江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

12 / 61

やっぱりほぼオリジナル回だこれ……!


江戸前スプレッダー達の妙技・後日談

 

 神輿。それは神様が氏子の住んでいる地域を巡る、その為の乗り物らしい。そこから派生して神輿を担ぐ、だなんて慣用句も産まれたりした。俺もその、神輿を担がれるかの如く持て囃された事があった。ただし無断で。当初はただ普通に月島で過ごしているだけの、そんな様子を映しただけの映像、それと写真が話題を作っていたとは思わへんかったけど。

 

「間違いやなかったら……この月島でこの関西弁、間違いなく『月島観光案内関西弁mix』の人、やよね……?どうしてアカウント、消したの?」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町、月島から発信され、担ぎあげられた神輿を受信した──女の子とのお話。

 

 

「え?あーいや、どうしてって言われても」

「もしかして、何か後ろめたい事?それだったら言わなくても、いいんだけど。気になるけど仕方無いし」

「んー……後ろめたいとかはないんやけど、言葉を借りるなら寧ろ、後ろめたく思って欲しいっていうかなんていうか」

 

 凡そ女子に修飾していい言葉とは違うけど、アホな高麗とバカな小糸さんが勝手にやらかした、俺はなんも知らんかった事やからなぁ。

 

「ていうかその、なんやろ?何処から来たんか知らんけど、その呼び名で聞いてきたって事は、投稿観てくれてたんかな?演奏を見物してたんなら、観光でも無さそうやし」

「うん、偶々インスタで見掛けて、土地と言葉のギャップが良いなーって思ったり、名物の見せ方が素敵だなーって思ったり、私の仕事にも活かせる!って思ってたから、参考にしようと投稿をずっと追いかけてたんだけど、ここ最近でアカウント毎無くなってたから……ちょっとショックで」

「な、なるほどそれはそれは……取り敢えず、こっちにどう?」

 

 預かり知らぬ所で何故か上昇してた株に困惑しつつ、誉め言葉の応酬に頬を掻いた。褒め上手な観客に向けて、急いでへんのやったら座って話さへん?そんな意味合いを込めて、さっきハイラが座っとった場所を指差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあその、改めて。本日は月島にどんな御用で?」

「東京で仕事。と言っても月島でやる訳じゃないから、ここに来たのはついでだけど」

「そっか、立派やねぇ。月島はついでってのは……要するに、消されたアカウントの主を探してました!なんて冗談みたいな話ではないんやね?」

 

 そんな消されたアカウントの持ち主を探す為に、知らん所からやってくる様な視聴者?フォロワー?なんて奇特な人間なんて居らへん。そう思いたい!

 

「ふふっ、それは単なる偶然やよ〜!確かにショックは受けてたけど、そういう事もあるって割り切ってたし。そんな中で、偶に投稿されてた演奏と同じ曲が聴こえて。寄り道してみたら消えたアカウントで見た人がいたから、びっくりして。なんだかホッとした!」

 

 あー良かったそんな熱心な人やなくて!仮にそんな人来られたら逃げてたかもしれへんわ。それはそれとして、見た感じやと高麗や小糸さん、そんで俺と同じ年頃の女子。そんな熱心な人が仕事の参考書として?遊びのつもりで開設されたアカウントの追っかけをしてたんか。あれが指南書代わりになるって、どんな仕事よ?

 

「まぁその……アカウント消してもうたのはごめんな?友達とちょっとした暇つぶしでやってたんやけど、まさか仕事の見本市みたいな、大層な使い方されてたとは思わへんかって」

「遊びであんなに色々やってたの!?やとしたらもっと続けて良かったと思うし、もっと早く仕事とかで掛け合うべきだったり──」

「あはは、そないな上げ方せんでも。見た感じ、学生さんみたいな格好してるやんか。東京に来てまでやらなあかん仕事ってなんなん?部活の遠征とかやったらわかるけど」

「ううん、私、部活に入ってなくて。今日東京に来たんはね──物産展のお手伝いなんよ」

「へぇー物産展……物産展?」

 

 おかしいなさっき似たような、いや同じ事聞いたで?ハイラも物産展って言うてたね。巫女と一緒に関わる仕事だ、って。場所は確か──

 

「そう物産展。石川県の金沢市ってわかる?私、金沢からやってきたの。名前は小伊万里(こいまり)いすず、ハ……ある人と、インフルエンサーとしての仕事で東京に来たんよ」

 

 ──思考を回す前にパズルが完成した。間違いあらへん、小伊万里いすずさん。言い淀んだそれもハイラの名前で、この人がハイラの巫女やわ。最近勘が冴えてるのか巡り合わせなのか、断言とまでは行かなくても、エルフ関係では割と鋭いらしい。これまでの噂を信じるならハイラを召喚したんは──石川県やから……確か、竹中半兵衛?それとも前田利家?

