江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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21日に原作者のX(Twitter)を見て知りましたが、良かったぁ……!(江戸前エルフは電子、紙両媒体で続行確定)

原作でも直接言及されてはいませんが、実際に起こったとある話に触れています。それと、前回の時点で書くべきでしたが8巻でも未収録の内容です。電子や雑誌なら読めるのですが……それでも良ければどうぞ!


文筆家はかく語りき そのさん

 

 東京都中央区月島──江戸時代より、400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、そして清々しいまでの朝。

 

「ふう……独エル漫遊記はやっぱり最高だ……!」

「まだ読み始めたばかりやけど、飯の描写が拘りを感じられてええな」

「そうだろうそうだろう?世界各地での大立ち回りは爽快だし、先日完結した第一部ラストの壮絶な引き。第二部での、さらなる飛躍を感じさせる!」

「総括すると?」

「これは書籍化も納得の作品だ!!」

「──おはようエルダと雅君、二人して朝の5時から本人の横で詳細なレビューは……やめてくれないかい?」

 

 祀られたるその御神体は、異世界から召喚され──すっかり引きこもったエルフやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐずらもずら、すな(意訳:ぐずぐずしては、いけません)」

「「ぐずらもずら、すな」」

「なじょすっぺ(意訳:どうしようかな)」

「「なじょにが、なんねのすかや(意訳:どうにかなりませんかね)」」

 

 連休の最中、仙台の御祭神らしいパンニャと、未来の巫女見習い?のつとめちゃんが高耳神社に泊まりに来とった。だからエルダの所へ遊びに来ると、必然とパンニャに会うし、つとめちゃんにも会う。今はつとめちゃんを先生に、ちょっと古めの仙台弁を教わっとった。ヤンキー座り継続してるけど、座布団には座ってもええんと違うか?足裏痛いで?それに中身のパーカーはわかるけどその特攻服、私服みたいに着回してるん?

 

「思ったより暇やな、何しよっか?」

「んだっちゃ」

「んだっちゃだれ〜」

「仙台弁と関西弁が混ざってるけど、頭おかしくなりそうやわ……」

「ず、随分異国情緒溢れる言語が飛び交ってるな……」

 

 俺が来るよりも前に、起きて小説を読み漁っとったエルダが起きてきた。日記読ませて貰った時より夜更かししてへんか?まぁ、俺もたまーに夜更かししたくなるけどな!

 

「あ、おはようエルダ!」

「おはようござりす!エルダ様!!」

「ひっ!お……おはよう……三人で何してるんだ?」

「つとめちゃんが仙台弁、教えてくれてたんだ〜」

「極意を教わる御駄賃らしいで」

「姐さんも雅兄ぃも、飲み込みが早えっス!」

「だから姐さんは止めてってば」

 

 俺からしたら関西弁と標準語、そして新しい言語を学んでるに等しい。その上で標準語に翻訳した仙台弁を関西弁に、みたいな事を脳内でやってたからちょーっと疲れた!

 

「エルダはウチでダラダラばりしで、かばねやみだごと(意訳:エルダは家でダラダラばかりして、怠け者ですね)」

「実践派やな〜」

「何て言ってるかわからないけど、何故か伝わってくるぞ小糸……!」

 

 物は試しで、エルダに付け焼き刃の方言を放つ小糸さん。どうやらその真意を伝える事には成功したらしい。つとめちゃんから教わった例文、そのまんまやったけどね!例文にしても雑な扱いを受ける神様って一体……?

 

「学校じゃあんまり仙台弁使ってる子は居ねぁげどね。オレとあんねはずっとパンニャと一緒だったから、旧い訛りが出ちまうども」

「まぁあれや、傍にいる人の影響受けるのは必然って事で」

「パンニャ様、つとめちゃんには仙台弁だもんね」

「コテコテな方言ってどの地方でも減るもんなんやねー、それでも仙台弁を使い続ける所。俺は好きやで?」

「まんずまんず、これはパンニャのおがげだ」

 

 俺の地元は、別に方言が絶滅したとかそういう事はあらへんけど、もっと方言が強めな地域があるのも事実。大阪以外の事情はわからへんけど、どこでもそういう話はあるんやねぇ?

