江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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この話は今後の原作の展開次第では先に書くべきかな?って思ったので投下します!伏線というより、布石でしょうか?


エルフと巫女の神隠し

 

「──マサ、折り入って相談があるんだけどさ」

 

 その日は珍しく、神妙な面持ちで高麗が相談事を持ちかけてきた。『何処へ食べに行く?』とか、『犬と猫ならどっちだと思う?』程度の話なら、日常的に喋ってはいたけど。真剣な顔と声色は、まぁ珍しいなぁ?って。

 

「なんや改まって?小糸さん居なくなってから急に……二人じゃ話されへん事か?それなら外やなくて帰ってから──」

「ああいや、これはあたしが今思い付きで考えた事だから、そんなに真剣になる事でもねぇんだ……文化祭のステージに二人で立つのは、了承してくれたよな?」

「ん?あぁそうやな、その為に合わせとかやってるしな。それで相談ってのは、曲を変えたいとかそういう感じ?」

「あー曲はあれでいいぜ!折角練習した意味が無くなっちまうからな!今日の本題は、その、あたし達のクラスでやる……出し物についてなんだけど……」

 

 なんとなく失念してたけど、高麗は文化祭の実行委員であると同時に、クラス単位での催しやって当然ある訳で。それと半ば無理矢理道連れにしたステージと……あー確かにパンクしそうやな、やる事多くて。

 

「まぁ文化祭やもんな、クラス別の出し物とかあって当然か。しんどいならステージは俺だけでもええで?仕切り役もやってたら頭混乱するしな」

「待ってくれよマサ!一度引き受けた以上、江戸っ子としては最後まで貫き通すから!ってかそういう趣旨の相談でもねぇっての!クラスの出し物だよ出し物!!」

「お、おう、話逸らして悪かった!ステージの話やないのはわかったけど……クラスの出し物か、何をするか決まった感じか?」

「おう決まったぜ!今回はあたしのクラスでな──手品喫茶をやる事になったんだ!」

 

 なんやその、相反しそうな単語の出し物は……?喫茶店って落ち着きたい場所やのに、手品なんか見せられてもなぁ。いやお洒落な場所やとマジックバーとかあるらしいし、それならアリなんか?うーんようわからん!

 

「……手品、喫茶?中身がよくわからへんけど、決まって良かったな!んで、折り入った相談とそれの……何の関係があるん?」

「そこなんだよ。それで一つ頼まれて欲しいんだけど──」

 

 真剣な面持ち、真剣な声。普段の高麗とは想像もつかない程には真面目な相談……出し物が決まったなら、後はなんや?看板のデザインとか?それともメニュー?とりあえず、聞いてみよか!

 

 

「──マサ!なんか面白い手品、出来ねぇか!?」

「は?俺が?」

 

 

 いきなり何を言い出すかと思ったら、俺に、手品を?手品のての字も知らんのに?

 

「待てや高麗、なんで俺やねん!それなりに長い付き合いあってやで?俺の家やってなんべんも出入りしてんのに……スプーン曲げるみたいな手品を、俺がやってた所見た事あるか!?普通に面白い事言って、って無茶振りより無茶な事言ってるでお前!」

「ちきしょー!やっぱりマサでも無理か……一か八かで訊いてみたんだけどなぁ」

「一応訊くで?手品喫茶やる!ってクラスで決まったんよな、てことは誰かそういうの得意な人居るやろ?その人に聞いたら──」

「いねぇ!」

「えっ」

「いねぇったらいねぇ!なんせその場のノリと勢いで決まったから!」

 

 思わず気の抜けた声出してしもたけど、手品の経験者ゼロで?それやのにそんな手品喫茶とかいう、普通の喫茶店よりもハードル高い事やろうとしたん?普段の様子は知らんけど、高麗と小糸さんのクラスって、どういうノリで生きてるんや……?

