♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
あのおまじないの本の著者は
この間、僕に告白してきた先輩の苗字も同じく梟森。
できすぎた偶然。珍しいとは言え他人の可能性ももちろんあるけど、他の手がかり──例えば住所に行って聞き込みをするとかよりは手っ取り早い。
駄目でもともと。
僕は梟森杏樹先輩に話を聞いてみることにした。
とはいえ、連絡が来たのが金曜日の帰宅後。うちの学校は土日休みなので二日も空いてしまう。
悩んだ僕はお姉ちゃんに話をもちかけた。
「ねえ、お姉ちゃん。高等部の梟森先輩の連絡先、知ってたりしない?」
先輩は有名人らしい。
中三のお姉ちゃんとは一学年しか離れていないし面識があってもおかしくない。
自分の部屋でアイスを食べながらストレッチをしていたお姉ちゃんは「んー?」とこっちを向いてにやりと笑った。
「どうしたの? やっぱり先輩と付き合いたくなったとか?」
僕が先輩に告白された話はお姉ちゃんも知っている。
なんだか噂になっていたみたいで、ニヤニヤしながらからかわれた。昨日の今日でこっちから連絡先を知ろうとすればこうなるのも当然だけど、背に腹は代えられない。
「そういうのじゃないけど、話があるの」
「ふーん。なんか真剣そう。……恋の悩み?」
「ちが」
反射的に言いかけてから「……わないけど」と言い直す。
悩んでいる相手が先輩でないだけで恋愛関係には違いない。いちおう。
頬を染めてそっぽを向くと、お姉ちゃんはストレッチをやめて纏わりついてきた。
「なになに、誰々? 誰のことが好きなの?」
「もう、いいでしょそれは! 知ってるの、知らないの!?」
「はいはい。……梟森先輩の連絡先なら知ってるよ、ほら」
名刺入れ(
魔法陣の描かれた独特のカードには確かに梟森先輩の電話番号とメールアドレス、それからグループチャットアプリのIDが書かれていた。
「これ、どうしたの?」
「先輩、可愛い女の子大好きでしょ? 興味があったら連絡してって言ってくれたの」
「見境なしだなあ……」
「姉妹だし、好みの顔なんじゃない?」
「頑張りなさいよ」とエールまで送られると悪い気はしない。
「ありがとう、お姉ちゃん」
部屋に戻ってから電話番号をコール。
幸い、先輩はすぐに出てくれた。不用心……いや、周りに連絡先を配ってるならよくあることなのか。
『はい。どちらさまでしょうか?』
「突然すみません。わたし、香坂──」
『あら、美桜?』
淡々としていた声にはっきりと色味がさす。
『どうして? ……ああ、もしかしてお姉さんから聞いたのかしら?』
「はい。先輩に、どうしてもお伺いしたいことがあって」
『交際の申し込みならまだ有効だけど……そういうことじゃなさそうね』
僕は例のおまじないの本のことを話し、その著者に会いたいのだと伝える。
「著者の方は梟森と仰るそうです。先輩のご家族や親戚じゃないかと思って──」
『なるほど、ね』
先輩の声音はさらに、僕を誘惑するようなものから面白がるようなものに変わって、
『あの本は今となってはレア物よ。それとあなたが出会っていたなんて、これも運命かしら』
「っ」
知っている。
少なくとも先輩は何らかの形であの本の著者と関わっている。
『あの本の著者は私の祖母よ。彼女は亡くなっているけれど、本や祖母の研究に関してならおそらく、私と母が一番詳しいでしょうね』
「っ」
息を呑んだ。
まさかここまで当たりだとは思わなかった。
恋や玲奈が告白するきっかけを作っただろう人。彼女が手がかりを握っているなんて。それこそ運命か。
「先輩とお母さんに話を聞かせていただくことはできませんか?」
『他ならぬ美桜の頼みだもの、もちろん構わないわ。ただし、条件があるの』
もちろん、タダで全部解決するわけもなく。
梟森先輩は交換条件を持ち掛けてきた。
「……代わりに付き合え、とかはだめですよ?」
『そこまでは言わないわ。自由意思をどうにかできるわけでもないし。……でも、少しくらい役得があってもいいでしょう?』
先輩は電話の向こうでくすくすと笑うと『今から出て来られるかしら?』と僕に尋ねてきた。
『泊まりの準備をして来てちょうだい。長い話になるから、ね?』
「……変なことしたら通報しますからね?」
『あら怖い。大丈夫よ、母も一緒だもの』
怪しげな研究をしている一家で
まともな人じゃなくてもぜんぜんおかしくないと思いつつ、僕はお母さんに「知り合いの家に泊まりに行ってくる」と告げた。
するとお母さんはまだ若いその顔に喜色を浮かべて、
「もしかしてお泊まり?」
「デート的な意味のお泊まりじゃないよ」
女の子同士だから……というのはこの世界だとあまり言い訳にならないけど。
先方了承済みだと伝えると、目的地までタクシーを使うように言われただけであっさり許可が出る。稼いでるしタクシー代は問題ない。
夕食はもう済ませてある。
お風呂がまだだったので入ってから──礼儀の問題であって他意はない──先輩から送られてきた住所にタクシーで向かった。
着いた先は落ち着いた雰囲気の一軒家。
うちと同じくらいのサイズ。先輩の家もけっこうお金持ちらしいと思いながら呼び鈴を鳴らして、先輩、それからお母さんに出迎えてもらった。
「いらっしゃい。あなたが美桜ちゃんね? どうぞよろしくお願いします」
「こんばんは。ようこそ。私たちの家に」
先輩のお母さんは予想に反して真面目そうな人だった。
ロングの髪を後ろで一つに軽く束ね、丸っこい眼鏡をかけている。僕にも普通に挨拶してくれて、女好きの先輩の母親とはとても思えない。
先輩のほうは黒色の、ドレスめいたワンピース姿。寝間着にしては気合いが入りすぎている。視線で意図を尋ねると「好きな相手を迎えるのに気合いを入れただけよ」との返答。
ちょっと近づいただけでいい匂いのする人なので本当にいろいろ刺激が強い。
お母さんは苦笑して、
「ごめんなさい。杏樹は少し変わった性格なの。……その分、母に似ているのは私より杏樹のほうなんだけど」
僕は書斎へと案内された。
この家には書斎が二つあるらしい。一つは大学教授をしているというお母さんが仕事で使っている場所。もう一つが僕の案内された場所で、
「母の遺した本や資料などを収めている部屋よ」
「私はこっちの部屋のほうが馴染みがあるわ」
古い本の匂い。
どこか怪しげに感じるのは装丁の雰囲気のせいか、それとも本の年季のせいか。
本棚のガラスを撫でたお母さんは懐かしそうに微笑み、
「母には何人かの子供がいた。結局、誰一人として同じ道には進まなくて、一番近い職に就いた私が遺品を受け継いだの。……結果的に杏樹はそっちの方向にだいぶ傾倒しているわ」
「おばあ様にはだいぶ可愛がってもらったわ。どうせなら誰かに継いで欲しかったんでしょうね」
本棚から取り出された一冊の本。
僕はネットのとある個人ページに掲載されていた写真でしか見たことがないけど、どこか懐かしいような気がする。
表面に書かれたタイトルは間違いなく、
「これがあなたの言っていた本でしょう、美桜?」
「はい。……間違いないと思います。わたしが記憶喪失になった原因の本」
こくりと頷くと、二人分の視線が僕に刺さる。
「それで、美桜ちゃん。あなたはいったいどの
「それから、詳しい話の前に交換条件も呑んでもらわないと、ね?」