江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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前回更新で5000UA越えました!嬉しい!今回は視点切り替えも文字数も多めかも?


巫女禁制の地?

 

「ただいまーエルダ!」

 

 なんて事の無い、なんでもない学校での普通な一日が終わって、帰宅した事を知らせる為に御祭神へのお声がけ。本殿に引き籠もっているであろうその神様、エルダの顔が見たくて本殿へ続く道を、歩幅を広めてぱたぱたと、走る様な足取りで駆けていった。

 

「ただいま……ってあれ?」

 

 顔を見て直接言いたくて、引手を触り、何時もの引き籠もり部屋を開けようとしたそんな時。あり得ない筈の異変に気がついた。

 

「エルダー?障子開かないよー?」

 

 キッキッ、障子がそんな音を立てながら開いてくれない。和室に鍵なんてある訳ないし、建て付けが悪いと言う程の古さもない。じゃあなんで?何か引っ掛かってる?

 そんな思考を遮る様に、ガコッ。ゴトッ。物音が障子の向こうから響いた。中にエルダはきっといる!

 

「入っちゃ、ダメ……!」

 

 小柚子ですら通れない程の隙間を開けて、エルダが頭を出してきたと思ったら。開口一番に出入り禁止を告げてきた。

 巫女としてやってきて、初めてエルダから拒絶されたから、少しだけ固まった。あれだけゲームをしていたり、スプレー臭いプラモを作っている時ですら、私の来訪を許してくれたのに……。

 

「えっ?な、なんで?」

「私は今日……忙しいから……!」

 

 祈祷もなければ奏上もない、学校がなんでも無かった様に神社だって、なんでもない日だっていうのに?そう口にしていた障子の向こうは、電気一つ点いてない程には暗かった。

 

「でも今日は神事も何もないよ?」

「そ、そうだけど!とにかく!」

 

 少し前、定期テストにかこつけて、エルダのお願いを何度か跳ね除けた記憶が蘇る。『また後でね』『勉強しなくちゃなの!』きっと、あの時のエルダもこんな気持ちだったのかな、なんて。

 

 

「小糸は!私の部屋に!入っちゃダメ……!」

 

 

 ピシャリ。台詞を吐き捨てると同時に障子を勢いよく閉める音が、神社に虚しく響いた気がした。そんな中、ただ一つわかるとすれば。

 

 入っちゃダメ!入っちゃダメ!小糸は私の部屋に入っちゃダメ!

 

 そのたった一言が、障子を閉めた音と共に、私の頭から離れてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──遡る事、数日前。

 

「やったあ!カエルせんしゃ第4弾の予約、確保出来たぞ!!」

「良かったやんエルダ、でもええんか?」

「な、何がだマサ?」

「いやほら、エルダの財布=お賽銭な訳やろ?参拝者多いから懐温かいのはええ事やけど、使いすぎてたりせぇへんのかなーって」

「ま、まぁ確かにな……今月は少し使いすぎて……ん?」

 

 俺は最早小糸さんに言われるまでもなく、用事も何もない時は高耳神社に遊びに来てはエルダと談笑。そんな日々が続いとったある日、今日のゲームはレースゲームと言う名の玩具予約競争、その観戦に来ていた。

 

「こ……これは20年前に販売されて『ゴンゲムハイパークリエイトモデル』──通称ハイクリゴンゲム!!」

「なんか俺の知ってるゴンゲムと違うでこれ?胴回りがスッキリしてんなぁ」

「知らんのかマサ!?これは小型のプライズでありながら可動範囲はゴンプラ以上、独特のアレンジが施されたフォルムが人気を博した激レアアイテムなんだぞ!!」

 

 なんか早口になってるエルダを尻目に、ノートパソコンに映し出された通販サイトの商品画面を覗いてみる。中古で残り一品。当時の値段を知らんけど、その額9280円。20年前の品物にしては高額なんかなぁ?

