江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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今回は金沢の二人回!


逃げたら一つ、賭けたら全部

 

 石川県金沢市……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『麗耳神社』。

 

「ただいまハイラー、テレビ局の人がハイラにプリン奉納してくれたよー!」

 

 インフルエンサーの仕事として、石川のテレビ局で名所のリポートをこなしてきた帰り。インスタで話題になって美味しいと噂の黒蜜プリンを頂いて、早くハイラと二人で食べたい!なんてはやる気持ちを抑えて、神社に帰ってきた。

 

「あっ」

 

 帰ってきた私が本殿で目にしたのは、休みの日にはほぼ見掛けるとある貼り紙、それはハイラ直筆のメッセージ。

 

『おサイクリングに行ってきますわ ハイラ』

 

 サイクリング──と称してギャンブル観戦に行っているのが最早習わし。20kmは離れてる競艇場とか競馬場にも気軽に向かえるその脚力は何処に隠してるんやろう?なんて疑問、とっくの昔に置いてきた。きっと、エルフはそういう生き物なんよ。

 

「そっか、今日は競馬の大きなレースがあるんやっけ」

 

 仕事前にそんな話をしていたのを思い出す。こっちは巫女としての責務があるのに気楽やね?なんて軽く悪態をつきながら、巫女装束に着替える。何時もならレースも終わってしょんぼりした顔で、裏口からこっそりと帰ってくる頃合い。

 

「はあ……どうせまた負けて帰ってくるんやろうな。帰ってきたら『だから言ったじゃん!』って言ってやろ」

 

 参拝者もいないし境内の掃き掃除でも、なんて思ってたら。

 

「ただいまいすず」

 

 レース終わりに珍しくハリのある感じで、健脚ギャンブラーの声が聴こえてきた。しかも正面の参道からなんて。

 

「おかえりハイラ。どうせ今日も負けたんでしょ?だから言ったじゃ、ん……?」

 

 思わずおどけてみせた顔が強張る程の違和感。でも違和感にしては、とてもとても大きな。目の前の御祭神の間違い探しをやれって言われたら、誰だって気付く程の。

 

 

「ついに大穴!!!当てましてよ────!!!」

 

 

 レンズだけは大きなサングラス、ギラギラした宝石だらけのネックレス、庶民的なブランドとは思えない所で売ってそうなファーコート。そして著名なブランド物の紙袋が沢山。

 

 金沢で祀られたるそのご神体は──異世界から召喚され賭け事に目がないエルフは……とうとう夢を掴んだらしい──加賀百万石の輝きって、こういう事なんやね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、小糸ちゃんにお金の事メッセしといた」

「ありがとういすず、エルダちゃんには悪い事しましたわ」

 

 ハイラってば、江戸時代では沢山お金を貸してた側らしい。借金しないと生活出来ない人にもほいほいお金を貸して、そんな折に加賀藩から棄捐令(きえんれい)、借金を帳消しにするお触れが出たらしく、お金が返ってこなくなって。エルダ様からお金を借りてたんやって……氏子さんを大事に思うのはいいんだけど、もっと自分も大事にしてほしいな?

 

「他にはもう誰からもお金借りてないよね?」

「も、勿論ですわ!巫女以外からお金を借りたのは棄捐令の時だけ!」

「まぁハイラ、困ってる人を見ると放っとけないもんね」

「あっでも、借りてはいませんが拝借しましたわよ?それも最近」

「拝借ってハイラ、まさか!」

 

 まさか人様のお金を!?

 

 

「あらいすず、殿方を呼び捨てだなんて。その雅ですわよ?月島で道案内をしてもらったついでに、好きな数字をお聞きしましたの。旅行の時はレースに行くのを止めたので、今日は雅の好きな数字で買ってみたのですが……それが大穴大当たり!下から2番人気でしたのに、ビギナーズラックというのは存在しますのね?雅に買うべき数字を聞いてみて大正解でしたわ!」

 

 

「ああ、うん。雅さんからアイデアを拝借、って事やよね?知ってた知ってた──ってか『まさか』ってそういう意味やなくて……」

 

 落ちる所まで落ちてはいなかったらしい、よかったぁ。流石にそんな事しないと思ってたよ?

