♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
わたくしたちは美桜さんを愛している。
ただの友情ではありません。わたくしは、そして恋さんは美桜さんに対して特別な感情を抱いています。
美桜さんを抱きしめたい、特別な関係になりたいと心から思っています。
でも、彼女は誰かの『特別』になることを良しとしません。
あの燕条君でさえも恋愛対象にしないのですから、恋自体を嫌っているのでしょう。
だから、わたくしと恋さんは誓いました。
「美桜ちゃんに無理を言ったりしない」
「美桜さんを独り占めにはしない」
誓いの有効期限はわたくしたちが「本当の危機感」を抱くまで。
無理強いはしない。けれど、他の誰かにただ奪われるのは我慢できません。
美桜さんは自分の意思で、本当に好きな相手と結ばれるのなら祝福しましょう。ただし、単に欲を満たすためだけの交際は許せません。
わたくしたちの想いは肉体の欲求だけで片付けられるほどシンプルなものではありません。
誓いが破られる時は思ったよりも早く来てしまいました。
高等部の梟森杏樹先輩。
大人の魅力を漂わせ、美桜さんを誘惑する彼女。
わたくしは「その場」を見た瞬間に
だから、告白しました。
受け入れてもらえるかどうかはわかりません。
もしも受け入れてもらえなかったのだとしたら、それはわたくしたちが美桜さんに相応しくなかったということでしょう。
だから、わたくしたちは約一週間を待って。
恋の結末を受け入れるために美桜さんの部屋を訪れたのでした。
◆ ◆ ◆
「美桜ちゃん。その髪飾り似合ってるねっ?」
「ありがとう。お守りなんだ。わたしが、わたしたちがこれからも健康に過ごせますようにって」
「気がかりがなくなったのですね?」
「うん。おかげさまで解決したよ」
約二年を過ごしてきた美桜の部屋。
今では自分の部屋としてすっかり馴染んでいる。
あの頃にはなかった物もけっこう増えた。ピアノ練習用のキーボード。お兄さんのマンガのサイン入り単行本。ほのかおススメのラノベ。自分が載っているファッション誌。シマエナガのぬいぐるみ。多めに買い置きしているのど飴。加湿器などなど。
恋たちに「どれがいい?」とクッションやぬいぐるみを勧めると、恋はくまさんを抱いて星型のクッションに座った。玲奈は絨毯の上に正座して丸いクッションを抱きしめる。
お気に入りのシマエナガは二人に勧めず僕が確保。
キッチンから水だしのアイスティーとお茶菓子をお盆に載せて部屋に戻り、
「ごめんね。お待たせ」
「いいえ、お構いなく」
「ううん。それだけじゃなくて、返事もずいぶん待たせちゃったよね」
「───」
その言葉には玲奈だけじゃなく恋も複雑な表情を浮かべた。
お盆を囲むように座った僕たちはもどかしいような、踏み出すのが怖いような気持ちを共有する。
恋も、玲奈も、今日のためにおめかししてきてくれたのがわかる。着飾るのは女子にとっての武装だ。とっておきの服に身を包むことで気合いが入る。
「あのね。二人に告白してもらえて、わたし、嬉しかった」
待たせていた者の責任として、僕は自分から一線を踏み越える。
「二人のことは本当に大好きだから。恋や、玲奈と一緒に、これからもずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろうって思う」
女子の「ずっと一緒」はある意味嘘だ。
友達関係なんて恋には敵わない。ずっと一緒と囁いていても恋人ができればそっちが優先になる。結婚して子供が産まれれば会えるのなんて月に一度かそれ以下になる。
それはこの世界でもあまり変わらない。
お姉ちゃんは「女の子の友情なんてアテにならないよ」っていつも言ってる。「本当の友情以外は、だけど」と付け加えながら。
「でもね。わたしにはわからないの。この気持ちが恋愛感情かどうか」