 

「定価知らんけどさ、その時に買わへんかったん?」

「当時はスルーしちゃって……あとでめちゃ欲しくなったからこそこの反応なんだが……9280円か、プレミア付いてるけどきっともう今しか手に入らないし!」

「また小糸さんに怒られへんか?上旬に新作ゲーム買うてたやん」

 

 その場で一緒に遊んどったからわかるけど、『あれ?昨日も一昨日もなんか届いてなかった?』と目を細めて問い詰める、疑心暗鬼な小糸さんの顔が忘れられへん。ゲーム以外もなんか買ってたんかい!

 

「決めたぞ、マサ」

「決めた?何を?」

「小糸に内緒で買う」

「あーあしーらないっと」

「届くのは明後日か、マサには特別に見せてやるぞ?今度来るといい!」

「学校帰りならええけど」

 

 プレミア商品をカートに入れるエルフの、その頬に流れる汗が何を意味しているのか、なんとなく想像が出来てしまった。常習性ありそうやな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして後日。本殿はエルダの部屋に届いたらしいゴンゲムの、ハイクリゴンゲムの実物を見る為にやってきた……そこには。

 

「……なあエルダ、ホンマにこれがハイクリゴンゲムなんか?」

「…………ああ、そうなんだが」

 

 プラモとか玩具の素人とかそれ以前に、第一印象がおかしいプラモが配達。もとい鎮座しとった。

 

「「──なんか、デカくない?」」

 

 正座して虚ろな目で見つめるエルダより大きく、下手すれば小さな女性並の採寸なゴンゲムが届いていた。

 

「いやいやいやいやデカ過ぎるやろ、これが9000円弱って逆に粗悪品を疑うやんか!」

「い、いや!中古ではあったがそんなはずは……あっ!」

「どうした!?」

「良く見たらこれ、ハイパークリエイトモデルじゃなくて【スーパージャンボモデルEX】じゃん!」

「な、何が違うん?」

「今風に表現するとスーパージャンボが1/12でハイパーが1/144、って感じだな」

「正直その辺は詳しくないんやけど、大体150センチはありそうやね?」

「マサ、それはヤードポンド法が──」

「それより!こんなデカいのどないすんねん!押し入れには絶対入らへんで?」

 

 確か1フィートが12インチとかそんなんやっけ?だから1/12なんか……いや今は海外の規格とかどうでもええわ!

 

「そ、そうだ!マサが居るという事は小糸がもうすぐ帰ってくる!なんとか隠し通さないと……」

「ただいまーエルダ!」

 

 その透き通る声とは裏腹に、部屋に沈黙が訪れた。正直月島の人間及びエルフとの付き合いは、浅い。それでもなんとなく趣味が通じ合う者同士、目で会話する事は容易かった。

 

“い、一旦台所に避難しとくで!”

“任せておけマサ、この窮地……乗り越えてみせる!”

 

 直ぐそこに小糸さんがいる以上、何処かに持ち運ぶ物音でバレてはいけない!そう思って暖簾の奥に隠れる事にした。

 俺の買い物やないのに、なんで俺が隠れたんやろか?そんな疑問を解決するより先に、暖簾の裾から二人の会話を見守るハメになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのね、エルダ。私何か気に障る事、しちゃった?」

 

 私には、エルダが拒絶する理由がわからなかった。昨日までは、今朝までは、あんなに笑顔だったのに。珍しく早起きしたエルダに会えて得した気分だったのに。

 

「もっもしかして!『エルダは逃げ足だけ速いナマケモノみたい!』って言った事怒ってる!?」

「え……!?い、いやなんて的確な悪口なんだって寧ろ感心したよ……!でもそうじゃなくて──」

 

 そ、それじゃあもしかして!

 

「じゃあ昨日、エルダの分の唐揚げ味見で全部食べたの怒ってる!?」

「道理でおかずが少ないと思ったら……でもそういう事でもなくて──」

 

 それじゃあ、一番想像したくなかったけど、やっぱり。

 

「じゃあやっぱり……私の事、嫌いになったの?」

 

 そこでまた、障子がスーッと開く音がした。心の隙間から、エルダが顔を覗かせて一言。

 

「バカだな……私が小糸を嫌う訳が無いだろ?」

「エルダ……!」

 

 良かった!一番怖かった嫌いになった、なんて事は無かったんだ!それなら!

