江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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月島なんでも探偵団 裁き編

 

「これより!エルダ様の限定プラモ破壊事件を引き起こした、小金井小糸の裁判を執り行う!」

「なんか始まったで……」

 

 犯人捜しと自白パートが終了した後、お祓いとか奏上、って言うんやっけ?ああいう普段の俗世に嵌まる為の本殿とは違う拝殿へと赴き、御奉行役に高麗が立候補。俺は高麗曰く、岡っ引きとして裁判に立ち合う事となった。帰ってええかな?

 

「なによこれ?往診の途中なんだけど、忙しいんだけど」

「仕込みの途中なんだけど、忙しいんだけど」

「ごめんなぁ、アカネちゃんカドちゃん……罠のつもりやなかったんよ」

「静粛に!」

 

 公平性を期す為に、もとい裁判っぽくして面白くする為に、往診に周っていたアカネちゃん。そして、開店準備中のカドちゃんを俺に招集……させられる羽目になってしまった。流石にただ神社に来て!とは言われへんから、高耳様が困ってるんよ!と半ば泣き落としで呼び寄せて。てかアカネちゃん、ホンマに医者なんやな?

 

「茜えとカドちゃんには、大人代表として裁判員になってもらいます」

「「裁判員?」」

 

 うん、最もな疑問をホンマにありがとう。いきなり呼ばれて困ってるやろうしな?しかも公平にやらなあかんのに偶数やし、裁判員の数。

 

「私の大事なプラモが無くなってさ、探すついでに探偵ごっこしてたんだ……そしたら、小糸が犯人だと判明してな」

「高麗がホームズ、俺はワトソン役らしいねん」

「そんで小糸の裁判もあたしらでやってみようぜ!って事になった」

「正直俺は、今からでも帰りたい」

「良いじゃねぇかよマサ。だって今日……あたしはヒマだし!」

 

 なぁ高麗、それ決め顔で言う事ちゃうんよ。大人組キレてるやん。後その座り方俺の心臓に悪いし、目のやりどころに困るから止めて?女子なのをちょっとは自覚して?このまんまやと動悸が激しくなるから、立ち位置変えて高麗の後ろに周って……っと。

 

「アホコマ!大人は裁判ごっこしてるほどヒマじゃないのよ!」

 

 アカネちゃん、ごもっとも。酒呑みな一面が強いけど、こういう指摘をしてくれる辺り、流石は大人やね。

 

「あの〜高耳様、江戸時代って裁判所あったんスか?」

「そりゃあったわよ、ほらえ〜っと……なんだっけ?」

「私は高耳様に聞いてんだ!」

 

 腐れ縁言うてたけど、仲ええよねこの二人……ヤンチャなカドちゃんに酔っ払いの町医者。なんか映画になりそうやな?

 

「江戸の頃の裁判所と言えば町奉行所だな」

「あーそれそれ!お奉行様!」

「今でいう市役所、警察、裁判所が合体したみたいな役所でさ……行政も司法も警備もみーんな、そこでこなしてたんだよ」

 

 ほーん?権力を一点集中させてた訳か。実際その手の利点も欠点も知らんけど、お偉方にとっては手間も掛からへんし、気楽やと思うなぁ?

 

「みーんなって事はやで、さっきまでやっとった探偵もそこにおったん?」

「勿論、探偵方も奉行所に所属してたしな」

「お奉行様って、遠山の金さんとか大岡越前とかだよね?三方一両損だっけ?みんな損するけど気分はハッピーみたいな!」

「静粛に!小糸は下手人なんだからもっとションボリしてなくちゃ駄目だろ」

「う、うっす……」

「肩書き的にはせやけど、別になぁ……」

 

 あかん、なんかツッコむ気力が足りへんし、儀式の場所を遊びに使っとるのが申し訳なくなってきた……せめてもの償いに、神社の掃除と、小柚子ちゃんと菊次郎さんに差し入れでも送ろか、あの煎茶一杯あるし飲み切れてへんし。それでええかな、ええよな?

