江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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前回も書きましたが、不調で投稿が長引いてすみませんでした!少しだけペース戻ったかな?

本文ですが、みんな関西弁なのでちゃんと書き分けられているかどうか……


Go West! そのに

 

「……のどかやねぇ」

 

 廣耳神社にやって来てから、暫く──俺は境内で一番、暇を持て余していた。ヨルデちゃんの興奮冷めやらぬ!ってな感じの再会もそこそこに、一人になってしまったから。向日葵さんは『御祈祷が終わるまで近所の散歩とか、境内でも見学してもらって……』って申し訳無さそうに告げてくれたけど、御神体を落ち着かせ、アポ無しの来客に謝って、祈祷にやってきた氏子さんを案内して──心無しか、クールというよりホットな立ち振舞いを披露していた。成る程、こなすべき要件が押し寄せてくると、巫女さんはあんな顔になるんやね?

 

 普段のノリで神事を見学させて貰おうとしたけど、『神様の遊び相手やったら引き受けてもらうんやけどね?』って巫女さんに言われて。要するに神事に関係あらへん、一般人の立ち入られへん拝殿には……お邪魔する事は出来へんかった。そりゃそうやんな!お祈りは遊びと違うんやから、プラモ組み立てる様な心持ちで入ったらアカンのが普通なんよ!そう思ったら、高耳神社って規則めっちゃ緩いんやな……今度、それとな〜く、神社の在り方について訊いてみよか。小糸さんとエルダに。

 

「ホンマに暇やなぁ」

 

 一番近くにあった蕎麦屋で昼食を済ませて、それから戻ってきたけど……拝殿から聴こえるのは、向日葵さんらしき人の、恐らく祝詞を読み上げる声。えらい長丁場やな……俺は巫女やないから、正直祝詞の一字も一句も知らん。日本語なのはわかるけど、何言ってるかわからへん。神様との付き合いがある以上は、俺も覚えるべきなんかなぁ?

 

 そんなこんなで、暇潰しに祝詞について検索してみた。ネット曰く、言霊って概念を大事にして練られたのが祝詞で、声に出すと良い事も悪い事も起こり得る!場の流れも好転もさせられるし悪化もする!って考えが元にあるらしい。だからこそ、一字一句を丁寧に扱うつもりで、間違えることがないように奏上される……今聴こえてくる向日葵さんの奏上も、小糸さんのそれも、声色が真面目な感じになるのもそれが理由と。

 

 えーっとつまり?読み上げる時点で緊張の糸を張る……大事なお仕事な訳か、責任の重そうな仕事やな──そういう事なら、今から向日葵さんに差し入れでも買いに行こか、喉に優しいやつでもな!そうなると、小糸さんとかいすずさんにも何か差し入れるべきかな……?

 

「マサー!待たせたな!!終わったからあそぼー!!」

「この声……ヨルデちゃん?」

 

 道中見掛けたコンビニにでもひとっ走り……しようとしたら、俺の知る限り、一番賑やかなエルフの声が耳に届いた。知らん間に奏上する声が聴こえへんな~と思っとったけど、暇潰しが想像よりも長引いたんやね──廣耳神社の今日の神事は、既に終わっとった。

 

「ごめんな雅さん!えらい待ったんと違う?」

「俺の事なんて気にせんでええよ、時間ぴったりな暇潰し出来たし!拝殿から出てきたって事は、もう祈祷は終わったん?」

「うん!二丁目のよしこの所の孫娘がな?車に乗れる様になったんやけどな?」

「つまりは交通安全の御祈祷なんよ」

「ほーん……なるほどな?」

 

 信心深いというか、御守りだけで済まさずに祈って貰う辺り、この神社も随分信用されてるんやねぇ。孫の代まで手を合わせに来てる所とか特に!

