出来る限り、原作から大きな齟齬が生じない様に、とは思っていますが……これが中々難しくて。
「えっと、つとめちゃんは中学生だけど、円耳神社の人……なんだね?」
「室内でもその座り方なんやな」
神社の入り口でわちゃわちゃしてた時から一転、俺も含めて平静を取り戻した後。つとめちゃんが待ち構えてた事情を聞く為、エルダの部屋へと招く事になった。俺はお土産を渡して、その場の勢いで帰ろうとして、普通に止められた。というか捕まった。ちゃっかりしてて流石やねぇ!
「な、なんで一緒に来なかったんだ?」
エルダの問いかけに、ここに座って待ち構えとった理由を白状し始めた。まぁその、特に白状って表現する様な悪い事はしてへんけどね?
「約束しだんだ、ついて行がねっで。けど、本当はオレも高耳神社さ来てみだがっだし……こっそり隠れでついで来た」
「ほーん、約束って?」
「ご、御祭神との約束を破って来たのか……!?」
「どうしても小糸姐さんと雅の兄貴に会ってみだぐで!」
「あ、兄貴かぁ」
雅の兄貴、中々に悪くない響きやな!舎弟が出来たというても過言やないはず。いやーなんか愛くるしいタイプの舎弟が俺にも出来たかー……ところで、女の子の場合でも舎弟って使って大丈夫なんかな?
「つとめちゃん。さっき巫女って言ってたけど、今は巫女さんいないんじゃ無かったの?」
「……ホントはオレ、まだ巫女じゃねんだ」
「その割には、随分気合いの入った特攻服やね?」
「これは気持ちだげなんだ。先代が宮司を務める様になってから、ずっと巫女不在なのに、オレが巫女になんのは認めねえっで」
高耳神社も、巫女不在の時期があったらしい。後継者不在で穴が開くってのは、切っても切り離されへん問題やね。俺からしたら、巫女になる許可を誰から貰うのかとかー、正直わからへんけどね。
「そうなんだ……何で認めてくれないんだろ?」
「わがんねけど……きっとオレが未熟者だから……」
「いーやつとめちゃん、俺からしたらめっちゃ凄いで!こっそり切符とか買ってさ、新幹線も乗って、そんで神様にバレへん様にここに来たんやろ?俺、スニーキングミッション苦手やから尊敬するで!歌舞いてるって奴やん!そんな友達居たらかくれんぼ楽しそうやなぁ!楽しく遊べるのに教える極意ないわぁ!」
言ってて思った、ちょっと無理筋な褒め方してんなーって。歌舞いてるとか、およそ歳下の女の子に言う言葉ではなかった。普通はその、『可愛い』の方が喜ぶって通説やけど。
「ま、雅兄ぃ!!」
つとめちゃんに関しては、呼び方変わるレベルの感銘を与えたらしい。選んだ選択肢は間違ってなかったんやな!サンキュー数秒前の俺!
「恐縮ッス!!でもまだ巫女としては、未熟者には変わりねぇ。だから姐さん!センパイ巫女として、オレに極意を教えてけろ!!」
「まず姐さんはやめて」
そんな事を言う小糸さんの顔は、緩みっぱなしのニヤニヤしっぱなし。さてはセンパイの響きに酔いしれてんな?
「私もまだまだ新米巫女だし、参考にするなら廣耳神社のひまちゃんとか!麗耳神社のいすずちゃんにしなよ!」
そういう小糸さんの巫女歴は、まだ浅い。本人の証言を思い返せば高校に上がってからと記憶してる。例として挙げられた二人の方が、巫女としては先輩も先輩。参考にすべきって言葉も理解は出来る。
向日葵さんは巫女歴も然ることながら、常にクールに振舞える。いすずさんは8歳から巫女になってる。いずれにしろ、場慣れはしてるに違いない。
「オレは小糸センパイと雅兄ぃがいい!聞いた事があんだ、エルダ様の相手を出来る人が一番すげぇって!」
「んー有識者、エルダの意見は?」
「さ、さあ……エルフの中でも最初に召喚されたから、かな……?」
エルダが一番凄いとかピンと来ぇへんな。年齢の話を信用するんやったらヨルデちゃんの方が1個上やし、ハイラは『お姉ちゃん』と呼ばせる位に離れてるらしいから、最初に召喚されたってのはちょっと違う、ような。
「エルフの中でもエルダ様の面倒くささは断トツだからって!!」
「待ってなにその理由……!?」
元気いっぱいで氏子さんとの交流は盛んやけど、勝手にいなくなるヨルデちゃん。眉目秀麗で一見気品良さそうに見えるけど、ギャンブルで素寒貧にしてくるハイラ。それに比べたら、怠けて籠るだけのエルダなんてマシな方では?
