♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女   作:緑茶わいん

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【閑話】ほのかと玲奈(その1) 2018/4/9(Mon)

 手をつないで登校してくる美桜ちゃんたちを見た時、私はどうしていいかわからなくなった。

 

 胸が苦しい。

 

 これ以上見ないほうがいい気がして教室に急いだけど、後から入ってきた西園寺さんの幸せそうな表情を見てまた胸が苦しくなった。

 私は普通コースじゃなくて特進コース。

 西園寺さんと同じクラスだ。

 美桜ちゃんと離れてしまうのがわかっていてこっちを選んだのは、頑張ってる美桜ちゃんに少しでも追いつきたかったから。

 私には美桜ちゃんと同じことはできない。だからせめて勉強くらいはと思った。

 

 ──なのに西園寺さんと一緒で、しかも美桜ちゃんたちがこんな時期に付き合いだすなんて。

 

 もやもやしたまま一日を過ごす。

 人見知りは直らなくて、できた友達は別の学校から来た似た者同士の子一人だけ。

 西園寺さんは小学校からの知り合いや、別の学校から来たらしい可愛い子とも当たり前のように話をしている。美桜ちゃんと離れてしまっても寂しくなさそうだ。

 恋人同士になったから。

 

「っ」

 

 帰りのHRが終わるとすぐに席を立った。

 たった一人の友達に挨拶をして昇降口へ急ぐ。

 鞄の中に入ったままの新入生勧誘のビラを忘れたふりをして、まっすぐに家へ。

 

『美桜ちゃん、西園寺さんたちと付き合い始めたんだ』

 

 帰りのバスの中でメッセージを送ると、返信には少し間があった。

 

『言うのが遅れてごめんなさい。タイミングがわからなくなっちゃって』

 

 続けて来た『でも、今まで通り遊んでくれると嬉しいな』というメッセージに寂しさと嬉しさを覚える。

 私と美桜ちゃんは友達。

 大切にしてくれるのは嬉しいけど、西園寺さんたちとは違う。

 わかってはいたことだけど。

 

「ただいま」

「おー、お帰り」

 

 家にはお兄ちゃんがいた。

 高校を卒業したお兄ちゃんは大学生になった。本人はマンガに専念するか悩んでいたけど、お母さんの「行っておきなさい」という強い勧めで進学することに。

 四年で卒業するのを目指してのんびり単位を取りながら「高校の頃よりマンガに時間を使える」と熱心に作業をしている。

 さすがにサークルに入る時間はないからと家にいる時間が多くなっていた。

 

 麦茶の入ったグラスを手にお兄ちゃんは私を見て、

 

「どうした? なんか元気ないみたいだけど」

「……別に」

 

 私は素っ気ない返事をしてから、お兄ちゃんが「そっか」と部屋に戻りかけたところで、

 

「美桜ちゃんに彼女ができたみたい。それも二人も」

「まじか」

 

 あっさり「ふーん」くらいで済むかと思ったら立ち止ってこっちを見てくる。

 

「誰と? 俺の知ってる子?」

「お兄ちゃんが知ってる子って美桜ちゃん以外にいるの……?」

「いないけど」

「いないんじゃない」

 

 嬬恋さんと西園寺さんの名前を出すと「ああ、会ったことはないけど話は聞いたことあるな」と呟く。

 

「美桜ちゃんの親友だっけ。……そっか、親しい女の子とそのまま付き合うのってよくあるもんな」

 

 少し残念そう。

 お兄ちゃん、やっぱり美桜ちゃんのこと気になっていたのかも。

 未だに女性恐怖症っぽい感じで私やお母さん、美桜ちゃん以外とはビジネスライクな付き合いしかしてないし。

 でも、

 

「お兄ちゃんならまだチャンスはあるじゃない。美桜ちゃんが子供を産む時」

「っ。お前な、そういうこと気軽に言うなよ」

「お兄ちゃんが子孫作るのは義務でしょ」

 