 

「それなら学祭で良くある奴やれば良かったやん、執事喫茶とか、その……メイド喫茶、みたいな……」

 

 俺やったらその、寧ろ無難な奴が見たいというか……高麗の、そういう可愛い感じの……!フリルのカチューシャに、白いエプロンに、スカートはミニでもロングでもええ!

 

「普通の店はつまんねーだろ!?だから手品なんだよ!」

「俺は寧ろ普通の方が……ていうか、で、出来へんのをやろうとするなや!まだ時間あるんやから、簡単そうな手品でも練習して……」

「それを練習するからさ!だからマサ、あたし達に手品を教えると思って──」

「俺は出来へん言うたやろアホ高麗!!」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町に住む江戸っ子が通う、ある高校の文化祭は──手品の如く消えそうな気配がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小糸さん、高麗から聞いたけど……手品喫茶ってどんな手品すんの?」

「えっとね……コーヒーからお花が飛び出したりしてビックリさせるの!」

「そ、それはびっくりするな、小糸……」

 

 高麗以外の視点からも、手品喫茶の真意を聞いた方が助けるヒントが浮かぶと思って、巫女と神様の雑談にお邪魔させてもらった。なんていうか、何時もここからって位には……この部屋で色々話広がるな!

 

「花が飛び出したコーヒーとか、その、飲みにくそうやね?」

「の、飲もうとして花が顔にぶつかりそうだな……それに、手品なんて、簡単にマスター出来ないんじゃないか?」

 

 高麗がクラスに手品出来る奴いねぇ!って言うてたしな。師事を乞うにしても、独学にしても、暗中模索状態やと身に付くものも身に着かへんしな?

 

「そこが課題なんだよね!」

「高麗が俺に手品教えて、って懇願してたレベルやもんな」

「中核がグラグラじゃないか……!」

「そ、そこは各自の努力に期待ってことで、クラス会議は終わったよ!」

 

 あんまり偏見持ちたくないけどさ、女子ってそういう生き物なんか……?それとも江戸っ子特有の気質……?発言に対して裏付ける根拠とか、地盤とか、用意するもんやないか?みんなでやるもんなら尚更。

 

「ふ、藤君は!?藤君の学校のクラスは文化祭、何するの?私と高麗ちゃんで遊びに行ってみたいかも!」

 

 さらなるツッコミ所を隠したいのか、矛先を俺へと変えてきた。まぁ確かに、自分の事話したら、相手の事を聞いてきても不思議やないよな。にしても、俺のクラスねぇ……こういうのあまり喧伝するの趣味やないねんけど。

 

「俺のクラス?劇やで」

「ほ、ほう!マサは舞台役者か、どんな役なんだ?」

「…………中世の北欧を舞台にした、ちょっとした推理物のな」

「「ほう!」」

「に、出てくる探偵──」

「推理物で探偵って事は、主役だー!凄いね!」

「す、凄いなマサ!きっと事件を解決する時のカタルシスは──」

「の、予定やった」

「「えっ?」」

 

 よ、予定?と聞き返してくる二人に、ちょっとした悲しい現実を教えてあげた。

 

「実際に配役を決めて、通し稽古をするまでは、良かったんやけど」

「け、けど、なんだ……?」

「脚本家曰く、台本に書き込まれた標準語を読んだ俺の節々から、どうも関西弁の気配が隠しきれてないらしくて……中世に大阪の味付けは、相応しくないって……そのまま美術スタッフ、装飾担当にチェンジした」

「「oh……」」

「俺からしたら、何度も表舞台に立ちたくないし、小糸さんの所でもステージに立つから……バランス取れてるんやけどね」

 

 インスタの存在を知ってか知らずか……面白半分で担ぎ上げられて、こっちも面白半分で引き受けたものの。適材適所ってやつらしいな?大阪人には標準語は難しいわ!