 

「では、証拠物件の提出を」

「こ、これです……」

 

 さっきから、大事に持っていたセロハンテープゴンゲム。ゴンゲムそのものに造詣が深いのは知っとったから、あれもどれだけ大事なんか、抱え方からようわかるわ……。

 

「ふーん……高耳様の大事なおもちゃを」

「小糸が壊しちゃった、ってことか〜」

「す、すごくレアなプラモだったんだ……!こんな無惨な姿になって」

「男子ならわかりそうだけど、マサ、どれくらいレアなの?」

「男子視点だとどうなのさ?」

 

 男子視点って言われてもなぁ?俺もゴンゲム自体は知ってるし、触れてはいるけど、エルダ程傾倒してる訳やあらへん。ロボット物とはいえ男なら誰しもわかる、って話やないし……それっぽく話すなら、えーっと。

 

「んーと……なんやろ、お酒だと酒蔵で作られたばかりで一ヶ月だけ売られとったとか。お茶やと茶柱かと思ったら3本位纏めて浮かんでたとか。そんなレベルかな」

「何よそれ、銘酒じゃないの」

「茶柱はよくわかんないけど、それだけレアって事だね」

「ああうんそうだよそれくらい希少だよ」

 

 ごめんなぁ、アカネちゃんカドちゃん……二人に分かりそうな例え考えとったけど、なんか面倒くさすぎて適当こきました。お酒の販売期間なんて知らんがな、茶柱に至っては……産まれてこの方、見た事もあらへん。

 

「でもちゃんと直ってるでしょ?クリアなテープにクリアなプラモ!選択的には、我ながらなかなかのセンスだよね!」

「素人でも接着剤っていう大きめの選択肢があったはずだけど……!?」

「裁判員のご意見は?」

「「う〜〜〜ん……」」

 

 そうや、二人は一応裁判員。判決の公平性の為の存在や。暫し沈黙した後、小糸さんへの判断が下された。

 

「いや、寧ろ高耳様が悪いんじゃない?」

「ええ!?」

「うん、小糸、いつも頑張ってるしな」

 

 矛先が違ったわ、被疑者への判断が下されとった。それからも、エルダへの言葉のナイフが刺さり続ける。

 

「そもそもそんなに散らかしたのは高耳様でしょ?」

「へうっ」

「足の踏み場もないんじゃプラモ踏んでも仕方無いよな」

「ふひゅっ」

「そんな大事な物を踏んじゃう様な場所に置いとくのもなー」

「んうっ」

 

 もし、もし俺がエルダで、もし同じ場所におったら……多分泣いてたかもしれへん。情け無いけどやねぇ、女性からの口撃が集中的に浴びせられるとつらいものは、つらいんよ……。

 

「た、確かに……小糸はいつも頑張ってるし……私が片付け無かったのが原因かも──」

「待ってエルダ!」

 

 これドラマとかゲームで見た事ある、被告への証言に不服な時に弁護人とかが良く言うやつ!この場合、発言元は下手人やけどね?

 

「やっぱり悪いのは私だよ!私がプラモ壊したんだし、なにより隠してたのは良くなかった。だからエルダ!私に罰を与えて欲しい!」

「うむ、良い心掛けじゃ下手人よ。では続きはエルダ様に任せるって事で!」

「エルダ、私が自分を許せる様になる為にも……厳しい罰にしてね!」

 

 小糸さん、大方悪いのはエルダやったとはいえ……凄い罪悪感持ってるんやね。根っ子から優しいっていうか、向日葵さんもいすずさんも、神様と連れ添うにはこれくらい大きな器が要るんやなぁ。そういえば、小金井、小日向、小伊万里。みんな苗字の一文字目に『小』って付くとか凄い偶然やなぁー……はよ帰らせて?

 

「小糸……お前の気持ちは良くわかった……!」

 

 そんな中、エルダから発せられた……贖罪の、小糸さんの量刑は……!