 

 

「じゃあ部屋に入れて──」

「ダメ」

 

 

 最初に拒絶した時よりも力強く障子が滑り、閉まる音。この心の障子は、私が思ったより薄くて厚い障子みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあエルダ、アイコンタクトっぽい物で会話したけどさ?俺、隠れんでも良かったよな?」

「さ、流石に巫女を差し置いて遊び相手を部屋に招いてると知られたら、小糸が焼きもち焼くからな……あれでもファインプレーだぞ?」

「うーん、正直帰りたいけどさ。小糸さん小柚子ちゃん菊次郎さんが居る訳やしなぁ。スニーキングミッションは苦手やから、籠城しつつどないするか考えるかぁ」

「いつもすまないな、マサ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね〜エルダ〜まだ部屋に入れてくれないの?」

 

 大量の水滴が水面に落ちる音が聴こえる。多分、小糸さんが本殿の掃除の為に雑巾でも絞ってるんやろか?

 

「ま……まだダメ!」

「も~なんで!」

 

 あれからも籠城は続き、ああじゃないこうじゃないと作戦を練るものの、答えは出ず。エルフに出したい助け舟は、まだ出港には至れないっぽい。

 

「爺ちゃんに相談したら『どうせ内緒で買ったおもちゃ隠してるだけ』なんて言うんだよ!そんな訳ないじゃんね!」

 

 ドストレートかつ大当たり!なんなら俺まで隠れてますけどー!?

 

(エ、エルダ!完全に見抜かれとるで!少なくとも菊次郎さんには!)

(ぐぬぬぬ……)

(せや、仮病で出られへんとかは?)

(そうだ、それだ!!)

 

 握り拳を解き、誰を指差す訳でもなく嘘を重ねるエルフ。使い古された言い訳っていうか、そんなに名案でもないと思うで?

 

「か、風邪なんだ!実は少し風邪っぽくてな?小糸にうつしたら悪いし!」

 

 嘘も方便って言えばええんか嘘八百と言うべきか、一瞬考えたけど、純真な小糸さんには効果がないらしい。何故なら。

 

 

「開けなさいよ高耳様〜!診察出来ないじゃない!」

 

 

 仮病を信じて本物の医者を呼んだから。

 え?俺よりエルダとの付き合い長いやろ?間近で交流交わしてるやろ?提案した俺が言うのも可笑しいけど、あれを信じたん?純真無垢すぎるやろ……。

 

(おいエルダ!諦めて立ち去ったと思ったら、医者がすっ飛んで来たんやけど?なんなら茜ちゃんって俺も知ってる酒呑みやねんけど?)

(あ、茜の所は代々私の……エルフの専門医でな?喚ばれた当初から、という訳ではないんだが、ずっと佐々木医院が往診に来てくれるんだ)

(茜ちゃんが医者とは聞いてたけど、エルフの専門医もやってるとはな。因みに、今日以外で最近診てもらったのは何時頃?)

(ヨルデと向日葵がアポなしで来た次の日だな)

 

 割と最近やな?ってか不老不死なエルフも病気に罹るんや……ここに来て新事実。

 

「エルダ!茜ちゃん来てくれたよ!診て貰おう?」

(なんか大事になってきてるで)

(追い込まれたか……!)

 

 いや追い込まれたどころか自ら引き籠もってるやん、なんてツッコミは心の中で済ませておいた。エルダが障子に手を掛けてるし。

 

「ゴホゴホ、い、いやいいよ。茜に風邪うつしたら悪いし……」

「だから私なんでしょ?エルフ風邪は人間にはうつらない、ってこの前言ったじゃない」

 

 エルフ風邪!?移らない!?何その新しい病気に設定!?まさかとは思うけど、人間の風邪もエルフにはうつらなかったりするんか!?おいおい医療が進歩してまうで!