 

「あれ?そういえばパンニャは?」

「確かに見かけへんな、何処行ったん?」

「エルダが朝に寝てから、出版社へ行くってさ!」

「ああ、書籍化の打ち合わせか……」

 

 夜明けと共に神社から離れてたから知らんけど、旅の主目的を果たしに行ったらしい。エルダと途中まで読んでたけど、長生きしてた分の積み重ねとか知識とか。タイトルからは想像もつかない様な読み応え、そこが俺には刺さった。初版でも刷られたら買ってもええかな!

 

「でも意外やなーエルダとパンニャがなぁ」

「ど、どういう意味だ……?」

「気が合う所が意外だよね、なんかわかるかも!」

「ん……そうか?」

「だって昔はヤンチャしてたんでしょ?パンニャ様」

 

 昨日のでなんとなくわかってたけど、素のパンニャはかなり荒れる。というより小糸さんの言葉を借りると、『ヤンチャ』やからエルダとは合わへんよなぁ。ってのが率直な感想でして。

 

「ま、まあエルフの中ではパンニャが一番歳下だし……あいつが召喚されてすぐの頃は……あれこれ相談に乗ってたからな」

「へー!可愛い後輩って感じだね!」

「ま、まあそんな所かな!フフン」

「因みにパンニャは何歳なん?」

「確か……ヨルデの奴と丁度30年離れてるから、592歳。と言った所だろうか」

 

 確かエルダが621歳らしいから……うーん、人類の理解は及びそうもないな。計算出来ても脳が理解を拒んでる!てか後輩が出来た所を喜んでるけど、やっぱり似た者同士やね?巫女も神様も。

 

 そんな時、俺達が駄弁っとった拝殿の引き戸が開かれた。年下エルフのパンニャが帰ってきたらしい。

 

「ふう、ただいま帰ったよ……いやぁ東京は何処もお祭りみたいに混んでるね」

「「おかえりなさい!」」

「お、おかえりパンニャ……!打ち合わせどうだった?」

 

 そう問われたパンニャは白い歯を煌かせ、口元にピースサインを持ってきて。

 

「正式に書籍化が決まったよ。すぐに第二部の執筆に取り掛かってくれってさ?」

「凄いやんパンニャ!ホンマに小説家になったんやな!」

「わー!デビューおめでとうございます!」

「つ、ついに続きが……!」

 

 どうやら笑顔に見合った報酬を貰えたっぽい!これはお祝いムード一色やな──と思ったら、反対の札がある少女から挙げられた。札の主は、本を読まないつとめちゃん。

 

「はん!そんなもんにかまけて、神社の方はなじょすっけな!」

「ほいな心配しねでいいべ、つとめは巫女でもねぁんだから」

 

 随分ぴりついた空気に、思わず眉を顰める。あちらさんとしては、諸手を挙げて祝える内容でもないらしい。

 

(小糸さん、学んだ仙台弁が正しかったらさぁ)

(神社はどうするの?いや巫女じゃないでしょ?って感じだよね、そもそもなんで巫女にしたくないんだろ?)

(き、気が合わないとか……?)

(読書家とヤンキーやもんなぁ)

 

 反りの合わなさそうな二人を尻目に、様々な憶測が飛び交う拝殿。あーつとめちゃん、涙目になりながら反論してるやん!ここまでエルフ側の立場が強いのは、前例が無かったから新鮮やなぁ。俺の知る神社はどこも巫女が権力握ってそうやし、対処法も知らん、どうしたもんか。

 

「し……失礼しま〜す、お姉ちゃん、ちょっといい?」

「あー小柚子くん!!」

「小柚子ちゃん!!」

 

 そこに小金井家の台所事情を操る末妹、小柚子ちゃんの登場によってひりついた空気は何処へやら。両者譲らずの曇天は、雲一つない晴天へと様変わり。見当はつくけど、この二人の反応からして。