いや、趣味でもなんでもないゲームとか模型とか、朝でも夜中でも遊びに付き合わされるのは──うん、巫女的には面倒くさいか!
「こ、小糸とマサばっかり褒められていいな……!」
「これは褒められてるのかな……」
「照れるわぁ、とか言うべきやったか今の?」
正直驚いてる。人間には預かり知らぬ所で、エルフ同士の格付けが存在してる事に対して。
長い事生きてたら時代が変わって、価値観とかも変わると思うし。面倒くささの度合いも変わったりするやろ。知らんけど!円耳神社の御祭神が、どんな人かも知らんしな!
「あ、もう1時過ぎてるやん。疲れてるし帰るわ〜」
ふと、壁掛け時計を見上げて呟いた。朝イチで帰ってきて、お土産渡したら帰って昼飯。そのつもりやったのに、つい話し込みたくなる引力に引き寄せられたわ!さっさと帰って昼寝でもするか!
「ほ、ほんとだ小糸!!もう待ち合わせ時間過ぎてる!!」
「わああ本当だ!ちょっと私行ってくるね!?」
「うん?何処かに出掛けるん?」
「ま、待ち合わせ!!円耳神社の御祭神が遊びに来るの!!」
「あー、それにつとめちゃんが着いて来てたんか。こっそりと」
「センパイ巫女の極意は!?」
「そんなの知らないってば!」
余程焦ってるのか、後輩の頼み事を『そんなの』呼ばわり。最早センパイ巫女の矜持は何処へやら。まあ他所の神社とはいえ、神様待たてせるのは悪手やろなぁ。
「ま、待って小糸!私つとめと二人で待ってるの!?気まずいじゃん!マサは残ってくれないか!?」
「ごめん、長旅で流石に帰りたいかなぁ」
「じゃあつとめちゃん、来る?」
「で……でもオレ黙って来てるし……顔合わさねぇ方がいいかも」
「そ、そうだな!つとめは一先ず隠れておこう!あいつは約束破るのを凄く嫌うから!」
然りげ無く人見知りスキル発動。エルダは極力つとめちゃんと目を合わせずに、この場に隠れる事を提案する。まぁ黙って隠れて着いてきたんなら、無難やな?
「え?何で?素直に『着いてきちゃった』とか言えばいいじゃん」
「小糸はあいつを知らないからそんな事が言えるんだ!!」
「んだんだ!!」
旧知の仲であろうエルダと、巫女見習い?のつとめちゃんの太鼓判。血気迫る語尾が、その判を捺す勢いを物語ってる。
「うーん?まあいいや、じゃあよろしくねエルダ!藤君もお土産ありがとう!」
「怒られへんとええな〜」
そのまま本殿を後にした小糸さん、それに釣られて俺も本殿を去る事に。俺からは極意という名のはぐらかしを出逢った直後に教えたから、とどのつまり用無しになった。
「じゃあなエルダ、つとめちゃん。邪魔になるし帰るけど、なんとかなるとええな」
「あ、ああ!何処に隠そうか……ここは押し入れに……」
「オモチャばっかで入れねッス!エルダ様!」
小糸さんの後を追う形で、本殿を後にした。背中から聴こえる叫び声に、一抹の不安がよぎったまま。
「高耳神社は初めてですか?」
「佃島の頃に一度ね。月島に遷宮してからは初めてだよ」
隠し事が上手くいったと信じつつ、私は円耳神社の御祭神が待っていた、南乗り換え口に足を運んで、ウチまでの道案内を買って出た。
大遅刻したっていうのに怒らないし、大人の対応?ってやつで気を遣わせないようにしてくれて。『祭神と言えど、自分の事位自分ですべきだろう?』だなんて!エルダに聞かせてやりたい台詞まで!ちょっと失礼だけど、他の御祭神とも比べちゃいけない位にまともな神様です!
