江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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これまでで一番直球なタイトルです!それと久しぶりにオリジナル要素の比率が高めになってます!


パンはパンでも

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町に住む──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。

 

「藤君に通用するかな?これ」

「マサならワンチャン深読みして、いや案外あっさりと解答を……一応関西人なんだからこの手のジョークはあっさり翻す可能性だって……」

 

 俺の知る限り、月島で一番姦しい幼馴染コンビとの帰り道。余程帰宅時間がズレない限りは、大抵俺か二人組のどっちかが待ち合わせて帰路につく。そんな日常を送っとった。

 

 毎回下校中に喋る雑談の中身は変わるんやけど……俺の直感が正しければこの二人、俺に対して何かを企んどる。挨拶もそこそこに、小糸さんと高麗が肩を寄せ合って、俺に聴こえない様にひそひそと会議してたから。なんか楽しそうにしてるし、聴こえてるぞ〜って指摘すんのも野暮やと思って──歩調は合わせつつも、ひたすら聴こえてへんフリをして、食べ損ねてた菓子パンの袋を開け……噛みちぎったパンと一緒に台詞を飲み込んだ。あー、今日も月島の空は綺麗やなぁ。

 

「藤君藤君!」

「なぁマサ!」

 

 ぼんやり空を眺めとったら、会議は終わってたらしい。ようやく話の輪に俺を招いてくれた。何時もの公園を通り過ぎる程の長丁場……待ちくたびれたで!菓子パン食べ始めたばかりやったから、もう少し会議延長しても良かったんやけどな?

 

「やーっと除け者扱いは終わったか、それでなんや?どんな企みや今日は?」

「それがね!……えっと……」

「なあ小糸、あたしから言おうか?」

「いや私から……ううんやっぱり二人で言おうよ!せーのでさ!」

 

 企んでるのは確定。そしてどうやら俺に言いたい事があるらしいけど……井戸端会議を終えたと思ったら、どっちのスピーカーから鳴らすか決めあぐねてた。小糸さんが口に出そうとしてた言葉は、喉でつっかえて出てこない辺り、そんなに言いにくい内容なんかな?もうそこまで遠慮される様な仲でもないのに。引っ越した頃を思い出してむず痒いな!

 

「どっちが喋るとか、そこはなんでもええけど……気を遣う様な要件やったら、後からメッセで送ってくれてもええで?その方が気楽やろ?」

「リアルタイムの反応が知りたくて!これは今が一番なんだよ藤君!」

 

 そんな魚の鮮度気にする小柚子ちゃんみたいな!てか今日はなんかまどろっこしいなこの二人?寝癖とか、恥ずかしいけどズボンのチャック開いてるとかなら……小糸さんは遠慮がちになりそうやけど、高麗がそれを見つけたら『あひゃひゃ!チャック全開じゃねーかマサ、それでここまで歩いてきたのかよ!いひひひうっへへへへ!』ってな感じで出会い頭に指摘する。絶対する。

 

 初期の頃ならそんな事高麗ですら言わへんかったと思うけど、自惚れでなければ……それなりに仲はええはず。それやのに、巫女は勿論……相棒ですら言い淀む内容って?

 

「何処から仕入れたネタか知らんけど、そこまで言うんなら今聞こか、なになに?」

「それじゃあいくね藤君!……パンはパンでも、食べられないパンはなーんだ?」

 

 傾聴姿勢に入ってたけど、意味を理解するまでもなく、身体に入れた力が抜けてしまった……思わず手に持ってた菓子パンを手落としそうになる位には。十中八九、日本中で一番使い古されたであろう……その愚問のせいで。

 

「えっ?」

「もう一度言うよ!パンはパンでも──」

「待て待て、聞き取れたって!聞き取れたからこその反応やねんて……公然と会議開いてたと思ったらお前等なぁ……」

「小糸が朝ごはんに納豆食ってて、それでその納豆のパックになぞなぞが書いてたみたいでさ!あたしですら間違えた難問なんだぜこれ!?」

 

 分かれ道の直前まで溜めに溜めて言う事がそれかい!小さい頃に一度は聞いた事あるそんななぞなぞ……答えなんて解るに決まって──高麗、今なんて?

 

「誰もが聞いた事あるそんななぞなぞが難問?間違えた?そんな馬鹿な話が──」

「だからこそ藤君にも聞いてみよう、って話になって!それで藤君、パンはパンでも、食べられないパンはなーんだ?」

「……因みに高麗は、なんて言って間違えたん?」

「おいおいマサ、それを聞いたら選択肢を一つ潰すのと変わらねーだろ?」

「むぅ、それはまぁ」

 

 どうやら自力で辿りつけ、とのお告げらしい。コンビのニヤけ面がそう語り掛けてくる……腹立つよりも可愛いが先に来るなぁ、この二人がやると……!まぁとにかく、手垢の付いたそのなぞなぞの答えは簡単や。料理をするなら、誰もが振るうであろうあの……!

 

「フラ──」

 

 いや待てよ?あのドが付くほどにすぐ直球勝負を仕掛ける高麗が間違えたんよな?思った事を口にしてしまうお隣さんの事や、恐らく例題通りに解答を導いて回答した筈……つまり──フライパンって答えた結果、安直すぎて間違えたんや!そうに違いない!

 

 フライパンではないとしたら、なんやろ?なぞなぞの答えとして成立するパンがあるとして……カビの生えたパンとか?チーズにもブルーチーズってのがある以上、もしかしたら……世界の何処かにカビの生えたパンがあるかもしれへん。それならアレルギー持ちの人にとってのパンならどうや?それやとそもそも問題としても、なぞなぞとしても成り立たへんな……人じゃなくてパンはなーんだ?って話やし。ところで問題となぞなぞって何が違うんや?どっちも問いかけって意味では変わらへん──!

