私が無理矢理出番を作っていない、原作でもコマちゃんメインの回です。小説を書きたくなった原因なレベルで好き。
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、そんな神社の本殿で。
「もー!!コマちゃんはデリカシー無さすぎるよ!!」
「なっなんだよ!!ホントの事言って何が悪いんだ!!」
「ほらそういうとこ!!そういうとこだよ!!」
「はあ!?ぜんっぜんわかんねーし!!」
その神社に仕える巫女と、巫女の幼馴染が、関西弁の仲裁にも耳を貸さず。
「な、なぁお二人さん?そろそろご機嫌斜めなのを真っ直ぐにしてもろてやねぇ」
「「マサ(藤君)は黙ってて!!」」
「なんでや!ジャッジお願いって言うたんは二人やろ!」
(な……なんで私の部屋に来てみんながケンカしてるんだ……他所でやってほしい……)
祀られたるそのご神体として──異世界から召喚されすっかりひきこもったエルフが……何故か、その喧嘩に巻き込まれていた。
「はぁ……どないしたらええんや……」
月島にやってきてから初めて見たと思う。仲良しコンビの、一世一代の大喧嘩。合流場所で待っとったら、最初からこんな調子で言い争いが。『コマちゃんが悪い!』『あたしは悪くねぇ!』ってな感じで主張が平行線のまま、普段のノリで高耳神社へと辿り着いてしまった。
流石に異質な空気を漂わせてて、小さな頃からの仲のええ二人が絶縁するのなんて見たくなかったから、仲裁しようと割り込んで──道中でどうにか審判を頼まれた所までは、良かったんやけどねぇ?事情を聞いては停戦を提案しても『黙ってて!』って言い返されて、取り付く島もあらへんかった。
「ま、マサ……み、見た感じ、マサは巻き込まれた側で、良いんだよな?な?」
流石にエルダは客観的に見てくれたらしく、俺が置かれた立場を見抜いてきた。そうなんよ、実質巻き込まれたようなもんなんよ。ミイラ取りがミイラになったんよ。
「ああ、俺の知らん所で喧嘩が始まっとってさ。帰り道でもずっとこんなんで居心地悪すぎるから、仲裁しようとはしてたんやけど」
「取り付く島もない、って訳だな……い、一体何があったんだ?」
「俺が聞いた限りやと──」
二人の喧嘩に至った経緯を、俺の聞かされた情報を頼りに言葉にしてみた。そこから、解決の糸口が見つかるって信じて。
朝の登校時間、学校の下駄箱前にて。意外にも、登校する時は一緒やないみたいでさ、大抵校舎で挨拶するんやって。毎日一緒に帰ってるからホンマに意外で……それは後でええか。
「おっはよーコマちゃん!」
「オッス小糸!」
「おはよーコイコマ」
それはさておき。小糸さん曰く、普段の日常が始まってたらしいんよ。あくまでも普通のな?
「1限目なんだっけ?」
「確か数A──あっ、数Aダヨー」
(うわ、靴下に穴開いてるの履いて来ちゃった!!だ、誰にも気付かれてないよね!?)
