最初だからあっさりと!
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体として──異世界から召喚されすっかりひきこもったエルフがいる……らしい。
姓は藤岡、名前は雅。なんとなく東京の高校に進学して、高校入学を機に、大阪から親のツテを頼って月島に住むように……一人で下宿するようになって暫くした、そんなある日。何時も通り、東京特有の文化、物価、言語。色んな物に惑わされながらも過ごしていた。
「神様がエルフやて〜?」
「らしいぜ!小糸がさ、新しい巫女としてこないだ神社の跡継ぎになってさぁ!」
引っ越した先のほぼ近所に住んどった、楽しくも一人で姦しい……そんな月島産まれ月島育ちの快活な江戸っ子との、なんでもない帰り道。
楽しそうな事に首を突っ込む事が趣味で、月島の噂話の仕入れ先は、大抵こいつから入ってくる。情報源の隣に居ったら退屈はせぇへんけど、賑やかすぎるのも考えもんなんよねぇ?
「そんでお目通りを許されて会いに行った結果!」
「小糸さんが?お目通りを許されて?その小糸さんがかんなぎになった結果……なんや?」
「そのご神体が実はエルフだった!らしい!!」
オカルトっていうか、絵本っていうか。ゲームとかアニメでしかお目にかかれへん存在やねんけど、エルフって。しかも神様とか何言うてんの?
なんか知らんけど、女子ってこういう与太話好きやねぇ。日本通り越してファンタジーの世界に行ってるやん!そんなん信奉して平気なんか?
「小糸さんが何を思って喋ったんか知らんけど、あほくさっていうか、胡散臭いわぁ」
「まっあたしもお祭りでしか見た事ないんだけどさ、それでもなんか好きなのが不思議だな〜あっははは!」
「小糸さんの言う事は信用してるんやね?ましてや仕えてんのがエルフだーなんて話をさぁ」
「そりゃそうだろ!なんたってあたしの相棒だからな!」
「なんていうか、話題に飢えてんなぁ〜月島の人って」
下宿先に帰ろうとして今日は何して過ごそうか悩んどったら、噂話のコレクターかつ桜庭家の一人娘、その名を桜庭高麗──通称コマちゃんに捕まってもうた。俺は恥ずかしいから、高麗って呼んでる。
流石に俺の年齢で同い年をちゃん付けは、どうも抵抗がある……さん付けか呼び捨てやないと恥ずかしいわ。
サバサバしとって、楽しそうな事にはとにかく首を突っ込む享楽主義で、東京に俺が引っ越してきた時から茶化すどころか、全身が浸かる程に深入りしてる。
嬉しいわぁってなる事もあるんやけど、引っ掻き回すなや!って事態になったりもして。『ほっとけねぇよな!』みたいな、世話焼いてるんかもしれへんけど、たまには俺一人になりたいかなぁ。まぁその、高麗がそうさせてくれへんねんけどね?
「んーまぁその、大体あれやろ?エルフってファンタジーとか、想像上の生き物やんか。その上神様とかお偉いさんってさ、一般人は会われへんのが通説な訳やし、半信半疑やなぁ」
「なんだいマサ、随分疑り深ぇじゃねぇか」
そらそうよ。日本にいるのに西洋ファンタジーマシマシな創作上の種族の、エルフがやで?現代に存在しとるとかぬかして?その上崇められてるとか、俺には意味がわからへんがな。
どうやってこんな場所に?いつ頃から?そもそも神様を信じてへん事を除いても……信用のしの字もあらへんかった。受験ですら神社や寺へ行く事無かったのに。
「んな事言ってもなぁ。現実世界で耳の尖ったエルフなんてコスプレとしか思われへんし、こっちに越して来てから神社の祭も不参加やったし。それに、高校入学前から月島にやって来たけど馴染んだ、詳しいで!って程の情報通でもないんよなぁ」
「そうかなぁ、確かにマサは東京歴も月島歴は浅いかもしんねぇけどよ……ってか知らねぇのかよ、マサが月島でどんな評判か」
そう言ってニヤつきながら白い八重歯を覗かせて、度々俺を戸惑わせる『天然タラシ』としての一面を見せてきた。
ブラウンを基調とした高麗の高校の制服に、赤くてふわっとしたツインテールがその天然タラシを引き立てとる、顔がええから余計に。美形はこういう時狡いんやけど、高麗はそれの使い方をわかってるのが悔しい……!
「評判って、なんや?月島に轟く程目立ったつもりはあらへんで」
それにしても、月島での評判ってなんや?標準語飛び交う中でも関西弁使ってるのが珍しい、目立つ、みたいな話は聞かされたけど……そんなん気にした事ないからようわからんなぁ。強いて言うなら、関西弁を話す度に二度見してしまう、とか?いずれにせよ妄想でしかあらへんけど!
「いいやしてるぜ!例えば『もんじゃ焼きを作る関西人』、『地元民かと思ったら関西弁で道案内をされた』、『大阪のおばさんの親切魂を受け継いだ漢』、『シマデンの跡を継げそう』とか……他には」
多い多い!噂には尾ひれが着くとかなんとか、聞いた事あるけど多すぎる!尾ひれどころか羽生えてるやん!トビウオよりも高く羽ばたけるって!