 

「あ、そうか……それじゃあ風邪じゃなかった!めちゃ健康だから帰っていいよ」

 

 もう用は済んだとばかりに戸を閉めるエルダ、呼ばれて来たのに塩対応、医療よりも医者の怒りが進歩しそうなあしらい方。

 

「良いから早く開けなさいよ!!こんのオラァ!!」

「ふふふ無駄だ茜!つっかえ棒してあるからな……!」

「茜ちゃん落ち着いて!御新酒呑んでく!?」

 

 アカネちゃんって、泥酔中とは違うベクトルで気性荒くなるよなぁ?カドちゃんの方が外見も合わさって荒れてるイメージあったけど、中身は真逆。元ヤンの医者って肩書きがしっくり来るわ。

 障子を挟んで向こう側、文字通りドタバタと騒がしくなる光景を他所に、俺の頭は痛みを覚えてきた。普段から忙しい言うてたけど、人間の頭痛も診てくれるかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー!まあ病気じゃないなら良かったわ」

 

 誰かが喉を鳴らす音、どうやら小糸さんが持ってきた御神酒をアカネちゃんが呑んどったらしい。不良じみた態度は鳴りを潜め、俺が慣れ親しむ酒呑みに変貌を遂げていた。

 怒りで血管が切れるのが先か、お酒で肝臓がやられるのが先か、俺や小糸さんより早くあの世へ逝きそうやねぇ。これはちょっと不謹慎か。

 

「病気じゃないならなんで部屋に入れてくれないんだろう?」

「どうせ内緒で買ったおもちゃ隠してるんでしょ」

「あはは!茜ちゃんまで!」

 

 はいバレてまーす。これ多分小糸さん以外にはバレてまーす。俺の存在がバレてへんのが奇跡では?

 最早自分でもどうして隠れてるのか、答えを探したけれど見つからないまま、時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルダ〜!お夕飯だよ!いい加減開けてよ!」

「エルダ様、ここにお膳、置いとくね?」

「う……うん、ありがと小柚子」

 

 もしかしたらこのゴンゲム、分解出来るのでは!なんて思って調べてた内に晩飯の時間になったらしい。この家では配膳まで小柚子ちゃんがやってるんか?なんだか世知辛い。

 

(ま、マサ、私だけ食べてもいいか?)

(ん?あぁええけど、俺は帰ってからでかまへんし)

 

 姉妹の気配が無くなったのを確認して、今までよりも大きめに障子が開かれた。ぽつんとお膳だけが置かれてる。にしては姉妹の姿が見当たらへんけど……まさか!

 

(エルダそれ罠や!姉妹の罠や!)

(罠……?ハッ!)

 

 本殿を繋ぐ橋の向こう。その柱の陰に、隠れた俺の事まで見えとるのでは?と言わんばかりに目を光らせた姉妹が隠れていた。エルダに初めて会った時、高麗と隠れとった因縁の柱。あの時のエルダ視点やと成る程、確かに怖いわ!

 それに気付いた捕食者は、お膳を部屋に引き込んでから、二人からの視線をいち早く遮る為に障子を閉めた。スロー再生にしないと見えへんで今の早業?

 

(小糸さんが逃げ足だけ早いナマケモノって称したの、なんとなくわかった気がするわ……)

(そ、そうだろう?私の巫女は的確なんだ!)

 

 ぐうたらである事を揶揄されとるのに、エルダは巫女を褒めて伸ばした。ここでは人間が甘やかしエルフに甘やかされるという、奇妙な相互関係で成り立ってるらしい。

 しかし美味しそうな御膳や、水滴の滴るサラダ、半熟な目玉焼きの乗ったハンバーグ、炊きたての様な白いご飯。後でええとは言うたけど、これはお腹空くなぁ!飯の用意してへんし、帰れたら桜庭家のご相伴に預かろーっと。帰れたらな!

