♂♀ 1:1世界の平凡高校生 ⇔ ♂♀ 1:100世界のハイスペ美少女 作:緑茶わいん
なんだか注目されてる気がする。
クラスメートの視線に身体が強張る。
一緒にやってきた
「あの、どうして?」
主のいない前の席に腰かけた西園寺さんは、私の質問に微笑んで、
「旧知の方とは別れ別れになってしまったでしょう? ですから、新しいお友達を増やしたいのです」
取り巻き、ということだろうか。
失礼なことを考えながら、私は愛想笑いを浮かべた。
美桜ちゃんなら普通に話せるんだろうけど、私じゃ西園寺さんには釣り合わない。
「ねえ。この子びっくりしてるじゃない。ほっといてあげたら?」
相原さんに賛成だ。仲良くと言ってもいったいなにを話したらいいのか。
なのに、西園寺さんは続けて、
「わたくしも本が好きなのです。最近読んだ本ですと、例えば……」
彼女が口にした本はジャンルも著者もバラバラで、彼女の博識さと勤勉さが私にはすぐにわかった。
「すごい」
「お分かりになるのですね」
「そんな。タイトルを知ってるくらいで」
本屋さんには週に一度は通っている。
見る棚はだいたい決まっているけど、それ以外の本を気まぐれに眺めることもある。あと、書店おすすめの本も念のためチェックしていた。
「橘さんはどのような本がお好きなのですか?」
「私は……物語が好きなんです。マンガでも、小説でも」
「そうですか。では、例えば──」
「あ、はい。読みました」
好きな本のタイトルが出たからか、ほんの少しだけ口元が綻ぶ。
そんな私を見た西園寺さんはくすりと笑って、
「わたくし、堅苦しい本ばかり読んでいると思われがちなのですが──娯楽系の本や物語も嗜むのです。マンガも、美桜さんと恋さんから勧められますから」
「み、香坂さんはみんなにマンガを勧めてたもんね。……あっ、その、ごめんなさい。失礼な言い方してしまって」
「お気になさらず」
つい敬語を外してしまった私を西園寺さんは怒るどころか許してくれて、
「何年もクラスメートだったのですから普通にお話してください。橘さんとはお友達になりたいのです」
「どうして、私と?」
さっきと同じような質問だけど、返ってきた答えは違っていた。
「橘さんはかなりの読書量のようですから、気兼ねなく本の話ができるかと」
「……あ」
私は少し嬉しくなった。
小学校にも本好きの友達はいたけど一人は普通コース、一人は別の学校に行ってしまってなかなか話せない。本の話ができる友達が触れるのはとても嬉しい。
私なんかじゃ西園寺さんとは釣り合わないと思うけど。
私はほんの少しだけ勇気を出して「私で良かったら」と答えた。
「では、これからはスマートフォンでもお話しましょうね」
小学校時代、私の学年でいちばん有名だった三人。
美桜ちゃん、西園寺さん、嬬恋さん。
三人のうち二人と、私は専用のチャットルームを持ってお喋りすることになった。
さらに、
「へえ、あんたそういうのが好きなんだ。……じゃあさ『Idle Royale』って知ってる?」
「う、うん。マンガ版も小説版も持ってるしアニメも見たけど──」
「本当!? じゃあ、あんたどのグループが一番好き? 推しキャラは?」
「え、えええ?」
話しづらそうだった相原さんにまで興味を持たれて連絡先を交換することになった。
美桜ちゃんにそのことを伝えると『良かったね』と返事が来た。
『よくないよ……。私なんかが西園寺さんたちと仲良くするなんて』
『ほのかだって十分優等生じゃない。体育は苦手だけど』
勉強してもどうしようもない科目が評価に含まれているのはひどいと思う。
特進コースは体育の比重が低いのでそういう意味でも私には向いている──って、それはともかく。
『せっかくだから玲奈と仲良くなっちゃいなよ。そしたらわたしとも普通に話せるようになるし』
『そんなの私には無理だよ』
まあ、友達になったって言っても形だけ。
すぐにやり取りは途切れるだろうと私は思ったんだけど、西園寺さんも相原さんも意外なことに、その日のうちにメッセージをくれた。
西園寺さんは忙しいからか散発的なやり取りだったけど、相原さんは話に夢中になりだすと矢継ぎ早にどんどんメッセージを送ってくる。私がトイレに行ってる間に何通も溜まっていて『なんで返事しないのよ!』と怒られることもあった。
西園寺さんによると「相原さんは交友関係が狭い方なので」ということらしい。
美桜ちゃんも、
『叶音は距離感がわからないっていうか、仲良くなるとすごく馴れ馴れしくなるんだよね』
と言っていて、その通り相原さん次の日から普通に「ねえ橘さん」と話しかけてくるようになって、一週間後にはそれが「ねえほのか!」に変わった。
お陰で他のクラスメートが相原さんに話しかけたい時、まず私に話しかけてくるように。
「ほら。あんただって普通に私たちと話せるじゃない」
「普通じゃないと思うんだけど……」
「普通にしていれば誰も疑ったりしませんよ」
この特進コースは勉強の得意な子が来るところだ。
読書に抵抗のない子の割合も他のコースより多いから、本ばかり読んでいる私も普通にみんなと話ができる。話してみればだいたいの子は普通に話してくれるのだと、西園寺さんは言った。
「でも、あんた家の都合で友達は選ぶとか言ってたのにほいほい増やしたわよね?」
「仲良くなれそうな方はわたくしなりにきちんと選んでおります。親しいお友達になる方は特に」
「へえ、じゃあほのかはどうして?」
「そうですね。直感と、それから美桜さんからの推薦でしょうか?」
私に興味を持ったのは少し前、美桜ちゃんに「クラスにお友達が減ってしまった」とこぼした時だったらしい。
お嬢様である西園寺さんは「たまに話をする知り合い」程度の意味の「お友達」は多くても本当の意味での友人は多くない。
でも、普段から一定以上親しくできる相手が何人かはいないと学校生活がやりづらい。
そこで美桜ちゃんがなにげなく私の名前を出したらしい。
『橘さんなんてどう? 本が好きなはずだから玲奈と話が合うかも』
なるほどと思った西園寺さんが私に話しかけて今に至る。
つまり、これも美桜ちゃんのおかげだった。
それを本人に伝えると美桜ちゃんはすっかりそのことを忘れていた。
『そうだっけ?』
と送られてきた数分後に、
『思い出した。そういえばそんなことも言ったかも。でも、雑談で言っただけで、強く推薦したとかじゃないよ?』
話しかけてみようと判断したのもさらに踏み込むことになったのも西園寺さんの判断と私との相性だと。
『それでも美桜ちゃんのおかげだよ。ありがとう、美桜ちゃん』
寂しくも静かに過ぎていくと思った私の中学校生活は一気ににぎやかになった。
西園寺さんや相原さんと友達になった私はお昼休み、美桜ちゃんや嬬恋さんとの食事の場にもたまに呼ばれるようになって、そのうち自然に「美桜ちゃん」と呼べるようになった。
私の小説も投稿を続けていくと少しずつ評価されて感想がつくようになった。
中にはひどいことを書かれることもあったけど、その時には私にも愚痴を言える友達がいて。温かな感想に励まされながら私は投稿を続けていくことができた。
ノートパソコンは操作に慣れるとスマホよりずっと文章を打つのが楽で、続きを書くのもとても楽になった。
お兄ちゃんや美桜ちゃんが励ましてくれたのは全部嘘でもなかったのかもしれない。
現金かもしれないけど、私はそうやって少し自分に自信を持つことができるようになった。