前二つは行動を伴った結果として、後の二つはなんやねん!?性別も違えば跡継ぎの話にまで飛躍してるやんけ!くそっ、褒め言葉ばっかり浴びたせいで無駄に恥ずかしい……。
「も、もうええて、なんか多いわ!なんでそないな事なってんねん!」
「それだけ月島のみんなに好かれようと頑張ってきた、そんな結果じゃねぇかマサ!この前なんてバイトと称して近所のおもちゃ屋手伝ってたし。へへっ、文字通り……東奔西走出来る男と知り合えてあたしも鼻が高いってもんだ!」
「さ、左様ですか」
こ、高麗の前では言われへん。東京の価値観、いや物価に慣れる事に必死で人助けがてら奢って貰ったり、安売りして貰おうと躍起になってただけやったって……なんなら今も!さっきも!店頭の安売りセールに目線を送ってました!!
「あたしはさ……最初は余所からやってきたマサが月島のみんなの為に、なんでそこまでやれるんだ?って思ったし、他のみんなともちょーっと心配してたんだぜ、藤岡君って……折角大阪から月島に来てくれたのになんか息苦しそうじゃない?とかさ」
ほんとかぁーほんとにそう思ってるかぁー?面倒になったら『あたしは帰るぜ!』って言っちゃう奴が、西からやってきた大阪の人間を気にかけるんかぁー?
いやぁ節々はなんとなく、高麗の優しさが沁みたからわかるけど。他の人にも似たような事言われたし、伝わるっちゃ伝わるか。
「息苦しそうってお前……心配されるようなタマでもあらへんけどなぁ」
「マサが初めて月島に来てやけに必死だった頃、大阪の人特有の『商い』の一環でさ、物価の違いに苦労して安く野菜とか売ってもらったり、色々処分品を譲って貰おうと打算を働かせてたんじゃねぇか……な〜んて考えたりもしてたんだぜ!ははは!」
お見通しやったんかい!下心めっちゃバレとるやん!人情に甘えてキャベツとかパンの余りとか、格安で譲って貰ってました!昨日も惣菜3割引きでした!タイムセール万歳!!親切割引き万歳!!まかない飯?もう毎日三食まかない飯でもええんやで!!
「まっ、正直マサが何考えてたかーなんてわかんないけどさ!無心で尽くしてたとしても、打算的に人助けしてたとしてもだぜ!」
客観的に生活感丸出しの、一人暮らしから来る下心。それを隠そうと必死やった俺を知ってか知らずか、この後の高麗から掛けられた言葉は、その下心から来た人助けの報酬か……或いは。
「巡り巡って世の為人の為になってしまうそんなマサの事、あたしは好きだぜ!」
俺が東京にやってきてから保ってきた安いプライドとか、そんなハートを、男よりもイケメンとも言える笑顔で……剛速球で射抜いて来た。まさしくど真ん中。そういや、高麗の親友でもある小糸さんが言ってた気がするわ──高麗ちゃんはね!デリカシーが無い時もあるんだけど狡いの、人誑しなの!って。
うん、狡いわ。人誑しや。誤魔化そうとしない自分の気持ちに普段から正直な所が、いざと言う時、ビシッと決める時の台詞に説得力を与えてくる。明朗快活な気質って言うんかな、これぞ江戸っ子!辞書の用例にも使われそうな、ビシっと決めた場面。そんなんやから誰彼構わず、ドキドキさせてるんやろなぁ。
「そ、そっか。なんかムズムズするけど光栄やわ」
「へへっ、良いってことよ!……そうだマサ、今日はもう暇?」
「お、おう、暇やで。帰ってアコギでも弾こうか明日の昼飯でも買いに行くか悩んでたんよ」
「だったら丁度いいぜ!東京在住一年弱、月島在住一年弱、そんな引きこもりのマサを東京観光に連れてってやるよ!」
引きこもりって高麗お前!高校と、買い出しと、大阪人でも知ってるような観光地に行く事以外で月島から出た事あらへ──ああうん、これは籠ってますわ。東京駅の人混みに嫌気が差して、月島に住むようになってからはずっと。おかしいな、そこまでインドアを極めたつもりはないんやけど、あれぇ?
「引きこもりて、確かに月島から出た事滅多にないけど……でもええんか?高麗だってそっちの高校の宿題とか、行事とかあるんと違う?」
「気にすんなって!迷える子羊を従える水先案内人ってなんかカッコいいし。なんせ今日も明日も、暇だしな!」
子羊って言うには大きくなりすぎてるし、水先案内人もよくわからへんけど……たまには、ええか。
東京の地理に詳しくないのは確かやし、未だに高校までの通学路しかわからんし。せやからこそ、高麗の道楽に付き合うのは──楽しそうやな!
「よーし!そうと決まれば出発だぜ!」
「おう、道案内よろしくな!……で、何処へ行くん?もんじゃストリートみたいな所でも連れてってくれるんか?月島から出るのも吝かではないで!」
「……よーし!そうと決まれば出発だぜ!」
「アテの無い水先案内人やなぁ……まぁ、ええか」
これは東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町に住む──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。
アニメ完結記念にちょっと書きたくなりました、続くかどうかは高麗ちゃんの原作での出番次第です……。