「エルダは相変わらず、本殿に引き籠もっているのかい?」
「そうなんです!大きな神事以外では、境内から殆ど出なくて」
「手紙には外の話が書かれる事は殆ど無かったが、全く……もう少し、社交性を身に着けてくれるといいんだが。小糸君以外ともね」
「あはは、全く困った御祭神で……」
まるで学級委員長でしょ?真面目だし、文筆が趣味なんだって!だからこそ、反りが合わなさそうなつとめちゃんを、巫女として認めてあげないのかな?
そうだつとめちゃん!隠れるとは言ってたけど、上手く隠れたかどうかわからないし。とにかくバレない様に気を付けないと!もうエルダの部屋の前だけど、何処にいるんだろう?
「ただいまエルダ!お迎えしてきたよ!」
「お、おかえり……ひ、久しぶりだな?200年前とは随分雰囲気が変わったなあ……」
「そうかい?君も元気そうで安心したよ、エルダ」
部屋を見渡す限り、つとめちゃんの姿は見えない。一見見当たらないけど、外に居るのかな?なんにせよ上手く隠れたみたい!ナイスエルダ!
「ま、まあ座れよ……長旅で疲れたろ?」
「そうですよ!こちらにどう──ぞ」
向かい側に座って貰おうと気遣い、炬燵布団をめくった所で私は見てしまった──床にへばり付いて、声を漏らさない為、必死で口をへの字に結び。ヤドカリみたいに身を潜めたつとめちゃんの姿を。
いやめっちゃ汗かいてるよ!上手く隠れたって言っても炬燵の中は暑いよね!?よりによってそんな暑苦しい所に潜んでたの!?キッチンの方がまだマシだよ!
「ん?どうかしたのかい?」
「イエナンデモ!」
ヤドカリさんに悪いとは思ったけど、思わず布団をめくった腕を振り下ろした。危うく隠し事をバラす所だったよ!まだ中学生の女の子が、言いつけを破って勝手にやって来たなんてバレちゃったら……優しそうな御祭神だから、優しく諭してくれそうだけど!
“エルダ!よりによってなんでこんな足元に隠したの!?”
“失くした物はよくコタツの中で見つかる、つまり隠れるには最適の場所ってワケ!”
アイコンタクトで会話してみたけど、それだと同じ理屈で見つかっちゃうよ!
「や、やっぱりこちらへどうぞ!今朝ジュース零しちゃいまして……掃除はしたんですが!」
「そうかい?それならそうしようか」
上手い具合に言い訳出来たし、とにかく話をそらさないと!えーっとえーっと、なんか長話になりそうな……!
「あ、あれ?昔は眼鏡なんて掛けてたか?」
「これかい?度は入っていないんだ。ただの格好つけさ」
私のキラーパスを受け取ったのか、身なりに目をつけたエルダ。ナイスだよ、どうにか時間を稼いで、ここからつとめちゃんを逃さないと!
「ああ、伊達眼鏡か……」
「伊達眼鏡?政宗公が度なしの眼鏡掛けてたの?」
「い、いやそういう訳じゃないんだ……それが出来たのは20世紀に入ってからだし」
「私は伊達政宗君に召喚されたんだ。彼は太閤様への弁明に、死装束で行くような派手っぷりでね?江戸の頃はそういった派手な振る舞い、派手な出で立ちをする人を『伊達者』と呼んだんだ」
伊達、ってそういう成り立ちなんだ!よーしその調子でどんどん話それちゃえー!
「『男を立てる』『美しさが際立つ』などと言うだろう?その立て、立つが変化して『立て眼鏡』そして『伊達眼鏡』と、なったんだろうね」
「へ〜……」
「ん?」
思わぬ豆知識に、思わず感嘆の声が漏れてしまった。私じゃなくて炬燵の中から!
「今、炬燵の中から聞き覚えのある声が──」
ちょっとつとめちゃん、この調子で誤魔化し通せると思ったのに!逃げてもらう為に会話へ注力して貰う算段だったのに……こうなったら!