 

「い、良いじゃないか、マサ!普段プラモとか作ってるし!」

「普段、って言葉が付くほどやっては無いけどな?」

「い、インスタだと表で喋ってるのにね……」

「寧ろありがたかったで?役者やと文化祭周る時間減るし、定期的に劇やらなあかんからな!」

 

 まぁどうせ、本番中に舞台装置壊れたら直さなあかんから、結局の所、自由時間減りそうやけどな?閑話休題!

 

「俺の話は置いといてさ、手品喫茶どないするか考えや……エルダ、江戸時代になんか手品とか無かったん?」

「手品か……江戸の頃は『手妻(てづま)』って呼ばれてたな」

「へー!江戸時代にも手品があったんだ!」

 

 小糸さんの文化祭を成功に近付ける為、エルダの記憶からヒントを探らせて貰うとするか!聞いた所で、その……再現出来るか知らんけど!

 

 手を素早く、稲妻みたいに動かす事から呼ばれた手妻。扇子や刀から水を出す水芸?とか、脱出マジックみたいな『釜抜け術』とか。踊りよりも知的な座敷芸、って認識で江戸の頃には確立してたらしい。エンタメってのは長い歴史があるんやな〜。

 

「中には生きた馬を飲み込む『呑馬術(どんばじゅつ)』とかもあったな……」

「馬を!?飲む!?」

「あれどうやってたんだろうなぁ……」

「喫茶店でやられたら食欲失くすなぁ」

 

 エルダですら知り得ない手品のタネ、なるほど、一子相伝の技って感じやな!

 

「手妻の中でも代表的なのは、『胡蝶の舞』だな」

「胡蝶の夢、なら知ってるけど……」

「胡蝶って、ちょうちょの事?」

「うん、紙を破ってちょうちょを作るんだ。扇子で風を送って、生きてるみたいに空中を舞わせる手品」

「へー!面白そう!」

 

 そう言うと、やり方を教えてやろうか?とエルダが折り紙をちぎってちょうちょを作り、扇子……ではなく団扇を取り出した。弓耳祭って印刷されてる、ちょっと欲しいかも。

 

「ふふんエルフは魔法が得意なんだぞ?手品だってお手のもんよ……!」

「神通力無いとか言うてへんかった?」

「そ、それとこれとは別物だ!いくぞ……それ!」

 

 紙で出来たちょうちょが、団扇で送られた風に乗せられて。まるで羽ばたく様に浮かぶその様は、本当にちょうちょが漂ってるみたいな光景やった。普通に凄いな!加減間違えたら落ちるやろそれ!?

 

「すごーい!ずっと浮いてるよ!なんかまるで──」

 

 精霊ちゃんみたい……と呟く小糸さんと俺が見たのは、その紙切れを背負うかの如く浮かぶ、精霊ちゃんそのもの。羽根が生えとるみたいで、これはこれで可愛いなぁ?

 

 "イリュージョン"

 

 久しぶりに会ったけどこの精霊ちゃん、なんというかノリがいい。動力源がわからんけど、質量のある物体も背負えると来た。もしかして手品師ってみんな精霊ちゃんみたいなのを飼ってたりするんかな!

 

「おひさやな、精霊ちゃん」

「精霊ちゃんが浮かせてるだけじゃん!」

「え……!?でも胡蝶の舞だって扇子で凄く上手に浮かせてるだけじゃん……!」

「その凄く上手が凄いんでしょーが!」

「今のはエルダより精霊ちゃんが器用、って感じしたなぁ」

 

 でも話を聞く限り、手品にも色々あって、種も仕掛けも本当にない実力で勝負するのもあれば……精霊ちゃんみたいな仕込みがあるもんまで。幅はありそうやな?その中で小糸さん達のクラスでやれそうなのはあるやろか?

