♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
中等部からは給食が完全になくなって、お昼ご飯は各自好きなものを食べられる。
お弁当でもいいし、買ったものを持ち込んでもいい。高等部と共同の購買部・食堂も設置されている。
食堂は席の取り合いをしなくても座れる程度に広く、また学食とは思えないほどお洒落な造り。女の子は見た目にこだわるのでこうでもしないと生徒を呼び込めないのかもしれない。
ちなみに値段と味はそこそこ。
広いのでわたしたちはお昼にそこを利用することが多かった。
玲奈はいつもお弁当。
恋は手作り弁当が多いけどたまに気分で食堂で注文。
わたしは生活に慣れてきたらお弁当を作ろうかな、と思っているけど今のところは食堂のメニューをいろいろ試している。
今日注文したのはミックスサンドだ。それに購買で買ってきた紙パックの牛乳。
そして、一緒にご飯を食べているもう一人は恋と同じで手作り弁当なんだけど、
「叶音、けっこうお弁当作り続いてるね」
「うるさいわね。だんだん適当になってるってはっきり言いなさいよ」
わたしと恋がスイミングスクールで出会い、後に玲奈とも知り合ったアイドル志望のツンデレ少女、相原叶音は冷凍食品多めのお弁当を突きながらわたしを睨んだ。
彼女がここにいるのは中等部から外部入学してきたからだ。
それをわたしが知ったのは入学から二日目の朝のこと。
昨日は慌ただしくて話すのを忘れてしまったけれど、と、玲奈が教えてくれたのだ。
『この学校なら芸能活動にもそこそこ融通が利くんでしょ?』
お昼休みに顔を合わせた叶音の言い分はそんな感じ。
実際のところは──わたしたちと一緒の学校になりたかったから、っていうのもあったりするんだろうか。もしそうならちょっと嬉しい。
ちなみに玲奈だけが知っていたのは彼女が特進クラスだから。
『アイドルになるつもりなら普通クラスのほうがよくない?』
『ふん。私は完璧主義なの。文武両道アイドルなんて絶対格好いいじゃない』
ほんとうに負けず嫌いというか、手を抜くのが苦手な子だ。
中学入学から手作りを続けているお弁当にもそれが現れている。
「相原さん。もう少し楽をすることを覚えてもよろしいのでは?」
「嫌よ。少しでも手を抜いたらずるずる楽なほうに落ちていっちゃうもの。……っていうか」
お弁当箱付属のフォークがびしっとわたしに向けられて、
「そんなことより。ようやく付き合い始めたのね、あんたたち」
「あはは。……うん、なんかむずむずするけど、うん」
わたしが微笑んで頷くと恋と玲奈も似たような表情を浮かべる。
叶音は、はあ、とため息をついて、
「わかってはいたけど、早かったようなものすごく焦らされたような。……なんで私がハラハラしなきゃいけないのよ」
「叶音、心配してくれてたんだ?」
「はあ!? 当たり前でしょ友達なんだから!」
「あれ。もしかして叶音ちゃんも美桜ちゃんのこと狙ってた?」
「そ、そんなわけないじゃない! 私はただ、あんたたちが忙しくなったら歌の練習とか誘いづらくなるかなって……それだけよ!」
誰かと付き合い始めた女の子が付き合い悪くなって疎遠になる、というのは年頃の女子あるあるだ。
わたしも男子だった頃、教室で
叶音の当然の懸念に、わたしたちは顔を見合わせて笑い、
「大丈夫だよ、叶音ちゃんっ。私たちは友達を除け者にしたりしないからっ」
「ええ。わたくしたちは三人で共に在ることを望みました。自分たちだけの世界は適切な時以外望みませんのでご安心を」
「いや、前からわりと三人でいちゃいちゃしてたじゃない」
「え、わたしたちって周りからはそんなふうに見えてたの……?」
「見えてたわよ。いくら親友だからって仲良すぎ。さっさとくっつけばいいのにって」
それは叶音が百合脳だから、とかだったらいいんだけど。いや、よくないのか……?