上履きに履き替えようとした小糸さんは、靴下の異変に気付いたみたいでさ?恥ずかしいからって、バレへん様に履き替えようとしてたらしいんやけど。
「あひゃひゃ!靴下にでっけぇ穴あいてんじゃん小糸!!」
そんな面白いネタを黙ってる筈のない高麗がな?こう、周りにでっかい声で喋ってさ?まぁバレるわな、級友達に。そんなこんなで、穴開き靴下を履いた女ってレッテルを外せないまま、授業中も。
「ジョバンニは帽子を脱いで、カムパネルラは気の毒そうに……」
(お、お腹空いた……早く昼休みにならないかな……)
お腹空いたから早く昼休みに!とか考えてたら、ぐううううううう!って、腹の虫が教室に轟いたらしいんよ。そんな中で小糸さんは、恥の上塗りでも避けたかったんやろうね?鳴った瞬間に、咳払いで誤魔化そうとして。
「ん"ーっ!ゴホンゴホン」
「腹の音、ごまかせてねーぞ小糸」
これは実際の音を聴いてへんから、バレてたかどうかは知らんけどな。幼馴染が無慈悲にも、聴こえてました宣言を呟いてたみたいでな?聞いてたこっちが恥ずかしくなったわ。小糸さん的には黙ってて欲しかったとは思うんやけど、高麗の性格上黙らへんやん?挙げ句の果てには、漸くやってきた昼休みに。
「小糸ってスゲー似合うよな、デカい弁当箱」
成長したいって気持ちと、女子にしては大きすぎる弁当箱なんて喧伝されたくない気持ち。それらを火打ち石にされたんやろな?仲良く昼飯食べとる時に教室で言ったらしいんよ、『女の食う量じゃねぇよ』的な事を。朝から散々恥をかかされたのに、もう限界だった小糸さんの火種が大火事に!そこからはもう見ての通り。
「とまぁ、こういう事情でな。両方の主張を平等に聞いてみた結果、こんな流れやろなぁーってのが俺のまとめやね。わかった?」
「な、なるほどな……原因はともあれ、二人が喧嘩するのも珍しいというかなんというか……」
「もう!!コマちゃんのそういうとこ、ぜっったい直した方がいいと思う!!」
「小糸こそ!!なんでも無駄にポジティブに乗り切ろうとする癖どうにかしろよ!!」
喧嘩の原因を振り返っても尚、鳴り止まへん怒号。収まった筈の腹の虫よりも大きな音は、教室から舞台を移し、エルダの私室で響き続けてる。
「今のやり取り、俺が聞いた限りでも3回目。どう思うエルダ?俺には止め方わからへんわ」
「そ、それなら仕方ない、私が仲裁しなきゃ……」
ぐうたら神様のご出陣。これがコイコマ同盟の関係修復に、一石を投じられたらええんやけどねぇ。
「ま、まあまあ落ち着け小糸。コマちゃんも悪気があって言ったんじゃないだろ……?」
「エルダ……それはそうだけど……」
おぉ、エルダパワー凄いな。ちょっとしおらしくなったというか落ち着かせたで?俺には成し遂げられへんかった事をいとも簡単に!
「コマちゃんは確かに野暮な物言いするけどさ、根は優しいのは小糸が一番良く知って──」
見事やわエルダ。諭す様に、かつ包み込む様な優しさで、あの暴れ馬の高麗ですら、さっきの怒号が嘘みたいに鳴りを潜めて……!
「え?なんて?エルダ様、背デカい癖して声小っせーんだよ」
遠慮とか、謙遜とか、なんなら敬うって行為の経験があるかどうか。そんな傲慢不遜なお隣さんの一言は、神様の脳天から足元まで突き刺さり、エルフが炬燵の天板に突っ伏した。
「こ、コマちゃんのそういうとこ直した方がいいと思う……!!」
「あれ!?」
ありきたりな事実を前にエルダ陥落。まぁその、少しだけ、ホンマに少し沈静化を図れただけでも、ようやったで!!
微妙に、本当微妙に落ち着いた所で。気の逆立つ二人を宥める為、エルダの江戸知識授業が始まった。体力は皆無やけど知識は豊富やから正直楽しみなんよね、エルダの漫談……いや歓談?
「江戸の概念に『粋と野暮』というものがあるんだ、気風容姿身なり……それらが洗練されていたり、洒落た色気があるさま。それが粋だ」
「つまりあたしは粋な女ってことか!」
「人ん家にアポありで来れる様になってから出直せや」
「コマちゃんは野暮、だな……」
「うん、コマちゃんは野暮です」
まあ、そうなるわな。人の振りみて我が振り直せ、とは言うけれど。高麗みたいな立ち振舞いの人間が、世界中にどれだけおるか。こうはならへんって思っても、元々こんな振舞いで生きてへんしまぁ大丈夫やろう……大丈夫やんな?
