江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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エルフのなんでもない一日 ハイラ編

 

 石川県金沢市。サドルに座り、向かい風を切るように、自転車を漕ぐ。その走り出した自転車は、すーっと……カワセミのように、道行く女学生達の横を通り過ぎた。

 

「ん?あっ、あれ!いすずちゃんじゃない!?」

「ホントだ!こないだ、テレビでてたよね!?」

「「いすずちゃ〜ん!!」」

 

 造作もないとばかりに振り向いて、口角を少しだけ綻ばせる。絵に描いた様な、絵に描けば金賞間違い無しの、そんな笑み。

 

「「キャー!めっちゃキラキラしてるー!!」」

「いすずちゃんって、麗耳神社の巫女さんなんだって!」

「そうなの!?麗耳様もめっちゃ綺麗だし……」

「「きっと二人でキラキラな生活してるんだろうな〜」」

 

 その女学生達曰く、めっちゃキラキラしており、日常生活を送るだけで、羨望の眼差しを向けられる程の……自転車を駆るカワセミの、いすずという名の女子高生の実態は──ある時は、一眼レフカメラを構え。

 

「こっち向いてハイラ!!」

 

 被写体と共に構図を探り。

 

「もうちょい下!」

 

 被写体へと的確な指示を送り。

 

「うんいいねいいね!!次はちょっと歩いてみて!!」

「可愛く撮って頂戴ね〜いすず!あっ馬券がっ」

「ハイッチーズ!!」

 

 同じ、ただ同じ被写体の撮影に明け暮れる、カメラ小僧の少女版とも呼べる、カメラ少女そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前は小伊万里いすず。石川県のインフルエンサーとして、充実した毎日を送っている!

 そんな私の今最大の関心事は、10歳から始めたハイラの手作り写真集が……次で200冊目を迎える事!

 

「んふふ〜!」

 

 地道に、ひたすらハイラがどうすれば綺麗に撮れるか考え続け。小道具から光源、構図まで練りに練った結果!私のカメラの腕前も上がってきたし、次の一冊は!現時点での集大成ともいえる写真集を作りたい!

 その表紙に相応しい、めっちゃキラキラなハイラを撮らなくちゃやね!!

 

「ただいまハイラ〜」

「あらいすずおかえりなさい!ってあらあら、また撮ってくれるの?それも良いけど……貴女の自転車、お借りして良いかしら?」

 

 帰宅の挨拶をして直ぐに本殿から現れたハイラの、出迎えてくれた貴重な瞬間を切り撮ろうとした。あーっ違うピースしなくていいのに!

 って自転車を撮影前に?……私の経験則やと、ハイラが自転車に乗ってまで通う場所なんて、ひとつしかない。

 

「駄目」

「うええーっ!な、なんでですの!?」

「自転車でどこ行くの?」

「え、えっと……それは……け、健康の、為におサイクリングに……」

 

 そんな訳ない。目的が、結果として健康に繋がるかもしれんのやけど、この御祭神が……健康を慮って自転車に乗るなんて、神社がひっくり返ってもあり得ないんよ?

 

「競艇場、行くんやよね?」

「ん"う"っ"」

 

 うん、わかってた。別に不老不死の癖に健康に気遣うとかよくわかんないし。体型とか気にしなくて良いのは羨ましい。ってそうじゃなくて!エルフ特有の、不老不死特有のそれが羨ましいとかじゃなくって!

 

「御祭神が20km先の競艇場に自転車漕いで行くんは、巫女的にNGやよ?こないだ立ち漕ぎで国道爆走して、噂になったばっかじゃん」

「お目当ての!レースに!遅れそうで必死だったんてすの!」

 

 大体そんな長距離走られたら、街用の自転車なんて壊れるんよ。もっとその、ロードバイクだっけ?ああいうのを自分で買って欲しい。当たったお金じゃなくてお賽銭でも良いから。

 

「大体、今月のお賽銭残ってないって言ってなかった?」

「ふふっ、それがね〜?」

 

