今回はアニメ範囲外の話なのですが、エルダが如何に月島の人々から信じられているのかよくわかるエピソードとして気にいってます!
東京都中央区……江戸時代より400年以上の歴史を刻み、隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられ──繁栄してきた下町、それが月島。
定例会とまでは言わなくても、男1女2……という比率にもすっかり慣れてワクドで間食を摂っていた、そんなある日。
「今日はなんか二人共、神妙な顔してるけどなんなん?学校で事件でもあったんか?」
「マサ、これは事件なんてもんじゃねぇぜ」
「そうだよ藤君。これは高耳神社を、月島を揺るがす大問題なの」
「じ、事件?大問題??」
帰宅時に出会ってから、ずーっとシリアスな空気が払えない、そんな二人からの事件です発言。声色があまりにも真剣すぎて俺は驚いた──フリをしてみた。真正面から向き合うと疲れそうな予感がしたから。
およそ一年弱、この二人と知り合ってからの経験則でわかる。女子特有の性質なんか知らんけど、とりあえず小さな話題でも大袈裟に囃し立てる。化粧で見違える女性みたいに、なんでも脚色してくる事が多かった。大阪人も割と大袈裟に話さなくはないけど……アンタら脚本家に向いてるで?って思うレベルで。今日の議題もそれやろなぁー。
「な、なんの事件なんや!?帰路で合流してからずっとシリアスな空気やん!」
「見せてやるよ、マサ。これが20年前の新聞だ」
「これは……えらい色褪せた新聞やね?しかも写ってるのは、エルダやな」
「私からも見せるね、これだよ藤君!昨日の写真なんだ!」
「これもエルダやな。これらがどないしたんよ?」
「あの噂は本当だったんだね……」
「ああ、私も未だに信じられねーよ……」
「話が見えへんな、まさか不老不死がどうこうを二人も疑ってたとか?」
今のところ、俺には同じ被写体が写ってる。程度にしか伝わらへん、俺みたいに寿命の話を疑ってる。とは巫女と幼馴染からは感じへんから、何を以って事件扱いしてんのかさっぱり。あーポテト美味ぇ。
「でも揃った証拠を見る限り、やっぱりエルダ様は……」
「待ってコマちゃん!やっぱり私はエルダから直接聞くまでは信じられない!」
「ごめん二人共、その噂とか証拠とかさ、そろそろどういった話してるか教えてくれへん?」
そう言った俺の台詞を飲み込み、顔を合わせて向き合い、頷く。そして小糸さんから放たれた、衝撃の噂とは──!
「エルダの耳が1年で1センチ長くなるらしいの!」
「……甘味欲しいし、ストロベリーサンデー頼んでくるわー」
うん、やっぱりあほくさい話やったわ!というかそんな話で盛り上がれる女子凄いな!男子でも下らない話で盛り上がるけど、なんか方向性違うわな!ゴシップか冗談か、的な。自分で言っといてなんやけど、ゴシップってなんやろなぁ?
「あっ待てよマサ!本題をまだ伝えられてねぇんだ!」
「本題ぃ〜?なんやねん?」
「サンデー、買ったらあたしにも分けてくれよ?」
「自分で買え!!!」
月島の『高耳神社』に祀られたるそのご神体として──異世界から召喚され、すっかりひきこもったエルフが……女子高生の、与太話の発端になっとった。
「はぁ〜女子って噂話好きやな、はしたないとか言われへんか?」
「いやーつい、小糸と盛り上がってさー!長生きしてたら語り継がれる噂のひとつやふたつ、あるよなって流れで盛り上がっちまって!」
「そんで真相を確かめるべく、情報を集めてた……と」
出所の分からない与太話を聞かされた次の日。あの話には続きがある!とばかりに、俺の家に高麗が余談と称して続きを語る為、上がり込んで来た。
長く語り継がれる噂話。詰まる所は伝奇物って言うんやろか?あちこち出掛けるヨルデちゃん、それから巫女の自転車を借りて走り屋になってる(らしい)ハイラ。その二人と違って引き籠もりがちなエルダ。憶測だけで語られるには十分な素材やと思う。むかーしむかしある所に、って語りから始まる話が何処かの蔵書にあったりしてな?
