本来コマちゃんの出番が無い回ですが、前回で出演させる為の描写をしたのでこれから出番を増やせる……はず!今回はアニメ7話の内容ですが、カットされた描写から入るので、アニメから入ってくれた人は少し違和感があるかも?
10/19追記:原作最新話を受けて、小柚子ちゃんの台詞を訂正しました。当時は勝手に想像していたのですが、コマちゃんと小柚子ちゃんの絡みが初めて原作で描かれて……これは修正せねば!となったので……。
東京都中央区月島──江戸時代より400年以上の歴史を刻む、『高耳神社』。今その神社では、御祭神の意向とは思われへん様な……インストラクターが招かれとった。
「へへへ……やっと手に入れたぞ……遊びながら身体を鍛えられるなんて、まさに私向きのゲームっ……だよな!」
「不老不死でも鍛えたりせなあかんのかなー?」
「エルダ様ポニーテール似合ってるぜ!小糸の芋ジャージは全然似合ってねぇけど!」
まずは肩慣らし。床が崩れる!急いで走り抜けよう!
笑顔でそう告げるお兄さんの台詞と動きは、指導にしては激しくて、やりごたえはあるように見える。通称スパルタ指導。
「お手軽に……全身ハア……運動……ハアハア」
「初めて見たんやけどその輪っか凄いな、全然折れへんやん」
「エルダ様が貧弱なだけじゃね?」
足を上げる時はお腹に力を入れよう!
そう言って運動の手本を見せてくれてるけど、あまりにも早い段階から、エルダが悲鳴を上げ始めた。
「60種類のハアハアハアハア……フ……フィットハアハア……ネス……」
「エルダ〜もうすぐゴールやで〜」
「頑張れ!エルダ様!」
1セット目が終盤へと差し掛かった頃。
腰を下げて〜上げて〜?と体操と呼ぶべきそれを締めるポーズは、お兄さんは晴れやかやねんけど、顧客の息は絶え絶え。勝鬨を上げるより前に、敗者の様相を成していた。
「ヴィクトリー!!!!!…………ヒィーヒィー」
「おめでとうエルダ、外出への新たな一歩を踏み出したで〜」
「瞬発力はすげーのにさ、始めたばかりでヘロヘロだと外出は怪しいぜ?マサ」
「ハアハアハアハアハアハアハアハア」
「幾らなんでも息上がりすぎやん……どうやった?初プレイの感想は」
「ま、マサ……もしくはコマちゃんでもハアハア……いいから……」
「なんや?」
「なんだよ?」
「今から負荷最大でやってみる気はないか……?」
「「全力で遠慮します」」
祀られたるそのご神体は……異世界から召喚され、買ったばかりのゲームを封印した……エルフでしたとさ。
「あれだけ運動が嫌いそうなエルダが、ゲームなら手を出そうとは思えたなんてな〜。あんな輪っかの何処に惹きつける力があるんだか」
「マサ、あの輪っかを舐めちゃいけねぇぜ?巫女のお下がりのジャージを着てまでやりたい、それくらいスゲーんだから」
「凄いっちゃ凄いんやけど、それを買うお賽銭でジャージも新調すべきやったと思うんよ。小糸さんのお下がりやから七分丈になってたしな?」
小糸さんが町内会で手伝いがあるから、とエルダの遊び相手をせがまれて。マサの居る所楽しい理論を掲げた高麗に声を掛けた所、二つ返事で着いてきてくれた。今日やった事は片隅でエクササイズ観賞、ただそれだけやったけど。
俺もその手伝い引き受けようか悩んだけど、神社が絡む以上は、菊次郎さんか小糸さん、どちらかでないといけないらしくて諦めた。適材適所ってやつなんかな?
「しっかし思った以上にやる事早く終わってしもうたな、どないする?」
「うーん……まだ早いけどさ、ちょっと遠出しないかマサ?行ってみたい所があんだよな」
「行きたい所?まあええけど、当てはあるん?」
「こないだ見たんだけどよー、神保町はカレーが有名みたいでさ、月島からもそこまで遠くないし。その、デート気分でどうよ!?」
普段から時々二人でふらつくから大して意識せぇへんけど、カレーねぇ?未だに抵抗あるんよな。
大阪だと牛やったのがこっちやと豚が普通な所とか。チェーン店ですら豚やったから、学校帰りに味わったカルチャーショックがなぁ。美味しいんやけど固定観念が拭われへん、って感じで。
「カレー……まぁええかな、それなら早速……なぁ高麗、あそこにおるのって」
「小柚子だな、何突っ立ってるんだ?おーい小柚子!」
「えっ?あっ、コマちゃんにマサさん!こんにちは!」
奇襲、というかボーっとしてたんかな。敷石の擦れる音にすら気付かない辺り、なんか考え事してたんやろか?しっかり者の小柚子ちゃんが、無心で棒立ちなんてなぁ。
「こんちは小柚子ちゃん」
「よっ小柚子!もう学校終わったのか?」
「うんっ!お二人はエルダ様の遊び相手、なの?」
「遊び相手っていうか」
「筋トレの為のインストラクター、やろか」
「えっと……凄いね!エルダ様が運動始めるなんて!」
「志半ばで終わったけどな〜」
俺達は忘れへん。神社のロゴマークの御札を息も絶え絶えの顔で、あのゲームに貼り付けたエルダの顔を。そして、二度と招かれる事のあらへん、インストラクターの笑顔を。
「ところで小柚子ちゃん?さっきからそこでボーっとしとったけど、何かあったんか?」
「まさか!不貞な輩が参拝に来やがったとか!?」
「ちっ違うの!お姉ちゃんがその、えっと……」
「小糸が?」
「小糸さんなら、そろそろ手伝いしてる頃合いかなぁ」
「あっコマちゃんにマサさん!良かったらマフィン焼こうと思ってたんですけど、この後どうかな?」
マフィン。そんなお洒落なお菓子まで焼けるんか……どんな料理教室通ってたんか知らんけど、プロやな──マフィンって!いやマフィンって!小学生の思いつく料理やないやん!