 

「その孫娘さんも、安全運転出来るとええな……それじゃあ向日葵さんは──」

 

 

「なぁなぁマサ、向日葵!今日は何して遊ぶ??折角月島から来てくれたんやから、一緒に遊べる事とかしたいなぁ!!!」

 

 

「──向日葵さん、ヨルデちゃんの切り替え、めっちゃ速くない?外から聴いてた様子やと、こんなテンションで喋るシーン無かったで」

「一事が万事、こうなんよ。氏子さんへの神事も真剣にやるけど、その分、氏子さんとの交流も活発にやるねん……何回それで迎えに行ったか」

「い、一長一短なんやな」

 

 隣の芝生は青く見えるって言う様に、小糸さん視点やと、ヨルデちゃん並に氏子さんとの交流を……向日葵さん視点やと、エルダ並に大人しく……なんて、お互いに思ってたりして。いすずさんは……写真集刷る程の入れ込み具合やしなぁ、実際どう思ってるんやろ?言動とは裏腹にハイラが一番って思ってる節、あるんよなぁ。

 

「あのなぁヨルデ?ウチはやる事終わったら応対も宿題もやるって、昨日から言うてたやろ?」

「ええやんか今日くらい!特別にマサが来たんやで?遊ばな損やんか!」

「気持ちはわかるけどあかんって、宿題に至っては提出来週やねんから……特別にその雅さん、来てるんやろ?終わったら合流したるから、それまで仲良う二人で遊んどいてや、な?」

「……ほんまに?ほんまに終わったら一緒に遊ぶ?」

「遊ぶ遊ぶ!電車で約束しといてあげたから、雅さんの言う事ちゃんと聞いてな?」

 

 確かに偶然乗り合わせた電車で、遊び相手のお願いされたけど……まさか、こんな風に駄々こねるのを見越してお願いしてきたんか?凄いな向日葵さん、手練れのヨルデちゃん使いや……!

 

「そういう事やからヨルデちゃん、向日葵さん来るまで俺と遊ぼうや!」

「そ、それならしゃーないな向日葵は!宿題なんてやってたら、折角来てくれたマサと遊ぶ時間減るのになぁ!」

 

 なんかこの二人の中で、俺が一大コンテンツみたいに扱われてる気がする……買い被られる程面白くないで俺は?しかも遊ぶって言ってもギターは持ってきてへんし、お喋りに興じる事しか思いつかへんよ?

 

「あー残念やわぁーウチも遊びたいけど社務所も宿題も待ってるわぁー……てな訳で雅さん、暫くヨルデの事頼むな?」

「了解、宿題はわからんかったら手伝うで?」

 

 ストロングスタイルな演技で同調してから、すれ違い様に子守りを頼みかけ、この場を後にした。任しとき向日葵さん!これでもエルダで経験値積み重ねてるからな、大阪の神様相手でもやれる所、みせたるわ!

 

「はよ終わらしてなー!……向日葵、行ってしもたわ……」

「ヨルデちゃんの巫女でもあるけど、学生でもあるからなぁ……」

「ほんなら向日葵おらんけど何するマサ!何して遊ぶ!?男の子やとままごとは難しいかなぁ!?」

「切り替えの速度よ!」

 

 幾ら寂しがったとしても、引き摺らへん性格ってええなぁ……それはさておき、おままごとは逆に新鮮で楽しそうやな?エルダとはやってへんタイプの遊びやし……なんにせよ、遊ぶ前の腹ごしらえでもさせたろか!

 

「おままごとでもええけど、まずは神事で疲れたやろ?向日葵さんの差し入れも兼ねて……近くのコンビニにお菓子でも買いに行こ、ヨルデちゃん!」

「ええのマサ!?おおきに!ほんならはよ行こ、最近二人でハマってるコンビニスイーツがあってな?それと緑茶が最高に合うねん!多分東京には売ってへんで!」

「そらええな、大阪の味が恋しいから俺も楽しみやわ!」

 

 こうして俺は大阪のエルフと二人で、デザートの買い出しに向かった。どんなスイーツなのか語ったり、大阪の氏子さん特有の面白話を聞きながら。冷静に考えたら、御神体と出掛けるなんて、とんでもないことしてへんか俺?──いや違う!これはあれや、月島のエルフが引きこもってるだけで……インドアを越えたインドア派なだけで……!

