これ裏側を想像して描写しただけのオリジナル回かもしれない…
東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町、月島に住む二人の──江戸と浪速の入り交じる、そんなお話。
「う〜つまみが足りないおさけ足りないやすみたりなぁ〜い!まさぁ!おさけ!!」
「あのなぁ、アカネちゃん?世の中にはなぁ、医者の不養生っていう、立派なことわざがあってやねぇ……あっカドちゃん、鉄板の掃除とポスターの貼り替え終わったでー」
「いつもありがとうなマサ!そこのヤブ医者と違って、あんたは百人力だよ!」
大掃除手伝ってくれ!って手を合わせながら頼まれて、門井さん──通称カドちゃんの経営する、もんじゃ焼き店を手伝いに行ってた忙しないある日。当人曰く腐れ縁の医者、アカネちゃんが昼間から呑みに来ていた。休日やからええか。ええんかこれ?
「ゔっ……わたしだってやるときはぁ……やるんらぁ!まさもつかれたならのめ!」
「なぁカドちゃん。何度も思うねんけどな、未成年に酒を奨めるこれが医者なんか?ほんまに」
「まぁね。前も言ったけど、こんなのでも佐々木医院に勤めてるよ」
医者ってのは職業柄、何時でも患者に対応せなあかんし、患者も色んな人間が来るわけで。まぁその、うん。逃避先がお酒ってのは、大人あるあるなんかなぁ?
「ほーん……なぁアカネちゃん、俺が二十歳なったら一緒に呑んだるからさ」
「いいねぇ〜!まさはかどいとちがってはなしがわか──」
「今日はもう帰り、流石に店開きやでもう」
「──けち!まだのみたりない!やすみたりない!」
「つべこべ言うなアホ医者!マサの言う通り帰れ!マサ、これは今日のバイト代と焼きそば。持って帰って食べていいよ!」
ある時は食材の仕込み、またある時は配膳接客。そして今日は清掃。そのいずれをこなしても、きちんと対価をくれるカドちゃん。
そんな店主から焼きそばとな?料理の方向性は似てるけど……。
「バイト代おおきにカドちゃん、って焼きそば?鉄板あるけど、ここもんじゃ焼きの店やんか」
「それがさ、今年の弓耳祭で屋台グルメをウチも出す事になってさ、ここで出してるメニューの味付けで、焼きそばをね?試作品だから絶対美味い!って言えないけど。よかったら食べて感想を聞かせて頂戴!」
ゆみみみまつり。去年はあんまり意識してへんかったけど、何やってたっけなぁ?豊漁祈願がどうとか言ってたけど、今度小糸さんにでも訊いてみよか。
「何度聴いても『み』が多いなぁ?……そういう訳やったら了解、関西人目線でもええの?」
「そうだね!月島以外からも人が来ると思えば」
「それなら任せてや、明日にでも伝えに来るで!アカネちゃん、続きは宅飲みにしときやー」
最早言葉も出えへんのか、手を挙げる代わりにビール瓶が掲げられた。医学のどんな分野か知らんけど、患者より先に、早死にせぇへんとええな……。
カドちゃんの店を後にしてから暫く、自宅で試作品とは思えない美味さの焼きそばを食べた後。
高麗が遊びに来る訳でもなければ、小糸さん経由でエルダからの対戦相手募集!の文言も来ないから、なんとなくギターケースを担いで。アコギを弾いても平気そうな場所を探す事にした。
探すとは言っても、一年以上は月島に住んできたからここなら人通りも少ないとか、住宅が密接してへんみたいな土地勘は出来つつあった。検討を付けていた広場とかへ赴き、遊ぶ子供とか先客がいてたら大人しく退散。
そんな事を繰り返してたからちょっとだけ休憩したくなって、自販機で新発売の炭酸ジュースを買おうとした、そんな時。
「──もし、背の高い大きなリュックを背負う、そこのお方?」
「んぁ?」
およそ高麗みたいな江戸っ子とは思えない、それに現代の日本語としては古風な日本語が、唐突に背後から聴こえてきた。
観光案内がアップされとったとは知らなかった頃も、こんな風に声を掛けてくれた観光客が、それなりに居た。アカウントを消させたのに、ふらついていても『月島観光案内関西弁mixの人ですよね?』やなんて。
無下には出来んから、案内した後にニヤニヤしてた高麗と小糸さんの頬を摘んだのも、割と記憶に新しい。
「もし。聴こえていらっしゃるなら、お尋ねしたい事がありますの」
あかん回想に耽っとった!人通りのない路地、そして背の高い大きなリュックに見えてるらしい、実態は単なるギターケース。そんな物を背負ってる人間なんて、今この空間には一人しか居らへんよなぁ……しゃーないから応対行きまーす!