 

「という訳でいすず、雅にも今度お礼を送って頂戴な?勿論私からお金は出しますわよ?」

「う、うん。メッセ送っとくね?」

 

 なんて送ろう……雅さんのお蔭で神社が繁栄しました、お返し送ります。とか?遠回しに寄付してくれたにしても、あっちで疑問符浮かんでそうなんよ。

 

「まあ良かったじゃん、ギャンブルよわよわハイラが大穴当てるなんてね」

「うふふっ、ついに私にもツキが回ってきたようですわ〜!」

「主に雅さんの助言ありきやけどね」

「そうそう!これ、貴女に似合うと思って買ってきたの」

「え?」

 

 ハイラが紙袋の1つから取り出したそれは、よくドラマとか映画で見たことのある、パカっと開く……確か、リングケース?

 

 

「指輪?」

「ええ!きっと、似合いますわ!」

「かわいい……!」

 

 

 質素過ぎず、派手すぎない。それでいて綺麗に加工されたであろう紅い宝石。早く指にはめてみて!と言い出しそうなその輝き。それはどんなに凝った写真にも、負けていなかった。

 

「ハイラから草花以外のプレゼント貰ったの初めてやよ〜!」

「あ……あらそうだったかしら?」

 

 ヨモギ、食べられる。ハコベ、食べられる。シンプルなブーケ、かわいい。うん、草と花しか貰った事ないんよ。

 だからこそ、この指輪は特別だった。

 

「ありがとうハイラ!一生大事にするからね!」

「うふふっいすずったら、大袈裟なんだから」

「だって、嬉しいんやもん!」

 

 嬉しい物は嬉しいって言いたいんよ!なんて波打つ歓喜から来る感謝を、あのすってんてんやったハイラに伝えたつもり。嘘や偽りじゃなくて、本当に嬉しかったから!

 

「そうそう、これも似合うと思って買ってきたの」

「えっ?」

 

 後ろに回り込んだハイラにスッと身に付けさせられたのは、多分イヤリング。鏡がないからよく見えないけど。

 

「あとこれも、きっと似合うと思って」

 

 それからハイラとお揃いの、ギラギラとしたネックレス。なんだか首元でジャラジャラしてる。

 

「これはちょっと意外かもしれませんが似合うと思って。あらでも、こっちの方が似合うかし──」

「多い!!!!」

 

 なんか多い!プレゼントにしては多すぎ!丸いフレームのサングラス、撮影ですら羽織った事のない毛皮のコート、ワンポイントになりそうなベレー帽。セレブなの!?ウチ、セレブなの!?

 

「急にプレゼント多すぎ!!気持ちは嬉しいけど!!指輪の感動が薄まる!!」

「あらでも良く似合いますわよ?」

「ありがとう!!」

 

 

 

 

 

 

 取り敢えず、プレゼントを大事にしまって一息。まさか物量で攻めてくるとは思わなかったんよ。

 

「まあ珍しく勝てたんだし、当分ギャンブルは控えなね?またすーぐすってんてんになっちゃうよ」

「うふふいすずったら、寧ろツキが回ってきてる今が攻め時ですのよ?」

 

 何その不穏な台詞?これだけブランド品買える程当ててたら、氏子さんからのお賽銭が可愛く見えちゃうのに?

 

「実はすでに駅前の爽快クラブでネット借りてボートレースの大穴舟券買ってありますの……っ!」

「何やってんのハイラ!?」

 

 どうしよう!?そんなに何度も当たるとは思えないのに!雅さん助けて!今日の好きな数字は何ー!?

 

「種銭がデカいから、当たったらエラい事になりますわ!!明日からヘリで通学させてあげますわよ!いすず!」

「クラスメイトにドン引きされるわ!ただでさえ友達少ないのに!」

 

 んな事させてたまるか!校庭にヘリポート併設して『ふっ……クラスメイトの皆さん、ご機嫌よう?』なんて気障な真似したくない!!嫌味の次元越してる!!