 

「夕食も朝食もとっても美味しかったよ!なあつとめ!」

「んだっちゃ!レストランみでだ!」

「ありがとうパンニャ様、つとめちゃん!」

「気は合うみたいだね……」

「そうだな……」

「合うっていうか、胃袋掴まれた上に合わされたって感じやね……」

 

 小柚子ちゃん、恐るべし。神をも落とす料理の腕前は、地方が変われど通用するらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小柚子もお茶飲む?」

「うん!」

 

 高麗や小糸さんとつるみ出した頃も、女子の比率で居心地の悪さを感じてた、けど慣れたつもりではいた。だから俺は、女子に免疫が出来たつもりではいた──それでも今は多い!女子が多い!男は俺だけやのに、小金井姉妹とエルダとパンニャとつとめちゃん。虚勢を張ってはいるけど、共通の話題が無いとちょっと居辛い!

 

「あ、あのねお姉ちゃん?算数の宿題でわからない所があって」

 

 さ剣呑やった雰囲気に割り入った事を察してたのか、本題を上手く切り出せずにいたらしい。その証拠に抱えた教科書を、姉へ恐る恐る見せとった。隣で座ってる俺も助太刀しよか!

 

「公式一つじゃ解かれへん面積かぁ、小学生にしては難題やな」

「こいなのは円の中心から半径を引けばいいのや、補助線で扇形と三角形を作って……」

「あ、そっか!すご〜いつとめちゃん!」

「つとめは成績だけはいいんだよ、将来は何になるんだべな〜」

「オレはパンニャの巫女になんの!!」

 

 解き方を知らんと小学生には難しいレベルの答えを、あっさりと示したつとめちゃん。パンニャに揶揄われてるけど、成績が良いって言われる程の中学生なんやね?

 

「中学生とは聞いたけど、三年生辺りなん?」

「んだ、でもうぢの学校はエスカレーター式だがら、進路はもう決まってるんだっちゃ」

「エスカレーター式?」

 

 その意味を改めて問おうとした所で、パンニャがネタ帳を取り出し……栞みたいに挟んだ写真を見せてくれた。

 

 

「お嬢様学校だからね。素行良ぐしてんだべ?」

 

 

 手元の写真に写るのは、見覚えのない一人の女の子。眼鏡を掛けて、肩にまで掛かる髪を下ろした制服姿。話の流れとか、着ている制服でわかったけど、この女の子って!

 

「もしかしてそれつとめちゃん!?めっちゃ品行方正って感じやな!」

「おお……これつとめか!」

「カワイイ!普段は眼鏡なんだ!」

 

 いやぁ男子は三日ないと変わらへんのに、女子って一日で別人みたいになるから大したもんやなぁ。あれは小糸さんの巫女継承の日。一緒に見物しようとパジャマ姿で、髪も結ばずにやってきた高麗を、お姉さんか誰かやと勘違いしたっけな。あー恥ずかしい!

 

「ネタ帳に写真入れるのやめろってっぺ!!せめてこっちの写真にしてけろ!!」

「こっちはこっちでつとめちゃんらしさあるで、挟んであげたらええやんパンニャ?」

「そんなヤンチャなのいらね」

 

 妥協案としてお出しされたのは、夜露死苦みたいなノリの四字熟語と共に、堂々とヤンキー座りをする写真。個人的なつとめちゃんらしさで選ぶなら、俺はこっちかなぁ?

 

「い、いいじゃないかこっちも」

「え、エルダ……?」

「ほ、ほら。まだ高耳神社が佃にあった頃にウチに来た事があったろう?その時に何処から持ってきたのか、大量の花火を打ち上げたじゃないか」

「ここら辺で花火やろ?隅田川とか?」

「いや、境内で」

「「「境内で!?」」」

「なにそれマブいべ!!!」

 

 思わず小金井姉妹とシンクロしてしまう所業。いやそれヤンチャの次元を超えてへんか!?下手すれば神社も他所も燃えてるやん!

