今回の時系列ですが、文筆家はかく語りきの前日譚のつもりです。でもそうじゃなくても通用する内容かも?
それと遅くなってごめんなさい、言い訳は後書きで。
朝に目覚めて、新幹線と電車を乗り継いで──俺が育ってきた町へやってきた、そんな地元の土。いつ振りかは覚えてへんけど、俺が通っとった中学校、遠足のお菓子を買い漁ったスーパー、困ってた時にかかりつけにしてた病院。どれもこれも出発した時以上に古ぼけて見えた……これが懐かしい、って事なんかな?
そして、色んな空気を吸って周った。通ってた校舎は工事中の幕で覆われていたり、帰省前に会いに行くと伝えた友達の家は、新しいカーペットが敷かれていて。それでも置いてあるテレビやゲーム機はそのままで……懐かしくて何時間も遊んでしまった。実家で出されたカレーの味は、自分で作ったり高麗と出掛けたカレー屋で食べた物とは比較にならない程、慣れ親しんでいて。
あかんあかん、なんかノスタルジーに浸ってる!折角帰省したんやから、もっと色んな事せぇへんとな!とは言っても、やり残した事はあとひとつしかあらへん、それは……!
「連休とはいえ、平日の電車は空いてんな〜」
何気もなく呟いた独り言が、電車の揺れる音でかき消される。幾ら平日の人の少ない時間とはいえ、空気が溢れる様な声を聴き取る人はいない。乗客も隣の車輌にようやく見かける、それ位にはまばらやった。
俺は運良く連なった連休を利用して、故郷に凱旋……いや、帰郷していた。凱旋って言える程大層な事してへんしな?オタクなエルフの遊び相手してる程度やし!
これから行く場所は、帰省中の最終目的地。いつぞやの封筒に書いてあった住所から察するに、大阪に住んどった頃でも足を踏み入れた事の無い地域……土地勘もあらへん上に縁もゆかりもあらへん場所やから、少しだけ冒険心をくすぐらせてくれる。知らん郵便番号とか、見るだけでなんかワクワクするんよね、月島に来た頃もそうやったし!なんでやろな?
そうこう物思いに耽ける内に、電車がブレーキの余韻を残しながら駅に入って停車した。こまめな電車は、乗客を逃すまい!とばかりに各駅停車で人を迎え入れる。
「えーっと、あと5つ先の駅で……降りたら真っ直ぐ、どっちの出口やろこれ」
電車が止まったのを見計らった訳ではないけど、降りてからの道順を確かめてみた。地図で調べてみた感じ、入り組んだ場所ではなさそうやけど。
「降りたらわかるかもしれへんけど、微妙に遠いなぁ……」
「──その地図……廣耳神社へのご参拝ですか?」
「えっ?あっ、まぁはい。目的地なんで」
少しばかり知恵熱を働かせすぎた、気付いたら、乗客が片手で数える程度にはいたらしい。目線は地図に落としたまま、思わず座る場所をずらした……うん?なんで話し掛けて来たんや?こんな閑散としてるんやから、他に座る場所ある筈やねんけど……観光客とでも思われたか?流石は地元大阪、東京では見掛けないタイプのお節介さんやね!
「ウチもこれから向かうんで、良かったらご案内しますよ」
気持ちはありがたいんやけど、地図が読まれへん程方向オンチではないし……ここは丁重にお断りするか。気遣いしてくれた人に目線逸らしたまんま突っぱねるのも失礼やから、ちゃんと目を見て──。
「お気遣い痛み入ります、初めて向かう所ですけど、別に困る場所でも……ない……んで」
空いてる電車で、わざわざ俺に話し掛けて来た理由。地図を見て、目的地を見抜けた理由。偶然にしては出来すぎというか、同じ時間、同じ車輌に。視線を上げた先に居たのは、そこに立ってるのは、間違いなく……大阪版小糸さんとも呼べる、あの……!
「……ひ、向日葵さん!?」
東京で繋がった縁を、大阪で再び繋げるつもりやったのに、向こうからやってくるとは思ってなくて。ちょっとしたアポなし訪問のつもりが、逆に訪問された様な気持ちにさせられて。電車の中で訪問って言うのも変な話やなぁ……。
「神社へのアポなし突撃以来やろか、ご無沙汰やね?雅さん」
廣耳神社の……15代目やったっけ?その巫女の、小日向向日葵さんがそこにいた──絵文字の無い向日葵さんを見て思ったけど、別人かと間違うレベルでクールやなぁ?
「ええなあ雅さんの所、体育祭の代休も含めて連休になったんやね」
「お蔭様で安く新幹線も乗れたから……思いがけない時期に家族や旧友達に会えてラッキー!って感じやったで」
偶然とはいえ、本来は神社で再会しようと思ってたから多少面食らったものの、大阪の巫女さんと再会する目的があった事には変わりない訳で。神社への道すがら、思い出話に華を咲かせる事にした。心なしか、神様が絡んでない向日葵さんは、クール度合い増し増しな印象やった。これが神様から解放された向日葵さんか……!