「あ!藤君!藤君が来てるんだよねエルダ!?あーえっと、よくエルダと遊んでくれる人がいるんです!猫の物真似とか得意なんですよ!?」
「えっ……!?あ、うん!さっき炬燵の中に入って行った気がする……物真似の精度を上げたいって言ってたし!」
ごめん藤君!勝手なキャラ付けしちゃったけど、今日だけは許して!
「フジ、クン?それはもしかして、最近手紙に出てくる様になった──マサ、と呼ばれている男の子の事かい?」
えっ?エルダってば、藤君の事も手紙に書いてたの?ひっ迫してる時に思うのは変だけど、そっか。手紙に書く程嬉しかったんだね、遊び相手が出来た事が。やっぱり会わせて良かったぁ!
「はい!エルダとは趣味が凄く合うんです、ゲームとかも一緒にやってくれて!」
「そうか、その雅君が来ているのか……」
「うん?ま、マサがどうかしたか?」
「いや何、小糸君に会うのも旅の目的の一つ。そう小糸君には話したのを覚えているかい?」
「あっはい、お迎えに行った時に仰ってましたよね!」
「最近のエルダの手紙には、君の名前と共に、良く『マサ』という名前が挙がるものだから。その雅君の顔を拝むのも目的の一つだったのさ?なんせあの、引きこもりのエルダが懐く人間だ。今ここに来ているのなら是非、会わせては貰えないだろうか」
「「えーっとぉ……」」
どうしよう!藤君はもう帰っちゃったみたいだし、今から呼び寄せても時間掛かっちゃうよ!とりあえず、『じんじゃにすぐきて』……よし送信、きっと来てくれるし、それまで時間を稼がないと!
「ふ、藤君!まずは猫の物真似、披露してあげてほしいなぁ〜!?」
代わりにつとめちゃん……なんかそれっぽく鳴いてみて!?
「に……っ……にゃ〜ん……」
炬燵布団の隙間から、掠れる程に小さなつとめちゃんの声。お願い、信じて!
「成る程。色々と、良く似ているね?炬燵に入るであろう所も猫そっくり。手紙で読んだ通り、ユーモアに富んでいるのは本当みたいだ」
良かった初撃は翻せた、それじゃあ次のリクエストは──。
「なんてそんな完成度で誤魔化せる訳ないだろう!!出てきなさいつとめ!!」
「ヒッ」
翻せてませんでした!今日一番の大きな声、優しいエルフだと思ったけど……叱る時はちゃんと叱るタイプみたい。
あれ?これ誤魔化そうとした私達も叱られるパターンなんじゃ!思わず顔を青くする私達を他所に、いそいそと炬燵から出てくるつとめちゃん。その眼前に伊達眼鏡の御祭神が立ち上がった。
「つとめ、どうして高耳神社にいるんだい?」
「そ、それは……」
そっと伊達眼鏡を外して、つとめちゃんを見据える眼力は、蛇や蝙蝠すらも後ずさりしそうな迫力。
「仙台で留守番していると、約束したべ?」
「い、いや、これはええど……そう!修学旅行の下見で──」
さっきは今日一番の大声だと思っていた声量を、どう聴いても上回る怒声が、高耳神社に木霊した。
「うそこいでっど!!!!ごしゃぐどあんこたれェッ!!!!(意訳:嘘をついてると、怒りますよお馬鹿さん)」
「……つとめちゃん関連で、なんかあったんかな」
帰宅した直後、小糸さんからメッセが来たと思ったら……平仮名で『じんじゃにすぐきて』とだけ書いたメッセが。
普段なら『エルダの面倒お願い!今日はプラモー!』とか、『コントローラー持参だって、よろしくね?』とか。どんな遊びか、何が要るか送ってくれる人やし念の為、駆け足で神社に。文章打ち込む余裕も無くなる様な、そんな事件やったら助けなあかんし、何も無ければそれでええしな。
走って約10分。神社までやって来たんはええけど、少し異様やった──端的に言えば、騒がしい。祭とかで賑やかなんじゃなくって、誰かが怒りをぶち撒けてるって感じ?高耳神社の関係者には、大声で怒鳴るタイプの人は居ないと思うんやけどなぁ。とにかく、声のする本殿の方へ!
案の定、音源はエルダの居住空間やったんやけど……とにかく凄くうるさくて、人によっては腰を抜かす感じやった。ここに入って行くんは勇気いるなぁ?まぁ、緊急の案件やと思って、障子に手を掛けて、いざ!