 

「なんやマサ?えらい難儀な顔してるけど、お腹痛いんか?せやったらコンビニでトイレ借りたらええわ、それくらいやったら待てるで?」

「ああいやえっと、なんでもないんよ、これはただの……そう!カルチャーショックってやつやねん!東京と大阪の違いに驚いてな──」

「マサも帰って来て驚く事あるんやな!それやったらウチやってあるで!例えば──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廣耳神社で流行ってる、らしいスイーツについて力説されながら……コンビニで太鼓判を捺された差し入れを買って、帰宅。仮にも他所様の自宅兼神社、帰宅って単語が正しいかはよう分からへん。

 

「マサ〜こっちこっち!いっつも向日葵とな、ここの縁側でお喋りしてるんやで!」

「そんな所に入ってええんかな?お邪魔しまーす……おお、これはこれは」

 

 流石に境内で立ち食いはなぁ?なんて思ってたら、ヨルデちゃんが拝殿裏の住居部に招いてくれた。なんでも向日葵さんとのんびりしたい時、遊びたい時、そんな時にここの縁側で日向ぼっこしながらの会話……それがここ、廣耳神社のしきたり──もとい習慣らしい。高耳神社とは対称的に、外気に触れる場所ってのが、如何にもヨルデちゃんと向日葵さんって感じ。

 

「すげぇ、庭に池がある……灯籠まで……なるほど、これが坪庭ってやつか!」

 

 雑草一つなく手の行き届いた庭、多分剪定されたであろう樹木達。この辺は向こうでも目にしたから、造園業さんに頼んでるとは思うけど、一般家庭では珍しく、庭として洗練された空間。これこそ理想の和風な家屋って感じやった。ええなぁ、こんな所でお茶啜ってゆっくりしたい……あ、今からさせてもらえるんか!

 

「あーなんやろ、昼寝が捗りそう……」

「それはそれでアリやけどなっ、今日はスイーツ食べながらウチと遊んでな!」

「わかってるってヨルデちゃん!とはいえ、何して遊ぶかな……」

 

 ヨルデちゃんはエルダと違って、ゲームとかプラモじゃなく、他人との会話がそのまま遊びに繋がるタイプ。インかアウトかで言うと、アウトドア寄りの趣向というか。

 

「はいこれ、ヨルデちゃんのデザートな」

「おおきにマサ!お茶は向日葵が淹れてくれてたし、それ飲みながら食べよな!」

「用意ええなぁ、巫女の仕事も宿題もあるって話やのに……」

 

 台所貸してくれたらお茶なんて自分で淹れたのに……なんか申し訳ないな。その分、きっちり相手は努めるで!とはいえ、そんなエルフと遊べる事ってなんや?ちょっと探ってみるか!

 

「時にヨルデちゃん、折角やから訊いてみたい事があるんよ」

「ほん?はふへほひひへは?(うん?なんでも訊いてな!)」

「食い意地が凄い……おままごととかもええんやけどさ、昔はエルダとも三目──リングベリ・ビョルリングとかやってたらしいやん?」

「──ほほう、マサも激闘に身を置きたいんか!ええで?肩慣らしに付き合うたる!」

 

 そんなつもりじゃないです、はい。ただヒントが欲しいだけなんです、後一回で通算400試合を迎える、そんなマルバツゲームに興じるつもりじゃないんです。

 

「それはエルダとやってもろて……それより、江戸時代どころか召喚される、二人はそんな前からの付き合いなんやろ?なんか他にも遊びに興じてたやろうし、それ教えてやヨルデちゃん」

「うーん、喚ばれる前ともなると色々ありすぎてなぁ?──せや、ちょっと待ってな!」

 

 何かを閃いたとばかりに席を立つ西のエルフ、個人的には、そのエルフ族に伝わる……なんかこう……呪文的な!そんなんが知りたい!そういうちょっとした期待に、心を踊らせた。

 

「持ってきたでマサ!江戸の頃はな、これでエルダと遊んでたんや!」

「ほほーこれが……って、これで?」

 

 期待に胸を膨らませたんは良かったけど、ファンタジーめいた呪文を行うとは思われへん……だって何処からどう見ても。

 

「ヨルデちゃん、これフツーの紙とペンやんか」

「せやで!フツーの紙とペンや!」

 

 スーパーの一角に置いてある様なボールペン、そしてその横にありそうなコピー用紙。とても召喚される前に遊んでた、そんな事を教えてくれる様には見えへんで?

