江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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神の道連れ、食べなされ

 

 放課後、月島にあるファストフードのチェーン店、ワクドナルド。その店内にて……俺はポテトを摘みながら雑談に興じとった。独りじゃなくて、噂大好きなうるさい奴と、そいつの昔からの幼馴染に混じって。

 

「へーっ!小柚子のヤツ、高耳様とお喋りしたのか。いいなー喜んでたろ」

「うん!楽しかったって。佃煮の事話しただけだけどね……私を腹話術みたいにして」

 

 高麗と同じワンピース型の制服を身に纏う、黒髪ショートヘアの女子の名前は、小金井小糸さん。

 月島に建てられた『高耳神社』の後取りとして、巫女として、俺達と同じく高校生活を送りながらも責務を全うするその姿勢から、俺はさんを付けて呼ばせてもらってる。

 

「小柚子ちゃんって、小糸さんみたいに巫女さんやってるん?ていうかさぁ、俺が女子会に混ざって良かったんか?」

 

 小糸さんには妹さんが居って、まだランドセルを背負う年齢ながら、魚の目利きを会得しとったり。神社の料理番として、その腕前を披露してるんやとか。

 小糸さんのお弁当も、確かおじいちゃんの菊次郎さんのご飯まで、小柚子ちゃんの担当らしい。年齢の割に負担デカいな?

 

「ううん巫女は私だけだよ、小柚子は料理番だもん。それにこういうのは一蓮托生だし、コマちゃんも良いって言うんだから、気にしない気にしない!」

「そうだぜマサ!旅は道連れ世は情け、袖振り合うも多生の縁!飯を食うのに男が混ざるとかどうとか、みみっちい言葉言うなよ!」

「いや混ざるっていうか混ぜられたんやけどな、俺」

 

 そもそもここに居る理由は、小腹が空いたという単純な物やった。

 軽食でも買おうとワクドナルドに立ち寄った所、月島で暮らす様になってからは、見慣れた仲良し幼馴染コンビに遭遇。『丁度良いな、ちょっと付き合えよ!』と高麗に襟を掴まれて相席する事になってしまった。月島にやってきた頃から大抵一緒に居るけど、あんたら仲ええなホンマに!

 

「まっそう言うなマサ、女子高は女子高で息が詰まるんだからよ!……しっかし、高耳様が巫女以外にお目通りしないっていうのは、昔からのしきたりとかじゃなかったんだな」

「それはそうやな、その神様がどんな性格かはよう分からへんけど、小柚子ちゃんに、おじいさんの菊次郎さん。家族なら会えるって事なんやろ」

「ううん、しきたりでも家族だからって訳でもないの。エルダが他の人に会いたく無かったから、そう言ってただけみたい」

「そうだったのか〜」

 

 まあ有難みって言うんかな?実際に見せてしまったら、台無しになったりする、なんて理由が無きにしもあらず。そんな所かな?ていうかエルダって?いきなりカタカナの固有名詞出されても困るんやけど!

 

「エルダ?……もしかして、その神様の名前なん?」

「そうだよ!フルネームは長くて噛みそうになるんだけどね!」

「日本の神様やのに、まんま西洋的なお名前やね」

「あっ、一応高耳昆売命(たかみみひめのみこと)って神名があるんだよ?」

「仰々しいというか、日本風に迎合出来る辺り、そのエルダってのも柔軟やねぇ」

 

 難体、いや軟体?そのエルダとかいう生き物は、どうやら日本文化に馴染めるエルフらしい。見方を変えたら、日本がエルフに馴染んだともとれるけど。

 

「他人と会いたくないってだけやのに、難儀な風習になってたんやな。まぁでも?どうやって噂が広まるかを表す、ええ材料になってるっていうか」

「あはは……返す言葉もないかも」

 

 神様ってのは気分で天気を操って、お供物を気分で指定して、風習で人間を振り回す、どんな伝記を漁っても似たような語りが入ってる辺り──なんていうか、気分屋やね。

 付き合わされる人間からしたら、たまったもんやないやろなぁ。神のお告げ、ってか宣告?それが昨日と言ってた事が違う!ってのも日常茶飯事やったりして。

 

「つーか小糸、ほんとよく食うよな」

「確かにそうやな……バーガー3つ、ポテト2つ、ナゲット10ピースにコーラ。運動部の男子が食う量やでそれ」

「違くて!エルダがラッキーセットのおまけ、集めてるんだよ!」

「ラッキーセット?」

「おまけを、集めてる?」

 

 巫女ってのは神様からの神託で、食玩集めの為に胃袋に入らない量のファストフードを食べて太らないといけない。そんな責務まで背負わされるんか?場合によっちゃ激務やでそれ?