 そう言うハイラが、勿体ぶって袖から何を取り出したかと思えば──石川県どころか、国によって形が変わるとしても、必ずと言っていい程手にした事のある、紙の方の通貨。

 

「昨日なけなしの200円でやったスクラッチくじで、お座り一発チョイ当たりしたんですの!!これをタネ銭に競艇場でドカン!ですわ!!」

 

 日本の通貨である千円札が二枚。ハイラってば、ギャンブルとあれば必ずと言っても良い程には手を伸ばすんよ。ふーんそうなんだ、この前素寒貧って言ってたのに、まーた賭けてたんや。そうだ良いこと考えた、借りたらちゃんと返すってのは、種族に関わらず常識やよね?

 

 

「そうだ。こないだ貸した2000円、まだ返してもらってないよね?」

「え……?そうだったかしら……?」

「確かトイチでいいから貸してください!って言ってたよね?」

「そっ!そうだった、かしら……?」

「チョイ当たり、したんでしょ?」

「アッアアアアッアッ」

 

 

「はい、確かに。利子は負けといたげる」

「競艇場行く前にすってんてんですわ……」

 

 

 回収完了。本当はまだ他にも返してもらえて無いのもあるけど、今日はこれくらいにしてあげる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すってんてんだし、お庭のお手入れでもしますわ!いすずもお手伝いしてくれる?」

「いいよ、ハイラの庭好きだし」

 

 ここは境内でハイラが整えた、ハイラの庭。この緑が豊かに彩られてるこの場所なら、ここならハイラのキラキラ写真撮れそうやし!最高の一枚、撮ってみせる!

 

「ハイラの庭、色んな種類の植物があるよね。これはなんて植物?」

「ヒメイズイですわ、若芽や地下茎に甘みがあって、天ぷらにすると美味なの」

 

 ふーん、ヒメイズイねぇ?可愛い葉っぱやけど、根っこを食べるんだ。まるで人参とかじゃがいもみたい。

 

「これは?」

「フキですわ、煮物佃煮……炒め物なんかに、すると美味なの」

 

 これがフキ。給食で昔見た事あるような、無いような?煮物や佃煮になるんなら、食べた事あるかも。

 

「……これは?」

「スベリヒユですわ!サラダもイケますが、胡麻とニンニクでナムルにするのが絶品なの」

 

 スベリヒユ。生でも調理しても良いなんて、野菜の中でもオールラウンダーって感じ。

 ちょっと待って?これだけ広い庭やのに、これだけ緑が生い茂ってるのに、植物の話を何処からどう聞いても!

 

 

「食える野草しかないんか!!!」

 

 

「何言ってるの、貴女も昨日美味しい美味しいって食べてたじゃない。ペンペン草の胡麻和え」

「まじで!?あれペンペン草だったの!?」

 

 もしかしてこれまでも野草が食卓に並んどったの!?これでもそれなりにキラキラした仕事してるつもりやのに!お洒落なサラダやと思ってたのに!

 

「別名ナズナ、七草のひとつですわね。七草はどれも強い植物だから……寒い冬でも何処でも手に入りやすいの!昔から大切な栄養源だったんですわね」

「七草って?セリ、とかスズシロ、とかやっけ?」

「ええ!せりなずな、ごぎょうはくべらほとけのざ、すずなすずしろ、これぞ七草……ね?和歌みたいにして覚えますのよ?」

 

 ハイラ曰く、『若草摘み』っていう風習があり……江戸の頃にも幕府の公式な行事として、七種粥を食べる儀式があったって。そうなんや、今でも決まった日に食べるあれに、そんな習慣があったなんて。

 

「へー、色々歴史のある野草なんやね。ペンペン草って言えば、私のイメージは──」

 

 それはもうひとつしかないんよ?月島で聞かされた、同じエルフの巫女でもある小糸ちゃんが教えてくれた、来客として失礼極まりない手土産の話。

 

「──何処かのエルフが、道端に生えてるのを高耳神社へお土産として持ってった、お金の要らない贈答用七草って事かな」

「み、道端ではありませんわ!あれは雅から教わった公園に生えてた由緒ある……!」

「ふーん……えっ、マサ?」

 

 何が由緒あるのか分かんないけど今ハイラ、マサって言った?教わったってもしかして、偶然月島で出会った、藤岡雅さん?たったひとりの路上ライブを開いてて、消したアカウントの在り処も、ちょっとした雑談も交わした、あの雅さん!?