「はーい、本日はどんな御用……で?」
「ふふ、そのリュックをこちらから見ると、まるでお侍様のちょんまげですわね?でも大きすぎるかしら」
第一印象は、絵画から出てきた程の綺麗な人。お洒落な鼻緒の雪駄、明るい袴に水玉模様のインナーの、長襦袢?それを全て隠さない黄色と橙色の中間みたいな色彩の外套。艶のある綺麗な肌と髪。そして、現代では京都の舞妓さんしか使わないであろう、真っ赤な番傘。
第一印象は和装の麗人の一言に尽きた、尽きた筈やった。そんなイメージがすぐに切り替わる事になる。
「あのー、えっと」
「ああいけませんわ、私から尋ねておいてつい余計な事を!スマホの地図はぐるぐる回るので、紙の地図を頂いたのですが……道に迷ってしまいまして」
印象が大きく変わった理由は、この人に既視感があったから、主に一箇所のせいで。怠惰に現代の遊戯に興じる大きな神様、最近出逢った迷子の神様。その二人と目の前にいる麗人の三人に共通するのは、長い耳。それはまぎれもなく、とある種族の象徴な訳でして。
「エルフ、いや、エルダの身内?」
「あら!もしかしてエルダちゃんをご存知なのかしら!?」
拝啓、小糸さん、向日葵さん。お二人程ではありませんが、俺はエルフと縁があるらしいです。
「まあ、エルダったら。巫女では飽き足らず雅を!未成年の殿方を!遊び相手に!!手を出すだなんて!!!」
「いやー事ある毎に対戦相手にされるから、ほんまに骨が折れるんやわーって言い方に語弊あるから、止めてもらってもええかな?ハイラ」
スケジュールは詰めてへんらしくて、ベンチに腰を下ろしつつ、自己紹介を兼ねて世間話をする事に。
力を抜いて接して欲しいと頼まれたから、他のエルフと同じつもりで敬語無しで喋ったら、教師のモノマネ並にウケた。俺も、出会った事も無かったタイプの上品な性格に、思わず気を抜かれてしまったらしい。
ハイラリラ・アイラ・ミララスタ、通称ハイラ。金沢で祀られているらしく、麗耳昆売命(うらみみひめのみこと)として、麗耳神社の御神体をやっているそうな。
ヨルデちゃんと共通して、迷ってはいた。でも、居る筈のあらへん存在が見当たらん事を、全く気にも留めて無さそうやった。とはいえ一応聞いとこか。
「そういえばハイラ、金沢の神社に祀られてるのはええけどさ?俺の予想やったら巫女さんは?一緒に来てへんの?」
「うふふ、私の巫女が気になるのかしら〜?」
声色がお節介を焼いてくる近所のおばさんのそれなんよ、俺は巫女がいない事を気になってるだけで、どんな女性か気になってる訳やないっての!
「なんや含みのある言い方……とにかく、巫女さんは一緒に来てへんの?」
「金沢でまだ仕事が残ってる、との事で私だけ先に東京へ来ましたのよ。明日までかかると言ってましたわ」
「仕事?」
「ええ。最も、こちらでも私と一緒に物産展に関わる仕事がありますので、別件ではありますが」
巫女って仕事というか、職業じゃないんかな?てことはダブルワークってやつ?
「なんかわからへんけど、多忙な巫女さんなんやね」
「でしょう?学業をこなしながら頑張るあの娘の事ですが、私がその肩書きに詳しくないの。でも、雅とは同じお歳ですわよ?」
にしても金沢で一人仕事ねぇ?学業やなくて、仕事が忙しいと来た。
仕事と聞いて歳上の人かと一瞬思ったけど、同い年で学生で、日程をずらさないといけない、それ位には多忙な人。その巫女さんが仕える御神体、ハイラは気品良し風格良し、偏見やけど手を煩わせなさそう。エルダやヨルデちゃんよりは、遥かに初心者向けであるとしても、大変そうな人やなぁ。
「まぁそのなんや、東京に来た理由は分かったわ。これからどないするつもりやったん?地図がどうこう言うてたやんか」
「ええ、折角来たんですもの。一度エルダの顔が見たくなりまして!高耳神社に行こうと思ったのですが……」
スマホの地図はぐるぐる回る、とか言うてたもんな?紙の地図でも現在地が出れば分かりやすいけど、ここはひとつ、道案内といきますか!
「機械が言う事聞かへんって言うてたね。じゃあ紙の地図見して?」
「あら、案内して下さるのかしら?助かるわ!はいどうぞ」
「まぁ着いてく事はせぇへんけど、場所なら教えるで。今このベンチが此処でな?此処から路地に行かんと通りを──」
取り敢えず、持ってたボールペンで道筋を記していく。地図があっても迷うレベルの、手に負えへん方向オンチではないみたいで、手間が省けて助かった。
「ここがエルダの住み家やで」
「歩いて10分、といった所かしら?助かりましたわ!なんというか、手慣れていますのね?」
「かまへんよこれくらい。うん、その、色んな意味で場数をやね」
「?」
人間相手は勿論、エルフ相手も慣れたからなぁ。取り扱い説明書とかは無いけどな?普段は読んでから使うタイプやけどね!