 そんな気持ちで後で晩飯食べに行く!とメッセを送ったら、偶々高麗も画面を開いてたのか、すぐさま返事が返ってきた。

 

『構わねーけど、冷める前に抜け出してこいよ?内緒で買われたおもちゃとエルダ様の部屋から』

 

 小糸さんが、部屋に入れないって相談でもしてたんやろうな?スニーキングミッション失敗。高麗にはバレてました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルダのご馳走様の挨拶と共に、再びゴンゲムに向き直る。支柱も無しに自立してるって何気に凄い設計やね?

 

「なんかさ、こうしてるとゴンゲムに見られてるみたいやな」

「わ、わかる……落ち着かないし……手拭い被せとこ」

 

 島田電気、そう印字された手拭いをエルダが被せてみたものの。

 

「このフォルムはちょっと……」

「なんか余計怖い感じになっちゃったぞ……?」

 

 ホラー映画に出てきそうな、近寄ったらあかん見た目になってしまった。これはもうライフルで狙撃できるお化けや。

 

「お膳下げに来たよエルダー!」

 

 痺れた足を触られたみたいに跳ねて驚くエルダ。どうやら小糸さんがお膳を下げる役らしい、流石に全部小柚子ちゃんにはさせへんか!

 何かを書いたメモをお膳に乗せ、部屋が見えない程度に開いた障子から、お膳を差し出して、閉める。あらゆる所作が洗練されすぎとって、思わず見惚れてしまった。さてはこいつ慣れてるな?

 日の光も無くなって手元が覚束なくなる頃、部屋の電球を光らせて。隠す算段と帰る算段が混じり合っていたそんな時。

 

 

「こら──!!開けなさいエルダ──!!」

「こ、小糸!?」

 

 

 突然変異した巫女に、俺まで肩を竦ませてしまった。

 今の一瞬で怒らせる様な事をやらかしたんか!?いや、女子の怒りは溜めて溜めて吐き出すってテレビで見た事あるし、部屋に入らせてくれない事に痺れを切らして!?

 

「この浮気者────!!!」

「は……浮気!?」

「私を部屋に入れないのはよその巫女を連れ込んでるからなんでしょ!?」

「そ、そんな訳無いだろ……!?」

 

 何処をどう見たらそうなるねん!てか浮気って!向日葵さんとかいすずさんが来てる訳でもないし!千歩譲って俺が巫女やったらその通りかもしれへんけど……ん?どう見たら?

 そういえば、昼間は障子の向こうに人影が見えとった。小糸さんに小柚子ちゃん、お酒を呷る茜ちゃんまで。あれは多分、影絵の要領で見えてたと思うけど。今は怒りに任せて開けようとする小糸さん、その姿が見えない。

 

「そこにいるのは誰なの──!?」

「えっあっいや」

「誰なの!?!!?」

 

 今はもう昼夜逆転。多分、昼には太陽が、夜には電球が。明かりの付いた部屋の中、エルダとハイクリゴンゲムが、影絵として小糸さんに見えたんやろうな。多少曲解されたとはいえ、隠していた事がとうとうバレた。それはつまり、暖簾の後ろにいる俺も隠れられなくなったという意味で。

 

 

「こっ……小糸に……小糸に内緒でデカいおもちゃ買ったんだー!!!!」

「それを見に来た一般人で〜す……」

 

 

 とうとう観念して白状したエルダに乗じて、俺も姿を現した。いい加減、腹も減ってきたしな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、本当に私に内緒で買ったおもちゃを隠してただけだったの!?」

「こ、小糸に内緒で買ったおもちゃを隠してただけでした……」

「それを見せてやるって言われたからやってきただけでした」

 

 小糸さんに、推定150センチのプラモをお披露目して、色々と暴露したんやけど。それよりも、ゴンゲムを見つめた小糸さんとそのゴンゲムが、あまり変わらない背丈だった事が脳裏から離れなかった。

 

「も~!こんな大きいの何処に置くの!」

「えっそこ?買った事自体はええの?こんなデカいの、値段とか気になるやろ?」

「エルダにそんな事問い詰めてたら心が保たないの!お賽銭前借りしてでも買おうとするし!」

「おおそっか……ごめんな」

 

 浪費そのものは咎めてられない現実に、俺は目を覆ってしまった。神職って大変どころの騒ぎじゃ無かったんや!小糸さん、向日葵さん、いすずさん、それぞれベクトルは違うやろうけど、強く生きて……!