 

「ぐぬぬぬぬ……」

「お、おいマサ?何もそこまで悩まなくても……」

「そ、そうだよ藤君!別に困らせたくて聞いた訳じゃないからさ!直感で答えて良いからね!?」

「直感以前に現在進行系で困ってるんやけど……!」

 

 あんたらにそのつもりが無かったとしても、困ってるんよなぁ俺が……!食べられないってなんや!?なぞなぞってなんや!?それ以前に問いかけて来た意味とは……うん?『直感で答えて良いからね?』やと?

 

「あっ!」

 

 これだけ悩ませといてその台詞が出るって事は──それはつまり、回答者として解釈してええんなら、真っ先に頭の中に浮かんできたパンを答えれば正解に辿り着く。そういう訳か!そうや、きっとそうに違いないな!なーんや、そもそもカビとかアレルギーとか、なぞなぞ如きにそこまで悩まなくても良かったんや!俺も結構頭固くなってたんやな〜!あー恥ずかしい、そもそも昔から何度も聞いた事のあるなぞなぞに……捻りもへったくれもある訳ないやんなぁ!それなら答えは簡単や、パンはパンでも食べられないパン……その正体は……!

 

 

「答え、分かったで!パンはパンでも食べられないパンは──フライパンや!」

「はっずれー正解は〜『他人のパン』だよ!」

「あっははは!散々悩んで結局あたしと同じ答え出してんじゃねーか!」

「んな事やろうと思ったわ畜生!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偏見っぽくなるけど、納豆メーカーらしい粘り気のある罠にまんまと引っ掛かった俺。それから高麗。小糸さんがQRコードで読み取ったという、なぞなぞの答えを見せてくれたけど……正直モヤモヤは晴れへんかった。なんやねん他人のパンってさぁ!なぞなぞというより倫理感の問題になってるやんか!大人の食べ物やからって、フライパン以上に捻った答え出してええと思うなよ!?

 

「他人のパン、ねぇ」

「まだ気にしてるのかよマサ?あたしですら割り切ったんだぜ!そもそも悩んでねーけどな」

「落ち込むっていうかさぁ高麗!なぞなぞって答えわかったらああ〜!ってなるもんやん?さっきのはどうもなぁ……」

 

 モヤモヤはある程度晴れたものの、なぞなぞとしての在り方に疑問を抱くままの帰宅となってしまった。因みにその謎を持ちかけた小糸さんは御祈祷の予約があるんだとか……なんやろねこの……勝ち逃げされた気分!それと手元に残ったのは、食べかけの菓子パン。小糸さーん!こんなのだけ残されても嬉しくないでー!?

 

「どうしようも無いなぁこの感情、とりあえずこいつを食べきって……うわぁパッサパサ」

 

 袋を開けてから暫く、帰宅までずっとそのまま外気に曝されたパンは──元々のモチモチ感を保ててはいなかった。そりゃそうやね、ゴメンな菓子パン。

 

「しゃーねーな、マサは」

「何がしゃーねぇって!?」

「それ、見せてみろよ」

 

 高麗の言うそれってのは、視線的にはこの菓子パン?見せてもしゃーないって言うか、見てもしゃーないんやけど……。袋に新しいなぞなぞでも書いてたか?

 

「これ?別に見た所で──」

「あむっ」

「なっ……!」

 

 高麗の前に突き出した菓子パンをどうするのかと思いきや……ちょっと高麗!見せろとは言われたけど食べろとは言ってへんで!?餌やりじゃないんやで!?

 

「高麗お前なぁ!」

「うえっ、ほんとパッサパサだな……まぁ二人で食えば良いだろ」

「パッサパサだな、じゃないやん!小分けの奴ならまだしも、俺の食いかけのパンをいきなり……それもお前こ、ここの……」

 

 よりにもよってこいつ、人が口をつけた所に噛みつきやがって……これじゃあただのか、かんせ、間接キ……!

 

 

「ケチくせーなマサ、少し食われた位で」

「そういう問題じゃあ──」

「ていうか知らなかったのかよマサ?あたしはな──他人のパンだって食べられる!!!へへっ、嬉しいかよ?」

 

 

 それさっきのなぞなぞ!納豆がどうこう言うてたけど、さてはお前が考えたなぞなぞやったりせぇへんよな!?QRコード読み取ったのって言うてたあの画面も……出来のええ大噓やったり──!

 

「決め台詞みたいに言うな!別の意味で嬉しいわ!!」

「別の意味?なんか違う話とか含んでたか?」

「さーて後処理してくれるんやったな、こいつを半分にしてっと!ほ〜ら高麗、お前の好きなパッサパサのパンやで〜!」

「別に食えるだけで好きじゃねぇよ!ってかあたしの方が多くねぇか!?」

「はい残念でした〜元々俺が食べとったからこれで丁度半分で〜す」

「はぁ!?汚ぇぞマサ!今日の晩飯の唐揚げ分けてやるつもりだったのに……もう分けてやらねぇ!」

「──いやぁ半分に見えたけどちょっと多かったな、もうひと口分ちぎっとくわ!仲良く食べような!?」

「なんか現金だな、今日のマサ……」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきた下町で行われた──パッサパサのパンと、江戸っ子の家庭の特製唐揚げによる物々交換は……菓子パンなんて比べ物にならへん程、唐揚げが美味かった。




この所ずっと6,7000字超えの文章ばかりだったので、短めの作品を意識していたのですが……纏めようとすると逆に難しくなりますね!よく最初の頃はこの文章量で書けてたなぁ……と思います。

これくらいの長さの作品、書き易いといえば書き易いのですがいかがでしょうか?
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