 

「じゃあ小糸が壊したゴンゲムがどんな物か理解する為に……機動武士ゴンゲムファーストシリーズ全43話を私と一気見すること……!」

「………………………うん!」

 

 露骨に興味無いですーって反応やったな?これなら紛う事無き罰になりそうやわ……俺やったらゴンゲム知らん訳やないし観た事あるし、拘束時間長いだけで久しぶりにアリやな〜ってなるけど、小糸さんやもんなぁ。まぁ、ドンマイ!

 

「よし!これにてお開きぃ!」

「やーっと帰れるわ……」

「ワトソン役と岡っ引き役、ありがとなマサ!まぁでもあんまり面白くならなかったから、もうちょっと暇つぶしになると思ったんだけどな〜!」

 

 人生で余計な一言を言いがちランキング堂々の1位、桜庭高麗。あのな、事情を適当に説明して呼び付けた大人の前でな、そんな台詞言うてみ?なんか若干2名程から、血管キレた音したで?

 

「そんなに暇なら今からウチの店手伝え!」

「後で呑み行くわ〜しっかり働きなさいよアホコマ!」

「あ、あれぇ……?」

 

 下手人、桜庭高麗。罪状、茶化し、仕事の邪魔。判決──無賃労働。逝ってよし!

 

「茜ぇにカドちゃん、ちょっと待って!……マサ、仲間だよな!?ワトソン君だよな!?ホームズが困ってるなら強制労働から助けてくれるよな!?」

「え〜?ワトソン役あんがとな?って言われたもんなぁ〜。ってことはもうワトソンちゃうからなぁ〜……さぁーてお家に帰らせて貰うで。二人とも、高麗をよろしく」

「これじゃあ駄目かよ……こ、ここまで来たら仕方ねぇ!……なぁマサ!」

「遺言か?一応聴いたるわ、なんやろなぁ?」

 

 どうせ今から地獄に突き落とされるアホの戯言や、碌なもんやないわ!まっ、適当に聴き流して、帰りに新発売のジュースでも──。

 

 

「あ、あ、ありったけのハグに!はじめての……ありったけのチューしてやるから!労働から救ってくれ!!!」

「んなっ……!」

 

 

 その台詞が、俺の耳に、心に、脳内にも着弾した刹那……煩悩、渇望、色欲、衝動……どんな言葉でもしっくり来るであろう電流が、身体中に信号を送り続けた──こいつは、この迸る誘惑は、世界が指定するどんな猛毒よりも危険や……って。

 

「へぇ〜」

「ほぉーん」

「コマちゃん!?」

「え、江戸の華、ってやつだな……」

 

 プライドとか無いんか!?女の子やろ!?しかもファーストキスなんやろ?!自分を安売りすな!大事な時に取っとけや!てかすんっごい俺を揺さぶる選択肢提示してくんのやめぇ!胡座かいた高麗ですら、暇つぶしに付き合わされた至上のご褒美やったんやで?継承の儀の時の同じ部屋で寝るか?って提案もそうやったけど……ちょっと神様?俺の煩悩を彼方まで吹っ飛ばしてくれへん?

 

「ぐっ……うおぉ……ミギィ……」

「藤君が見た事ない苦悶の表情で苦しんでる!顔のパーツが滅茶苦茶に……」

「ま、まるで福笑いだな……そういえば江戸時代の中頃だったか、福笑いが正月の遊びとして定着しだしてな?変な顔をみんなで笑う事から『笑う門には福来たる』とも言われて──」

「マサ〜あんた、コマとそういう関係だったの〜?門井、祝い酒置いといて!」

「月島と大阪のカップルが誕生してたなんてね!マサ、今日来てくれたらスペシャルなもんじゃ奢るよ!」

「勝手にくっ付けんな!もんじゃも要らんわ!勝手な江戸知識解説も止めろ!」

「ど、ど、どうなんだよ!?これでも助けてくれねぇってのか!?あたしも恥を忍んでるんだぜ!?」

 

