江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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書こうと思っていたエピソードを書いていたら、アニメだと6話の内容を先に書くべきでは?と思い至ってしまったので全編書き直してました!リアルも相まった結果、遅くなってしまってごめんなさい!


凡人と凡人と天才と

 

 東京都中央区月島、下校後の集会所と化しとったとある公園にて。

 

「よーっし小糸さん、小テストするで?」

「ばっちこい!」

 

 休息の合間を縫った定期試験対策が開かれる運びとなった。その受講者は小糸さんで科目は英語、小さい子供がピーマンを食べようとする、そんな顔をしてる。

 

「instruct」

「ほ、ほにゃららを教える!」

「maintain」

「な、なんとかを維持する!はーっ時間が全然足りないよ〜、もうすぐ定期テストなのにぃ〜」

「まぁまぁ、俺のとこももうすぐやし。そこは俺も手伝うから、な?」

 

 隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から通うある高校。俺が文化祭でステージに立つ事が決まっていたその高校で……小糸さんが鬼気迫る?位に焦りを見せとった。何故なら定期テストがあるから。

 

「二人のそれ、単語カードかぁ。般若心経かと思った」

「ウチは神道ですので!」

「ん?般若心経ってあれやろ?くーそくなんとかって奴やったっけ、神道では禁句なん?」

「あーっと、厳密には一緒だったんらしいんだけどね?神道と仏教。神社とお寺って結構違うものなの」

「ふーん、何処が違うんだよ?」

「入口が一番わかりやすいかな?神社は鳥居だし、お寺は山門。仕える人も前者は神職で後者は僧侶さん。それにお参りする人も私達は氏子さん。って言うけどお寺は壇家さん、って感じで結構違うんだ〜」

 

 流石神様に仕える巫女さん。その辺の事情には詳しいなぁ、実家の近所にもお寺あったけど、気にした事あらへんかったわ!もしかしてお参りの作法も違うんかな?

 

「神社と寺の違いはわかったけど、結局般若心経はなんで駄目なん?」

「その辺りはね、簡単に言えば役割が違うからかな?お寺はそこの住職さんとかが修行するんだけどね、神社はそこに神様。ウチはエルダだけど、神様に感謝を伝える所なの。それで、般若心経は唱える事で徳を積めるって言われてて!」

「あー、ポリシー的なのが違うんかな?自力で修行したい人の為の場所と、神様に感謝したい人の集う場所。せやから『ウチは神道ですので!』って言ってたんやね」

「そういう事!」

「さっすが小糸だな、宗派の違う所まで詳しいなんて!」

 

 ホンマにそう思う、英単語だけじゃなくて別宗派の事情にまで詳しいなんてな。いやタブーとかに踏みこんだらまずいから、気を配ってるだけかもしれへんけどな?

 

「えへへこれでも巫女だしそれ程でも〜、ってそれどころじゃないの!最近やばいの!遊んでばっかりだったんだから!」

「遊んでばっかりには見えへんけど、自覚はあったん?」

「例えば肉まん食べたり精霊ちゃんグレたり物産展行ったり」

「物産展って、えらい局所的やな?」

 

 物産展といえば──いや、よそう。違う物産展かもしれへんし。

 

「別に普通じゃん。テストなんて、授業聞いてりゃ大体わかるだろ」

「コマちゃんは天才タイプだからね!いっつも私が勉強してた所で遊んでるもんね!?」

 

 高麗とは小さい頃からの幼馴染なだけあって、苦労させられたんやろなぁ。頭のええ邪魔して来る悪ガキとか、質悪い事この上ないやん!

 

「普通はコツコツテス勉するの!suffer……苦しむ、struggle……もがき苦しむ」

「そこはこっちも試験あるし同意見。昨日も勝手に遊びに来ては俺ん家でゲームしてたもんな、俺だって凡人なんやで?」

「まあまあ、小糸もマサもいつも頑張ってるなーと思ってる!いやマジで!」

 

 ホンマかーホンマに思っとるんかー?カンペ読まされてる訳やないよなぁー?