 

「ハイラ、今なんて?」

「公園に生えてた由緒ある七草の!」

「あーっ違う!マサから教わった、って言ったよね!?」

「ええそうですわよ?月島で迷った所を道案内してくれた殿方ですの!いすずは知らなくても、無理はありませんわね」

「……もしかして、ハイラの言うその殿方って、こんな人やなかった?」

 

 手早くインスタを開きフォロー欄をタップして、写真と共にハイラの鼻先に示してみせた。ウチ程の更新頻度はなく、現状は再投稿がメインみたいやけど。

 

「月島、観光案内、関西弁……?はよく分かりませんが、マサはこのお方で間違いありませんの!この大きな黒いリュックもちょんまげみたいで!確かフルネームは藤岡雅、と仰っていましたわ」

「嘘みたいな話、あるんやね……」

 

 違う時間、でも同じ土地。

 まさかとは思ったけど、同じ人に同じ場所で世話になってたなんて。すれ違いにしても凄い偶然やけどね!それは一旦、置いといて……!

 

「まさかその雅さんの土地勘を、お土産用の野草採取に使ってたなんて言わないよね……?」

「お、お茶でもいれましょうか!ほーら摘みたてミントでリラックスですわ!」

 

 

 問い詰めたい事はあるし写真も撮りたいけど……まぁ、貰うね。ミントティー、ちょっと楽しみやし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ!マサもその、いすずみたいな仕事をしていましたのね!」

「私みたいに、そこまではやってないみたいやけどね?それでも振る舞いとか、参考にしたい所はあるんよ?」

「この大きなリュックは、ギター?が入ってましたのね。鼻歌も演奏も軽快でお上手ですわ!今はこんな大きな三味線が出回っていますのね!」

「ハイラ、三味線は知ってるんだ」

「それはそれは……江戸の頃、お琴と並んで人気を博した習い事のひとつでしたもの。お琴は貴族の嗜みという事で庶民には広まりませんでしたが、女児から大人まで。良縁にも恵まれるとして、魅力は尽きなかったですわよ?当時はあちこちで三線の音が響く時もありました」

「つまり三味線の先生とか、いっぱいいたって事やよね」

 

 知ってか知らずか、多くの人の目に留まる事になってる雅さん。案外その、月島ではそういう人気もあるんかな?女子に限らず、観光客から声を掛けられてそうで……老若男女引っ張りだこな!

 ってそうじゃなくて、キラキラなハイラどころか一枚も撮れてない!当初の目的が迷子なんよ!お庭の手伝いでアイデア浮かぶと思ったのに……何か無いかなぁ?

 

「いすず、何見てますの?」

「んえっ?ああほらこれ、リポーターで行った農家さんで採れたおばけ大根」

「まあ!競輪選手の太ももみたい!」

「そういうのいちいち挟むの止めて」

 

 全くもう、すぐそういう事言うんやから。いちいちお金に結びつきそうな話を引っ掛けるの止めてよ!

 

「ふふっ」

「……なに?」

「いすず、いんふるえんさー?ってお仕事始めてからとっても楽しそうだなって。私はこの金沢の御祭神でもあるから……色んな世界を、小鳥みたいに飛び回る貴女が少し、羨ましいですわ」

「べ、別に御祭神だってずっと金沢にいなくちゃ駄目じゃないし……雅さんみたいに大阪から東京に来て住んでたり、小糸ちゃんの話やと、大阪のヨルデ様はあちこち旅行してるって言ってたし……」

 

 そんな事、関係ない。幾ら他所の神様が歩き回ってたって、フットワークの軽い大阪人が居たって、ハイラが金沢で祀られた御祭神だとしても。知らない場所から召喚された、人間とはかけ離れたエルフだからとしても!

