東京都中央区月島──江戸時代より400年以上の歴史を刻み、召喚されたエルフを祀る……『高耳神社』。
「なぁ小糸さん、来月の3日やんな?弓耳祭って」
「うん、後1週間!藤君は初めて観るんだっけ?」
「観たか観てないかで言えば観たかもしれへんけど、去年はあんまし余裕無かったからなぁ……露店の焼きそばの辛さに驚いた記憶しかないわ」
「ウチの境内もだけど、露店が月島中に出るからね〜……去年の弓耳祭は略式でね?お神輿で月島一周するだけで終わったから、印象薄い人も多いと思うなぁ」
個人的に、お祭りといえば道に沿うように並ぶ……屋台。花火とか、神輿よりもかき氷の方が好き。実行委員会の人達には悪いけど!
「神輿があったのも知らんかったわ、そういやシマデンの婆ちゃんが言ってたけど……巫女が居らんかったから規模小さかったらしいやん?」
「そうなの!でも今年は私が巫女になったから、盛大にやれるって氏子さん達も張り切ってて!」
「なるほどな、本物の弓耳祭が間近で見物出来る訳やね……ところで、略されない弓耳祭って何するん?」
「隅田川の船上でね?その年の漁の豊凶を……三回矢を射る事で占う御弓神事が目玉なんだよ!」
なんやっけ?頭に乗せた林檎を射抜くやつ……あれに近い何かを感じさせる祭りやな?
「矢を射るって事は的当て占いって感じやね!矢を射る人は誰がやるん?菊次郎さん?それともエルダ?」
「……わたしです」
うん?昔は陸上部って言ってなかったっけ、短距離の選手だったの!とか話してた様な……習い事みたいな感じで弓道でもやってたとか?
「え?小糸さんが……?陸上部やったと違うん?高校も帰宅部やのに、まさか外部で弓道習ってたとか──」
「習ってません。エルダは的を持つ役、じいちゃんは弓上手いけど……昨日負った全治3週間の怪我で無理、小柚子はもっと無理。消去法で、射人(いてびと)は、わたしです……」
「なんかもう──前途多難やな……」
その『高耳神社』の大神事でもある『弓耳祭』が、すぐそこまで──迫っとった。
「こういう時、高麗が居ったら名案出してくれそうやけど、今日は一緒やないん?」
「……コマちゃんは、文化祭も来月だから許可取りとかで缶詰めになる日も増えるって。ぶっちゃけ帰りてー!って嘆いてたよ」
「あっちはあれか──自業自得やな……」
色んな人に、色んな物が。すぐそこまで──迫っとった。
「……なんかこう、なんとかしてやりたいなぁ」
小糸さんが射人──林檎や扇子に矢を放つかの如き射手になるって聞いて、ただ現地の祭と屋台グルメを楽しむだけやった自分が……色々持て余してる様な気がしてきた。高麗の親友の、なし崩しとはいえ、立つ事になった晴れ舞台。弓に関しては未経験で、本人曰く自信も時間も無い……そんな神事。神社の人間と親しくたって、それはそれ。これはこれ……代わってやる事なんて当然出来へん、だからこそ、矢を番えた事も弓を携えた事もない──小糸さんがやるしかない訳で。
「俺なんて弓道はおろか、船すら漕がれへんしなぁ……」
小糸さんとの別々の学校からの帰り道、一朝一夕で出来るものじゃないよ〜……と嘆きながら、エルダに付き添われつつ射人としての練習を帰ってからもやるんだ。なんて言っとった、あの小糸さんならホンマにやってるのは間違いあらへん。顔に書いてあるよ?って表情を読み取った時によく使われるあの台詞。さっきの小糸さんにも、言いたかった。普段から良くしてくれる月島の人達を……ガッカリさせられない、全部外したくない、そんな顔をしとったから。そこで月島に下宿する一般人として、俺自身も良くしてくれている月島に……その持て余した何かで貢献したい。でも当日に『はい射人代わります』なんて事は無理やから、思い立ってすぐやれる事をしたくなった。なんで忘れてたのかも、失念したまま。
「手首捻ったらしい菊次郎さんのお見舞い、行くかなぁ」
祭まで時間は無いし、力を貸せる訳やないけど……傷を負った巫女の祖父の事を、労りに行こう。
そんなこんなで、やれる事は無かったけど時間だけは過ぎていって、弓耳祭の日がやってきた。
「──いやぁ、俺はな?やれる事あらへんからって、菊次郎さんのお見舞いにな?行ったのはええんやけどな?」
申す、申す、御弓を申す。氏子さんの、本日の射手人を送る声。
「そ、そう言うなマサ。これで私も、安心して着水できるぞ?」
申す、申す、御弓を申す。その声が道になって、巫女さんは弓と矢を携え、参道を進む。
「落ちるの前提に言うのは縁起悪いで……?そもそも落ちへんのがええんちゃうの……?」
申す、申す、御弓を申す。やがて祭の射場に辿り着き、小糸さんが舟に乗り、エルダの待つ隅田川の川中へ。
「し、正直私も菊次郎に聞かされた時は安心したんだぞ?マサが──いざという時の救助を務めてくれるとは」
申す!申す!御弓を申す!川岸からの声が最高潮に達した後、辺り一帯は水面の揺れる音だけが残った。
「お見舞いに行っただけやのに──念のため、ってエルダと小糸さんのライフセーバー頼まれるなんてなぁ、救助活動とかしたことないのに断られへんかったし。救命道具とか貸してもらったけどさぁ」
巫女の祖父の心配性なのか、お節介なのか。ただのお見舞いのつもりが、月島の運勢どころか、ある意味命を背負う一大事に巻き込まれてしまった。俺一般人やで?