「あたしの何処が野暮だってんだ!」
「そうそう、野暮といえば……」
ちょっと!って高麗の抗議も虚しく、話はエルダの小噺で逸れていく。高麗、後で幾らでも話聞いたるから我慢しぃや。お菓子とジュースも完備してるで。
「今日凄く野暮なレビュー見ちゃってさ」
「レビュー?ああ、見た人が書く感想みたいなやつ?」
「う、うん。それ」
レビューっていえば、批評とか、復習するって意味の言葉。世間的には料理レシピとか、通販サイトの商品ページにあるような、利用者の感想を指す意味合いが一般的に広まってる。
「なんのレビュー見たん?」
「ゴンゲムが人型である必要が無いって言うんだよ!!あんなにカッコいいのに!!」
「あーそれはなぁ、合理性求めたら飛行機とかでええってなるしなぁ」
「ふーん?カッコイイならいいじゃんね。よくわからんが!」
ロボット永遠の課題、それは人型であるべきか否か。現実に則した物なら救助用ロボットとか、ああいうのは悪路とか閑所を進む為、人成らざる形をしてたりする。瓦礫を退かすのは人間じゃなくてもええしな?そんなこんなで、ロマンを排除すると人型ロボットってのは要らんやろ?みたいな話が外から聴こえたりする、そのレビューみたいに。
「そ、そうなんだよ!それにゴンゲムが人型なのは宇宙間でANBAC(アンバック)、つまり手足をバラバラに動かせたりする事で機体の姿勢制御の為にある物であって、その姿勢制御に推進剤を必要としないのは巨大な格納タンクを持てない戦闘用ゴンゲムの機体に大きなメリ──」
「つーかそもそも、ただの絵じゃん」
「そういうところが野暮なの!!せめてアニメって言ったげて!!」
「高麗?ちょっと俺にも刺さるから、その辺にしてくれると助かるわ。高麗も偶にゲームするし、な?」
「ご、ごめん……」
こっちにまで何故か衝撃が飛んできた。ゴンゲムに早口やったエルダ程、造詣深くはあらへんけど、たかが絵、されど絵なんよ。俺としては、それを理解した上で想像するのがアニメやゲームやと考えてるから。
「絵だけど……絵だけどさ……」
「不死身のエルダが死にそうになってるよ!」
「エルダ様がよわよわメンタルなだけだろ!」
「それは確かにそうだけどね!」
可哀想に、巫女にすら精神面の脆さを指摘されとるわ。大丈夫や、俺もちょっと脆くなってるよ。ここに仲間は居るんやで?
「そもそも野暮って言葉の定義がよくわかんねー、口が悪いとは違うのか?」
「ひ……一言で言えば配慮の欠如だな……『お出かけですか?』って問いに『いや野暮用で』って答えるとするだろ、その答えに『野暮用って?』って聞くのが野暮だな」
「やってさ高麗、どう思う?」
「え?フツー何の用か気になるじゃん」
「だからそういうところ!!」
本人の前では言わへんけど正直、そういう所も憎めなかったりしてる。何処へ行くにも着いてくる小動物、みたいな?小さな生き物って可愛いんよ。チワワとか小鳥とか、呼んだらやって来るのが愛くるしくてなぁ──高麗の場合は、勝手に着いてくるんやけどね?
「まーそんな怒んなって。二人とも、笑ってた方が可愛いんだからさ」
他人に可愛いと称すのは、高麗専用の決め台詞と化した節がある。こうやってウインクと共にそれを放てば、大抵の生物は手中に堕ちるからや!
「くっ……!絆されちゃ駄目だよエルダ!」
「し……しかし小糸!キメ顔でこの台詞に薔薇の花びらが舞う様な背景、すごいイケメンムーブだぞコマちゃん!!」
「ん?俺は?」
「ま、マサは別枠、別枠に入れてるから!可愛い訳がねぇだろ!?」
うーん、確かに可愛くないし……女型をやれる程に中性的な顔つきじゃないってのは、俺が一番知ってるからなぁ。そもそも別枠ってなんや?なんの為にそんな区分を作るんや?