 

 

「っていうか私が、どこにだって連れてったげるし」

「いすず………」

 

 

 ちょっと照れくさい事、言っちゃった。でもこれも私の本心だから!

 

「じゃあ私ラスベガスに行きた──」

「ぜっったいヤダ」

「あらそうなの?楽しそうなのに」

「っていうか新幹線代使い込んだ挙げ句、夜行バスで東京行くガッツあるでしょ」

「まぁ、そうですわね。弾丸ツアーバッチコイですわ」

 

 さっきの私の本心返してよ、もう!なんですぐ冷や水差す様な事言うの!?決め台詞みたいな事言っちゃったと思ったら、こうやって台無しにさせられるのも……半ばお約束。

 

 

「だけど別に、どこに行けなくたって構わないの」

「なんで?」

「いすずと一緒なら──どこに行かなくても楽しいもの」

 

 

 ──8歳で巫女になってから、辛い事の方が正直多かった。どうやったって、先に私達巫女の方が、空の上に行く事も自覚した日は泣き疲れたし。

 それでもハイラっていう存在が、御祭神が私だけじゃなくて氏子さんにも愛されてるのは、多分。

 

「えいっ♡」

 

 パシャリ。ハイラの台詞が、脳内で噛み砕けなくてボーっとしてたら、何時の間にかスマホを取られてたみたい。ちょっとハイラ!撮るのはウチの仕事やのに!

 

「ちょっ、人のスマホで勝手に!」

「ふふっ、可愛く撮れたかしら〜?いつかラスベガスに連れてってね、いすず!」

「あ〜あ、レイアウト滅茶苦茶でピントもズレてるし。ってかラスベガスは絶対ヤダってば!」

 

 でも、このピンボケした写真は。ウチがどうしても撮りたかったキラキラなハイラの、200冊目にピッタリな、特別にキラキラしたハイラの──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段は高麗か宅配の人が鳴らす、一回だけ精霊ちゃんが鳴らした事のあるインターホンを、今日は宅配の人が押してきた。渡された荷物の差出人は、まさかの麗耳神社。

 

「小伊万里?麗耳神社?なんやろ、えらいうっすい封筒やな」

 

 そんな神社の巫女さんから、以前月島で案内をしてくれたお礼と称して、是非贈りたい代物があるんよ!てな訳で下宿先の住所を伝えた。

 石川県で聞いた事あるんは、ノドグロとか柿の葉寿司とか?ハイラの野草がどうこう言うてたけど、流石に贈り物にはせぇへんやろ。まぁ開けてみよか、いすずさんやったらきっちりしてそうやし!

 

「何が出るかな〜っと。これは……いすずさんとハイラが、表紙に?」

 

 なんか200冊記念の写真集!って書いてある。出てきた雑誌を捲ってみたけど、ハイラハイラハイラ、どのページに飛んでもハイラが載ってるわ。巻頭どころか、全ページフルカラーの豪華仕様。趣味でなんか刷ってるとは聞いたけど、写真集と来た……予想の斜め上から来たな。

 なんにせよ高耳神社といい、廣耳神社といい、麗耳神社といい、どのコンビも仲のええのはええ事やな!この表紙からも伝わってくるわ!ただひとつだけ、貰った上でひとつだけ、無礼を承知でいすずさんに言わせて貰うなら。

 

「装丁も凝ってるし、純粋な好意なんやろうけど──微妙にいらんかなぁ」

 

 

 石川県金沢市……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『麗耳神社』、祀られたるそのご神体として──異世界から召喚され、ギャンブルにハマりすぎて家庭菜園に勤しむエルフがいたんよ。




正直な話……本作の執筆作業ですが、壁打ち感が強くなってきてどうしたものかと思っています。今もよく折れずに書いてるといいますかなんといいますか一人で書いてる感じが強くて、ちょっと待てよ!ん?あれ?これ読んでくれていても面白いのか?って感情に……なので感想に評価、頂けましたら励みになります。
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