「菊次郎はそういう所があるからな……さて、ボートが停まったということは、配置に着けたという事だな……私は船首に立たないといけないから、もう行くぞ?」
「了解。気ぃつけや?一応俺も準備しとくし風も波も穏やかやけど、柵とか低いからな。多少動いたら落ちてまうで?」
正直怖いけどな!なんて独り言を呟きながらも……『甲乙ドンマイ』と書かれた的を抱えて船首に立った。
遠くの川岸から、小さな船が陸地から離れたのが見えた。あれに、正装の小糸さんが乗っている。聞いた話だと、向こうにも配置があって、そこから船頭さんが漕いでこちらに来る。それまでどうするか……念のため、誰かが落水した時のシミュレーションでもと思っていたら。
「……電話?こんな時に?」
時刻は夜、満月が月島の空に浮かぶ頃。一応渡された救命道具一式を入れた鞄から、俺のスマホだとわかる着信音が聴こえてきた。相手は──
「──もしもし?」
「よっ、マサ!コマちゃんだぜ!そっちの準備は出来たか?」
電話の主は高麗やった、多分観衆の多い川沿いのどっかにおるんかな?そういや今日、裏方での打ち合わせに忙しくて声聴いてへんかったわ。
「よっ高麗、エルダも覚悟決めてたし……俺も溺れる覚悟は出来たで」
「へへっ何言ってんだ、かなづちでもねぇ癖に!」
「小糸さんは中学時代の脚の怪我、エルダはエルダ。どっちが落ちても、巻き添えで溺れる要素てんこ盛りや」
「縁起でもねぇ事言うなよ!そんな時の為にマサが助けてくれるんだろ?」
「いや助けるのは助けるけどな?一時的にも溺れるかもしれへんと思うとちょ〜っと憂鬱でなぁ、なんだかんだ水冷たかったし」
実際、川の水は冷たかった。時期的に真冬やないとはいえ、流水であることも加味したら、試しに手を漬けた隅田川の水は……泳ぎたいとは断言しにくい温度に思えて。
「まぁ確かに、こんな時期に泳ぎたい人間なんて物好きしかいねぇからなぁ。とにかく!エルダ様とあたしの相棒の命のセーフティだ。頼んだぜ?マサ!」
「ああ、まかしとき。高麗……せや、切る前に1個だけええかな?」
「ん?なんだよ改まって?」
本来、高麗と立っている筈やった、隅田川の遊歩道。屋台でラムネを飲んだり、焼きそばを食べたり。菊次郎さんが怪我してへんかったら、きっとそこには小糸さんもいて。高麗だけをそこに残して来てしまった。
「──その、約束してた露店巡り、一緒に歩けんくてごめんな?」
「良いってことよ!最初はつまんねーのって思ったけど、事情聞いたら寧ろ誇らしくなったしな!まっ、埋め合わせはしてくれよな?」
「ああ、必ず」
向かい側に、小糸さんを乗せた船が停まった。ということは、そろそろ御弓神事が始まるらしい。
「おっ、小糸の船が停まったな」
「せやな、そろそろ切るで。この瞬間は……俺達の会話はお邪魔やからな」
「だな!そうだ、あたしからも切る前に一言」
「ん?」
「……マサが冷えたら抱きしめて温め──」
「落ちるの前提にすんな!」
はい一言聴きました!通話終了!神事の前に邪念はいらーん!我ながら手早く、スマホを防水ポーチに仕舞う事で無理矢理通話を絶った。そんな雑念を他所に、巫女と神様が向き合っていた。救助活動するかもしれへんとはいえ、俺も観客……今は黙って見守るとしよう。
「準備はいいか、小糸?」
「なにー?きこえなーい!『俊敏な小糸』ー?」
「違う違うー!準備はいいかー、小糸ー!?」
「私は陸上やってたからねー、俊敏だよー?」
「ん、んも〜!何の話してるんだ〜小糸〜!」
「もっと大きな声出してよー!よく聴こえないってば〜!」
なんやねん、この神事と書いてコントと読めそうなこのやり取り……見てみぃ、川岸の観客が笑っとるがな……そんなんはええわ、問題は、お互いが乗ってる船の事や、俺とエルダが乗せて貰ってるんは、小型の所謂クルーザー。これが意外と恰幅のええ乗り心地もええ船で、そよ風ではビクともせぇへん。そんなんでもエルダはちょっとビクビクしてる。