「それはそれとしてだ!確かにあたし、悪気無いのに人を怒らせちゃう事あるかもしんねーな」
「そうそう!相手をモヤっとさせない発言を心掛けるんだよ!」
「でもあたしだって別に、野暮な物言いしたい訳じゃないんだって!」
「それはまあ、悪気"は"なさそうなのは伝わるかな?」
「だろ〜!?流石マサ、話がわかる!」
憶測やけど、ホンマに野暮な物言いを高麗がやろうとしたら、全方位で喧嘩が絶えへん血と涙の世界が、月島一帯に拡がる気がする。通称野暮マシーンKOMA。
「じ、じゃあ特訓してみるか……コマちゃんが発言する度に野暮かセーフか判定するんだ!私達で質問を投げ掛けて、コマちゃんが返す……これに札でも掲げて野暮かセーフか、審査するってのはどうだ!?」
「賛成!なんかオーディション番組みたい!」
「まぁええか、じゃあ割り箸と厚紙で札でも作ろか。これ使ってみんなで判定しよか」
高麗の野暮な物言いを矯正する為、争いを無くす為。長く険しい特訓が、神社の一角で開かれた。
「わ、私はプリンの空き容器とか好きでな?」
「食べたら捨てねぇかそれ?」
【野暮】【野暮】【野暮】
審査員を俺達が務め反応を見て、採点する。その判定作業の繰り返し。その繰り返しの中で、永遠と思える永い時間の中で──。
「ピザって最後に食う耳の部分好きなんよな〜」
「なんでだよ、普通にソースとかチーズの部分が本体だろ?」
【野暮】【野暮】【野暮】
野暮ったい物言いの女は、一歩、また一歩と──。
「この前、大人っぽいハイヒール見ちゃってさ!」
「小糸はそもそも、踵高いとまともに歩けねぇだろ?」
【野暮】【野暮】【野暮】
「ち、ちくしょー!こうなりゃヤケだー!」
半ばやけくそ気味になりながら、桜庭高麗は、進化していくのだった──。
──訓練開始から、およそ15分後。
「よくぞ過酷な特訓に耐え抜いたな、コマちゃん……!」
「ようやったで高麗、高麗にしては耐え抜いた方やん!」
「それじゃあもう一度テストしてみるよ、野暮な発言かどうかよく考えてから喋ってね?」
「おう!特訓の成果見せてやるぜ!」
果たして、半々刻の成果や如何に……。
「3丁目に新しく、高級食パンのお店が出来たみたいでね?美味しいって評判なんだよ!」
「パンよりご飯派やけど、たまには食べてみたいなぁ」
「へ、へ〜……い、いいよな食パン……四角いし、フッ、フワフワだし……」
こ、これは!この足りない語彙を絞った褒め言葉は!
【セーフ】【セーフ】【セーフ】
「昨日また村井生花店のタマが庭に来てな?」
「可愛いよねータマ!」
「月島の隠れたアイドルって感じやね!」
「フ……フワフワだしな……」
授業を聞いただけで高得点を取れる人間とは思われへん、擬音のみで褒めちぎる、当たりも障りもない……最早突っ掛かる気力すら失せさせる、オブラートに包まれすぎた優しさは!
【セーフ】【ややセーフ】【セーフ】
「今日久しぶりに『機動武士ゴンゲム劇場版三部作』を観たんだけどな……やっぱり名作で!」
「い、いいよなゴンゲム……か、か、硬そうで……!?」
俺達審査員は、野暮って単語を投げ捨てた江戸っ子に、ぎこちなさを覚えながらも深く頷いて、手元にある札を掲げた。
【セーフ】【セーフ】【セーフでええか……】
間違いあらへん、高麗は進化してる。満場一致で配慮の行き届く女子高生に!感情を代償にしてるけど、これなら何処へ行ってもやっていけるで!張り合いは皆無やけどな!?
「やったよコマちゃん!誰もモヤっとしなかったよ!」
「褒め慣れてない感じはしたけど、まあええやろ!」
「うん!確かにゴンゲム硬いしな……!」
「へへっ!ヨユーだよヨユー!」
「人参を輪切りにして……っとあれ、精霊ちゃんどうしたの?」
"エルダの部屋 変なテンション 入りづらい"
「変なテンション??」
高麗が特訓の成果を見せて暫く、さっきの喧騒は何処へやら。俺も含めて、誰もが口を閉ざしてしまっていた。まぁそのなんとなく、各々の脳内を想像するんなら。
(また野暮だって言われそうで話しにくい……!)
