以上の出来栄えだった。

 絵も上手いし構図も工夫されている。プロでもやっていけそうなレベルだ。

 ただ、あえて難点を言うなら、

 

「話の方はどうかな?」

「えっと、普通、ですね」

「だよね」

 

 お兄さんは苦笑。

 飾らない黒フレームの眼鏡をかけた少し痩せ気味の高校生。どこにでもいるような「同世代の男」に親近感が湧く。

 

「どうも話がうまく作れないんだ。今もアイデアが浮かばなくてさ」

「最近は原作と作画が別っていうパターンも多いですよね?」

「ああ。でも、声がかかるには賞でいいところまで行かないとだから」

 

 賞を取るにはマンガを描かないといけない。ゆくゆくは原作者をつけてもらうにしても今は自分でストーリーを作る必要がある、か。

 難しいところだ。

 SNSで二次創作絵を投稿して編集者に見つけてもらう、なんて方法もあるとはいえ、こっちも確実ではないし。

 手近で原作、とまで行かなくともストーリーの原案を考えられる人がいたらお兄さんは伸びそうな気がする。

 数少ない男子。それもマンガ家志望となれば応援したい。

 

 それに、実を言うと僕には彼の悩みを解決する方法があった。

 

「じゃあ、もしよかったらわたしの妄想を聞いてくれませんか?」

 

 向こうの世界にはあってこっちの世界にはないマンガからストーリーを拝借する。

 言ってしまえば世界を越えたパクリである。

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