 

「い、市松人形は、江戸で人気の歌舞伎役者──佐野川市松に似せて作られてな?それに倣って豪商達は、特注で推しの役者に似せて人形を作らせたりしたんだ……遡れば土偶も推しのフィギュアと言える」

「つまり、何が言いたいんや?」

「つまり我々が推しのフィギュアを求めるのは本能とも言える行為なんだ!!だから怒らないでください!!」

 

 それは人間の本能やろ?エルフにも当て嵌まるとは言われへんやん、これで小糸さんが許す訳……。

 

「あはは別に怒ってないって!避けられてるのかとおもったから寧ろ安心したよ!」

 

 許したー!黙って買った事を許したー!身長に対して器がデカすぎるー!そっかぁ最初から部屋に入れてー言うてたもんなぁ!巫女になると普通の人と価値観変わるんかな!?

 

「あんまりお賽銭無駄遣いするのは困るけどね!」

「こ、小糸……!」

 

 その台詞を皮切りに、さっきまでの秘密を隠し通そうとしとったエルダの顔が、嘘みたいに朗らかに。徹頭徹尾部外者やった俺までヒヤヒヤしたわ!

 

「良かったやんエルダ、一応許してくれたで」

「ああ!ま、まさか小糸がもっとおもちゃを買っても良いって言うなんて……!」

「待て、そんな事は言っとらん」

 

 エルダフィルターは、全てを都合の良い様に言葉を変換するらしい。俺の苗字が小金井やなくて良かったと、神職に関係無くて良かったと、他人事ながら深く溜息をついてしまった。

 そろそろ空腹度が上がって来たけど、目の前の問題の根本的な所を解決してから去りたくて。二人にその根本的な話を投げかけた。

 

「小糸さんとエルダが納得したんならそれでええけど、そのゴンゲム何処に置くん?」

「「あっ」」

「手拭い被せても落ち着かへんかったのに。お互い部屋に居る間はず〜っと、ゴンゲムに見られる事になるで?」

 

 害はないんやけど、これからも遊びに来ると思ったら……ハイクリゴンゲムについては他人事では無いと判明して。

 

「「「う〜ん……」」」

 

 三人寄って文殊の知恵を振り絞れるまで、晩飯にありつけそうには無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は偶々、一人だった。親は仕事だし、小糸は神事、マサに至ってはDIY?のバイトがあるからと遊びの誘いを断られて。あたし一人が手持ち無沙汰で。

 偶にはこんな日もあるか、っていうかDIYのバイトってなんだよ?なんて思いながら、神事の終わり際に小糸を労ってやるか〜と思い立ち、一人で高耳神社にやってきた。

 

「何気に一人で来るの久しぶりだよなー」

 

 小糸の学校帰りにくっついて立ち寄ったり、高校に上がってからはマサと遊びに来る様にもなったから……あたしにとってはスゲー新鮮。やってる事は変わらねーんだけど!