 

「ほらほら!いすずのスマホでレース結果を見てみましょう!」

「もー!大穴なんて、何度も当てられる訳ないって」

 

 私のスマホを賭け事の確認なんかに使ってほしくないんやけど?巫女的にも人としても、そんな事の為に買ったんやないもん。

 

「あ……あああ……」

 

 手慣れた様子でスマホを操作して、舟券が当たったかどうかを確かめてる。この様子だと、どうせ外したんでしょ?

 

「ほら〜、だから言ったじゃ……」

「ま、また大穴当てましてよ────!?」

「嘘でしょ!?」

 

 私のスマホに映ってる『的中しました!おめでとうございます!』ってデカデカと書かれた画面を、震えた手で見せてくるハイラ。

 さっきは雅さんのビギナーズラックで的中させたけど、ハイラにもビギナーズラック来たんやない?──何時もの御祭神らしくない豪運に、神社としての在り方を本気で考えた私がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一旦落ち着こう……!暗くなってきたし」

「そ、そ、そうね……紅茶でも入れましょうか」

 

 何度かチョイ当たりですわ!って言ってた額面とは桁が文字通り違って、思わず私まで動揺したけれど。使い道をあれこれ話してたら外が暗くなってきて、なんかもう、アクセサリーばかり買ってる場合やないんよ!

 

「あ~拝殿の電球切れてるの忘れてた……参拝の人転んだら危ないし、早く替えなきゃ……」

 

 夢物語から引き戻される様に、切れた電球が私の意識を現実に引き戻してきた。もうすぐ6時、駅前の電気屋さんならまだやってるかな?

 さっきまで舟券の金額を見ていたスマホで電気屋を検索していると、電球が切れていたはずの拝殿から明かりが灯った。

 

「替えの電球、まだあったんや──」

 

 垂れ幕から覗く、いや覗くどころかガンガン主張しているそれは、明かりにしては眩しすぎた。

 

「なにそれシャンデリア!?ハイラが買ってきたの!?」

「どう?明るくなったでしょう?」

「わかりやすく成金になるのやめて!!」

 

 なんでそう羽振りが良くなった途端に思い切りがよくなるの!?そこまで求めてない!

 

「いすず?スマホが鳴りましたわよ」

「こ、小糸ちゃんからの返事。エルダ様から伝言やって」

「あらエルダちゃんから?お祝いかしら!」

 

 なんだろうこれ?エルダだよ、『これ小判 たった一ト晩 居てくれろ』にわか分限なんだから気をつけてよねハイラ……本当になにこれ?

 

「これ小判 たった一ト晩 居てくれろ?」

「『やっと手にした小判も、借金の支払いをしたらその日の内に無くなっちゃう』という意味ですわ」

「にわか分限?」

「『にわかに大きな利益を得て大金持ちになること』つまり成金ですわ」

「ほらまんま今のハイラじゃん!!」

 

 完全に見抜かれてる!400年の付き合いで完全に見抜かれてるんよ!!

 

「エルダ様も心配してくれてるんだし、今度こそ控えてよね!」

「もういすずったら〜、流石に私でも慎重になりますわよ?」

「それならいいんやけど……」

「だから人気馬の単勝狙いに堅実にぶっ込みましたわ!!!」

「は!?また馬券買ったの!?いつ!?」

「さっきボートレースの結果を見た時にチョチョイと……」

 

 なんでそんなせこい真似が出来るん!?賭け事が好きやとしても、人の目を盗んだ隙にやっていい事じゃないでしょ!?ただでさえ当選金額でクラクラしてるのに!

 

「ちょっと調子に乗りすぎだって!馬券ってキャンセル出来ないの!?」

「え?できませんわよ?」

「何キョトンとしてるの!腹立つ!!」

 

 あーっもう!一回大当たりしてからおかしくなっちゃった!誰かハイラを止めて!!交通費は払うからー!!