 

「か、神御衣をちゃんと着ずに巻いたさらしを見せて……袴は履いていたとはいえ、中々格好もヤンチャしてたぞ?」

「うーんとその、男が見ちゃいけない感じやったんやね」

「あ、あれは、その、お世話になってたエルダに凄いお礼をしなくちゃって、気絶させるつもりはなかったんだ」

「すげーテンパって言い訳してるやん」

「気絶したんだ……」

「そりゃするよ!この私だぞ!?」

「こっちはこっちで自慢にもなってへんやん」

 

 なんでエルフってみんな一癖二癖もあるんやろ?こんなのが世界各地に点在してるとなると……あかん、考えたくもない!そもそもなんでそんなヤンチャになったんや?

 

「そこまでされる位に面倒みてたんか?」

「そんなつもりは無いんだが……パンニャが召喚された頃は、傾奇者が沢山いたもんな……」

「いや、私自身は傾奇者のつもりは無かったんだよ」

「自覚なく境内花火は傾奇者やで」

「かぶきもの?今でいうヤンキーの人みたいな?」

「そうそう、派手な身なりや髪型で狼藉を働くのがいっぱいいて……こわかった」

 

 しかしエルダ曰く、命を惜しまず仲間との義を大事にする傾奇者もいたらしい。無法者と嫌われつつも一方では、伊達とされる生き様を称賛されたりしたんだとか。つとめちゃんめっちゃ頷いてるけど、パンニャのそういう所に影響受けた感じかぁ。さては日常でもなんかやってんな、パンニャ?

 

「パンニャも一本気で根が真面目だったから、伊達者が性に合ったんだろ……そういえば盗んだ馬で走り出したことも……あれちゃんと返した?」

「ブラッシングして返しました!はい昔の話はそろそろ止めっぺ!」

 

 半ば強制的に話を打ち切った現傾奇者にして文筆家。つとめちゃんも残念そうにしてるけど、もうちょっと聞きたかったなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがエルダが黙って買った、めっちゃデカいおもちゃの……それの為に建てられた末社やで」

「これはこれは、からくり人形が霞む程の大きさだね」

 

 思い出話を切り上げた後、先輩は後輩に巫女体験をさせたいらしくて掃除から御朱印書き、破魔矢作りなんかも教えたい!なんて張り切り出し、つとめちゃんを連れて行ってしまった。小柚子ちゃんも同行したし、エルダも引きこもった。だからお手空きの俺が散歩がてら、パンニャに神社周辺とか境内を案内する事に。

 

 駅で会った時は理知的なエルフやと思ってたけど、本性を知った後やとちょっと緊張が走るんよねぇ。一対一やと余計に。

 

「外観はシンプルだけど、随分手の込んでいる……手紙でも布教されたが、機動武士ゴンゲムだったかな。これはその舞台の、宇宙をイメージしているのかい?」

「せやで、こうすればエルダもおもちゃも喜ぶと思ってな。俺が骨組み建てて、仲のええ友達もアイデア出して、宮大工さんが仕上げてくれたんよ!」

「宮大工もそうだが、雅君とその友達も手を?」

「うん、元々エルダの部屋におもちゃを仕舞う場所が無かったから……ってのが一番先なんやけどね!置き物としてそのままはなんか勿体ないし。どうせやるなら喜んでほしいやん?持ち主にさ」

 

 エルダはフラッシュモブやっけ?そういうサプライズとかは苦手らしいけど。経緯まで答えた所で、パンニャが眉間にシワを寄せた。これは怒るパターンっぽいなぁ?俺はともかく、宮大工の技をそんな道楽に使ったとか普通なら怒るよなぁ、とか思っていたら。

 

 

「──君は、どうしてそこまでするんだ?ただ一人、エルダの為に」

 

 

 その目に怒りの感情は一切無く、少し前、エルダがしているのを見た事があるような。目の前じゃなくて、何処か遠くを見つめて影を落とす、そんな表情で俺を見据えて。

 