「間近で見てる二人が妄想した噂話、他にもあったりするんか?」
「あるぜ!例えば……」
「例えば?」
「エルダ様なんて本当はいない説」
神事で声だけは聴いた人間もおるんやからそれは──いや実物見た事無かったら、まぁうん。俺も見るまで信用してなかったからな。
「引き籠もりすぎて氏子さんに存在疑われとるやん」
「それだけじゃねぇぜ?エルダ様の耳は付け耳説とか、エルダ様は2km先の小銭の音が聴こえる説、とか」
「耳以外の噂とかないんか?」
完全に身体的特徴をわかった上で、っていう話ばっかりやん!もうちょっと、神様的な話をやな……。
「まっ、わかりやすいのはその辺だなー。マサならどんな話語りたい?」
「いやどんな話って言われてもなー、語りたい訳でもあらへんし。せやなぁ」
エルダらしくエルフらしい、そんな噂話ねぇ?俺がでっち上げるんやったら……。
「異世界から召喚されすぎて、エルダの地元からエルフ居なくなった説。とか?」
「あっははは何だよそれ!そんな世界各地にエルダ様みたいな存在、いる訳ねーじゃん!」
「やんなーご当地エルフなんて有り得へんよなーわはは!」
ごめん高麗。俺は少なくとも2例知っとるんよ、地元にも金沢にも居るんよ。日本どころか、海外進出してても驚かへんくなってきてるんよ。
「もし本当なら全国のエルフに会いに行ってみてぇな、マサ!」
「せ、せやな。居るならな」
「伝承通り本当に森に住んでたりも……ん?家からメッセだ。何々……?」
向日葵さんもいすずさんも連絡先知っとるし、今からご対面!も出来る。200冊目らしいハイラの写真集も一応、しまってる。ホンマに興味あるんなら見せてもええか、小糸さんの幼馴染って言えば許可貰えるやろか?
「わりぃマサ、今日はもう帰る!来週家族でキャンプなんだけど……今から買い出し行かなきゃならなくなっちまった!」
「あーなんか言うてたな近々遠出するって、行ってきぃや。そういうのって、準備が一番楽しかったりするやん」
「まぁな、明日背負うリュックに詰める時とかワクワクするし!マサも行こうぜ、何時か雅君も誘って行こうって家族で言ってたんだぜ!」
「それは嬉しいけど……」
俺は桜庭家の子供でもないし親戚でもない、ただ近所に越して来ただけの、所詮は他人。親子水入らずの休日にお邪魔する勇気は──未だ持ち合わせてなかった。
「また今度な?気持ちだけ、気持ちだけは受け取らせて貰うわ」
「えー!マサと一緒ならぜってぇ楽しいのによ!」
「今でも十分楽しいねんからこれ以上は贅沢や。食卓囲ませて貰えたり、こうやって喋れるだけでも幸せやねんから。休日まで茶々入れられへんって」
「でもよぉ……」
「ほらほら買い出し行かなあかんねやろ?早う行っといで」
「わーったよ、その気になったら言ってくれよ?あたし達は大歓迎だからな!またな!」
片手を上げて、買い出しに向かう高麗の背中を見送った。桜庭家に受けいれられてるのは嬉しいんやけど。うん、自分でも言葉にしづらい何かが邪魔してるわ。
さてと、遊び相手が居なくなったし、時間あるけど何して過ごそうかな?宿題は終わらせた、飯はシチューを作り置き。ゲームかアコギか、何か一人で遊べる事でも探そか!
オンラインかオフラインか……なんて悩んどったら、さっきの高麗みたいに俺にも着信が。メッセやなくて電話、なんやろ……相手は小糸さん。何時も通りエルダの相手かな、丁度ええわ暇してたし!
「もしもし小糸さん?」
「あっ藤君!ちょっと緊急の要件で来て欲しいの!」
「緊急?エルダの相手を早くしてほしいとか?」
「それもあるけど……違くて!今すぐ教えて欲しい事があってね!口頭よりその場で!」
普段やったらゲームのコントローラーを鞄に入れて、いざ高耳神社へ!てな感じやけど。ちょっと様子が違うっぽい。取り敢えず家の鍵をポケットに入れて、と。
「教えて欲しい?何を?」
「えっとね、ムーンウォーク!何度かインスタでやってたよね!」
「……ムーンウォーク??」
藤岡音楽教室ならぬ、藤岡ダンス教室、開講!らしい。いやその、ムーンウォーク以外は……やり方知らんねんけどな?
「っていう事情で、さっきまで小糸さんとな?何も聞かずに教えて!ってせがまれて……あっそれ隠し通路やないか?」
「おっ本当だ、目敏いなマサ!そうか、そこまで侵食していたか……」
カチカチ、ピコピコ。小糸さんにムーンウォークの手解きをした後。エルダと移植された、古いゲームの攻略に勤しんでいた。俺もエルダも攻略サイトは見ないタイプやから、手探りでやるプレイスタイルが当たり前になっている。
「マサになら、言ってもいいか……小糸がムーンウォークに拘っているのには、色々あってさ」
「侵食するレベルで?グレすぎて巫女でも辞めてダンサーになりたくなった、とか?」
「何それ怖い……小糸が身長にコンプレックスを持っているのは、知ってるか?」
「トレンチコートも大きめのサイズ買うてたし、大人に憧れ持っとるのは伝わるで」
「その憧れに付け込んで、ある嘘を吹き込んだんだ──背筋を伸ばして垂直に立ったまま、ムーンウォークで3分間動き回る……これを朝昼晩やってきたから、私は背が高い!とな?」
小糸さんはそんなアホな話を信じる様な……人やわ!どちらかと言えば純粋無垢やし!自分達で作った噂話で盛り上がり、検証して、級友と話の華を咲かせられる。昨日もそれで盛り上がってたもんな!