「なぁ高麗、カレーもええけどマフィンはどうやろ?小柚子ちゃんの手料理やって!」
「へへっ、小柚子からのお誘いを無下にすんのはちげーよな!」
「これからご飯なら大丈夫だよ、エルダ様にもお供えするつもりだから!」
「あーちょっと暇してたしカレー屋空いてへん気がするなー、なんなら甘いもん食べたいし小柚子ちゃんの料理手伝ってあげたいなー!」
「だな!小糸の奴は料理実習ですら下手くそだったし、小柚子一人で何時も頑張らせるのは忍びねぇからな!」
「マサさんコマちゃん……ありがとう!」
かまへんかまへん!普段の話を聞く限り、高耳神社の食事情は御供物以外は、まだランドセルを背負う……小柚子ちゃん。確かに腕前は凄いものの、まだまだ遊びたい盛りの女の子やろうしな。そんな女の子の背負う負担、軽くしてあげたいやん?
「健気な小柚子ちゃんに台所事情全部任せとるこの神社、だいぶあかんのと違う?」
「小糸が米の洗い方わかんねーレベルだしなぁ、料理実習の時にハンドソープ使おうとしてて流石に止めたし」
「お姉ちゃん……」
「天然記念物やな、それは」
手を洗える=米も洗える、みたいな理論になってへんそれ?神事とかはこなせてるのが不思議やわほんま。いつかその責任感が、変な方向に向かわへんとええけど……。
「台所に着きました!早速なんですけど、コマちゃんは冷蔵庫から卵とバター、それから牛乳があるから……パック毎持ってきて貰ってもいい?」
「おう!」
「マサさんには生地を混ぜてもらいたいんだけど……お願いしてもいい?」
「任しとき!」
手を洗ってから小金井家の台所にお邪魔して、早速役割分担。割り振りすらこなれてるのは大したもんやねぇ。指示すら的確って、貫禄だけでも経験だけでも出来るもんやないで?
「にしてもあれだよなー、こんな時に町内会の手伝いだなんて小糸の奴も可哀想に。はい卵とバターと牛乳!」
「まあ小糸さんが引き受けたんならしゃーないやろ」
「そうだよ!しょうがないので気にしてないし、お姉ちゃんの分も作るから!」
「気丈って言葉が似合うなぁ。姉妹愛やな」
卵、バター、ホットケーキミックス、それに牛乳と砂糖。3人でそれをボウルに入れて、俺が混ぜる。
何人分かわからんけど、混ざり合う前の生地って、結構重いなぁ。こんなんを小柚子ちゃん一人で作ろうとしてたんか?ちょっと小糸さん!?エルダ!?それから菊次郎さん!?何この娘だけに飯の用意やらせてんねん!
「あっはっは!頑張れマサ〜」
「マサさん頑張って!」
「休みたい、って言える空気やないなこれは……!」
卵を溶いて、バターを潰して、あまり力任せにやっても飛び散るから手加減。パティシエの凄さと小柚子ちゃんの恐ろしさを痛感した。最近の小学生は恐ろしいな!