「うん?そこまでするってどういう意味?」

「色々と曖昧すぎたかな、切り出し方を変えよう。エルダからの手紙で知ったが、雅君は大阪から来ているんだったね」

「せやで。中学卒業した頃に、親のツテで大阪から月島にな?高校はこっちで通ってるんよ」

「月島の事は……どう思っている?」

「最初は不安やったけど、なんか居心地ええってなってきたかな」

「大阪に帰りたい……そう思った事は?」

「そりゃあるよ!昨日パンニャと出会った時なんて、その帰り道やったで」

「何時か……嫌でもどちらかを手放す日が来るだろう。もしそうなったら、君はどうする?どちらを選ぶ?」

「なんややけに質問攻めしてくるなぁ」

「どうか、答えて欲しい」

 

 伊達眼鏡越しにでも分かる眼力、とでも言うんやろか。訴求力とも言える、そんな気迫が伝わってきて。何を聞きたいのかが飲み込まれへんかったけど、俺なりにパンニャへの誠意を以て、いたって真剣に答えた。

 

「──そりゃあ、どっちも選ぶかなぁ」

「どっちも?私は、嫌でも手放す日が来ると訊いた筈だよ?」

「極端やなぁ。まぁ確かに、大阪には家族も旧友も居るし、月島にだって高校の友達とか……すんごいお節介な江戸っ子も居るで?どっちか選べって言われたら当然悩むわ!」

 

 選ぼうと思ったら選べるやろうけどさ、それはちょっと違う。昔の俺やったら選んでたかもしれへんけど。でもパンニャの言う通り選ばざるを得ない、そんな天秤に掛けられたとしたら。

 

「もし俺が大阪に帰る時、買った切符が片道切符で、高校もそっちで通わなあかん!ってなったとしても……月島のみんなは忘れてやらへん。その逆も然りや、大阪の家族とか友達だって忘れる訳ないやん。だから、答えはどっちも!かな?」

 

 なんたってどっちにも、大事な人達がおるからな!

 

「──欲張りなんだな、雅君という生き物は?」

「ただ一人がどんどん増えてく欲張りなんやで、俺ってのはな!」

 

 駆け出しどころか、数十年来の小説家さんにとって使えそうな言葉……言えたかな?なんて、傲慢すぎるか!案内もし尽くしたし、もう帰る頃合いやね。

 

「そろそろ俺は帰るわパンニャ、サッと案内出来る所はもう無いし。第二部の執筆もしてたんやろ?」

「──そんな君になら、聴かれても良いのかもしれないな」

「聴かれてもって、何を?」

「私の旅には幾つか目的があってね?出版社との打ち合わせという目的、エルダ周りの人間を見てみたいという目的、そして最後。それを今から果たしに行くんだ」

「えーっと、その最後に同行して、って事?」

「ああ、なんせすぐそこだ……無理なら構わないよ。どうだろう?」

 

 あんまりちょっかい掛けるのは、個人的には好きじゃないんやけどな?でもなぁ、そんな尾を引く頼み方されたら……。

 

「パンニャも案外、欲張りやね?」

「ふふっ、誰のせいだろうね」

 

 その最後の目的ってやつに、同行させて貰おっかな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の目的がここ?」

「ああ、ここでしか出来ないんだ。入ろうか」

 

 着いていくという程移動した訳ではなく、やってきたのは本殿にある……エルダの部屋。ヨルデとハイラは、ここに来るのはついで。みたいな感じやったけど、パンニャの目的ははてさて?

 

「……何してるんだい、エルダ?」

「ヒッ」

 

 障子を開けた先に居たのは、まぁ当然エルダなんやけど。何をそこまで驚く必要が……?

 

「パ、パンニャ!生原稿出しっぱでどこ行ってたんだ!?もし悪いエルフがいたらどうするの……!?」

「散歩だよ。それに、悪いエルフとは……」

「巫女の仕事には入る余地ないからな、散歩がてら案内してたんよ」

「そ、そうだったか……二人共、お茶淹れたし、とりあえず座ってくれ」

 

 促されて炬燵にいそいそと入るパンニャと俺。今度は誰も、炬燵に隠れてへんみたいやね!