 

「でも手品のマジックって元々は魔法の事でしょ!?なら私の精霊魔法だって手品でしょ……!!」

「精霊魔法は魔法でしょ!」

 

 俺からしたら、その……手品と魔法の境界線がわからんな……これは日本語の問題か?うーん……。

 

「ちなみに私は風の精霊で、ハイラは水の精霊でな?水芸が凄く上手いんだ!こう、いりゅーじょん!って感じで」

「じゃあもう精霊ちゃん達が手品上手なだけじゃん……」

 

 あのハイラにも精霊が居ったとは……なんかハイラなら、それでギャンブルの資金稼いでそうな感じがするな?現代でもチップ欲しさにやったりしてる??

 

「仕方ない、こうなったらとっておきを……うっ!」

「エルダ!?」

 

 立ち上がろうとしたエルダが、いきなり苦しみだしたで!?不老不死とはいえ、不整脈みたいなのは起きるんか!?

 

「ど、どないしたんエルダ!?」

「どっか痛いの!?ねぇ!?」

「み……耳が……」

 

 そう言いつつ耳の辺りを強く抑えるエルダ。耳の辺りが痛むんか?人間より長いから、末端が冷えて痺れるとか?待っとけよ、今すぐアカネちゃんを──!

 

 

「耳が長くなっちゃった!!」

「エルフ特有のじゃなくってえ!!」

「エルフ特有ってか、すげー既視感あるなこの手品……」

 

 

 拝啓、大阪の皆さん──現代人の考える手品は、エルフも思いつくネタらしいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「100均で手品グッズ買ってきたよ!」

 

 手品ド素人二人とエルフ特有の手品、それじゃあ何のアイデアも浮かんで来ないから!って小糸さんが手品について調べ、100均で手品グッズが売っていると知り……すぐさまそれを買ってきた。

 

「へー……最近じゃ100均で買えるのか」

「それならクラスの人達も出来そうやね!」

「中々本格的なんだよ!エルダ、藤君、練習するからお客さんやって!」

「はいよ」

 

 果たして、どんな手品を用意してきたのか。俺は座る位置を変え、エルダの隣に腰を下ろした。いざ、小糸さんのマジックショー開演!

 

「ここに何の変哲もないトランプがあります」

「ふむふむ……確かに普通のトランプだな」

「このカードを私の魔法のバッグに仕舞うと〜」

 

 魔法のバッグとは言うてるけど、それいつも小糸さんが使ってる……うん、なんでもないで!その魔法の鞄に潜ませた手を、するりと口元に持っていき……小糸さんが口を開いた、その瞬間!

 

「「口からトランプが飛び出すやつー!!!」」

 

 まぁ不思議!まるで滝みたいに……口の中からトランプが溢れ出してきた!手で引っ張る様にしてトランプを出現させる手品は、100均の完成度とは思われへん程鮮やかに決まった。いやぁ大した腕前やなぁ、食事時に見せる手品かどうかはさておき……。

 

「続きまして〜」

「続くんかい!?」

「何の変哲もない普通の鉢に〜このスティックで魔法をかけると〜……あぶらかたぶら〜!」

 

 小さな観葉植物を生ける為の鉢に、マジシャンが良く使ってそうな棒を勢いよく突き刺した。すると──!

 

「はいお花〜!!」

「「鉢からフラワーが飛び出すやつー!!!」」

 

 あら不思議、確かに何も入ってなかった筈の鉢から……真っ赤な花が咲いた!えっ普通に凄くないか、さっき開封したばっかりやのに動作に淀みがあらへんで??100均である事を抜きにしても、他の手品もやれるんと違う?それにしても、個人的に気になるんは……その手品のタネ!

 

「な、なぁ小糸さん!トランプのやつはどんな仕掛けなん!?」

「実はね、こっちのトランプは囮で──」

「ほー!長年の謎が解けたわ……!」

「こ、小糸小糸!お花は!?お花の方は!?」

「ここがこうなってて、こうしたらお花がパアって!」

「な、なるほど……!」

 

 まさか神社で手品のタネを知ることになるとはな、いやぁ……今日遊びに来て良かった!