 正直……くっそ、揺さぶられました。多少なりとも良く思ってる高麗からの誘惑に、抗え!乗れ!と俺の中の天使と悪魔が怒鳴り合ってた所で、帰りたかった時に面倒事に巻き込まれたのを、欲望に堕ちる崖際で思い出して。

 

「カドちゃん、アカネちゃん。高麗を精々、こき使ってやってな……」

「は、薄情マサー!」

「なーんだつまんないの、堂々と祝い酒が呑めると思ったのに」

「照れ隠し方が男の子だねぇ。まっ、そういう訳らしいから、きっちり働きなよアホコマ!」

 

 天使に従う事で、俺は煩悩を全て、恐らく全てを打ち払えた。後ろ髪を思い切り引かれながらも……思春期的なアレなんか、俺は全く、知らんけど。

 

「はぁ、はぁ……召されるかと思ったわ」

「あ、あはは……」

「男女の機敏は、何時の時代も大変だな……?」

 

 大変どころやないんよ。今も追い掛けて高麗の誘惑に乗せられそうなんよ。写経みたいに、なんかこう、煩悩退散する何かを……とにかく今も身体中を駆け巡るそれを、誤魔化す何かを……!

 

「え、エルダエルダ!そのHG144分の1起動武士ゴンゲム35周年記念リミテッドクリアカラーバージョン、直したるわ!」

「ほ、本当か!?直せるのか!?」

「惨状が惨状やし可動式やから、元みたいに動かせる様な状態に出来るとは言われへんけど……持ち帰って今日中にでも直したる、ゴンゲム本編みたいに!」

「頼んだマサ!こうなった以上は、マサだけが頼りだ!」

「良かったねエルダ!よーっし、それじゃあ私は宿題に──」

「小糸は私と鑑賞会があるだろう?罰を受けるって言ったじゃないか」

「で、ですよねー」

 

 

 こうして煩悩の代わりにセロハンテープの塊を持ち帰り、おもちゃ屋でのノウハウを駆使して夜通し……日付が変わる頃まで、プラモの復旧作業にのみ没頭出来とったっぽい。修理し直したゴンゲムに、煩悩が感染ってへんとええけど……お祓いしといてな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、自身の欲望を燃料に、限定ゴンゲムの修理に勤しんだ。近所の中古品が並ぶおもちゃ屋に駆け込み、道具を借りて、ただひたすらに数時間も。気付けば夕日すら沈んでたけど、溢れそうやった煩悩が誤魔化せたから、とにかくよし!

 

 それにしても、股関節の可動域からへし折れてるとは思わへんかったで。セロハンテープはペタペタされて、糊っぽくてベトベトやったし、リムーバー使うのも気ぃ遣ったわ……塗装まで剥げたら悲しむもんなぁ。

 

「エルダ、起きてるか〜クリアゴンゲム直したけど確認してほし──」

 

 呼び鈴代わりに声を掛けようとして、障子の隙間から室内の様子が伺えた。そこに居ったのは、刑罰執行中のエルダと、哀れ下手人の小糸さん。見た感じ、贖罪は未だ続いてる……昔の作品って長いから、一気に見せるのは拷問に近いなぁ。しかも、小糸さんそういうの興味あらへんから──ある意味、ピッタリの刑罰。

 

「う〜ん34話良かったな!次の35話は劇場版だとかなりカットされてるからテレビシリーズじゃないと観れないシーンが沢山あるんだけどその中でも注目は──」

「──『クリアゴンゲム直しときました、右半身の可動域は暫く気を付けてください』っと。小糸さん、お勤めご苦労さん……」

 

 居た堪れない気持ちを胸に、鞄に仕舞ってたメモ帳を一枚千切り、そこに一言記して、ゴンゲムの隣に添えて立ち去った。ファーストシーズンは43話、その3分の4が終わったんや。頑張れ、小糸さん?

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から発信される──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。無賃労働に励んでる隣人の、応援にでも行ったるか……。




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