「とにかく、これで迷わず進めそうですわね!雅。楽しい時間も道案内も、ありがとうございました」
「さっきも言うたけどかまへんよ、それじゃあ元気でな。物産展、上手く行くとええね」
「うふふ、お暇でしたらお待ちしていますわ」
エルフだから、なんて先入観は失礼やったかな。
おっとりしてて、品が良くて、他のエルフと違って地域の発展にも積極的。欠点のない素晴らしいエルフやったわ!将来金沢旅行するとしたら、大阪のええお土産でも持っていったらんとあかんな!
そんな気持ちでハイラを見送って──見えなくなると思ってたら、スタスタとこっちに戻ってきた。
「雅!もう少し甘えてもよろしくて?」
「なんやなんや駆け足で、まだなんかあった?」
「この辺りに、草木の生い茂る場所はあるかしら?」
「草木?なんで?」
「と、とにかく!」
草木?自然が恋しいとかそういう話?金沢の方がどう考えても、自然多そうに思うんやけどなぁ……感傷に浸りたくなったとか?んな訳ないか、ケチケチせんと教えたろ。
「それやったら、地図のこの公園が緑は多いかなぁ」
「助かりましたわ!これでおみ、いいえなんでも!」
「おみ?金沢から長旅してきたんやから、慌てんでもええと思うよ?ゆっくりな」
「ええそうですわよね!慌てず行きますとも!最後に、その、もう一つ良いかしら?」
「俺も急いでへんからええけど、どないしたん?」
「これが一番大切なのですが……1から16の数字の中で好きな数字はありますの!!?」
1から10やなく、中途半端に16?いや、16進数とかあるからわからなくはないけど。あれは途中からローマ字になったはずやし、あれか?占いで使ってくれるとか!タロットがどうこうで関係しとるんやな!占いって言うたら……。
「好きかどうかはわからへんけど、今日テレビの占いで7位やったから、『7』かな?」
「『7』ですわね!私がやると大抵素寒貧なのですが、これで──」
「これで?」
「んん!?いいえなんでも!それでは雅、この辺で本当にご機嫌よう!」
「あ、うん。今度はゆっくり出来る場所で会えるとええな」
占いは?なんて聞く前に、ハイラはキャリーケースを引きずって走り去ってしまった。あわてんぼうなあれも愛嬌、なんかな?占いはまぁええか、そこまで信用してへんし。
そんなハイラとの会話に夢中で忘れそうになったけど、背中の重みで本当の目的を思い出した。危なっ、風が魔法として存在する以上、魅了する魔法も使われてたんかもしれへんわ!
人もいないし、ここで弾こうかと思い立ち。大阪から持ってきたアコギで、有名なコードを抑えるだけで弾ける曲を、鼻歌混じりで弾き始めた。のんびりと、知ってる曲だけを。観客が高麗や小糸さんだけなら歌詞もなぞるけど、一人で声を上げて歌う程、気障にはなられへんからあくまで鼻歌だけ……!
気儘に思いつくままセットリストを考え、弾き続けて暫く。
満足したし、早めかもしれへんけど夕食にでもしよか。なんか拍手も聴こえるし観客も満足やろ……待てよ、観客?
誰も居らへんのを確かめたけど、途中で誰かに観られてたんかな?夢中になりすぎて気にしてなかったわ。
そう思って視線を上げたら、いた。興味深く観てる人がそこに立ってるわ。なんていうか、嬉しさと戸惑いの混ざる顔してはるわ。さっきのハイラとは違うベクトルの、贔屓する必要無しの、美人な赤髪女子が。
柄の付いたストールを首元に巻き、季節のトレンドを抑えたであろうカーディガン。それに、素足を隠した黒いタイツは、モデルみたいな脚を強調しとって。今時の可愛さってのは、目の前の人みたいなのを言うんやろな。
「あっ、急にすみません。えっと、鼻歌とギター、よかったから」
「はぁ、おおきに?」
「私は……楽器出来ないから、凄いと思って……少しだけ、訊いてもいい?」
「大丈夫やけど、どないしたん……かな?」
「間違いやなかったら……この月島でこの関西弁、間違いなく『月島観光案内関西弁mix』の人、やよね?どうしてアカウント、消したの?」
文章は殆ど標準語。でも発音的に、月島では勿論、大阪ですら小耳にも挟まないイントネーション。恐らく未知の地方からやってきた、その少女にも知れ渡る程には、消させたアカウントの知名度に驚きつつ──俺はどう繕えば傷付けずに済むか、疲れた頭を悩ませた。
この原作ではこんな話にしよう、みたいなプロットはあるんですけど、今回はみたいにほぼオリジナルになると文章に迷う!リアルでも体調優れないしちょっと忙しいし!20時に投稿が無かったら休みだと思ってください…