(コマちゃんばっかり野暮だ野暮だって攻めてたから……)
(わ、私も野暮な事言っちゃいそうで話しにくい……)
こんな所やろか。俺はその、女子の無言の圧力にちょっと怯えてて、話しにくいというかなんというか……なぁ?
「ふ、藤君!面白い話して!?」
「聞きたい聞きたいマサの面白い話!」
「こっち来て一番言われたしんどい台詞第一位やめーや!!」
そこはエルダに振れや!いやエルダからしてもすんごい野暮なフリやと思うけど!しゃーない、ここは一肌脱いだるか。姦しさの元凶が黙る以上は、俺がやるしかない!
「え、えっと……小糸さん、バルコニー欲しいって言うてたやんな?」
「うん、それがどうしたの?」
「バルコニーってのは屋根が無いやろ、つまりは屋外やんか。暑さも寒さもダイレクトに来るから……屋外は!やめておくがいい!!」
「──ね、ねえエルダ!なんか面白い話してくれない!?」
「き、聞きたい聞きたい!エルダ様の!面白い話!」
頭の辞書捲って編み出した渾身の面白い駄洒落を、自らの質問ごとスルーやと!?無かった事にしやがったなこいつ等……これやから大阪人への『面白い話してよ〜』、ってフリは嫌いなんや!!
「やれやれ……実は江戸で一番嫌われたのは、野暮じゃなくて『気障』なんだ」
「キザって?」
「君の瞳にカンパイ──みたいなやつ?」
「そうそう……江戸っ子達は気障になる位なら野暮でいい!位な感じだったな……」
「キザ──ほーん。言動や態度、それから服装が気取ってて不快感を与える様、ねぇ」
「いわゆるカッコつけすぎ、ってやつか」
その江戸の価値観に合わせるんなら、粋と野暮はどっちも近い所にあって、一歩違うだけでそのどちらにもなってしまう。今日は粋だと思ってたら明日には野暮に。日替わりランチより凄い変遷辿ってそうやね?
「私も昔はフルアーマーゴンゲムなんてゴテゴテして野暮!シンプルイズベスト!って思ってたけど、最近は敢えてフルアーマー……いや寧ろフルアーマーってなってるし……武器は盛れば盛るほどいい……!」
「サーベルやろ?バルカンやろ?サブマシンガンにライフルにバズーカに、ってな具合やね」
「「それはよくわかんない」」
「粋が良いもので野暮が悪いもの──そんな考え自体が野暮、かもしれないな……」
さっきまで散々デリカシーがどうこう高麗の特訓がどうこう。そんな事やってたけど、それ自体が無粋やった。って事で終わりかな?なんか堅苦しくなって来たし、そろそろええやろ!
「なぁ、高麗?もう普通に話さへん?」
「そうだよコマちゃん、もう普通に話そうよ」
「は?なんで?せっかく特訓したのに……」
「だって、粋でも野暮でも──私はコマちゃんが大好きだもん!」
「俺も高麗の事好きやで?今日、新しい一面も見れたしな!」
バトル漫画とかアニメやと、当然特訓とかした方が戦い甲斐があるぜ!みたいになるんやけど。高麗の場合はこう、特訓してない方が張り合いあるっていうか居心地ええっていうか、なぁ?小糸さんの台詞に乗っかる形やったから、俺はちょっとかっこ悪かったけど!
そんな内心を知ってか知らずか、小糸さんと俺の言葉を真正面から受けて硬直。その刹那、台詞を飛ばした二人から顔を背けて。部屋中に轟く声でたった一言──それはきっと、高麗最大の照れ隠し。
「────あっそ!!」
耳、真っ赤やで。俺と小糸さんは思わず見合って、破顔した。物言いとか、会話の中身だけやなくて、団欒とした雰囲気を創り出してくれるのも、高麗の魅力なんやから。なんにせよ、堅苦しいのはごめんやで!
「……小糸さん」
「……うん!」
おもむろにスマホのカメラを起動して、二人でパシャリ。こんな可愛い高麗、普段は見せてくれへんからなぁー?