「っし、小糸さん来たで!えらくやかましかったけどどないし──」
「まっだおめえは!!いづもいづも目上の言うことよォぐ聞げど言ってっぺ!!あっぺとっぺなごどばりかだってるどな、ごしゃぐど!?!?(意訳:また貴女は、普段から歳上の言いつけを聞きなさいと言ってますよね?訳のわからない事ばかり言ってると、怒りますよ?)」
そこには涙目なつとめちゃんを叱る誰かと、完全に蚊帳の外な小糸さんとエルダが我関せず、って感じで気配を遮断しとった。
いやこれどういう状況?取り敢えず誰かを刺激せんように、縮こまる二人に事情を聞いてみよか。
「良かった藤君、来てくれた!」
「な、ナイスタイミングだぞマサ……?」
「俺にはあんまりナイスとは思われへんけど、どういう状況なん?あの人、何言うてるかもわからんし」
「と、とりあえず!円耳神社の御祭神を止めてくれないか!?こういう時はマサが頼りで……!」
「あのやかましいのが御祭神?ってか人をクレーム対応の道具に使われてもな。いやまぁ、止めるけど」
聴き取った感覚を信じるなら、なんか叱りつけてる神様らしい人に顔を向ける。この神様らしき人、俺等の会話も聴こえてへん。
堂々としたヤンキー座りに、スカートというよりも紺色の袴。黒を基調とした白い線の入ったインナーに、白いトレンチコートみたいな外套。おまけに肩からチェーンでぶら下げた、丸眼鏡。そしてどう見ても──態度以上に尖った長い耳。
疲れてて鈍ってたんかして判断が遅れたけど、既視感が出てきた。つい最近、いや今日出逢った中に、そういう特徴に合致するのが一人居ったな。そう思い至ってつとめちゃんを叱る人の名前を呼んでみた。間違いやなければ、いやもう間違うはずがないし、十中八九──!
「久しぶり。いや数時間ぶりやね、パンニャ」
「あんこたんね、っていぎなしよごっちょからいげすがねぇなおめぇ!?……ん?君はあの時の……駅にいた少年!?」
およそ数時間ぶりの再会は、あんなに物腰柔らかな優しいエルフの、なんだか見てはいけない一面を見てしまった気がして──お互いにバツの悪い幕開けとなってしまった。
「へーっ、東京駅てパンニャ様と出会ってたんだ!」
「せやで〜、最初はエルダと勘違いしてな。馴れ馴れしく話し掛けた自分が恥ずかしかったわ〜」
「わ、私がそんな人の居る場所に、出向く訳ないだろ!?」
「威張るとこかそれ?駅ではなんも言うてへんかったけど、滅茶苦茶荒れてたパンニャがその、円耳神社の神様やったとはなぁ」
「傾奇者は卒業したつもりなんだが……見苦しい所を、見せてしまったな……」
「ま、まあ、あんまり変わってなくて安心したよ……」
小糸さん曰く、つとめちゃんが黙って着いてきた事に腹を立てて怒り出したとか。怒りの持続時間、およそ10分。人間の怒りが6秒程度でピークになるらしいから、うん、エルフの怒りは長い!止めなかったらもっと長引いてたと思う!
みんなで同じ炬燵に入って、小糸さんが淹れてくれたお茶を飲んで、ほっと一息。パンニャが咳払いで喉の調子を整えた所で、俺にとってはネタばらしが始まった。
「少年もいるから改めて。円耳神社祭神、円耳昆売命のパンニャだよ」
「そしてオレはその巫女小椿木つと──ただの神社の娘、小椿木つとめ……だべ?」
「じゃあ俺も。藤岡雅、雅でええよパンニャ?あの時は野良で生息する、野良エルフ的なあれかと思ってたんやけど。やっぱり祀られてたんやね」
「ははっ、野良エルフか。祀られていなければ、それもあり得たかもしれないな」
「ぱ、パンニャ!怖い事言わないでくれ!……そもそも東京に何をしにきたんだ、パンニャ?」
「その事なんだが」
そう言ってパンニャが取り出したのは、文庫本程度の大きさの手帳。折れた角に付箋の数は、使い込まれた跡がよくわかる代物。
「私は本を読んだり、文章を書いたりするのが好きなのだけど……実は趣味が高じて、30年は前から小説もどきを書き散らしていてね?」
「てことは、それネタ帳やったりする?」
「察しがいいね、小説のネタになりそうな事をここにしたためているよ」
「へー……パンニャ、書く側にもまわったのか」
「つとめちゃんも、本が好きだったりするの?」
「さっぱり読まねぁー」
せやろな、なんとなくそんな予感したわ。つとめちゃん、読書家とは対極の位置にいそうな性格やもんねぇ?
