江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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エルフのなんでもない一日 ヨルデ編

 

「ふぅ……破魔矢作りって、結構大変なんだよね〜」

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』。今日はお参り下さる氏子の皆さんの為……破魔矢作りに勤しんでいます!

 こういう地道なお仕事の積み重ねで、参拝してくださる方々を笑顔にするの!そんな細々とした作業の途中、ポコペン!って軽快な音が私のスマホから鳴り出した。この音は、私に送られたメッセの合図!誰からだろうと思って画面を開くと、なんと大阪にある廣耳神社の、向日葵ちゃんから!

 

「エルダエルダ、ひまちゃんからメッセ来たよ!」

「え?」

 

 

『氏子さんが来てはるのにまたヨルデが脱走した❗❗❗❗❗❗』

『探してしばくわ❗❗⚡⚡⚡⚡⚡⚡⚡』

 

 

 あはは、凄くギラギラしたメッセだ……如何にも私は怒ってます!っていうのが伝わるよ。ひまちゃんって、対面して喋った時は凄くクールビューティーって感じなのに、メッセだとギャップが凄いんだよね!

 

「た、大変だなぁひまちゃん……」

「まったくヨルデは……相変わらず仕方のない奴だな!」

 

 ひまちゃんのメッセ、というより文章になった関西弁?大阪弁?って時々冗談かどうかわからなくなって……ちょっと戸惑うんだよね!

 藤君で関西弁に慣れたつもりではいたんだけど、感情がわからない分、返す内容にも力が入るの。ひまちゃんと藤君って性格全く違うのに、なんで文字だと印象がひっくり返るのかな?

 それが怖いからって訳じゃないんだけど、エルダの遊び相手をお願いする時は電話でお願いする事の方が多い。なんだかんだお喋りしてる時の藤君って、凄く朗らかだし!

 

「あっ、やられる!それは私のアイテム……!」

 

 それはさておき、さがしてしばくわ!という私にとっては予告お仕置きとも取れる文面に、どう返そうか迷ってたけど……破魔矢作りで忙しくしてるのに、この御祭神は……よし、こう送ろう。

 

「ふぅ……『いつか巫女同盟を組んで反旗を翻そうね』っと」

「えっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人で遊びに出掛けて、勝手に迷子になって。SOSを頼りにやっと見つけたと思ったら……涙を零しながら、イカ焼きを頬張っとるウチの御祀神。美味しさで泣いてるんか迷子で泣いたんか、わからへんくなってきた。

 

「梅田の地下街は一人で行ったらあかん言うたやろ?あそこほぼダンジョンやし……アンタ、方向オンチやねんから」

「だってイカ焼き食べたかってんもん!向日葵の分も買うてんで!」

「いらん……走りすぎてアクエリ飲みたい……」

「なんで!?めっちゃ美味しいのに……」

 

 あれだけ走り周った後に屋台グルメはしんどいに決まってるやろ、美味しいのはわかるけど、ほんまにもう、ウチがどんだけ汗をかいて梅田まで走ったと思ってんねん。

 

「それより氏子さん待ってはるで?はよ食べや」

「うん!」

 

 御祈祷の予約が入っとったから、イカ焼きの完食を急かして氏子さんの待つ拝殿へ。

 お祈りしてた時に見つけてしまったけど、ソースがヨルデの口元に付いたままやった。こんな神様からの御神託ですみません、ホンマに。

 

「今日もおおきになぁ、廣耳さん!」

「かよちゃん、また来てな!」

「お待たせして……すみませんでした!」

 

 そんな食い意地とちょっとした放浪癖のあるヨルデでも、なんでか知らんけど……氏子の皆さんには好かれてる。愛嬌があるんは間違いあらへんからかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷子探しで滞って、お待たせしてた氏子さんのお祓いを終わらせて、本殿を片付けてた最中。この後用事あらへんし、宿題でもやろうかなーと考えてた。

 ヨルデは勝手に一人で遊んでくれるから、その辺は肩の荷が軽い。小糸ちゃんの所のエルダ様とは大違いやで。

 

「お疲れさん、今日はもう何もないから遊びに行ってきてええで」

「っそうなん!?けど今日はもうお家にいよかな?」

 