 

「そろそろナイトレースの配信が!スマホ貸して頂戴いすず!」

「え〜私のスマホで見るの?今月パケット残って無いのに」

「そんなの私がドカンと当てて何ギガでも買ってあげますわ!」

「え?ほんと?」

 

 それならまぁ……ちょっと不服やけど。

 

「ハイラが賭けたのはどの馬?」

「この栗毛の!頼みましたわよ!!」

 

 ふくれっ面な私を他所に、画面越しのレースが始まった。あのゲートが開くと、馬達が走り出すみたい。番号が割り振られてるけど、どの馬がどれなのかさっぱり。

 

「はじまりましたわ!いけいけいけいけ!」

「……えっと、私よくわからないんだけどさ、どの栗毛の子もめっちゃ遅れてない?」

「いいえ勝負はここからですわ!そこですわよ!お差しになってっ!!」

 

 カメラが切り替わって先頭を追っていたと思えば、モニュメントみたいな物を映した所で止まった。どうやらそこがゴールらしい。それ以上、走る馬を追い掛けたりはしなかった。

 

「あ、終わった」

「えーと、結局ハイラは勝ったの?」

 

 そう尋ねられた御祭神は、後ろめたく借りたお金を返すみたいに黙ったかと思えば立ち上がり。神社の屋根へ沈みかけた夕日を背に、たった一言。

 

「ねえいすず。私、海が見たいわ……」

「負けたんやね!?だから言ったじゃんって石碑建てるよ!?」

 

 負けたやっぱり負けた!!そうやよねこれがハイラやよね!?普段から賭け事にのめり込む時点でビギナーズラックも何もなかったんやね!ハイラの馬鹿!

 

「雅にもう一度聞いておけば良かったですわ……ごめんねいすず、もうヘリで通学させてあげられませんわ……私にはもう何もない……」

「だからいらんてそういうの。てかそれで負けたら雅さんに責任押し付けちゃうみたいになるから止めて。あ、コート汚さないでね?ベルカリで売って借金返済の足しにするから」

「よ、容赦ないですわ!!」

 

 失った物の方が多い。当面は野草生活も待ったなし。それでも、どれだけ華美なコートもネックレスも売るとしても、初めてハイラから貰った可愛い指輪は……絶対売らないんやから!

 

 

「心配いらんよハイラ。無かった物がまた無くなっただけ。だけど何にも無くなっちゃっても……ハイラには!私がついてるんやから!!」

「いすず!──じゃあ、2000円貸してくださる……?」

 

 

 ──その日から暫く、ボケナスエルフの耳が怒りに任せて引っ張られたのでは?というレベルで伸びたという噂が、金沢一帯で広まったみたい。私には、何のことやらさっぱりなんよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもしいすずさん?こんな夜更けにどないしたん?今日は何の相談?」

 

 月島でばったりハイラと遭遇して、いすずさんには野外ライブも披露したあの日から、巫女さんの御用聞きと称した電話会議を時々開いてる。

 俺からも掛ける事はあるけど、通話の大半はハイラへの愚痴やら賛美やらへと変貌する。いすずさん、相談の内容が相反しすぎやないかな?

 

「遅くにごめん雅さん。相談じゃなくて、ハイラの話なんやけど」

「なんやっけ?ハイラがえらい大当たりしたから、色々送るってメッセに書いてたよね!ノドグロ?それとも能登牛?」

「そのボケナスエルフから伝言。『借金返済で手が回らなくなりましたので、贈り物は100年程待ってくださるかしら?それと好きな数字はまた出来たかしら?今度は出来れば1から6で!』って」

「あーっと、なんか、うん。長生き頑張ってみるわ……」

 

 

 見捨ててるともとれるし、呆れてるようにも聞こえる口調。そしてボケナスエルフ呼ばわりする巫女さんから伝達されたのは、大当たりしたらしいエルフからの、事実上の撤回宣言。さよならノドグロ、能登牛。来世で食べるわな……。




アニメのハイラの声優さんですが、もしかして地名から引っ張って来たのでは?なんて今更思いました。いすず役は……キャスティングの時期的にどうなんでしょうね?
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