 

「金沢の物産展で仕事として矢面に立つ様な人に、参考にしてもらえてたんは恐縮やねぇ。あっ自己紹介おおきに、俺は藤岡雅って言います。藤君!とかマサ!って周りは呼んでるで、小伊万里さん」

「よろしく雅さん。いすずで良いよ?物産展、良かったら来てくれると嬉しい」

「ん、了解。ところでいすずさん?寄り道言うてたけど、何処行くつもりやったん?」

 

 まぁその、大阪のあの二人組も、似たような事情で『ついでに』あの場所に来てたから、さっきのハイラといい、いすずさんといい、きっと今から向かう場所は。

 

「えっと、月島にある高耳神社に行くつもりで。ご利益あるらしいし、物産展の成功祈願でもって思ったんよ」

 

 せやろな、高耳神社一択やんなー、副次目的で来てると思ったわ。

 

「しっかりしてんなぁ」

「そんな事、ない。これも私の為だから」

 

 ハイラ曰く、金沢での仕事が残ってて日程がずれる言うてたけど、早く片付いたのか強行して来たんやね。なんとなく、物産展を手伝う様な仕事やから広告塔、それっぽく言うたら宣伝大使?みたいな事してるんやろうな。ああいうのって、決まった時間に終わる方が珍しいと思うのに……また次の仕事に向かって進めるなんて尊敬するわ、俺やったら空いた一日でぐうたらしてるもん。

 

 それにしても、自己紹介でも巫女って名乗ってへんっぽいし、何か隠したい事情でもあるんかな?あんな上品な人が御神体やったら、仕事上宣伝して回るやろうに。まあ深掘りは止めとこか。推定巫女さんが言いふらしたくないんやったら、な。

 

「高耳神社か、あそこはここ月島でもご利益あるからな。きっと成功するで!道はわかる?」

「うん、寄り道したとこ戻るだけだし最悪スマホに頼るから。色々教えてくれてありがとう、雅さん」

「教えるも何も。消したアカウントの行方とかだけやし、寧ろ俺の方が色々聞いてたんやけどね?まぁええか、物産展上手くいくとええね〜!」

 

 離れるのを見送った所で、俺もそろそろ帰ろうと立ち上がって。

 

「忘れてた!ちょっといい!?」

 

 引き止め方もタイミングも、なんかハイラみたいやね。癖とかって身近に居る人のそれが遺伝したりするらしいからな?

 

「アドレス交換してもいい?インフルエンサーをやってる人間として、関西弁を駆使して月島の宣伝してる雅さんの話とか、今後も参考にしたくて!!」

「そういう事やったら、喜んで」

 

 勤勉な巫女さん兼インフルエンサーいすずさんの申し出を、糧にしたいと願う人を断る理由は無くて。交換した後、高耳神社に向かう金沢の広告塔を手を振り見送った。なんかハイラといい、いすずさんといい、ええ事してやれたなーなんて思いながら帰路に着いた。

 

 この時の俺は、知る由もなかった。実は金沢の巫女と神様が、少しギクシャクしている事を。草木の生い茂る公園に、手土産代わりにナズナの採取に向かっていた事を。数字を聞かれたのが、占いでもなんでもなかったという事を。その全てが噛み合った結果、巫女から大目玉を食らった事を。

 そんな二人がとある神社のお蔭で、仲直りできたという事も!御神体の扱い難易度としては、気品良し、風格良し、手を煩わせへん。エルダやヨルデちゃんよりは、遥かに初心者向け……とか適当な事思ってごめんな、いすずさん!貴女も立派な、プロの巫女やわ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っと。ほんまにこの曲でええんかな?」

「良いじゃねぇかマサ!あたしは音楽に詳しくねぇけど、ノリが良い曲だし。これならあたしも歌えるし盛り上がるぜ!」

 

 選曲を、俺が辛うじて演奏出来て、尚且つ女子高のノリを壊さへんであろう選曲を考えて。流行ってへん!とかなんか違う!って言われたら心折れるから、セットリストを共有してみる事にした。

 

「なら良かったわ。正直その……ほんまに認可下りるとは思わんかったから、難儀やなぁって思っとったけど。俺もあんな見栄の切り方した以上は、な?」

「へへっ、文化祭の実行委員って肩書きを利用してさ、ステージに空きを作れねぇからよぉ、頼むぜ?って掛け合ってな!なんせあの月島の関西人とのコンビでの出演だぜ、ってちょーっと発破かけたら即承認!って寸法よぉ!」

「はいはいさっきも聞いたわ。それより、ちゃんと動画撮れたん?」

「おう!にしても初めてじゃねぇか?何時もはなし崩し的に撮られるのを諦めてたのに、自分から撮ってくれーなんてさ」

 

 人間ってのは、影響を受ける生き物でして。良い意味か悪い意味かはさておき、今回のそれはその、遠い金沢の地で奮闘する巫女さんの信念に、少し充てられた形で表れた。

 

「んー、高麗になら言うてもええか。実はな、前に高麗が投稿してたアカウント、再開してもええと思って」

「マジかよ!?じゃあ早速あたしがインスタ入れ直して──」

「それはあかん、監修は手伝って貰うけど投稿と管理は俺がやる。面白がってあれこれ上げられたらしんどいからな!再投稿位はしてもええから、今後もデータを後で送ってくれ」

「ちぇっ、あたしの好きな様にマサの写真見せたいのになー。なぁ、なんで気が変わったんだ?事実を知った途端に嫌がってたじゃねぇか」

「そうやなぁ。強いて言うんなら……神助けに巫女助け。俺なんかの存在を、少しでも頼りにしてくれる人がおるってやっと自覚したから、かな?」

「……そっか、なるほどな。事情はわかんねぇけど、マサがそう思って決めたんだ!あたしも覚悟決めて応援してやるぜ!」

「おおきに、高麗!」

 

 こうして『月島観光案内関西弁mix』は再始動。それを見た観光客に案内をせがまれたり……再開したと聞きつけた金沢の巫女のアカウントからも、関西弁や弦楽器の音色が聴こえる事になったそうな。

 

 

 東京都中央区……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から発信される──江戸と浪速の入り交じった、そんな月島のお話。




基本原作に基づいた流れにしようとしているのですが、ハイラといすず初登場回の流れに混ぜるのは…色々難しいな!?ってなったのでその初登場回のプロローグという形で執筆してみました。二人とも、月島には別々にやってきたので丁度良かったですし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。