一方、小糸さんが乗せられて来たんは、巌流島の決闘に赴いた、かの剣豪が使ってたみたいな木製の渡し船。あんな所から直立して矢を射るらしい。弓道なんて経験した事ないからわからへんけど、道場や地面に足をついて発射する……それやのに、足場は遠目に見ても不安定。凡そ矢を放つ場所として似つかわしくあらへんのは、弓道歴1週間の巫女の表情から見て取れた。
「こ、小糸!私はヘッドショットされても怒らないから!気楽に行こう!き、聴こえないかもしれないけど……」
「……うん!今度はちゃんと、聴こえたよ!」
エルフが何かを察して、巫女の背中を押した。俺が何か言ってやれるか悩んだけど杞憂やったな……これが、高耳神社の二人。ええなぁ、こういうの。
「いざ!射らん!!」
「いざ!射られん!!」
後から知ったけど、弓道には射法八節……構えから残心まで、決まった動作があるんだとか。足を逆ハの字に、肩幅より、少しだけ大きく、体の支えを地に立てて。顔をエルダの方に向けたまま、脚の力を緩める事無く、弓を構えて──多分、小糸さんの動きも、射法八節の一部。素人には上手く言葉に出来ないそれは……弓道の素人からしては十分、様になっていた。
「厄を祓う!!高耳の矢!!」
決め台詞の後に息を吐き、引き続けて静寂。力を限界まで込めて引いたのか、小糸さんの限界まで弓とその弦が別れた後、自然と矢が放たれた。第一射。エルダから見て右側、的には掠らず御祀神の髪を掠めて。矢はそのまま隅田川に、放物線を描いて落ちていった。
「っ……惜しい……!」
観客からも、的を外れて消えていった矢を惜しむ声が聴こえてきた。まだ、あと二回ある。まだあるで!
小糸さんが矢の行方を目で追い、残心。諦めとか悔しがる様子はなく、次を見据えているらしい。そこから再び矢を番え、射法に倣い……第二射。今度はエルダから見て、左側。的から大きく外れはしなかったものの、再度エルフの髪を撫でる形で矢は放たれた。
「な、なんで殺気だけは高めなんだー!良い機会だからって、本当にヘッドショット狙ってないよなー!?」
「わ、私だって何処に飛ぶかわからないんだよ〜!?」
そういやこの一週間、エルダの嘆きを聞かされたっけ。曰く、巫女の矢は曲がるだの、頭には正確に飛んでくるだの。小糸さんやから確信犯ではないんやろうけど、一見的の近くを矢が通っているから、判断に困ってしまう。
ラス1だぞ……頑張れ、小糸!
誰の言葉か、そもそも本当にそういう言葉やったんか。確認するより前に、最後の一射を構える小糸さんが目に入った。射手人でもないのに、川のせせらぎよりも大きな心臓の鼓動が月島に響く様な……そんな感覚に襲われて。
何かがおかしい。そう感づいた頃には、遅かった。
一人、さっきのエルダよりも聴こえない声量で。何かを呟いた小糸さんから放たれたのは、弓道の作法としては恐らく邪道な……山を描くような最後の一射。苦虫を噛みしめる小糸さんの顔が、酷く脳裏に焼き付いた。
「あかん!」
的じゃなくて月を射んとする軌道に、思わず叫んでしまったものの、吐いた台詞も放たれた矢も……戻す事は出来なくて。
「……全く、仕方ないな……」
何が、仕方無いんか。それを尋ねる前にはもう、エルフは船の柵……ハンドレールを踏み台にして、人とは思えない程に高く高く、跳び上がった。
「え……エルダ!?!?」
「「エルダ様ぁ!?」」
巫女も、観客も、きっと神事を見ていた人間が口を揃えて叫んどった。怠惰に生きて怠惰なまま愛される神様が跳んだとは思われへんかったから、やと思う。でも、叫ぶより前に、救助活動を前に。放たれた矢と、跳び上がる神様と、それらを照らす月明かりを間近で観て──。
「綺麗や……」
そう呟いた瞬間、隅田川に、神様が落ちた。いやいやいや何が綺麗や……やねん!はよ助けんと、でも無闇に飛び込んでもミイラ取りがミイラになるし……ええいままよ!でっかい水柱が上がったのはあの辺やったよな!?エルダの行動で呆気に取られた観衆が固唾を呑んで見守る中、救命浮輪を片手に川に飛び込み、水柱の上がった爆心地へと泳いでいった。
「エルダ!浮いてこい!エルダ!!」
豊漁を祈るのが大事なんもよう分かる、十数年ぶりの神事の結果が大切なんもよう分かる。でも月島で愛されとるエルダより、大切な訳あらへんやろ!