 小糸さんが食べ進めていたジャンクフードを持ち上げると、下敷きにされていたおもちゃのチラシが目に入った。そのおもちゃの名は、カエルせんしゃ。

 見た目のチャーミングさとは裏腹に、ハードな世界観がギャップとして映えていて、子供から大人まで中々の人気を誇っているシリーズ。俺も殺風景な下宿先を賑やかす為、玄関に置いてた気がするなぁ。

 

「なんかエルダが最近好きな食玩のやつ、ワクドとコラボしてるんだって」

「割と俗っぽい趣味してるんやな。ってか小糸さん、なんか蛍みたいなの飛んでるで……ん?こんな場所に、蛍?」

「あれ?エルダの精霊魔法だ」

「はぁ?せいれいまほう?」

 

 なんて神様の趣味趣向の話に舵を取ろうとしていた、その時やった。小糸さんの周りを漂う、蛍の様な物体を視認してしまった。河原に住まうであろうその生き物は、まるで小糸さんに懐くかの如く周囲を漂ってる。蛍光灯の明かりとも違う、日光の明るさとも違うそれは──神職のしの字も関係のない俺ですら、ハッキリと見えとった。

 

「──なぁ高麗高麗、俺、幻覚見てへんよな?なんか蛍みたいな物体がふよふよしとるの、嘘やないよな?」

「嘘じゃねぇぜマサ、あたしにもハッキリ見えてるぜ。ああやって、高耳様と離れた場所でも意思疎通してるんだ。まぁこれが初めてじゃねぇから、特に驚かないんだけどな」

「ホンマかそれ……いや目の前に現れた以上、声を大にして否定出来へんけどさ」

 

 見た目は蛍、その実態は伝書鳩。カエルせんしゃよりファンタジーな世界やなぁ。生きてる内に超常現象の一端に触れてしまえるなんて、ちょっと感激やわ!鳩よりも先に発光体が飛び交う世界が、すぐそこにあったなんてなぁ?

 そうこう喋っている内に、小糸さんはその精霊魔法さんと以心伝心……会話を交わしたらしく、お互いの苦労を労っとった。どうやら100回は魔法を通して聞いた話らしい。耳にタコでも出来てそうやね?

 

「お疲れ様〜」

 

 鈴の音を鳴らしたかと思えば、要件は済んだとばかりに店内から飛び去って行くのを、高麗と小糸さんと3人で見送った。光が残像になってて夜中に観てみたいわおい……!

 

「はっ、初めて遭遇したからつい見とれてた……写真撮ったら良かったわ!」

「あはは、写るのかな精霊魔法って」

「んなもん撮った所で合成だ~、って言われるのがオチだぜ」

「せやけど高麗、あんなまん丸とした精霊なんてゲームとか映画でしか見た事あらへんねんから!そもそも精霊なんて存在そのものが──」

「あーはいはいすごいすごい」

 

 旅は道連れ世は情け、とかなんとか言われて付き添ったワクドにて。まさか本物の魔法を目撃する事になろうとは、同席させてくれた女子達に感謝せんと……おおきに高麗、小糸さん!一人で遭遇してたら、ちょっとビビる所やったわ!

 

「っとここに来た目的忘れとったわ、ポテトは温かい内に、ジュースは冷たい内に頂かへんとな……小糸さんは食べ切れるん?その量を」

「なんとかなるよ、まあエルダのおごりだし、これも仕事の内だし!あむっ」

 

 何処に収まるんや、とツッコミたくなる量のハンバーガーに齧り付く小糸さん。そこにデリカシーの欠片も容赦も無いツッコミが、既にセットメニューを完食した高麗から飛んでいった。

 

「言い訳しても太るもんは太るぞ〜」

 

 情け容赦のない、無情な一閃。世が世なら最強を名乗れるやつ!