 

「そ、それにしても書籍化なんて……良く認めたな?」

「出版社が?」

「い、いや、パンニャがな?」

「私がエルダに送った手紙は、すぐに燃やすか切り刻むか……とにかく処分して欲しいと、頼んでいるのさ」

「パンニャを召喚した伊達政宗君は筆まめでな、追伸で『即火中』とは付け加えるんだが……」

「それなのに、後世でも綺麗に展示されてるのを見ると……私の手紙も怖くてね?置いて欲しくないのさ、雅君」

「まあ確かに、当時のお偉いさんの手紙とか、資料価値ありすぎて捨てられへんわなぁ」

 

 一応神様として?祀られてる神様の手紙とか、俗に言う神託、みたいになるし……普通は保管しちゃうよな!

 

「それで……私に手紙で話したい事があるって書いてたが、それが関係してるのか?」

「…………ああ、エルダには手紙ではなく、直接伝えたくてね」

「なあ二人が何話すか知らんけど、やっぱり俺は席外すべきなんじゃ」

「欲張りな君になら聴かれてもいい、私がそう判断したから誘ったんだよ。エルダも構わないかな?」

 

 思わずエルダが目線を送って来たから、こっちも送り返す。俺に判断を委ねるという由で首を縦に振ったから、それに同調するつもりで振り返して。

 

「マサなら口外もしない、大丈夫だろう。話って?」

 

 ここから先の話を、俺は本当に、聞いても良かったのか。同席しても良かったのか。聴いた後で、酷く後悔した。宮司でも巫女でもない、非力な人間だからこそ──。

 

 

「円耳神社を、畳もうと思っているんだ」

 

 

 許可が降りたとはいえ、簡単に背負っても良い内容やない。そう思わざるを得なかった。

 

 その言葉を、飲み込むのに時間が掛かったんやろう。エルダが口に運ぼうとした湯呑みの手を止めて、頭の中を整理して数秒、それでも数秒掛けて。漸く意味を整理出来たのか、パンニャに意味を問い質した。

 

「祭神を、辞めるってことか……?」

「ああ、だから書籍化の依頼を受ける事にしたんだよ。つとめの家は畑もやっている、神社が無くても困らないだろう。寧ろ宮司の作ったお米の方が評判が──」

「待てや……ほんならあんなに巫女になりたい言うてた、つとめちゃんはどないするねん!隠れて着いてくる程の、あの子の想いを蔑ろにしてええ理由ないやろ!?そもそも──」

 

 まるでつとめちゃんの想いを存在毎消しそうな語気に、これまでにない怒りが込み上げてきた。出てくる筈の無い罵倒まで吐露しかけた俺を、『マサ』と優しく窘めたのは、ずっと聞く側に周っていたエルダ。そう、これは本来、パンニャがエルダだけに話したかった神様同士の御用聞き。聴く許可は降りてても……口も罵倒も、挟む道理は部外者にはなかった話。

 

「──ごめん、熱くなりすぎたわ」

「謝らないでくれ、頼んだのは私さ。君の怒りも最もだ。それで、お米の方が結構評判でね。エルダと……雅君にも送ろう。是非食べて欲しい」

「おお、それは楽しみだな?佃煮が進むよ」

「……そっか」

 

 一度冷えた頭は、温まるのに時間が掛かるらしい。月島にやって来た頃の俺やったら飛び付いてたけど、素直に喜べない自分がいて。それがなんだかもどかしくて。

 

「……でもなんで、急に祭神を辞めようと思ったんだ……?」

 

 追い打ちというべきか。文脈まで飲み込んで、それを頭の中で反芻して理解してみろ、しても苦しくなるだけだ。そう仙台の神様が言わんがばかりに、そんな事実を修飾した──。

 

 

「──つとめには姉がいるんだ。今は海にいる」

 

 

