毎回一番長いって書いてる気がしてますが、今回は輪をかけて長くなる予定なので分割します……原作でも恐らくエピソードとしては最長なので区切らせていただきました、開幕は少し地の文が多めかもしれません!
「んーと、高麗には豚まんで、神社にはそこのマイナーやけど美味い中華ちまき。シマデンには緑茶の茶葉で他も。よし、ちゃんと持ってきてる!」
俺は久しぶりの連休を利用して、ピークよりは新幹線が安くなる時期に大阪へ。実家に帰ったり、旧友と駄弁ったり、電話越しの約束を守る為、とある神社に顔を出したり。随分と帰ってへんかったから昔話にも花が咲き。まぁその辺は後でええか。
大阪からの長旅を終えて、東京駅のホームに降り立つ。世間的には長期休暇から随分と時期はズレてるとはいえ、日本の中心として、あらゆる交通の要衝として。もし俺の身体が力士みたいな体型やったら、歩くだけで肩ぶつかるんちゃうか?って位には人の流れが絶える事は無かった。
誰かが言うとったけど『東京は人の街だ!人が集まり、人が埋めて、人が建てて、そこに人が住む。そうやって隆盛を繰り返して来たのが東京なんだ』とかなんとか。今ならなんとなく、言いたかった事分かるかもしれへんなぁ。
雑念と一緒に出口階段を降りて、南乗り換え口を出る。さーて後は京浜東北線で有楽町、そこから月島まで!とかなんとか思ってたけど、出口階段を降りた時点で少し思った。
「広いし迷うよなぁ……梅田とはベクトルが違う迷宮やわ」
新幹線に乗ったのなんて、中学卒業とほぼ同時にこっちに引っ越した時以来。基本月島で完結してる人間が、わざわざ立ち寄る事もない。そんな東京駅の構内を覚えてる訳が無くてな?便利なのはええけどさ、もっとこう、待合室、改札、ホーム。それだけの単純な駅にならへんかな!?
しゃーないから案内板とにらめっこして、乗るべき電車を調べようと顔を少しだけ上げたそんな時。不摂生な生活を送ってるとは思えない程に綺麗な髪、あまりにも特徴的な長い耳の存在を捉えた。あの後ろ姿──エルダや!南乗り換え口にエルダが佇んでる!!
スタンプラリーからステップアップして、遂にヨルデちゃんみたいに旅行でも始めるんかな?服装も他所行きって感じやし、後ろ姿の時点で美人やなぁ!ただいまの挨拶がてら、ちょっと話し掛けたろか!肩でもポンって叩いたろ。
「ただいまエルダ〜大阪から帰って来たで!えらいお洒落な格好でスーツケースまで引いとるけど、月島以外を歩く決心ついたんやな!ん?でも巫女を差し置いて一人で旅に──」
「熱弁中にすまない。何を思ったのか知らないが人違いだよ、関西弁の少年君?」
俺が台詞を言い切る前にエルダが、いや、見知らぬエルフがそう告げてきた。袴と縦縞の黒いインナーにコートという、和洋折衷のコーディネート。それから、チェーンの付いた丸眼鏡。正面から見れば絶対違うと断言出来る外見。もし、最初に見た方向が違っても尚、同じ台詞が吐けたんなら、眼鏡を掛けるべきは俺の方やと思った。
「あっすいません人ちが、エルフ違いでした……」
「ふふっ。いや何、構わないよ。現代の関西弁が聴けて参考になったからね」
第一回エルフ検定不合格。各地の巫女から『出直して』と言われているような罪悪感と、知らない人に話し掛けてしまった羞恥心が襲ってきた。他人と間違えるなんて失礼な事、東京に戻って来て早々にやらかすとはなぁ……さっさと帰ろう。
「間違えてすみません……失礼しました」
「あー待ってくれ少年、少し構わないかな?」
「え、あっはいどうぞ」
出来れば早く帰って自分を慰めよう、そんな気持ちやったから、不意を突かれた様に返事をしてしまった。こういう理知的な雰囲気の人って、何を語り掛けてくるか未知数やからなぁ。
「ある人を待っているんだが……少し時間を持て余していてね?帰る時のお土産を物色したいんだよ。これでも東京駅は初めてだから、駅ナカの案内を頼めるかな?勿論、肩の力を抜きながらね」
旅の疲れも無くはないけど、ここまで言われて見捨てるのは違うよなぁ!月島以外は詳しくないけど、なんとかなるか!案内って言うても、乗り換え口の目の前やし改札からは出ぇへんし!