「折角来てくれるって分かってたら、おもてなしとか用意してあげられたんやけど……すみません雅さん」
「そんな事気にせんでええよ!正直思い付きで参拝しようと思ってただけやし、アポなしと変わらへんねんから……」
「それじゃあ、東京旅行の時の意趣返し……つまりはお互い様、って事になるんかな?ちょっとややこしくなってきたわ」
意趣返しって言うけど、そんな迷惑掛けられた事に対する仕返しに……ってつもりじゃないで?高耳神社には、いや菊次郎さんには、お客さんとして話通ってたらしいけど。でも小糸さんとエルダはビックリした!って言うてたし……うーん、なんにせよメッセの一つでも入れるべきやったよなぁ?久々の帰省でちょっと浮かれてた俺のミスやわ!
「そんなつもりは……ひとまず話変えるけど、今日は神事の予約でも入ってるん?今は学校やと短縮授業って感じの、昼休みすら前の時間やんか」
「一件だけ祈祷するけど、社務所の対応とか、帰宅してからはウチの担当になるし。それに今日終わらせたい宿題もあるんよ」
「向日葵さんはハードスケジュールかぁ……思い出話に興じるには、間の悪い時に来てもうたなぁ」
「ウチも出来ればそうしたいけど、こればかりはどうしようもないかなぁ……重ね重ねすみません、雅さん」
「謝るべきは俺やって!連絡先知ってたのに、帰省する事も神社に行くのも、伝えるべきやったしさ?」
本当にアポとって、余裕のある日に帰省したら良かったなぁ?連休が伸びたからって帰ってきたのは愚策やった……!
「しかしそうなると、お賽銭投げ入れて終わりになりそうやなぁ」
「あっそれやったら!ウチ以上に会いたがってるであろう──」
「あろう?」
「御神体がいてはるから、宿題終わるまで相手してもらえたら嬉しいかもしれへんなぁー?普段は一人であちこち出かけるんやけど、雅さん来たってわかったら、遊んで遊んで!ってなりそうやからなぁー」
「ははっ、それはまぁ、一庶民としてはえらい光栄なこって……」
廣耳神社の御神体なんて独りしか居らんけど、御無沙汰してた神様へのアポなし訪問……ましてやサプライズ訪問となったら、大騒ぎは間違いない。はてさて、どんな遊びをせがまれるやら?
「頼むで雅さん?ウチんとこの小さな神様の──子守りを」
「一応神様やのに、子守りって言うてもうてる……」
なんとなく、本当になんとなく、普段の巫女としての苦労を、今の台詞から垣間見た気がした。エルフの巫女になると、毎日気苦労が絶えへん、と。小糸さんともいすずさんともまた違う、違う苦労を伴うんやね……。
「着いたよ雅さん、廣耳神社へようこそ」
「おぉ〜なんか神秘的……」
お互いの昔話や学校での近況を喋り合う内に、いつの間にか目的地の廣耳神社へと辿り着いていたらしい。神社特有の空気感やろか、鳥居の前から空気が変わった様に思えてならなかった。あっちは下町風情に囲まれた中で社を構えてるけど、こっちは閑静な住宅街……強いていうなら都市部の一角。存在するとは思えない場所、そして街の風景として馴染む神社に、思わず息を飲んだ。
「何処の神社も、足を踏み入れただけやのに……住んでる世界が違う様に錯覚させられるわ」
「そんな大げさな!小糸ちゃんから聞いてるけど雅さん、エルダ様と遊ぶ為に良く神社へ行ってるそうやんか。神社なんて慣れてるんと違うん?」
「それとこれとは話が違うで向日葵さん、あっちはもう庭みたいなもんでな?ありきたりな表現やけど、生活の一部みたいなもんなんよ!それでも違う世界やな〜って感覚は、偶に感じるけどな」
「ウチは此処も高耳神社も、そんな風に思う事あらへんかったけど……普通の人からしたらそんなもんなんやろか?同じ地球の空気やのに」
向日葵さんの言う普通の人ってのは多分、参拝客とか氏子さんとか。所謂神職じゃない人やと思う。正直賽銭箱の前どころか、本殿で神様と遊びに興じてるからなぁ……この時点で普通ではないんやろうけど、肩書き的には普通なんよなぁ。
「そりゃそうやと思うで?日常生活で立ち入る事の無い場所な上に、これからお祈りするってなったら……場の空気の受け取り方は幾らでも変わるわ」
「──初対面の時は普通の男の子って印象やったけど、雅さんって……意外とロマンチストやわ!って言われたりせぇへん?」
「なんの話や急に、てか意外とって……さぁ?内心は知らんけど、面と向かって言われた事は無いなぁ」
別に空想的な話をしたつもりはないんやけどなぁ、思うがまま話しただけでロマンチスト扱い。普段のノリで喋ってるだけやのに……もしかして、高麗や小糸さんからもそんな風に思われてんのかな?良い意味やとええな。
「ロマンチスト云々はよう分からんけど……境内の空気が神秘的なんは多分、明朝から掃除してたり、祈祷頑張ってたり、氏子さんとの繋がりを大事にして。そんな巫女さんの力あってこそやと思うけどなぁ?」
「……こういう事があけすけと言える人やから、小糸ちゃんもエルダ様に会わせてあげたんかなぁ」
「えっと、向日葵さん?ホンマになんの話?」
そっぽを向いて、少しだけ照れくさそうに頬を掻く向日葵さん。結局ロマンどうこうは分からんかったけど、まぁ悪い話では無かったらしい。ひとまず安心出来そうやね!