 告げる側も、告げられる側も、聴く側にも救いの無い、理解して初めて沁み渡る残酷極まりない一言。

 

 馬鹿でいたかった。今は漁師なんだと思える程には。そうすれば、理解せずに済んだから。でも、仙台で、東北で、そして──今は海にいる。

 

 文豪だからこその、美しく飾りたてられた、儚き小椿木家の話。

 

「神社はやっと、建て直す事は出来たけど。あの子は帰ってこなかった」

 

 つい見せられてしまった、手元のネタ帳に挟んでいる、学生としてのつとめちゃん写真の下。誰かの写真がしわくちゃに、それでも大事に挟んであった。

 

「──なぁパンニャ、その写真ってもしかして」

「……つとめがあの子に似てくるにつれて、思い知らされる。どんなに祀られたところで、私には何も救えないのだと」

 

 口火を切ろうとして、湿気たライターでは燃えないのに、何度も火を付けようとしたけれど。掠れた火花が散っていくだけ……そんな湿気でも、灯る炎があった。

 

 

「小嘉とは一緒に、夜泣き蕎麦を食べたな」

「……こよみ?誰の話だい?」

「小金井小嘉、一番最初の私の巫女だ」

 

 

 小糸さんや小柚子ちゃんからは勿論、菊次郎さんからも、聞く事の無かった名前。そこからも……きっと、エルダしか知らない巫女のはなし。

 

「小鈴とは、潮干狩りに行ったな……あの子は平目ばっか狙ってたけど。小百合とは、初めてアイスクリンを食べた……私よりあの子が喜んでいた。小波とは、よく一緒に水団を作った……具材なんて無かったけど、美味しかったな」

 

 そして、俺ですら聞かされた事のある、小糸さんや小柚子ちゃんの──。

 

「小夜子とは、よくトランプで遊んだよ……ババ抜きがやけに強くてさ」

 

 母親の、小夜子さん。噛みしめる様に呟かれる名前と思い出、その一人一人に篭められた想いには。人間が一生を終えるだけでは片付かない質量が、年輪が重なっていて。エルフっていう種族の長寿性が……そこに刻まれていた。

 

「小糸のことは、いつも手紙に書いてるから知ってるよな?……私達には、巫女も氏子も、何も救えないよ。喚ばれて、勝手に祀られて、それだけだ。だけど」

 

 長命種に出来る事はただ一つ。でもその一つが、いつかは居なくなってしまう、忘れられてしまう人間にとって、何よりも嬉しい事。

 

 

「私達は、誰も忘れない。そうだろ?」

 

 

 聴いてるか昔の俺?エルフの存在なんて、コスプレの作り話やと思ってたし、神様に至っては昔から信じてへんかったやろ。まぁ確かに、ご利益あるんか?とか考えたら、今もあんまり変わってへんかもな。

 

 でも、月島に来て、エルダ達と触れ合って、なんとなくわかったで。何処からか喚ばれたエルフって存在が、巫女からも、氏子さんからも親しまれて、神様として拝まれる、そんなひとつの理由が──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もんじゃは初めて頂いたが、美味しかったよ」

「是非『独エル』にも出してください、先生……!」

「そうなるともんべぇまで書籍デビューを……?」

「だから先生はやめてくれってば」

 

 憑き物が取れたらしい。どこか晴れやかなパンニャ達と……巫女体験を終えた女子達と共に、遅めの昼食を採りに来た。うん、飯は笑顔で食べた方が美味いな!