「そういう事なら普段通りに。ほな行こか!えーっと?」
「パンニャバラ・ジャマル・バララバジャラ。長いからパンニャと呼んでくれ、少年?」
普段は改札を通らないと入れない場所。そんな場所にあるお土産に、駅弁に、案内する側が目移りしてしまう程にはそそられた。大阪へのお土産、ここで良かったかもしれへんな?なんにせよ。
「まさか地下街まであるとは……ごめんなパンニャ、同じ南乗り換え口に戻れなくなる所やったわ」
「いやいや、初めて来るから案内があって助かったよ。それにこの店数、思ったよりも選び甲斐がありそうだ」
大人の対応やなぁ。スマホとか構内図でも見れば案内出来るって思ってたけど、目移りしすぎて何処から上がったっけ?って感じで迷ってしまい、道を覚えてたパンニャに連れてきて貰った始末。見栄張りすぎたかな?
「人を待ってるっていうのに、余計な気を遣わせてもうてごめん!」
「気に病む事は無いさ、どうせ君が居なければ一人で周ろうと思っていたからね?これでも自分の事は自分でやる質なんだよ、私は」
何処かのエルダとは大違いやね?手のかからないどころかこっちが掛けさせてしまうとは……ってそんな事より!
「しっかり者やなぁ。ところで、待ち合わせは大丈夫なん?誰を待ってるか知らんけど、時間とか」
「まだ余裕はあるよ、だからここで本でも読んで待つとするさ。君の方こそ良いのかい?長旅の後だ、早く帰りたいだろう?」
「うんまぁせやね、多少疲れた程度やけどお暇させて貰うわ!何処へ観光するか知らんけど、楽しんでな〜」
「ありがとう。そちらこそ、早く旅の疲れを癒すと良い」
なんかゲームの宿屋みたいな台詞やな。そう思いながら手を振りつつ、パンニャに背を向けて歩き出した。
そういや名前は聞いたけど、特に何処其処の神社から来たとか、巫女がどうとかみたいな?これまでのエルフには必ず付いてきた話は出てこなかったなぁ。偶々祀られてただけで、野良エルフみたいな存在なんやろか?まぁええか、エルフにはエルフの生き方を選ぶ権利はある、って事で。
「ラッキー!電車来たわ!」
月島に帰る為、俺は丁度やってきた電車に乗り込んだ。一駅で乗り換えるとは分かっていても、荷物を網棚に乗せて、背もたれに頭を預けてしまった。疲れより先に、誰からお土産を渡しに行こうか?なんて考えて。
「ただいまエルダ、か。偶然だろうが、もしかしたら、彼が──」
思った以上に早く帰ってきてたらしい、地下を案内してたのに、帰宅した時にはまだ正午だった。それならお土産渡しに行っても、迷惑にはならんよな!
荷物を置いて、お土産をひっ提げてまずは一番近所の桜庭家へ。と思ったけど、高麗はおろか高麗の親御さんすら留守らしい。まぁ休日やし?連休やし?家族で出掛けてても不思議では無いわな。そんな訳で、高麗へのお土産は自宅の冷蔵庫に戻してから、月島お土産渡しツアーへ。
商店街を中心に、シマデンとかもんべぇとか、バイトはしてへんけどお世話になってる村井青果店とかにも、ちょっとした大阪土産を手渡した。全部つまらんもんやけど!