 

「他には!?何か買ってきたか……!?」

「お小遣い足りなくて、この2個しか買えなかった」

「うーん……2個だけだとちょっと寂しいな……」

「喫茶店で披露するなら、もうちょい欲しいなぁ」

 

 完成度の話じゃなくて、手数ね!正直、小糸さん自体は思いの外器用で他の手品もやれると思うし!多分文化祭も上手くいくと思う!

 

「そうだ……!手品と一緒にジャグリングもやってみたらどうだ……!?」

「何言ってるんエルダ?」

「ジャグリングって、凄い数のお手玉したりするやつ?」

 

 ジャグリングってさぁ、手品というより大道芸やないか?いや見世物としては凄いのは間違い無い筈やけどさ……手品と一緒に?あかん、絵面が想像出来へん……。

 

「そうそう、後は傘回しとかな……手妻の話に戻ってしまうが、あれは手品だけを指した物じゃ無くてな?浄瑠璃の人形操りや、獅子舞に曲芸も、手品の一種だったんだ」

「てことはジャグリングも手品扱いやね!」

「そうなんだ!……でも私、ジャグリングなんて出来るかなぁ」

 

 えっ?やる気なん?トランプと傘回しと配膳を同時にやる気なん??器用なんはわかったけど、無茶が過ぎるで?

 

「イケるだろ……!獅子舞や曲芸は、太神楽(だいかぐら)から発展した物だし、小糸は巫女的な意味で有利と言える……!」

「だいかぐら?なんやそれ、なんで有利なん?」

「太神楽はな、江戸の頃に太神楽師……今で言う大道芸人が、各地の氏子の長屋とかを周って、獅子舞でお祓いや祈祷をした事から始まった、演芸の一つでさ?寄席が生まれてからは娯楽向けにもなったりして……だからその性質上、普段から神事を執り行う小糸には有利、と言ったんだ」

「おぉ、結構歴史深いんやな!」

 

 太神楽、ってのを知らんかったけど……意外とちゃんとした理由から裏づけされとった!うーんなぁエルダ、ホントに大丈夫やと思うか?何時もの面白半分で小糸さんに吹き込んでへんか?

 

「え?ジャグリングって神事なの?じゃあイケるかも……」

「現代やと最早ジャグリングと神事って、かけ離れた位置にあると思うで……?」

「うーん、それでもイケる気がしてきた!エルダも練習手伝ってくれる?」

「もちろんだ……!さっそくネットでやり方講座でも探してみよう……!」

「大丈夫かなぁ」

 

 なんとなく、小糸さんのクラスの様子が想像出来た。こうやって、出来るかどうかわからへん出し物を、文化祭で披露する事に決めたんかなーって。まぁ乗りかかった船や、俺もやれる事はやろっか……そう思いながら、エルダが使うノートパソコンを覗き込み、小糸さんの出来そうな大道芸講座を漁りだした──巫女の仕事か?これって……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、小糸さんの大道芸修行が始まった──ある時は、傘を回しながらその回転を利用してボールを落とさない様に。

 

「もっと、もっと傘を回して……!」

「こ、こう!?」

「すげぇ、球の数増やしても対応出来つつある……!」

 

 またある時は、回す手を片手にしたり。

 

「小糸さん!まだ1個だけ落とさずにやれてるで!」

「そ、その調子だ!そのまま傘の軸を意識して……!」

「け、結構慣れてきたかも!」

 

 最後には、歩きながら。

 

「こ、小糸!抜き足差し足忍び足だ!」

「身体に振動を伝えない事を意識するんや小糸さん!」

「な、なるほど!」

 

 巫女の、いや、小糸さんの本業ってなんやったっけ?と思う程──大道芸の修行は、日が沈むまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、修行の成果を試す時が来た。

 