 そんな新鮮な気持ちで境内に足を踏み入れたら、此処では聴き慣れない音がにしきりに聴こえてきた。

 

「何かの工事か?」

 

 建築途中の一軒家、その横を通る度に聴こえてきそうな木を打ち付ける音が聴こえる。そう考えて音源に近付いてみたら。

 

「出来たぁー!」

 

 今度は傍で何度も聴いて来たから忘れねぇ、これはマサの声だ!一体何が出来たってんだ?湧き上がる気持ちに任せて、駆け足で声の聴こえた方に近寄った。

 

「よっ、マサ!」

「おう高麗。小糸さんに用事?」

「ん、まあそんなとこ!マサこそ何してんだよ?」

「バイト。一昨日からDIYやるって言うたやろ?さっきまでこれ作ってたんやで」

「ほーん?マサ一人でこの小屋をねぇ……ってあっ!この前のデケーおもちゃ!」

 

 エルダ様が内緒で買ってたらしいゴンゲムのプラモじゃねーか!エルダが部屋に入れてくれない、ってメッセの暫く後に見せてきた画像に写ってたやつ!実際に目の前で見たら小糸位の大きさはありそー!

 

「おもちゃの大きさとは思えねー!なんでこんな所にあんだよ?デカすぎて邪魔だったとか?」

「えっと、エルダの大事にしたい気持ちと落ち着かない気持ち。その二つが合体して菊次郎さんとも相談した結果」

「結果?」

「新しく末社を建てる事になったんよ」

「あたしなら分解して仕舞うけどなー、あの押し入れじゃあ無理か!」

「昨日の今日の発案でな?俺が組んだのはちょっと雨風凌ぐ為の仮住まいやから、後で宮大工さん来る事になってる!」

「それってマサの働き損じゃね?」

 

 やっべ思った事そのまま言っちまった!あれだけ特訓したのに!普通に話して良いって言われたけど、極力言わないつもりで来たのによー!

 

「まぁな?でもさ、昔に大阪の友達と犬小屋建てた事思い出してさ!でっかい犬小屋作ってるみたいで楽しかったわ!」

「そ、そっか!それなら良かったぜ!」

 

 あぶねぇ、マサが楽しそうで助かった……中身は犬でもなんでもねぇけどよ!

 

「でもなぁ、作りながら考えてたんやけど……こいつが外に追いやられた感じがして可哀想で」

「うん?ゴンゲムって外で戦ってるんだろ、寧ろ合ってるじゃん」

「外どころか宇宙行くしなぁ。いや作品の設定よりも、プラモとしてやで?飾るにしても味気のない感じがさ」

 

 なんだかマサってちょっとロマンチストだよなー、おもちゃに可哀想って表現したり、飾るのに味気ないって言ったり。まっ、飾るってんならあたしの出番かもしれねぇな!手を貸してやるか!

 

「なぁマサ、宮大工さんが来るのって何時だよ?」

「うーん、もうそろそろって聞いたな」

「だったらちゃんとした末社が出来てからさ……こんな感じに仕立て上げるのはどうよ?」

「おぉぉこれは!バラしておもちゃ箱行きよりもよっぽどええな!」

「だろ?これは勝手には出来ねぇから、小糸の爺ちゃんに許可貰って──」

「それやったら宮大工さんにいっぺん協力をお願いして……多分エルダ関係って言えば手を貸してくれるかも──」

 

 打ち合わせ時間、僅か1分。でもその1分に、あたしがマサのロマンを詰めこんだ。

 

「名工コマちゃんに!任せとけ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルダ〜、ゴンゲムの末社、楽しみだね!」

「次の日朝イチで軽く地鎮祭を済ませたからな──ほう、中々シンプルだな?ハイクリゴンゲムは……っと、うおぉお!」

「へーっ!宮大工さんが気を効かせてくれたのかな?凄いねエルダ!内装がライトアップされてるよ!」

「壁も天井も暗幕を張って……まるで宇宙に佇む様なカッコいい展示だー!これはもう、やるしかない!急ぐぞ小糸!」

「い、急ぐって何を!?」

「竣工祭だ!今すぐ祈祷しよう小糸!」

「……うん!すぐ準備するねっ!」

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、そこに建てられた末社と中身が大事にされている、そんな噂が広まって──お人形の祈祷にやってくる人が増えました。




ネタがなくなったらですね、江戸前エルフの雰囲気を壊さない程度のオリジナル回とか、書いても良いですかね?どうなんでしょう?いずれにせよ期間が空いてしまうのは間違いないのですが……。
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