「つとめは昔のオレの真似事ばかりしてねぁーでもっど本を読め」
「パンニャが自伝小説書いたら読んでけるよ」
「昔?真似事?」
「マサ、昔は伊達者だったんだよ、パンニャは」
「伊達者?」
現代のお洒落とかダンディーとかじゃなく、昔はヤンチャ、みたいな意味合いがあったらしい。さてはつとめちゃん、昔のパンニャに憧れてんな?出会った当初はまともなエルフやと思ったけど何処のエルフも、一癖はないといけない決まりでもあるんやろか?
「なるほどなぁ。でもええやん!現代にはギャップ萌えみたいな概念あるんやし、格好つけたパンニャ見てみたいわ!」
「流石雅兄ぃ!話がわがる!」
「つとめ!……話を戻すよ。最近はネットに小説を上げて見知らぬ人にも読んで貰っているんだが……ある日、東京の出版社から本にしないか?と打診されたんだ」
出版社から打診ってめっちゃ凄いな、プロデビューやん!神様が書いた本とかお守り代わりに持ってたら、なんかええ事ありそうやんか!
「おお……すごいじゃないか!」
「じゃあ小説家デビューですね、すごーい!」
「メールでやり取りしてたんだが、一度打ち合わせしようという流れになってね。丁度エルダと話したい事もあったから、打ち合わせも兼ねて上京したのさ」
「てことは大作家が目の前におるんや……へぇー」
「みんなよしてくれ、まだ刷ってもいないんだ」
「ち、因みになんてタイトルなんだ!?サブカル昆売命としては是非……!」
「妙な神名を増やさないでください、高耳昆売命よ」
サブカルというか、オタク昆売命ってな感じやけど。なんなら単にオタクって呼ぶべきな気もするけど。
「エルダも訊いてたけど、どんな小説なん?エルフの人生経験とか?あるいはエルフの歴史物とか?」
「そんな大層な中身ではないんだが、何か照れくさいな……」
パンニャの口から語られたのは、江戸時代を生きてきたとは思えない、いや江戸時代を生きてきたからこそ思い付く、そんなタイトルやった……。
「『独眼竜エルフのグルメ漫遊記~藩を追放された不老不死のオレは世界各地で旨いものに巡り合います〜』という、作品なのだけど」
──思ったより今風!発想が現代に染まっとる……!
「え……待って……?」
「エルダ?」
何が待ったなのか、いやまぁツッコミたいのはわかるけど。タイトルに不服やったりする?それとも題材を自分にしてほしいとか?
「ま……待って、私、それ、読んでる……ブクマに入れてるし、3時間毎に更新してるか見に行っちゃう……一話が公開されてからずっと」
読者かー!そういうパターンかぁー!何時やったか無双エルフって作品チェックしてるとか言うてたもんな、現代人の書くエルフ物とか読んでる位やもんなぁ!
「せ……先生!!パンニャ先生!!」
「先生は止めてくれないか……」
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体は──物書きなエルフを先生として崇めとる、普通の読者やった。
敢えてパンニャの名前を伏せて書いていたのですが、あまりにも難産すぎました……なんなら知ってる筈の人達までパンニャの名前を呼ばない感じで進行しちゃったので……とりあえず!つとめとパンニャの円耳神社組の二人組が、いつかアニメ2期で描かれると信じてます!可愛いですよ!
次回ですが、割とぼかして書く予定とはいえ……実際にあった重い内容が少し混ざります。私も原作でこういった話が出るとは思っていなかったので、プロットを見直している最中です。
結局、原作でも比率的には明るい流れが殆どでしたが、どんな重い話かは……原作最新話付近を読んでいただくか、次回で。