「エルダ、歩きすぎて疲れたな?」

「そ、そうだな……なんだか喉も乾いたし……すみませ~ん、コーヒーください!」

「はーい!」

 

 舞台設定は、散歩で歩き疲れた俺とエルダが喫茶店に入った所に……小糸さんが給仕する、そんな設定。エルダと出掛ける時点で破綻してるってのは、まぁ見なかった事にして。

 

 部屋と繋がってるキッチン、暖簾の奥から現れた給仕役は──小糸さん。ボールを乗せた雨傘を片手で回しながら、頭上に鉢を置き、口にさっきの手品で使ったスティックを咥えながら、片手でコーヒーを入れたティーカップの……ソーサーを下から支えていた。何やるか分かってたけど、多い!情報量が多い!!なんでボールも鉢も落とさず歩けるん!?コーヒーもソーサーにはちょっとだけ溢してたけど、器用すぎひんか!?巫女から大道芸人にジョブチェンジしたら!?

 

「こちら、ご注文のコーヒーと……」

 

 流石に傘を回しながらは危ないと判断したのか、ボールを器用に箱に飛ばして傘を畳み。持ってきた鉢とスティックで、さっきも見せてくれた花の手品を披露してくれた。

 

「サービスのお花になります!!」

 

 袴の下に穿いてるらしいズボンのポケット、そこから何を取り出したかと思えば、先程切り刻んで用意した紙吹雪。

 

「イリュージョン!!」

 

 それを俺とエルダの前で撒き散らし、手品の成功を祝ってみせた。これが、小糸さんの思い描いたらしい、手品喫茶の流れ。正直その、素人から見れば、文句のつけようなんてどこにもなくて──。

 

「完璧だ……!」

 

 思わずあの小声のエルダが叫ぶ程、満足度は高かった。いや凄いな!凄い以外の語彙が見つからへん、とにかく凄い!これは文化祭レベルで出して良い代物やないって、もっと然るべきマジックバーとかで……!

 

「小糸さんめっっちゃ凄いなぁ!?文化祭、成功間違い無しやって!」

「これはもう、小糸カッパーフィールドと呼べるレベル……凄い手品喫茶になるぞ!!」

「えへへ~!エルダと藤君のおかげだよ!これで文化祭もバッチリ……ん?」

 

 手品の終了を見計らったんかして、丁度良いタイミングで、小糸さんのスマホにメッセが飛んできた。

 

「コマちゃんからメッセだ」

「高麗から?そういやあいつ今何してるんやろ?」

「クラスで手の空いてる子達で集まって会議してるんだ、シフトの話とか、どんな手品が出来る様になったか話するって言ってた!」

 

 おぉ、勢いで決めたとは聞いたけど、ちゃんと後日の話し合いもきっちりしてる。あれから小糸さんみたいに練習でもしたんかな?高麗の奴と、クラスメイトさんは。

 

「こ、コマちゃんからメッセか……」

「なんだろ?会議でも終わったのかな!」

「ちょっと拝見させてもらうで……どれどれ?」

 

 

『文化祭だけど みんな全然手品出来ないからゾンビ喫茶に変える事になったぞ』

 

 

 そのメッセの後に、ショッキング!と喋る可愛く?デフォルメされたゾンビのスタンプが添えられていた。

 

 船頭多くして船山に上る、なんてことわざがある。俺はその、高麗と小糸さんのクラスそのものには、関わってへんけど……船頭が仮に一人やとしても、ノリと勢いで行き先を決めた結果、行き着く先がどうなったのか。それがこのメッセに込められとる……そんな気がした。これが本当の──

 

「「「い……イリュージョン…………」」」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町に住む江戸っ子が通う、ある高校の文化祭は──手品がゾンビに化けたそうな。




今回、文章の長さの都合で少しだけ内容を変えました、詳しくは原作にて!

それと近場の書店で8巻がやっと買えたので読んでます!電子ではお目にかかれなかった表紙がカワイイ!
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