 年頃になった男子は定期的に精子バンクへ協力しないといけない。

 お兄ちゃんにも血の繋がった子供がもう何人かいるはずだ。……もしかしたら、女の子と付き合っていた時代にできた子供だっているかも。

 小学生みたいな反応するほうがどっちかっていうとおかしい。

 

「ほのかこそ、気にしてるんじゃないのか」

 

 反撃、というかなんというか。

 図星を突かれた私はなんて答えたらいいかわからなくなった。

 

「……別に、わかってたし」

 

 そう、わかっていた。

 美桜ちゃんにいつか恋人ができるなんてわかりきっていた。私が美桜ちゃんの特別になれないことも。

 

「ちょっと寂しいだけだよ」

 

 そう、寂しいのはちょっとだけ。

 すぐに慣れてなんでもなくなる。美桜ちゃんが「いつも通り」と言ってくれたんだから、また家にも来てくれるはずだし。

 

「むしろ小説のネタにもなるかなって」

 

 校門で見た美桜ちゃんたちの様子。

 教室で見た西園寺さんの表情。

 変な独占欲さえ発揮させなければ、それらは想像を広げるのにとても役立った。あれをそのまま文章に起こしたい気にさえなる。

 ようやく微笑んだ私に、お兄ちゃんは。

 

「小説と言えば、どうするんだ、あれ?」

「うん。せっかくだからちゃんとしないとね」

 

 部屋に戻るとノートパソコンを起動する。

 中学校への入学祝いにお母さんが買ってくれたものだ。ちなみにお兄ちゃんには大学入学祝いでけっこういいパソコンの購入資金が半分くらい出ている。お兄ちゃんはそれで買ったパソコンに周辺機器を加えて作業のデジタル化を必死に進めている。

 私はインターネットの調べものと、後は文章が書ければ十分だからそんなにいいパソコンはいらない。

 でも。

 

「せっかくネットに繋がるんだから」

 

 あの小説はもうパソコンの中に保存してある。

 Web小説サイトの会員登録も済ませてあった。

 編集者をしているお母さんから投稿のコツもいろいろ教えてもらったし、やろうと思えばいつでも投稿できる状態。

 それでもなんだか勇気が出なくて後回しにしてしまっていたけれど、

 

「やろう」

 

 意を決して動きだしてしまえば作業には一時間もかからなかった。

 あらすじを書いたりでけっこう悩んでしまったけど、えい、と投稿ボタンを押したら一発で『投稿されました』の画面になって、確認すると私の小説の第一話がサイトに載っていた。

 どきどきする。

 後は、定期的に続きをアップしていくだけ。それだけで私の書いた作品がいろんな人に読んでもらえる。

 

「……怖いなあ」

 

 読んでもらえる、と言っても、興味を持ってもらえるかどうかはわからない。

 全然反響がなくてがっかりするかもしれない。投稿からすぐに大ヒットしてコメントもたくさんつく、なんていうのは限られた人だけ。

 美桜ちゃんはいつもこういう不安と戦ってるんだ。

 今までが好評でも次もそうとは限らない。今度は映画っていう新しい舞台に挑戦するんだからまた不安なはず。

 

 私だって。

 

 意気込んではみたものの、その日はどきどきしてあまり良く寝られなかった。

 私は眠い目を擦りながら学校に行って、休み時間は一人きりの友達と話をするか本を読んで過ごす。

 本を読んでるとたまに「どんな本読んでるの?」って興味もないのに聞いてくる子がいて怖いけど、そういう子も私が本を読んでるのが当たり前になれば言って来なくなる。

 だから、

 

「本、お好きなのですか?」

 

 私はその時、誰に声をかけられたのか逆にわからずきょとんとしてしまった。

 

「ねえ、誰よこいつ」

「橘さん、ですよね? 小学校の頃はあまりお話する機会がありませんでしたけれど、仲良くしてくださいね?」

 

 ついてきた相原さんの声をいったん無視して、彼女──西園寺さんはにっこりと私に笑いかけてきた。

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