「そんな飛ばし記事、ゴシップを信じて今に至るってのか?」
「ああ、耳に関するゴシップばかり聞かされた仕返しと思ってさ……それで小糸は朝から境内を拙いムーンウォークでな?バカバカしいだろ?」
「そういう事やったんか、純粋やなぁ」
目には目を、歯には歯を、ゴシップにはゴシップを。なんというか高耳神社は──平和やった。神社が平和やと、月島も平和になるんかなぁ?
「聞かされた噂話は否定したん?」
「あ、当たり前だろ!もし本当なら今頃私の耳は6メートルにはなってるぞ!」
「なら大丈夫やろ、それなら幾ら小糸さんでも嘘ってわかるって!」
「だと良いんだが、なぁ?小糸はこういう甘言に対する努力は惜しまないから……あっエンカした」
「ポーション無いし逃げよ!まぁその件は閉口しとくで、ゴシップとか趣味やないし。実害無さそうやし好きにさしとき?」
「あ、ああ。今更嘘だって言い出しづらいから、な……待てよこのエンカは……いや、なんだっていい!レベルアップのチャンスだ!」
人の口に戸は立てられぬ、ってことわざがある。一旦否定した嘘でも広まってしまう事を指すらしい。そして、レトロゲームに打ち込む俺とエルダは、この時思いもしなかった。そんなことわざがどうして広まったのかを。小糸さんの行動力を……エルダという存在の、月島での影響力の凄さを。
ある時は。
「なぁ高麗?なんで俺の家でムーンウォークなんかしてるん?」
「ああこれ?小糸の奴が学校でやってたんだけどさ!エルダ様直伝のストレッチらしくて、身長が伸びるらしいぜ!」
「へ、へぇ〜」
またある時は。
「カ、カドちゃん?なんで配膳をムーンウォークなんかでしてるん?やりにくいやろ?」
「これかい?高耳様直伝のストレッチらしくてね!身長が伸びてお金持ちになるんだってさ!」
「そ、そうなんやね……」
またまたある時は。
「シマデンの婆ちゃん?ダンス講習のDVDなんてなんで観てるん?」
「ああこれかい?コイちゃん曰く、エルダ直伝のストレッチらしいんだよ。初耳だったけど身長が伸びてお金持ちになれて健康になれると来た。この歳になったら健康は大事にしたいのさ。実際にはやれないけど、気分だけでもね」
「そ、そうやな。気分だけでも健康にな……」
徐々に、徐々に。エルダが小糸さんへの反撃として放った大人な嘘は……親友のみならず顔見知りにも、伝染りつつあった。これがパンデミックの仕組みかぁ。
「てな感じで、知り合いでもムーンウォークの嵐が……いやあかんてこれ!エルダ発祥ってなった途端にみんな信じすぎやろ!?月島人の倫理観どないなっとんねん!?」
「わ、私もこっそり参拝者を見ていたが、ムーンウォークで参道を歩いてる参拝者がいてな?もうここまで来たら白状したいんだが──」
高麗を噂話好きの女子やと評した事はあったけど──ここに来て、月島の人達特有のそれやと思わされる事になろうとは。今まさに氏子さんに感染ってる流行は、噂話にしては大袈裟すぎると言うかなんていうか。
「参道を!?それって参拝の作法的にどうなん──」
「エルダエルダー!」
月島の惨状を語ってる最中、例の噂話の感染源が本殿へと歩調を速めてやってきた。擬音を当て嵌めるなら、ドタドタドタドタ、って程の速さ。
「丁度ええやん、これは白状せんと悪化すんで?月島の外に伝染るで?」
「ああそうだな……あ、あのさ小糸……この前の秘伝のストレッチなんだが……」
「ごめんエルダ!それと藤君!」
「「え?」」
「せっかくエルダが私の為に教えてくれた秘伝のストレッチ……私、コマちゃんに話しちゃったの!藤君も黙っててごめん!ダンスがしたかったんじゃなくてストレッチだったの!」
「うんまぁ知ってた。いや俺はええんやけど、なんで口外したん?」
「学校でムーンウォークしてたらね、コマちゃんに聞かれてつい……あ、あとムーンウォークで下校してたらシマデンの婆ちゃんにも何それって聞かれてつい……」
そら学校でもやってたら誰でも気になるやろ!てかムーンウォークで下校!?馬鹿かお前、馬っ鹿じゃねえのか、 またはアホか!?なんでそこまで思い切りがええんや!?さん付けしてちょっと尊敬してた今までの俺を返せ!!