「後は高耳神社だけかな。中華ちまきはマイナーやけど個人的に好きやし、喜んでくれるとええなぁ」
正直、こいつは豚まんやアイスキャンデーに比べたら知名度は低い。なんなら売ってるのを知らん人の方が多い。『豚と栗』『鶏とうずら』海老やイカの入った『海鮮』、それぞれもち米で炊き上げて、大きな具材と一緒に竹皮で包んだをそれを喜んで頬張って。
「オイ」
「え?……アッハイナンデショウ」
喜ぶ顔を想像してた矢先、高耳神社の鳥居をくぐろうとした手前で絡まれた。赤に近い茶色いポニーテールで、高麗に近い顔つきな、一昔前の不良みたいな格好の人に。
知らん人に話し掛けられる事は、それなりにあった。顔を出して、成り行きとはいえ月島の紹介とかをしてたから。でもこの手の人間に絡まれたんは、人生で初めてやと思う。
いや古っ!服装のセンスが古っ!中身は学校の制服っぽいけど、上着は特攻服って奴やろそれ!なんか一昔前のヤンキー映画とか、ちょっと荒れがちな成人式の映像で見た事あるで!?特に意味のない四字熟語とか刺繍されてるのってホンマやったんや!右側の天下無敵はまぁ、強くなりたいって意味で通じるとして、左の明鏡止水は一体なんのつもりなんやろ?
「なァ、その紙袋、大阪のだろ?ってこたァ、アンタが高耳神社の御祭神の遊び相手か?」
「へ?ここのって事はつまり……えっと、まぁうん、これ大阪のやで。それにエルダとは、よくゲームとかプラモで……」
なんか変やな。インスタでは大阪育ちで月島に住んでるって実質明かしてはいるけど、高耳神社に入り浸ってる事も、なんならエルダと遊んでる事も、明かしては無い筈なんやけど?一体何処から情報が……いや初めてやなこの手の情報漏洩!
「……き」
「き?なんて?」
「兄貴!オレに神様と仲良くする為の極意を教えてけろ!!」
「兄貴!?仲良く!?」
情報漏洩かどうかは一先ず置いといて、さっきの不躾な態度は何処へやら。兄貴と呼んで来たかと思ったら、神様と仲良くなる為の極意を教えてとは。それに割と癖のある発音に語尾、少なくとも、東京の人とは思われへんかった。
「待て待て話が見えへん!そもそもお前は何処の何者やねん!?」
「す、すまねぁ……」
近畿圏でもなければ、金沢の巫女ですら発した事のないイントネーション。その出所は、すぐに本人から語られた。
「仙台産まれの仙台育ち、姓は小椿木(こつばき)名はつとめ!円耳(まるみみ)神社御祭神……円耳昆売命(まるみみひめのみこと)の巫女よォ!」
特攻服をたなびかせ、背中に印字された、高耳神社のロゴみたいなそれを左の親指で指差した。すげー、堂々としててちょっと格好いい……肩の辺りに刺繍された『奥州筆闘』の文字を見て、首をかしげたけど。奥州にはそんな四字熟語あったんかな?
「そ、そっか、つとめちゃんな、オッケーオッケー。極意とか以前に、巫女なら巫女に会った方が」
「オレは巫女にも兄貴にも会いに来だんだ!だから兄貴、オレに極意を!」
参ったな、ちょっと想いが先行してる感じや。こういう子には!