「ふぅ……ヨルデも感謝はしてくれるんやけど、『おおきに向日葵!』で終わりやしなぁ。原稿用紙一枚とまでは言わへんから、もう少し長めの……」
「あはは……せや、そのヨルデちゃんはどないしたん?今は神社におるん?」
遊びに行ってなければ、或いは迷子になってなければ、って枕言葉は省いた。メッセで何度かやり取りしたからわかるけど、神事が終われば一人で遊びに出掛けるのが廣耳様の生態……らしい。うん、エルダとは大違いやわ!
「流石に御祈祷の予約があるから、それまでは神社から出たらあかんよ?とは言うてるんやけど……ヨルデの事やしなぁ」
「なんやろな、エルフって一癖はないと気が済まへん種族なんやろか」
活発すぎて、境内では抑えきれない情熱を持つヨルデちゃん。それを毎日気遣わんといけない向日葵さんの心労や如何に……そんな向日葵さんが、大きく息を吸ったと思ったら。
「ヨルデー帰ったでー!お客さんもおるでー!」
「うおっ声でかっ!」
廣耳神社のインターホン、音量の大小は自由自在。この境内だけでも確かに広いから、少し叫ぶような声量でないと聴こえへんかったりするんかな?その呼び鈴を鳴らしてから、暫く……ドタドタドタ、と床板を踏み鳴らしてるであろう、軽快な音が聴こえてきた。
「お、来た来た」
「えっ?」
「ウチの神社でこの足音。一人しか居らんのよ」
「……高耳神社では有り得へん判別方法やな」
東と西の文化の違いに改めて驚きつつも、熟練の巫女さんと神様としての在り方に、絆の深さが窺えた。まぁ月島の神様は、足音鳴るどころか動かへんけどな?その分何処に居るかなんて決まってるんやけど!
そんなこんなで東の神様に思いを馳せてると、大声なインターホンに反応した神様が、拝殿の垂れ幕から顔を覗かせてきた。
「おかえり向日葵ー!なんやなんや〜?今日はがっこー終わるのはやい、なぁ…………ハァーッ!!」
向こうとしては、廣耳神社の巫女さんを出迎えただけなんやろう。最初は月島で出会った頃のノリやったけど……目線が俺と合った途端に、声のトーンが下がり、そこから一気に急上昇。まるで、未知との遭遇を果たした宇宙飛行士みたいなリアクション芸……素人目線やけど、100点満点やな!
「久しぶり。元気しとったか?ヨル──」
「マサや────ん!!!めっっちゃ久しぶりやんか!!!なんでなんで?なんでウチに来てるんー!?ははーん、エルダに愛想尽かして大阪帰って来たんか?それともホームシック拗らせたんか?ええでええで〜ウチの神社はそういうのは大歓迎やから、なっ!!!!!」
「……色んな誤解を生んでるのは置いといて、まぁその、相変わらず元気そうで良かったわ!」
思わず台詞に割り込んで、驚かれる程のリアクション。サプライズのつもりでは無かったんやけど……ここまで喜ばれるとは思ってなかったから、心の中で看板を掲げておいた。ドッキリ大成功、って。
俺の故郷でもある大阪府のとある場所……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『廣耳神社』、祀られたるそのご神体は──その日の気分であちこち動き回って……人々と交流を深める、明朗快活なエルフやった。
数十話振りの廣耳神社の二人が登場した回です!帰省するなら出さない訳には行かないですし後編に続きます、後編にちょっと比重を重めにしました!
ここからは物語に関係ありませんが、まずは謝罪を。更新が随分と遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
一旦匿名投稿を解除してまで、活動報告にほぼ同じ内容の文章を書いたのですが、ネットでも現実でも心の折れる出来事に遭遇してしまって、執筆活動を含めた趣味も実生活もしんどくなっていました。
今は多少は立ち直れたのでプロット作成などは行えているのですが、落ち込んでいるからか、楽しげのある展開が上手く書けているか不安です。それでもこれからも読んで下さる方はよろしくお願いいたします。原作も拙作もまだまだ続くので!