♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
人の家のお風呂を使うのってなんだか緊張する。
入れ替わりを防ぐため、僕は
入浴はそのための準備。
身を清めることで魔術の効果が上がるらしい。特に髪は念入りに。
『美桜。着替えをここに置いておくわ』
「はい。ありがとうございます」
先輩が「全部新品だから安心しなさい」と付け加えたのが心配だったけど、用意されていたのは白い上下の下着と清楚なワンピースだった。
「……先輩の趣味?」
「違うとは言わないけれど、これも魔術のためよ。さすがに白無垢は用意できないもの」
清らかな属性は守りや浄化に向いている。
処女である僕は特に適性が高いのでちょうどいいのだとか。
「逆に姦淫を繰り返せば魔女としての力が高まっていくけれど──」
「時間もありませんし、そっちは無理ですね」
意味ありげな笑みと共に「そうね」と返された。
「それからこれを飲みなさい」
「なんですか、これ?」
透き通った液体が小さなコップに一杯。
「日本酒」
「わたし、未成年ですよ?」
「常飲するわけでもないし、大丈夫よ。黙っていれば問題ないわけだし」
「……初めてのお酒がこんな形になるとは思いませんでした」
恐る恐る口をつけると味自体はまろやかで美味しかった。
ただ、飲んだ端からかっと熱くなるような感覚がある。時間をかけると飲むのが怖くなりそうなので、僕は一気に残りを空にした。
◇ ◇ ◇
儀式が始まってしまうと僕にできたのはただ待つことだけだった。
先輩たちが唱えていた呪文、用いていた道具についてはほとんどよくわからない。
だいたい一時間。
部屋の中央に座らされたままでお尻が痛くなったこと以外、目だった変化はないけど。
「終わったわ」
「お疲れ様、美桜ちゃん。気分はどうかしら?」
「なんだかくらくらします」
「それはお酒のせいね」
たっぷり水を飲ませてもらうとだいぶマシになった。
場所をリビングに移し、ちょっとしたお菓子とお茶で休憩を取る。僕も二人も体力を使ったのでカロリー補給が必要、とのこと。
「あの、これでもう大丈夫なんでしょうか?」
尋ねると、先輩のお母さんは微笑んで頷き、
「ええ。たいていの魔術はこれで無効化するか威力を大幅に殺せるわ」
「せっかくだから試してみる?」
先輩の『魔眼』とやらがもう一度使われる。
目が合った一瞬はくらっとしたものの、前回のような催淫効果は表れない。
「すごい。……これ、ずっと続くんですか?」
「永続的ではないけれど、半永久的に持続するわ。美桜ちゃん自身の魔力を使っているからメンテナンスの必要もなし」
「ただし、髪を基点にしているから短くなればなるほど効果は弱まるわ」
「わかりました。髪を切らなければいいんですね」
もともと切る予定はない。
美容室でカットしてもらうことはあるけど毛先を整えるくらいで大幅に短くならない。
「あ、でも、役の都合で切らないといけなくなったりはするかも」
「なら、これを使ったらどうかしら?」
先輩がなにやらアクセサリーのようなものを渡してくれる。
銀製だろうか? 細いわりにずっしりとした鎖と、その先に繋がった宝石。宝石にはルーン文字? が刻まれている。
髪飾りにもネックレスにもブレスレットにもなりそうだ。けっこうかわいい。
「魔力を増幅するお守りよ。それを持っていれば髪が短くなってもある程度安心できるはず」
「私としてはおススメしづらいんだけどね」
「というと、なにか問題があるんですか?」
お母さんは少し言いづらそうにしてから、
「つけ続けていると魔術の効果が肉体に転移していくの。髪にかけた他人の魔術ではなく、美桜ちゃん自身の魔術になる。……魔術を学んで操作方法を身に着けない限り、永続的に魔術防御が発動し続けてしまうの」
つまり、元の身体に戻りたくなっても戻れなくなるってことか。
「なんだ。それならむしろ好都合です」
「美桜ちゃん?」
「本物の美桜からこの身体を奪うんです。……今更、戻りたいなんて我が儘は言いません。わたしは、これからずっと『香坂美桜』として生きていきます」
「……そう」
お守りはひとまず髪飾りにした。
先端の宝石がチャームのように小さく揺れるのがいい感じだ。
僕は二人へ丁寧にお礼を言って、なにかきちんとしたお礼をすると約束する。
「だったら私と付き合って──」
「気にしなくてもいいのだけれど、どうしてもと言うのならお菓子かなにかをお願いできる? それでまたお茶をしましょう?」
「はいっ」
なお、僕がもらったお守りは後から聞いたところめちゃくちゃ高価な代物だった。
さすがにこれはお菓子で済ませられないと、僕はもっとお金に余裕が出てから梟森家にちゃんとした宝石を納めてお礼することになる。
◆ ◆ ◆
「……はあ。魔術なんて久しぶりに使ったわ」
「お疲れ様、母さん。どうせならもっと魔術を使えばいいのに」
「嫌よ。私は母さんと同じ道は歩まないの」
美桜には客間で寝てもらった。
依頼はかなりの難題だったけれど、本人は素直ないい子だ。儀式も話も思ったよりもスムーズに進んだ。これなら十分、私たちも睡眠を取れる。
客間の扉からかすかな寝息を確認した後、私──梟森杏樹は母さんと一緒にあらためてひと息ついた。
「まさか、こんなことになるとは思わなかったわ」
「そうね。あんな才能が近くに眠っていたなんて──」
「美桜のコスプレ姿と白ワンピース姿が見られるなんて……!」
「そっちなのね、そう。そっちなのね」
私にとってはとても大事なことだ。
美桜に着せたコスプレと白ワンピースはせっかくなので持ち帰ってもらおうと思う。できるなら私にもう一度見せて欲しいけれど、恋人に見せるとっておきの衣装に化けてしまうかもしれない。そう考えると少し憎らしくもある。一方で、最初に見たのは私だという自負も。
「それにしても、世界を超えた入れ替わりね」
「なにか引っかかるの、母さん?」
「少しね」
目を細めて答える母さん。
なんだかんだ言いながら、母さんはおばあ様からだいぶ魔術を仕込まれている。
歳の差もあるので私よりも魔術知識は多く、技術でも上を行っている部分が多い。
「美桜ちゃんは魔術が失敗したと考えていたでしょう?」
「ええ。実際、ただの小学生が異世界の異性と入れ替わる必然性はない」
「対象指定に失敗したのなら理屈は通るわ。……でも、その場合、入れ替わり先は
年齢、性別、趣味嗜好が近しい人間と入れ替わりが起きやすい。あるいは直近で何かしらの『縁』を結んだ相手。時折耳にする「階段を一緒に転げ落ちて人格が入れ替わってしまう」というような現象は後者の要因だ。
けれど、美桜の場合はどちらも当てはまらない。
「世界を超えたのが魔力量のせいだと仮定して、わざわざ美桜ちゃんが選ばれたのは」
「魂の形が似通っていたから?」
「かもしれない、というだけだけどね」
美桜は、この世界に「自分の同一存在」がいると言っていた。
同姓同名。顔かたちまでほぼ同じと言うなら確かに可能性は高い。けれど、パーソナルデータが同じだからと言って
その少年ではなく香坂美桜こそが『彼』の
まあ、そもそも『彼』なんて言ったところで私にはあの子が可愛い女の子にしか見えないのだけれど。
「女の子として生きていくことを決意した時点で、それはもう、女の子と言っていいんじゃないかしら?」