 

「サンキュー相棒、だがムカつくぞ」

「脳の構造が違うと羨ましいわほんまに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅に戻って暫く、教科書や過去にあった小テストを机に広げてテスト勉強。問題集をやる手もあったけど、この単元の小テストでわからん所は全部排除してから進みたい、そんな気分やった。

 

「えっと教科書のこのページって言うてたから、余弦定理か……今でも焦ると正弦定理とごっちゃになる……くそっ何が余弦やねん、余ってるんならそのままにしとけや……」

「おーいマサー、あのアイテム取れねーんだけどどうすんだ?」

「……そのミッションは台を乗り継ぐ正攻法がしんどいなら、後から使える様になる滑空モードでゴリ押し出来るで」

「りょーかい、じゃあ後回しだな!」

 

 ゲーム機のコントローラーを弄る音。ポチポチ、ガチャガチャ。聴き慣れたゲーム音楽よりも激しめに響いてる。ペンを走らせる音よりも遥かに大きい。

 

「三平方の定理の延長線上って言うけど、公式に跡形もないやん……2acはどっから来たんや……」

「なぁなぁマサー、このボス逃げてばっかで卑怯じゃねーか!?」

「そもそもそのキャラが意図的に弱く作られとるからなぁ」

「ちくしょー!」

 

 難関とされる部分にぶち当たって、ガチャガチャする音はより激しさを増すばかり。チラッと見たけど、初見で俺も苦労した、そんな記憶が蘇る。

 

「大体分度器っていう神の叡智が小学生時代にはあったのに、なんで……」

「なぁマサー、ここにセーブしても──」

「だーっ!なんで高麗が着いてきてんねん!?学校はちゃうけど一応俺もテスト期間やーって言うたやんか!」

 

 ってかええ加減にせぇよ!?こっちは数学の難問にぶち当たってるんやで!?コントローラー一つの動かし方ではいクリア、なゲームやないねんで!?

 

「え?だってマサは一人で勉強しててもつまんねーだろうな、って思ったからさ、一緒に居てやろうと思って」

「ずっと一人で暮らしてるから嬉しいといえば嬉しいけど!それなら高麗も教科書開くとか、なんかあるやん!」

「あたしは特にわからねー所も無いしなー。小糸の奴が勉強し過ぎな位だぜ?ウチの学校だと」

 

 この高麗、自分が天才型なのをええ事に!

 実際に何度か見せて貰ったけど、高麗の成績は確かに良かった。定期テストの答案は二桁目が全部8か9、しかも8のテストは3つだけ。授業でそんだけ取れたら本気でやればオール満点、とか取れるかもしれへん。てかその言い分やと高麗みたいな天才がうじゃうじゃおる、みたいに聴こえて戦慄するんですが?

 

「多分裏でみんな必死やと思うで?『全然勉強してな〜い』が本当に通用するのは高麗だけなんと違うか?」

「なっ、あたしはそんな変な発音しないっての!」

「ツッコむ所そこかい」

 

 あかん、漫才してたら勉強の疲れが余計悪化してきた、どうしたら……。

 

「マサ、そろそろ休んだらどうだ?2時間は十分やった方だと思うぜ」

「ノー勉でやってる人間に言われてもねぇ。でも煮詰まってたし、休む頃合いか」

 

 おやつ前に帰宅してから、早い人なら晩ご飯を食べてそうな時間、これ以上は息が詰まるからっていう高麗の意見には一理あった。説得力の無さを気にしなければ。

 

「じゃあ休むか、とは言っても高麗がやってたゲームは俺は難易度変えて遊んでるし。お菓子は帰ってきた時に完食したし」

「じゃあギター聴かせてくれよ、マサー!いつもの!」

「常連客の『マスターいつもの』みたいに言うな、普段から間近で聴いてるのに目新しく無いで?文化祭のリハでもちょくちょくやってるし、インスタに上げられとったのやって……本来二人に聴かせてた奴なんやから」

 

 聴きたい、そうやってせがんでくれるんは光栄やけど。箸が転んで喜ぶみたいに音が鳴れば喜んでへんか?俺のギターなんて趣味でしかないのに。何がそこまで高麗を突き動かすんや?

 

「そもそも俺は、プロでもアマチュアでもないんやからな。音楽聴きたいならCDでも買うかストリーミングとか、プロの音源聴きーや。しかもここ東京やで?ライブのイベントとか一杯あると思うしアーティスト沢山居てるやん」

「マサの音楽が聴きてぇんだよ!それにだ、ライブハウスっていうなら、マサの家もライブハウスみたいなもんだし!マサだってアーティストの端くれだろ?」

「アーティストを自称した覚えはないっての」

 

 自薦他薦は問わないとかそういう問題でも無いねんけどな、多分。

 言われるがままに勉強の息抜きやと思って、シャーペンからギターに持ち替えた。運ばへん時はケースから出してるから、手にとってすぐにでも始められる。

 

「まぁええわその辺は、じゃあ弾くけど。なんか聴きたいもんある?文化祭で予定してた奴やと予行演習にもなるで」

「うーんそうだな……あたしの好きな曲も良いけどさ、マサの弾き方を教えてくれよ!」

「弾き方?」

 

 奏法そのものに興味を示すとか、ホンマのミュージシャンみたいな言動やな。そんな歯ギターとか、背中ギターとか、目立つ程の物は修得してへんけどね?