 

「パンニャ様、巫女になるのを認めてくれるといいね!」

「んだっちゃね!」

 

 パンニャの想いを知ってか知らずか……巫女になりたい、そうせがんでいる、見習いのつとめちゃん。俺達よりも前を歩くその声と、その顔は、ここにいる誰よりも──前を見ていた。

 

「ふっ……」

「どないしたん?」

「ん?なんだ……?」

「受け止めてくれてまんずどうもね、姐さん、雅君」

「に、200年前に、姐さんはやめてくれって言っただろ……!」

「俺に至っては、ホンマに聞いてただけやけどな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色んな人が口惜しむ、連休最後の日。パンニャとつとめちゃん、高耳神社を後にする二人を、駅まで見送りにやってきた。ちょっかいを掛けるのは趣味やない!なんて思ってたけど、結局最後までお世話してもうたなぁ。

 

「東京楽しかっだな〜パンニャ!」

「んだなぁ、おだってお土産も買いすぎでしまった。見送りに荷物持ちまで、礼を言うよ?雅君」

「なんの!ここまで来たら一蓮托生、荷物持ち位任せてや!」

 

 最近知ったんやけど、ホームで見送る為、駅ナカのお店を見て回る為。電車や新幹線に乗らない人向けの入場券、なんてものがあるらしい。今日はそれを買ってみた!漫画やドラマで見送るシーンとか、電車乗らへんのによくホームに入れたよなぁ?とか思っとったけど、こんな素敵な物があったとは!

 

「雅兄ぃ、そろそろ荷物たがいでけるよ?新幹線がぐるし!」

「たがいでける?ああ、持ってあげるって意味やったか!おおきにつとめちゃん」

「んだ!パンニャも荷物半分たがいでけるよ……この封筒は何だが?」

 

 つとめちゃんが受け取った荷物に混じる……お土産の紙袋とは違う、紐で巻いて封をするタイプの封筒。糊で閉じる封筒しか見た事無かったから、ちょっと新鮮で。

 

「『独エル』の原稿だ、大事だから落どさねぁようにな」

 

 なんか、カッコいいよな!糊でペタってやるのと違って、重要そうな書類を仕舞ってる感じがな?一見紐の方が緩い感じやのに、なんでやろ?

 

 

「…………まずは祝詞、憶えねどな」

 

 

 祝詞。小糸さん曰く、氏子さんから神様への奏上……或いは神様から氏子さんに授ける言葉らしい。細かい話は理解出来へんかったけど、『神様に対して凄く丁寧に感謝を述べるの!相手はエルダだけど!』とかなんとか。パンニャのそれを憶えないと、って台詞の意味は、つまり……!

 

「オレの巫女になるんだべ?」

「やった────っ!!!」

 

 つとめちゃんの抱えた原稿が、紙吹雪が、新幹線のホームに舞った。落とすなよ?と念を押された、大事な原稿で祝われたそれは……とても華やかで、贅沢で。

 

「あ……」

「きれーに舞ってんなぁ」

 

 能天気に見惚れてしまったけど……ふと脳裏によぎったんは、パンニャの傾奇者としての一面。大事にしとけって言うてたもんを、舞台装置にしちゃってまぁ。これは怒鳴るやろなぁ?犯人は俺じゃないけど!

 

 

「──けっぱっていこうぜつとめ、あの子の分までよォ」

 

 

 隠れてたつとめちゃんを叱ってた時みたいに、と思っとったけど……口角を上げて、たった一言。なんか杞憂やったな!

 台詞に篭められたその真意を、しっかり受け止めたのか、つとめちゃんは俺まで貫かれる様な眼差しでパンニャを見据え、意を決した様な面持ちになっていた。

 

「うっす!!」

「頑張りや〜ってか原稿飛び散ってるけど、ええの?」

「良い訳が無いだろう!?つとめのあんこたれぇッ早ぐ拾え手伝ってけっから!!雅君も頼む!!」

「う、うっす……」

「もう拾ってるって!パンニャ!全部で何枚!?」

 

 

 宮城県仙台市……ササニシキやひとめぼれで有名な、宮城と仙台が逆だった頃もある、そんな場所に建立された『円耳神社』に──十数年ぶりの巫女が、就任したんやってさ!




改めて最新話まで読みましてね、永く生きているからこその葛藤とか、神社で祀られてはいるけど…無力な存在として描かれるエルフという種族としての葛藤とか、否が応でも、お見送りしすぎて、したくても出来ない自分に疲れちゃったんだろうな……とか。それでも、そんなパンニャを包み込むエルダがてすね、もうね。(語彙力)
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