「あっ丁度いい感じ!マサさんストップ!」
「っ……ふぅ、さっきの輪っか握るよりヘラの方がよっぽどええ運動に……なりそうやな……!」
「ありがとうマサさん!後は形に流し込んでオーブンで焼くだけだから、二人ともお疲れ様でした!」
「お疲れマサ、焼けるのが楽しみだな!」
「あぁ、せやな……小柚子ちゃん、温めよろしく!」
嬉しそうに首肯した小柚子ちゃんの顔は、見掛けた時よりもずっと、嬉しそうにしとった。だからこそ、さっきの待ちぼうけ状態の背中が、頭から離れなくて。
「……なぁ小柚子ちゃん?生地焼ける間に聞いてもええかな?」
「うんっ!どうしたの?」
「答えにくいならええけど……さっき境内で立ち尽くしとった時、やっぱりなんかあったんと違う?」
「それは……」
「お姉ちゃんが、って言ってたし。小糸と喧嘩でもしたか?」
「そんな!お姉ちゃんとそんなのした事なくって!でも……」
「「でも?」」
使い切りそうな歯磨き粉を絞るように、小柚子ちゃんが呟いた言葉は、俺にとっては切なくて。ご両親のいなくなったらしい、姉妹愛の成せる思いや──そんな気がして。眉を下げて困惑しとった高麗も多分、同じ気持ちだと思ってる。
「姉妹揃って、器用か不器用かわからへんな」
「どっちも悪くねぇから余計になー」
「ごめんなさいっ!私が上手く言い出せないのが悪いの!マサさんもコマちゃんも悪くなんて──」
「小柚子ちゃん、誰も責めてなんてないで。俺等も子供やけどさ、そういう気持ちを、お姉ちゃんに面と向かって言い出されへんなら、子供らしい……いや、小学生らしいアプローチ仕掛けてみようや!例えば──」
「ははっ、それ面白そうじゃねぇか!それならエルダ様も巻き込めそうな感じのさ──」
「あっあの!」
おっと危ない、これはあくまでも『小金井家』の話や、部外者で盛り上がるのは、ちょっとやり過ぎたな!あくまでも、相談者は小柚子ちゃんなんやから!
「あぁごめんな小柚子ちゃん、二人で勝手に進めてたわ」
「ううん、平気だよ。私が話した事だから……それに、これなら、これなら……」
「これなら?」
「──お姉ちゃんと、また遊べる、よね?」
小糸さんやって巫女として、高校生として、やらなきゃいけない事がある。優しい性格で責任感が強いからこそ、姉の邪魔になってしまうと、後ろめたく思う小柚子ちゃんの思いも伝わってきとる。そんな姉妹の架け橋になれるかどうかは。
「ああ、勿論や!」
「駄目なら駄目で無理矢理引き摺ってやるって!任せとけ、小柚子!」
「っ……うん!」
俺と高麗の知恵と──その橋を渡る、多忙な巫女さんの、妹さん次第。
「よし!善は急げで色々用意するとして、その前に〜?」
「マフィン、上手に焼けたね!」
「ん〜良い匂いがするぜ!」
「マフィンと紅茶、ご馳走するね!」
「エルダも呼んでくるか、せめて境内の中だけでも運動させなあかんやろうし!」
優雅な午後の昼下がり。俺と高麗の手腕に、小金井家の今後が懸かっていた。
あれやこれやと手を尽くした次の日。即日実行に移すと小柚子ちゃんが言っていたので、どうなったかを確かめたくて。空一面の夕焼けが月島を染めそうな頃に、俺と高麗は高耳神社へと足を運んだ。
「はてさて、小糸さんは乗っかってくるかどうか……」
「おいおいマサ、あの小柚子からのお願いだぜ?月島どころか豊洲市場でも値切りしてもらえる。そんな小柚子からの上目遣い、小糸が断らない訳ねーよ!そ・れ・に!何気にマサもナイスアイデアだったしな?」
「それはどうも。菊次郎さんに断って、社務所のパソコン借りた甲斐があったわ」
後は野となれ山となれ、小柚子ちゃんの会話術次第やな。そんな思考が浮かんでくるみたいに、空に浮かんでいる物があった。
「高麗、あれって……」
「シャボン玉、じゃねぇかな?」
「出所的に高耳神社やな、どれどれ?」
ギリギリ境内の見える角から、初めてエルダに会った時みたいに顔を覗かせてみた。そこには──。
「……おいマサ、もう私達の出る幕は無さそうだぜ」
「せやな。まさしく『ド真ん中』って風景やわ」
巫女が妹の肩を抱き寄せて、妹が頭を巫女の肩に乗せて寄り添う。ひよこみたいにくっついた二人の絆を、象徴するかの如く神様が吹いて浮かべる、割れずに何処までも飛ぶシャボン玉。姉妹の『高耳神社』の架け橋は、もう架かっていたらしい。
「なぁ高麗、今日はまだ時間あるか?」
「ああ、あるぜ。なんなら作るっての」
「神保町行かへん?カレー食べに行こか」
「昨日行きそびれたしな。晩飯代わりに行くか、マサ!で、デートだぜ、何時もの遊びとは訳が違うからな!」
「はいはいデートデート、そりゃ嬉しいなぁ」
フワフワと浮かぶシャボン玉に背を向けて。高麗と二人で食べたカレーは……豚肉なのにどこか懐かしい様な、そんなカレーを、食べていた気がした。
こんな裏話だと良いな、って気持ちで書きました!誘うのは原作通り小柚子ちゃんにやらせたかったので二人は裏方に周ってます!
小柚子ちゃんは料理教室に通ってたらしいですが、あの年齢で通えるものなんでしょうか?ランドセル背負ってる歳なのにレパートリーが豊富すぎて凄い…!
それと初めての誤字報告ありがとうございました!一応投稿前に誤字脱字は気を配っているつもりでしたが、見つかると嬉しいやら恥ずかしいやら……!