シマエナガを抱きしめながら告白。
「それでも、わたしを許してくれる? わたしを好きだって言ってくれる?」
「当たり前だよっ!」
グラスの中のアイスティーが揺れる。
恋の手が僕の片手を取って、
「ううん。私は美桜ちゃんに許して欲しいの。美桜ちゃんに認めて欲しいのっ! 私の、自分勝手な気持ち!」
玲奈の手がもう片方の手を包んだ。
「美桜さんが『イエス』と心から答えてくださるのなら、それがわたくしたちにとって最高の答えです。今はまだ恋ではないと言うのなら、これから恋にしてみせます」
「私だってずるかったよね? 男の子と付き合う話したり。思わせぶりなこと言ったり」
「美桜さんとお付き合いできないのならいっそ、と思ったこともあります。ずるいのも、自分勝手なのも、美桜さんだけではありません」
純粋で、真っすぐで、嘘のない言葉。
もったいない。
僕なんかにはもったいないくらいの子たちだ。本当はもっと相応しい相手がいるのかもしれない。いや、いっそ恋と玲奈が付き合えばいいのかもしれない。
けれど。
「美桜さん。あなたの答えをください」
「美桜ちゃんは、これからどうしたい?」
胸が苦しくなる。
本当にこんなことを言っていいのか。
失敗したら。怒られたら。取り返しのつかない答えを出すのが怖くて仕方ない。
恋たちはこんな思いを一週間も続けていたのか。
「……わたしには選べない」
ずるくて、卑怯な本音を必死の想いで口にする。
「恋か玲奈、どっちか一人なんて選べないよ。三人一緒。付き合うなら二人と付き合いたい。三人一緒にいたい。それじゃ駄目?」
二人の目が丸く見開かれる。
信じられないという顔。
当たり前だ。馬鹿馬鹿しい提案をしているのはわかってる。
この世界でありふれた関係でも、人には独占欲がある。好きな人が他の人と付き合うのを許せないのも当たり前のことだ。
ああ、やっぱり僕は──。
「いいのっ?」
「──え?」
「諦めなくてもいいのですか? 三人一緒に。そんな夢のようなことが許されてもいいのですか?」
見れば、恋たちの目から涙が溢れていた。
「あの。二人とも、それでいいの?」
「だめなわけないよっ!」
「わたくしたちだって、この関係を崩したくなどありません。一人を除け者にするのは本意ではありませんでした。……こちらから提案するなんて不届きな真似はできませんでしたけれど」
「玲奈。お家のほうは大丈夫なの?」
「次期当主をわたくしが継ぐこと、わたくしが子供を残すこと。これに変わりがない限り、両親に文句は言わせません。……そもそも、美桜さんと恋さんは両親の眼鏡に適っています」
アイスティーとお菓子が押しのけられて、二人の腕が絡みついてくる。
吐息が近い。
二人の体温まで感じられる。
「美桜ちゃん、好きっ!」
「もう我慢しなくていいのですよね? 愛を伝えても構わないのですよね?」
僕は、友達から恋人になった少女たちを至近距離からじっと見つめて。
──とくん、と。
胸が大きく揺れ動くのを感じた。
どきどきが抑えられなくなる。
この身体を奪わせない決心をした今、僕は今まで以上に『香坂美桜』にならないといけない。
ううん、なりたい。
美桜という器に僕という魂が無理やり重なり合っているような状態が少しずつ変わっていく。器と僕が溶け合って美桜の形を形成していく。
「美桜さん」
「美桜ちゃん」
僕たちはそのまま唇を、
「あの。三人でキスってどうすればいいのかな?」
「え」
「あ」
どうしようと硬直したところで、がたん、と部屋の外から大きな音がした。
外に出てみたら、落とした空のコップ(プラスチック製なので割れてはいなかった)を拾って誤魔化し笑いをする美空がいた。
もの凄く申し訳なさそうに「ごめんなさい」と言う妹を見て、僕はなんだか可笑しくなって、美桜になってから一番という勢いで大笑いしてしまった。