 なんや珍し、何時もやったら近所どころか電車にまで乗ったりしてんのに。まあそのせいで、迷子探しする事になると難易度跳ね上がるんやけど。

 なんでか知らんけど、各地に点在してる氏子さん達から『廣耳様、ウチに来てるで!』とか、今日みたいに『今日は梅田におったで巫女さん!』って神社に電話が来たりするんよ。嬉しい様な恥ずかしい様な……。

 

「珍し〜エルダ様みたいやん」

「最近向日葵のこと構ってあげられへんかったしな!こうすれば巫女が構ってくれるかもしれへん、ってマサも言うてたし!今日はひまと遊んであげよと思て!」

 

 宿題したかってんけど、まあええか。てかマサさん何吹き込んでんねん、マサさん宛のメッセに知らん発信履歴ある思たら、勝手にヨルデが触ったんやね?寝惚けたとかやなくて良かったわ。

 

「そら嬉しいな」

「ほな何して遊んでほしい?」

「東京行った時の写真、今更やけどコンビニプリントしてきたで」

「ほんま!?みるみる!見して!」

 

 場所を景色の見える縁側に移して、プリントしてきた写真集を広げた。データ上やと実感湧かへんけど、こうして見ると思い出いっぱいあるんやね。

 

「はぁ東京楽しかったなぁ、また行きたいなぁ」

「せやな、けど今度はちゃんとアポ取らんと。いきなり行ってエルダ様も小糸ちゃんもびっくりしてたし──マサさん居らんかったら、あのまま迷子続行やったで?」

「いやアポなんていらんやろ!なんたって可愛いウチに会えるんやで!?月島にはマサも居るんやで?絶対頼れるやん!」

 

 可愛さを担保にしたらなんでもオッケー!じゃないんよ。そら小糸ちゃんとかエルダ様は、気ぃ遣ってくれるけどなぁ……。

 

「あかんて!ていうかマサさんに迷惑掛けるの前提になってるやん!しかもなんなんその自信……」

「いやだってウチやで!?ヨルデちゃんやで!?」

 

 ──ほんまにこのヨルデは……自己肯定感の高さ、あべのハルカスやな。

 

「あっこれ月島のもんじゃストリートやん、向日葵!ウチこの店の側でマサに拾われてご馳走になったんやで?」

「それは羨ましいなぁ〜、勝手に奢られて食べてたもんなぁ〜」

「ひまも迷子になったらええねん、そしたらマサがご馳走してくれるで!?」

 

 流石に今度東京行ったらウチが払うに決まってるやん!しかも迷子になんかならへんよ、アンタみたいな方向オンチやないねんから。

 

「どういう理屈やねん……都合良く見つけてはくれへんし、マサさんの財布事情考えたりぃや」

「マサなら平気やろ!そういえば、東京に住んだら毎日もんじゃ食べるんやろか?マサと小糸にその辺聞いてへんかったわ」

「そんなことないやろ、大阪人かて毎日たこ焼きは食べてる訳ちゃうしな」

 

 東京行ったら、夕飯にもんじゃ出てくるんかな?ウチもちょっと気になるわ……後でマサさんと小糸ちゃんに聞いたろ。

 

「あはは!毎日は食べへんよ〜」

「な、フーヒョーヒガイやわ」

「……なぁ向日葵、最後にたこ焼き食べたん、何時やったっけ?」

「昨日やね」

「たこ焼き機買うたの、何時やったっけ?」

「昨日、やね」

「もひとつ質問ええかな?……なんか、たこ焼き食べたなって来たなぁ?」

「質問になってるか怪しいけど……せやな、お夕飯たこ焼きにしよか」

「あかん、これ毎日食べてるわ!」

 

 小糸さんは純粋に月島産まれらしいけど、マサさんは毎日たこ焼き作ってるんやろか?それとも東京に呑まれてもんじゃ毎日作ってるんやろか?そうやとしたら、恐るべしソウルフード──マサさんは、もんじゃの波に呑まれた可能性大やな。

 

「しかし、東京旅行で一番びっくりしたんは、東京駅で食べたたぬきうどんやな」

「せやねん!揚げ玉乗ってたな!関西でたぬき言うたら油揚げやもんな!関東だと油揚げやのうて揚げ玉が、スタンダードやねん!」

「ほな関東で油揚げ乗ったらなにうどんなん?」

「きつねうどん!」

「狐が狸に化けてんねや、面白いな」

「けどなけどな!京都でたぬき注文したら餡掛けうどん出てくるねん!」

「なんでやねん」

 