そんな事考えて泳いどったら、浮かんできた。矢の羽根が。先の二本じゃなくて──甲乙ドンマイ、そのド真ん中が射抜かれた的を掲げ……溺れるエルダが。
「「「ド真ん中〜!!!」」」
このエルフ、とんでもない事しやがった。小糸さんがあらぬ方向に放った矢を、テニスの選手がラケットを振り抜くみたいに……手に持った的で振り抜いて。形はどうあれ、的中させた!無理矢理感あるけど!
「ド真ん中〜!言うてる場合か──!エルダ、これに掴まれ!」
「ゴボボボボマ……マ、マサあばばばばば」
「大丈夫やから!もう安心やで!豊漁やで!な!?」
不老不死を自称してるけど、溺れるもんは溺れるんやな。てか重っ!着衣水泳とかした事あらへんかったけど、重っ!水吸ったらこんなに身体重くなるん!?あかん、俺も浮輪持たんと……救命胴衣着ててもこれかい!
俺より身長高い上に、幾重にも着ているであろう神御衣が水没したらどうなるか。浮輪を掴むまで瞳孔を開き、暴れるエルフを見れば一目瞭然やった。このままクルーザーまで泳いで引っ張る案もあったけど、浮輪を掴みながらも動揺するエルフを連れ泳ぐよりは……なんて作戦を練る所に。
「もー!エルダ!」
小糸さんの乗った船が、助けに来てくれた。
「あばばばこ、小糸……良かったぁ……!」
「なんで飛び込んだりしたの!?」
ホンッッッマにそう思うわ。めっっっちゃ知りたいわ。
「や、矢は真ん中だし私も落ちたし……こ、今年は……超──豊漁かも……な……?」
真ん中に当たった、いやエルダが当てたけどええんかな……エルダが落ちたら豊漁ってのも俺にはわからんし、やっぱり神道はアバウトやわ!なんにせよ──
「……っ!……うん!」
──巫女的には、エルダが助かった事も含めてオールオッケー。らしい。とにかく水を吸ったエルダを押し上げて、っと!そんじゃ俺もクルーザーに戻って……!
「マ、マサ!」
「藤君!あのね!?」
「でっ出来れば手短に……着衣水泳キツい……!」
「「お、おおきに!」」
正直限界やったから、拳を握り、親指を上に向けて返事したけど……神様と巫女が笑ってくれたし、まぁええか!
こうしてエルダと小糸さんのおかげで、弓耳祭は大成功に終わり。たいへんに盛り上がった氏子の人達から大量に屋台グルメを奉納されて、すっかり上機嫌になった御祭神と──すっかり来年も殺る気になった、いややる気になった巫女がいたらしい。来年も、落ちるのは止めてな?
「え〜っと、焼きそば、串焼き、アメリカンドッグ、たこ焼き、瓶ラムネ、ベビーカステラ……ダンボールで奉納されたのは凄かったけどやな……あの量はなんか在庫しょぶ──」
「そこまでだぜマサ?まっ良いじゃねぇか!マサにもこうやってお裾分けしてもらえた訳だしな!いただきまーす!」
祭の片付けの後、菊次郎さんからお礼として高耳神社に呼ばれて──奉納グルメが多すぎて食べ切れないから!って分けて貰えた。
けどそれでも多いわ!お裾分けにしては多いダンボール二箱分自宅に持って帰ってやね、いや飯の用意とか考えんでもええから助かるけど!流石に一人では腐らせるからって名目で、高麗を呼び付けへんとあかん量は……着衣水泳並にキツい気がした。これが後の祭りってヤツか、水より飯で溺れるわ!