「──よしええやろ。極意でもなんでも教えたる!」
「ほんに教えでけるの!?」
ノリを合わせて会話する!ちょっと何言ってるかわからへんけど、多分『本当に教えてくれるのか!?』とかそんな意味やね?そう信じよう。恐らく合ってる。
「極意そのいち、ここは高耳神社の境内。それはわかるよな?」
「んだ!」
「極意そのに、ここには巫女が居る訳や。だからさっき俺に会った時みたいに、ここでこうして──」
「待ち合わせは、東京駅の南乗り換え口で良いんだよね?」
「う、うん……円耳神社って旗持って待ってるって。まあエルフだし一目でわかると思うけど……」
「了解!じゃあ行ってくるね!」
エルダ宛に偶に送られてくる、伊達政宗公が召喚したという、円耳神社の御祭神との文通の中で、ある日ウチに遊びに来るって約束を取り付けたらしくって。その御祭神がやってくる当日。じいちゃんのお客さんじゃないから、私が迎えに行く事になりました。
(伊達家と言えば、オシャレさんの代名詞みたいな所あるし!御祭神もきっとオシャレさんなんだろうな〜、だからおもてなしの東京観光は……代官山、行っちゃおうかな!一人で行くのはなんか怖いし、コマちゃんも藤君も付き合ってくれないし!)
おもてなしプランにひっそりと私の願望を詰め込んで。よし、完璧!いざ東京駅へ!
「ん?」
浮かれながらも拝殿の角を曲がって、参道に差し掛かった所で。私は見てしまった。玉砂利の上で、所謂ヤンキー座りをしている古めの制服に、スカートを履いた女の子。そしてどう見ても同じポーズの藤君。片方は顔見知りなんだけど、それにしては雰囲気が怖いよ!?知らんふり、目を合わせないように……。
「ヨウコソオマイリクダサイマシタ……」
「あっいましたぜ姉貴!ヤツが例の巫女ですぜ!」
「ほう、アレがかァ。オイ」
向こうからきたー!めっちゃ睨まれてるー!
「なァ、アンタが高耳神社の巫女なんだよな?」
ううっ、私より背が小さいのに凄まれると怖いよ……こういう女の子と話した事も、出逢った事も無いからどうしよう。藤君が姉貴って言ってたし、大阪に帰省したって言ってたから、お姉さんが着いて来たのかな?大阪だとこんなノリなの?藤岡家って元々そういう家庭なの!?
「は、はい……何か御用でしょうか……?」
「……さん」
「え?」
「姐さん!オレに巫女の極意を教えてけろ!」
「は!?姐さん?極意!?というかあなた誰!?藤岡君のご家族ですか!?」
藤君はなんだか渋い顔になっちゃった。けど目の前の子は、よくぞ聞いてくれました!みたいな顔で背中を向けて。ウチの社紋みたいな、そんなマークが描かれた部分を指差した。
「仙台産まれの仙台育ち、姓は小椿木、名はつとめ!円耳神社御祭神……円耳昆売命の巫女よォ!」
姓は小椿木って、藤君のご家族じゃなかったんだね?あんまり似てないとは思ったけど。それにしてもエルダの手紙だと、円耳神社に今は巫女不在って書いてた様な。どういうことなんだろう?
「えっ巫女!?円耳神社は、巫女不在だって聞いたけど!」
「姉貴!ナイス口上やで!……え?巫女不在?」
「よ、良かった小糸……まだいたのか!私の部屋にスマホ忘れて──」
エルダが来ちゃった!私がスマホ忘れたのが悪いけど、今は知らない人と知らないノリが!
「ヒッ……!?小糸がヤンチャな子に絡まれてる……!なんかマサもヤンチャな座り方してる……!」
なんだか四つ巴の展開になっちゃった!?誰か助けて収集つかないよ〜!!
「どうしようどうしよう小糸……!?こ、交番行く……!?」
「姐さん!オレに極意を教えてけろ!!」
「巫女不在……いやでも……よし帰るわ!小糸さん、これ大阪土産!冷凍してもええからみんなで食べてな!」
「落ち着こう、みんな一旦落ち着こう!藤君はちょっと残ってて!」
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』──なんだかもう、てんやわんやって感じです……。
方言を色々調べて書いてはいるんですけど、使い方とか間違ってたらごめんなさい!それとちょっとだけ、台詞とか話の流れを変えてます!雅には敢えて、ある情報をわからない形で伏せたいので!