 

「そうそう、ここ最近やる様になってた奴!出会った頃は音を鳴らしてただけって感じだったけどさ、今のマサはその、弾き方自体が楽しそうでさ!ギターをスパーンって叩いたりするのとかあたしもやりたい!」

「俺もその、雑誌とかネットやったりで見様見真似のそれやけど。それでも?」

「それでもそれでも!ほら、勉強だって教える事そのものが勉強になるって言うし!これもテスト勉強って事で!」

「音楽のテストは無いんやけどな、なんなら選択科目でも取って無いし」

 

 高麗の理論にも一理ある。テストとは違うけど、文化祭で無駄に恥かきたくないからこういうのもアリか。そんな気持ちで、今知っでる限りの弾き方講座を開く事にした。

 

「じゃあ、出会った頃っていうか、普通に弾いたらこんな感じ」

 

 6本の金属弦の決まったフレットを左手で抑え、右手を振り降ろす。ギターでコードが初めて鳴らせた頃を思い出す、そんな弾き方。

 

「綺麗な音だよなぁー。普通っていうか、鳴らすのも結構難しいだろそれ?」

「どうも、あっちを立てればこっちが立たず。ただコードを抑えてストローク。綺麗に掻き鳴らせる様になるのに数時間、そこから良く使うコードを抑えて弾けるまで1ヶ月位かなぁ?その間に指先の皮カチコチになったで、ほら」

「おぉ、手のひらはぷにぷになのに指先カッチカチだな!それだけ練習したって事か!」

「ま、まぁそうかな?売れっ子には敵わへんけど」

 

 然りげ無く左手触らせたとはいえ、照れくさい。高麗はボディビルダーの筋肉を触るアナウンサーみたいな気持ちかもしれへんけど、こんな形で触らせたんは初めてか?いや頬つねったり肩叩かれたのも含めたらノーカン……話戻そか、邪念が混じってきてるわ。

 

「んで、ここ数ヶ月やって来た演奏がこんな感じ」

 

 左手で抑えるコードは変えずに、右手の使い方を少しだけ変える。ギターの穴、サウンドホールの少し上。ここを掌底で叩きながら爪をピック代わりにストローク。その降ろした指を戻す要領で下から上、上から下へ、コンパスみたいに肘を固定して軌跡を描く。

 そうして鳴らした弦が震えている間に、基本は左手で抑える指板を叩いた勢いで振り抜く──これを数回繰り返した後の締めに、同じフレットを弦を抑えきらない程度に人差し指で触れて、中指と薬指で軽く叩いた。

 

「複雑やから今はこれ以上速く弾かれへんけど、これがさっき教えて欲しいって言ってた弾き方。どうやろ?」

「く〜っ、鳴らし方変えただけなのにノリが全然違ってかっけぇよマサ!なんというか1つの楽器でバンドが成り立つみたいな?音楽は素人だから上手く言葉に出来ねぇけど!」

「まさにそういう奏法なんよこれ?スラム奏法なんて呼ばれてるわ」

「スラム……なるほどな、英語のslamは叩くって意味だもんな」

「す、鋭いやんか」

 

 そういうのがサッと出てくる辺り、ホンマに賢いんやなぁ。回転も速いのは羨ましい……!

 

「指で鳴らしながら掌底でボディを叩く、これがドラムでいうバスドラムの音を担っとる。ドラムで一番大きいあれって言えば伝わるかな?」

「あの真正面にドカンと置いてある奴か!」

「正解。んでこの指板、フィンガーボードとこの穴、サウンドホールに近い所を叩く。この音はドラムやとスネアドラムに似た音が出せるんよ。あの中では一番小さい太鼓と思えばええかな?」

「なんかマーチングバンドで太鼓叩いてる人がいるけど、もしかしてあれか?」

「そっちは色んな種類があるからそれ!とは言われへんけど……スネアもあると思うで?最後に人差し指でセーハ、まぁ弦を全部抑えて、余った中指と薬指で叩く。これがハイハット、マーチングバンド風に言うたらシンバルの音やと思ってくれたらええよ」

 