 ウチはヨルデみたいに動き回らんし、こっちでもチェーン店やろうと飲食店とか入らへんけど、世の中のうどん事情は大変やなぁ。お出汁もやけに辛かったし、地域によって味覚も考えたらなあかんのはしんどいと思うわ……お店の人も。

 

「そういえば東京で大阪弁使てる人、マサ以外ほとんど居れへんかったなぁ」

「せやな。マサさんは東京でも大阪弁キープしてたけど、ウチらは標準語も覚えた方がええかもしれへん」

「っせや!今から標準語で喋ろうや!」

「ええよ〜じゃあヨルデからな、今日はええ天気やな。は標準語でなんて言う?」

 

 なんかこれ、クイズ大会みたいやな。第一回標準語ではなんだろな?選手権〜!はいヨルデ選手、手を挙げた!

 

「…………き、今日……はええ天気…………」

「ええ、はちゃうやろ」

 

 ヨルデもエルダ様も、感情が揺れると耳も揺れるんや。こういう所は可愛いよなぁ。迷子になってる時は微塵も可愛くないのに。

 

「え……い……いい天気……だぜ」

「だぜ?」

「なぁ向日葵」

「なんや?」

「マサがあっちで大阪弁貫いてるのって」

「今ので、わかったわ」

 

 マサさん、標準語に馴染まれへんかったんやね。それでも関西弁で頑張ってるんやね。

 ──大阪のお友達も居てるやろうけど、後で電話でもしてあげよっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶったまーんぶったまーんぶったまーん」

「なんでお腹すいてんねん、さっきイカ焼き食べたばかりやろ」

「イカ焼きと豚まんは別腹やんか!」

 

 別腹てそんなスイーツみたいに……この場合、どっちがヨルデ基準やとスイーツなんやろ?甘さで言えば豚まんの生地に軍配上がるけど、甘味の甘さではないし。

 

「さよか、氏子さんに頂いた豚まん1個だけやから、半分こな?それくれたんは3丁目の原西さん、わかるやろ?後でお礼言うときや」

「美千子(みちこ)のとこの孫娘やな!後で顔出してくるわ!」

 

 よう孫の代まで名前覚えてられるなぁ、何時もの事ながら感心するわ……レンジが鳴ったし、温め終わったみたいやね。

 

「やけどせんようにね」

「わかってるで!豚まんがあるときぃ〜あはははは!」

 

 いつもここから、何かあれば。いや何があろうと……この縁側がウチらの井戸端会議の会議室やねん。ここでヨルデとお喋りするんが、至福の一時やわ。

 

「あっついし、ウチが半分に割ったるわ!あちっあちちっ」

「気ぃつけや?」

 

 危なっかしいわぁなんて思うて見てたら、綺麗に豚まんが割れた。

 中の具材も見えて……なんやろ、ちぎられた豚まんを見る限り、比率的には2対8っぽい。

 

「ア"ア"ーッ!」

 

 両手で割かれた豚まんを、右見て左見て、もっかい右見て。学校前の横断歩道渡る小学生か!

 

「う……ウチのがお姉さんやからな!ひまに大きい方あげよな!」

「ぷっ、フフッ」

 

 そう言って大きく割かれた方を差し出すウチの御祭神。あんなあヨルデ?涎垂らして見栄張ったって説得力ないねんから……ほんまにもう!

 

「ウチ、今日は餡まんの気分やねん。ヨルデが大きい方食べて?」

「ハァァァァ……!そっか!ひまがそう言うんならしゃあないなぁ!」

「うん、ありがとうな」

「いっただきまーっす!あーむっ」

 

 正直不老不死とか、エルフがどうとか、その辺はややこしくてようわからへんけど……なんでもない一日が楽しいんは、ヨルデのお蔭やし。こうやって駄弁りながら、巫女やりながら、相手しながら──廣耳神社の巫女やれて、ホンマに良かった。

 

「ウチんとこのお姉ちゃんは、ほんまおもろいわ」

「んー?なんて?」

「なんも。温い内に食べ!」

「うんっ!豚まん美味しいなぁ!」

 

 

 大阪府のとある場所……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『廣耳神社』、祀られたるそのご神体は──異世界から召喚されて気分であちこち動き回る……エルフなんよ。




最低限書きたい話は書けたので不定期になると思いますが、これからもこんな感じのお話を更新して行けたらと思います!
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