「ん〜カドちゃんの新作らしい焼きそば、美味いじゃねぇか!サンキューマサ!」
「作った本人に言えばもっと喜ぶで〜」
「後で伝えるし細かい事は気にすんなって!マサが尽力したから、こうやってグルメにありつけるんだし?マサにお礼言うのは間違ってねぇだろ!」
「それはそれで嬉しいけど……まぁええか!」
いっぱい食べる高麗に、いっぱいの笑顔で、いっぱい感謝されて。奉納グルメが手に付かないレベルにはお腹いっぱいで。空腹なのに満腹な気持ちを誤魔化す様に、おやつの時間はお好み焼きかなぁ……なんて思ってたら。
「……なぁ、マサ?」
焼きそばをかき込む箸を止めてまで、高麗が話し掛けてきた。花より団子、いや花も団子も。そんな高麗が、片方を手放してまで……どないしたんかな?
「?あー焼きそばにラムネは微妙か?お茶淹れてくる──」
「いやいやちげーんだ!ほら、その……き、救助活動で隅田川に飛び込んだじゃねぇか」
「うん?まぁせやな、あの後速攻で帰って風呂入らんかったら、今日風邪引いてたかもな」
「てことは、その……ひ、冷えた訳じゃねぇか」
今みたいに、やけにしおらしくなる高麗に──見覚えがあった。
ワクドで初めて精霊を見掛けた時。初めてエルダに会った日の帰り道、諦観的な俺を慰めようとしてくれた時。エルダの精霊魔法の相談に乗ってくれた後、お礼を伝えた時。探偵風を吹かせ、大人に連れて行かれそうになった時。形は違うけど……決まって高麗は照れ隠し、してたっけなぁ。
「飛び込んで温まる川なんて聞いた事ないし、確かに冷えたかなぁ」
「だよな!そうだよな!」
だからこそ、そういう積み重ねがあったからこそ。そのしおらしさを乗り越えたフルスロットル高麗は、どんな試験の難問よりも強敵やった。
「……だから!今!あたしがここで!ハグしてやるよ!」
「ぶっ、な、何言うてんねん!!まさかあの電話の事覚えてて──」
「は、吐いた唾は呑み込めねぇから!寒いだろ!?風邪引きたくないだろ!だからそこを動くなよマサ!?」
ひ、引き際を設定してへんぞ今日の高麗!継承の儀の夜の時やって、眠気があったとはいえ……ひとつ屋根の下で寝るのを諦めて引き下がってくれたやん!胡座をかいてあれを寄せる……際どいポーズから目を逸らした時やって、ヘタれマサの一言で済ませてくれたやん!
「う、う、嬉しいけど!召される程嬉しいけど!逃げ場あらへんから!そこのグルメ全部やるから!落ち着け高麗!」
「な、あ、あたしは本気だからな!?これでも恥ずかし……」
「恥ずかしいなら尚更止めろ!!」
「だーっ埒が開かねぇ!大人しくハグさせてくれよマサ!!」
「今ので十分温まったから!なんなら顔真っ赤だから……寄るな、寄るな!止めっ……止めろぉ────!」
東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から発信される──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。
江戸っ子と浪速っ子、しいて言うなら第一部完です!アニメ版『江戸前エルフ』のロスを埋める為、なんとか突っ走る事に成功しました!半ば自己満足ですが!
執筆に疲れたり、他の趣味で手につかなくなるかも……なんて思っていましたが、私の住んでいる地域からは参加出来ない『江戸前エルフ』キャスト陣のトークショーやもんじゃストリートのスタンプラリーなど……タイトルの通り江戸でしかやっていないイベントが多すぎて!ハンカチを噛むつもりで書いていたので、色んな物が原動力だったりします。原作連載開始時から追いかけていた身としては、1つしかないゴールデンカエルパンツァーが当選したという公式のツイートを見た時はそれはもう、本籍が東京でない事を恨みました!
前話の後書きにも書きましたが……コマちゃんの出番の都合で泣く泣くカットした『江戸前エルフ』の二次創作としてのエピソードや、原作でコマちゃんが登場するそれはそれはお気に入りのエピソードなど。あまりにも原作が終わってほしくないレベルで面白い話があるので、アニメみたいに区切りを付けます。第二部みたいな形になりますが……本作品の更新はまだ続けます!原作も数話完結で読めるエピソードが多いので。
毎日の執筆と更新という長距離走で疲れたので、次回は何時になりますと断言は出来ませんが、もし『江戸前エルフ』という作品と、本作『江戸っ子と浪速っ子』を少しでも気に入って下さったのであれば……お待ちしていただけると幸いです。『江戸前エルフ』単行本8巻が来月の17日に発売されるので、そちらも購入して読んでください!