 俺が出来へん、或いは知らんだけで奏法はもっとあるし変な説明かもしれへんけどな?って最後に付け加えといて。

 そこまで言葉を足した後、演奏に興味深々やった高麗の笑顔はじわじわと、しかし確実に、お礼を伝える時の様な爽やかな笑顔へと変わってきた。

 

「さっきから機嫌ええな、そんなに素人のギター話が面白かったんか?」

「勿論!最初は勢いで『ステージに立ってくれ』って提案したけどさ?そこまで勉強と練習重ねてくれてたなんて、なんだか面倒くさくなってきた実行委員も楽しく思えちまって!やっぱりマサに頼んで良かったぜ、ありがとな!」

「それはおおきに。折角の文化祭、なし崩し的とはいえステージに立つ訳やからな?何時ものノリで鳴らすだけやなくて、ちょっとしたパフォーマンスとか欲しいと思って練習してたんよ?」

 

 含んだ意図なんてひとつも無い、純度十割のお礼。文化祭への熱の入れ込み具合は高麗のみぞ知る所やけど、今の台詞を聞いた以上、深堀りするまでも無かった。

 

「前までの俺やと高麗が歌ってしもたら、俺はただの伴奏者になってまう。高麗が目上の人に、月島の関西人とのコンビとして掛け合っててさ。地味に鳴らすだけではい終わり、なんて悲しいやん?」

 

 俺らしからぬ長台詞が飛び出した。自分でも、ここまで考えてたとは思わへんくて、少しだけ頬を紅潮させてしまった。

 

「──へへっ」

「なんや急に?今の台詞、冗談なんて挟んでへんで」

「いいや?あたしの一番知ってる幼馴染も、それから関西人も。その性根にある責任感が誇らしくてつい!」

「誇らしくて、か。そりゃどうも」

 

 責任感。小糸さんの巫女としての責務みたいな物ではないけど、元を辿れば言い出しっぺは俺やし?本当に許可降りるとも思ってへんかったからなぁ、最初は面食らったけど。

 こうやって他所の文化祭の実行委員が期待を寄せて、目の前で笑ってくれてるんなら男として、こんなに嬉しい事はあらへんな!それなら一つ、こっちからも発破をかけたろか!

 

「それなら高麗、お前も歌詞飛んだりせんようにな?誘ってきたんは高麗やし、あくまでも主役はボーカルやねんで!」

「任せとけよ!ボーカリストコマちゃんの美声、たっぷりとステージで聴かせてやるからさ!」

 

 俺からも期待させてもらうで?昔っから巫女を支えとる幼馴染の、おせっかい焼きな桜庭高麗の責任感ってやつに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ飯にするわ、シチュー作り置きしてるし。高麗は?」

「あっ、ならあたしも食べたいそれ!今日は親も遅いし好きにしてくれって言われてたんだ!」

「それならご馳走するわ、作り置きやけどな」

 

 問題集を閉じて、ギターをスタンドに立て掛けた。お気に入りのエプロンを身に纏い台所に立とうとした姿は、今の高麗には宝物やったらしくてさり気なく写真を撮られた。手際ええなぁ?

 

「イェーイ男飯ぃ!なら小糸も呼ぶか!」

「ちゃんと許可取れよ〜」

「わーってるって、今からメッセ送るし……はぁ?なんだこれ」

「どないしたん?高麗でもわからん問題でもあったか?」

 

 召集を掛けようとした高麗がスマホを睨んで硬直。微動だにしなくなったから、悪いとは思いつつも画面を横から覗いてみた。

 

「えーっと、『学業成就のお守りバレた』『掃除しすぎた』『お寿司の奢り待ったなし!』。なんやこれ、解読出来そうか?」

「ぜーんっぜんわかんねぇ!」

「せやろなぁ?てことは俺のスマホにも……あった、『集中出来ないの!エルダの拘束もとい遊び相手お願い』なんて届いてるわ」

「まるで理解できねぇけど、小糸も苦労してんなー」

「高耳神社特有の奴やろうけどな?とりあえずさぁ……」

 

 そんな巫女さんからのSOSを見た上でただ一言、息を揃えて呟いた。

 

「「腹減ったなー!」」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から発信される──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。面倒事っぽいけど小糸さん、健闘を祈るで!




冒頭以外はアニメ6話を元にしたオリジナルになってしまいました!巫女継承の話とかハイラ&いすず登場回とか、本作はアニメや原作の裏側を書いている比率が高めですが今回は冒頭から分岐した感じのお話です!それに今回の冒頭はかなりアレンジを付け加えてます……色々解釈が間違ってたらすみません……!
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