「んなっ……馬鹿!何撮ってんだよ!やめろ!」
「良いではないか良いではないか〜」
「ええやんええやん〜普段何かにつけて俺等の事撮ってる癖にぃ〜」
「い、今は反則だって!駄目だから!だぁーっ二人とも近ぇよ!」
「「良いではないか〜!!」」
撮影会に夢中になってて忘れてた。どさくさに紛れてたっていうか、あれだけ長引いてた喧嘩もすっかり収まったみたいやね。終わりよければすべてよし、やな!
「わはははは!────あっそ!の高麗、めっちゃ顔真っ赤やん!こんなん天然記念物やわ!!壁紙にしたろー!」
「はぁぁあ!?やめろアホマサ!!恥とかねーのかよ!?」
「散々撮影されすぎて慣れてますぅ〜」
「あ・た・し・が!恥ずかしいんだよ!!スマホ貸しやがれっ!!」
「はっはーん!男の脚力に追いつけるかよー!」
ああ、そうだ思い出した。小夜子か空へ旅立つのを見送った、少し後だ──吐く息が白くなる、そんな日だ。偶々、賽銭箱の中身を覗きたくなって……拝殿の中から覗こうとした、そんな時。賽銭箱の前にいたんだ、小さな頃の──コマちゃんが。
カンッ、チャリン。重い重い、お賽銭の音。きっと、奮発したんだろう。小さな子供にとっての生命線を、叶うかどうかもわからないエルフのいる……そんな神社へ投げ入れて。
「小糸がさー母ちゃん死んでから、すっとヘコんでてつまんねーんだよ。おさいせんフンパツするからさーお願い、聞いてよ、高耳さま」
雪の降りしきる凍える様な寒空の下で、柏手を二回。拝殿の裏に私は隠れてたから、表情まではわからんが……。
「あたしが小糸を!!!元気にしてやれますように!!!」
初対面の時、知らない人がいる……そう言って、悪かった。私は知ってたんだな。小さな頃からずっとずーっと、親友の幸せを、私財を投げうって……干からびる程暑い日も、凍えそうで小銭を落としそうになる日でも、手を合わせに来るコマちゃん。
コマちゃんはやっぱり──粋な女だよ。
「……本当にもう、普通に話していいのか?野暮でもいい?」
「かまへんて、野暮なのも含めてそれが桜庭高麗や!って言うたやんか」
照れ隠し写真騒動は、結局高麗が折れて一応の決着は着いた。後は有耶無耶になってた特訓の成果の話。まあ普通に話そうって言った手前、ひっくり返す訳もなく。
「だ、だからもういいってば……」
「今さら怒ったりしないよ〜」
「じゃあ……小糸、お前が頑張って買ったトレンチコート、ベルカリで死ぬほど値崩れしてたぞ」
小糸さん沈黙。後で調べたけど、桁が二つ程減ってたわ。暴落とかいう次元やないな?
「あれ?エルダ様また耳長くなった?」
エルダも沈黙。あのしょーもない噂、まだあったんやね。
「「もー!コマちゃん!!」」
「や、野暮でもいいって言ったじゃん!!マサからもどうにか言って──」
「小柚子ちゃーん!お菓子おかわりぃー!」
「マサー!!!」
その日はもう、解決したと結論付けて、小柚子ちゃんの下へと逃げた。だって──こんなに賑やかになったんやし!
東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から発信される──江戸と浪速が『高耳神社』と織りなした、そんなお話。
江戸前エルフという作品の中で、私が高麗ちゃんを一番大好きになった回です。文字数も多分一番多い!
あっそ!で紅潮したコマちゃんと、目を糸にして白い歯で笑う小糸の一コマが絆を感じさせるといいますか……要するに大大大好きなんです!!
これは余談ですが、今回の話で本作『江戸っ子と浪速っ子』が目出度く10万文字を超えたみたいで……文庫本にして一冊分らしいのですが、なんだか大長編を書いた気分になりました!
ただ、今後も主人公のマサ君を混ぜるにあたって、アニメ範囲外には混ぜる余地がない話とか…家族の、或いは高耳神社の絆をテーマにしていると強く感じる話等がありまして。本作の番外編として書こうと思えば書ける、かもしれないのですが、それだとマサ君いる?となってしまったり…
端的に言います!更新速度が更に落ちてたら『構成に悩んでるんだ』と思ってください…色々ごめんなさい!それでは!