 小糸さんにとって、女子にとって、鋭い矢印が突き刺さったらしい。ピクルスよりも苦い、何かを噛んだ様な表情をしながら、小糸さんは邪念を手で振り払っていた。

 

 

「ま、小糸はちょっと太ったくらいが可愛いけどな」

 

 

 思った事を言葉にしてしまう性分は、持ち上げる方向にも上手く作用するらしい──高麗は決め顔でそう言った。普段から思った事を口にしてしまう分、今の台詞も、紛れもなく本心で。

 ホンマにすぐそういう事言う……男でも巫女でも見境なく。俺が口に出すと、その、口説いてるみたいになるから言われへんけど、小糸さんは可愛いと思う。背伸びして買ったであろう高そうな鞄に、海外のセレブが着てそうなブランド物を着たりしてるらしいけど、そんな事せんでもええ位には可愛い。太った方がええかどうかってのは個人の感想やし、なんとも言われへん。

 そんな口説きが決定打となったのか、小糸さんは黙って残りのハンバーガーを貪るモンスターと化してしまった。神様が神様なら、巫女も俗世に染まるらしい。

 

「もう!コマちゃんは……もー!!」

「な、なんだよー!」

「大変やねぇ2人とも」

 

 

 これは東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町に住む──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで済んだら平和やったけど。気の済まへん約一名が、焦り混じりに待ったを掛けた。あんまり喋っても、小糸さんが食いきれへんでー?

 

「な、なんだかわかんねぇけどやられたらやり返さねぇと……閃いた!なぁマサ!」

 

 制服が汚れるのを気にも留めず、セットを食べ終えたトレーに手と肘をつく様に身を乗り出して俺に話しかけてきた。そこさっきまでポテト置いてたけどええの?塩とか油とかベトベトやで?

 

「ん?どないしたん?」

「今の小糸と太った小糸、どっちが可愛いと思う?」

 

 唐突な二択の提示に思わずむせた──小糸さんが。いやいや男にそれ言わせたら『実は貴女の事が!』って遠回しに言ってまうのと変わらんって!その辺わかってんのか高麗!?告白ってのは、遠回りしても辿り着くもんやで!?

 

「うえっゲホッゲホッ、な、なんでそこで藤君に振るの!?」

「ほんまやで!脅かすな!」

「へっへーん、やり返せないと面白くないしな!んで、どうよ?」

「どうって言うてもなぁ……うーん」

「て、適度な感じでよろしく」

 

 さっきも思ったけど、小糸さんは可愛い方だと思う。外見もセルフかどうかは知らんけど、切りそろえたショートヘアー、内面は格式高い巫女という、重そうな肩書きを引き継ぐ責任感。神社の跡取りであるのも頷ける。

 そう思うたら太いかどうかって、関係あらへんのと違うかな?まぁでも、高麗の台詞に乗っかるとすれば。

 

「確かに、ちょっと太った方が小糸さんは可愛いかもしれへんなぁ」

「き、恐縮です……」

「だろ?いやーマサは見る目が──」

「ただ、強いて言うならやねぇ」

「強いて言うなら……なんだよ?」

 

 魔が差して、巫女の相棒を懲らしめたくなった。親友からの照れ隠しに戸惑ったからって、他人を出汁に面白い事しようとした罰やで高麗!違う意味で恥をしるんやな!

 

 

「普段から周りを明るくしてくれる……そんな高麗の方が、俺は可愛いと思うで」

 

 

「んなっ、ななな、何言ってんだい!」

「そうだよ!コマちゃんの方が可愛いんですー!」

「小糸まで!おいマサ、あたしは小糸をどう思うか聞いてたんだぞ!」

「知らんがなそんなん、俺は『高麗は可愛い』っていう第三の選択肢を出したまでです〜」

 

 いやー恥ずかしいって次元やないわこれ、女子に男子から可愛い発言するんがここまで胸の鼓動が早まるとは……これを高麗は普段からやってるんか?凄いな高麗、いつかあやかってみたいもんやわ。

 

「『コマちゃんはかわいい』……藤君はわかってるね!いよっ、褒め上手!」

「高麗!お前が世界で一番かわ──」

「だーっ!なんでもいいから小糸もマサも早く食いやがれってんだ!!!」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町に住む──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。




原作だとコマちゃんはそこまで登場頻度が高くないので、続けるとしてもどう話を展開させるか迷うんですよね。
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