「とにかく、遊びたいときは気にせず誘って? 駄目な時は断るから」
「……ん、そうね」
少し考えるようにしてから頷いてくれる。
「どうせあんた──あんたたち? は忙しいものね。恋はわりと暇だろうけど」
「ひどい! 私だって忙しくなるよ! どこか部活入るつもりだから!」
わたしは仕事とレッスン、玲奈は習い事がある。
それに比べたら確かに暇な恋だけど、
「どこの部に入るか決めたの、恋?」
「うーん、それがなかなか決まらなくて。どこかおススメの部活ない?」
「って言っても、お姉ちゃんも部活には入ってないしなあ」
「わたくしも本腰を入れた情報収集はしておりませんでしたので……」
「だめかあ」
悲鳴を上げた恋が最後に視線を向けたのは、ちょっときつい顔立ちをしているけどその実、わりと寂しがり屋で友達思いな少女。
「叶音ちゃん……」
「そんなこと言われたって私もあんまり知らないわよ。強いて言うなら魔術研究会は止めておきなさい」
「魔術研究会……」
なんか、誰が所属しているかは聞かなくてもわかる。
「うん。そこには入らないから大丈夫」
「美桜さんも、絶対にお止めくださいね。絶対ですからね?」
「う、うん」
明るさのまったくないガチのトーンで言われたわたしはこくこく頷く。
……このお守り、
わたしは後で先輩に「私があげたお守り、今日も身に着けてくれてるんだ?」みたいなからかいは控えてもらえるようにメッセージを送ることにした。
「それはそれとして。恋ならやっぱり運動系の部活だよね」
「あとは家庭科部とかもいいかなって思ってるんだ。お料理もお裁縫ももっと勉強したいし」
「あんたそんなに花嫁修業してどうするのよ。そんなに早く結婚するわけ?」
「それは……その、美桜ちゃんか玲奈ちゃんがもらってくれるなら、私はいつでもいいんだけど」
「恋、さすがにちょっと結婚の話は早すぎるよ」
「西園寺家に嫁ぐのでしたら花嫁修業には語学や礼儀作法も加えていただきませんと」
ちなみにこの世界の結婚可能年齢は十六歳だ。
女子の可能年齢を引き上げるんじゃなくて男子の可能年齢が下がっている。早く結婚して子供を作りなさいという国の意向がわかる。
複数の年上女性と同居して養われる男子というのは実際けっこういるし。
「うーん、難しいね。掛け持ちしても時間は限られてるし」
「ね。身体がいくつもあったらいっぱい入るのに」
「……ね、ねえ、恋? あんたさえ良ければひとつおススメの部がなくはないんだけど」
「え、なになに叶音ちゃん?」
わたしと玲奈は目配せをしあって、
「アイドル研究会?」
「アイドル研究会でしょう?」
「なんであんたたちが先に言っちゃうのよ!?」
「だって」
「相原さんのことですから、一緒に入って欲しいけれど言い出せないのかと思いまして」
「あんたらねえ……!?」
二人して叶音に頬をつねられた。いたい。
「ねえねえ叶音ちゃん。アイドル研究会ってなにするの?」
「なにって、いろいろよ。アイドルのおっかけが専門の人もいるし、アイドルになりたい人もいるし。アイドルの話してもいいし研究してもいいし練習してもいいし」
そこそこ広い部室があるのでちょっとした歌やダンスの練習くらいはできるのだとか。
思ったよりも本格的だ。わたしも余裕があったらちょっと検討したかもしれない。声優研究会とかは残念ながらないし。
「へえ……。ちょっと面白そう。見学行ってみようかな?」
「いいじゃない、行きなさい。むしろ来なさい」
ここぞとばかりに勧誘する叶音。
アイドルを目指すかはともかく、恋が放課後寂しくないようになるのはとてもいいことだと思った。