「気が付いたら……街中の人がストレッチの事知ってて……」
「ちっ違うんだ小糸!実はあれは秘伝のストレッチなんかじゃなくて……!ちょっと面白いかなって思って言っちゃったんだ!!」
ここに来てネタバラシ。アホ巫女とアホエルフの応酬は、お互いが罪悪感の重さに耐えきれなくて幕引きとなりましたとさ。なんで俺まで疲れてるんや?ドッキリ番組やと大長編レベルやでこれ。
「なーんだ!すっかり騙されちゃったよ!」
「なーんだ!やあるかい、お前なぁ」
「ご、ごめんな小糸……」
「ううん、私がエルダの秘密を喋っちゃったのは本当だしお互い様だよ」
「その割には俺にはムーンウォークだけ教えて?って言うてたけどな。エルダの秘密を、だまーってな」
「そ、それについては申し訳なく……」
この巫女さん、俺には無茶振りしてもええとか思ってんなぁ?いやまぁこれまでも、女子らしいお願いみたいなもんはあったけどさ。
「じゃあ身長は伸びないんだね」
「う、うん……嘘です……」
「お金持ちになるってのも嘘かぁ!」
「う、うん……嘘です……?」
「健康に繋がるってのも嘘なんだね!」
「う、うん……嘘です……ってなにそれ!?」
人間の記憶ってのは曖昧らしく、耳や目で覚えた物は割といい加減なまま定着する、って学んだ事がある。伝言ゲームで最後まで正しく伝わった事例もないらしい。
そういえば、俺が噂を調査した段階でも微妙に尾ひれが付いてた様な──アカン、顔見知りの盲信度合い的に、嫌な予感が……その予感が正しかったら、今頃月島中が!
「私そんな事言ってないけど!?」
「あれ……?」
「おいアホ巫女!行くで!」
「アホ巫女!?てか行くって何処へ!?」
「商店街やろ!この月島の事や、嫌な予感がする……!」
それから俺とアホ巫女は、万が一にも信じたくない噂話の実情を調べる為、何時もの商店街へと赴いた。そこには。
「あれは……サラリーマンだね」
「出勤やろか、後ろ向いて前に進んでるけど、転びそうやな……」
「あっちは魚屋の……」
「発砲スチロール抱えとるし配達かな、前見て渡せや……」
「み、見て、藤君。親子が手を繋いで歩いてるよ!ほ、微笑ましいね……」
「あ、あぁ微笑ましいやん。あれならムーンウォークしてても転ばへん……いや道連れで転びそうやな」
月という単語が含まれとるからか、エルダという存在の成せる技なのか。月島一帯の重力が、普段の6分の1にまで落ちとった気がした。うわー浮いてる、普通に歩く俺達の方が!地面からも雰囲気からも!
「どうしようエルダ!!氏子の皆さんめっっちゃムーンウォークしてるよ!!」
「ゴシップ怖すぎやん、ていうか月島の人等ちょっとアホやろ……ごめん言い過ぎた」
「こ、こうなったら……数百年振りにあれをするしか!」
「こうなったら?」
「数百年振り?なんやそれ?」
エルダが数百年振りと称するあれとは、人にとっては当たり前というべきか。罪悪感がある事をやらかした時にいの一番にやる、あれやった。
「でさー毎回使ってたテントのポールが錆びついてて!買い出しのついでに新しいテントをな?えーっとモンゴルの、なんだっけ?」
「ゲル、やないか?」
「そうそうゲル!あれを小さくした感じのテントが売ってたからさぁ!……ん?おいマサ、回覧板のあれ、高耳神社のマークじゃね?」
「あれは……あぁ、あの時の」
「どれどれ?『嘘ついてごめんなさい 高耳昆売命より 秘伝のストレッチは嘘でした 心よりお詫び申し上げます』……えっあれ嘘だったのかよ!!」
「信じるなよあんなアホ巫女を!」
それから暫く、エルダは遊び相手の俺どころか、アホ巫女からも見えない形で姿を晦ました……らしい。後日、その巫女が見たエルダは、耳ではなく鼻が伸びていたとかなんとか。
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体として──異世界から召喚されすっかりひきこもったエルフが……本当に引きこもっていた。
アニメの範囲内は割と書いてきたので範囲外のエピソードを書いていますが、楽しんで頂けていますでしょうか?アニメ化されたエピソードも初めの頃から独自の視点で書いているので、面白いと思ってもらえるかどうか……!