 

「俺はてっきりその……召喚される前の話とかを期待してたんやけど……」

「誰もそんな話するなんて言うてへんで!今でも出来る、これでも出来る遊びを教えたろって、そう思ってな?」

「ああそういう……」

 

 つまり、現代の道具でもやれる遊びを経験させてくれる訳やね?それならそれを教えて貰おうやないか!エルダと興じてたらしい、江戸の頃の遊びを!

 

「ちょっとあっち向いとってなマサ、これはな、見られたらアカン遊びやねん!」

「見てたらアカンの?遊びなんやろ?」

「うん!折角の遊びが台無しになるからなっ、回れ右や!」

「見たらアカンなんて、まるでかくれんぼやなぁ」

 

 ヨルデちゃんの説得に頷き顔を背けた途端、ペンを走らせる音が聴こえた。さっきとは違う期待感が芽生えて来たけど、秘匿性のある、昔からの遊びねぇ……早く振り向きたいなぁ。

 

「よし出来た!マサ、これ読んでええで!」

「なんか折り畳んでるけど、開いてええの?」

「刮目するんやで、マサ!」

 

 出来た、って事は何か作ってたとして、読んでええとは?なんか分からへんけど……この折り目を解いたら、その遊びが書いてある訳やね?それなら、開けるか……二つ、三つと折られた紙の中には、かつてエルダと遊んでたであろう、その遊びが。

 

「こ、これは……!」

 

 完全に紙を開いて、ヨルデちゃんの筆跡で書かれたであろう、その紙面に書いてあったのは──!

 

 

【カエルが ひっくりかえる ヨルデより】

 

 

 ──同じやったり、似てる音の言葉を組み合わせて出来る……所謂、駄洒落。言葉遊びとも言えるから、遊びといえば遊びなんやろうけど。

 

「スーッ……あのーヨルデちゃん、これは一体?」

「何って、ウチ渾身の駄洒落やで!エルダんとこの家康がな、今でいう東海道を整備してからな……飛脚って知ってるか?あれで手紙のやり取りしてたんよ。その手紙に良く駄洒落を書いて送り合っててん、これはその激闘を潜り抜けてきた駄洒落の一つや!どうや?凄いやろ?面白いやろ?笑ってええで!」

「一周周って、ホンマに一周周って面白いけど!こんなんを大事に抱えて走っとった、当時の飛脚さんに謝りてぇ……!」

 

 人間、何かをやり直したい、或いはこれをやっておけば、なんて考える事はあると思う。タイムマシンで戻りたいって夢想する人類は、それなりにいると思ってる。でもそれが、ただの謝罪に使いたくなる日が来ようとは……!

 

「ウチは書いたで!マサもほら、ここに書いてや!」

「へっ?俺も?」

「当たり前やん!一緒に遊ぶって言うたやんか?せやから、なっ!」

「そっかぁー俺もかぁー」

 

 次は俺の番……と言わんがばかりに、筆記用具を押し付けてくる神様。内心をぶっちゃけると、ちょっと乗り気。だってさだってさ!月島の幼馴染ーズには無視される駄洒落をやで?公然と使う許可が下りるなんて、腕が鳴るやん!まぁすぐには思いつかへんのが、その駄洒落なんやけど。

 

「いきなり書いてや、と言われると案外難しいなぁ」

「エルダの奴以外とこれで対決するんは初めてやわ!楽しみやなぁ〜」

 

 背を向けてるのに、期待の念を送ってくるヨルデちゃん。その念が『面白い事言って!』のそれやから、少しだけ重圧がのし掛かる。お出しされた駄洒落的に、物凄く緩いのがええんやろうけど……身近な物、出来事、言葉遊びに使えそうな単語を引き摺り出して……。

 

「よし、出来たでヨルデちゃん!」

「ホンマ?見る見る見して、エルダの元で修行を積んだ、マサのお手並み拝見や!」

 

 元々やけど、東京に行った目的が迷子になるから、謎の修行設定は置いといて……ヨルデちゃんがした様に、丁寧に駄洒落をしたためた紙を折り、託す。隣にいるから、飛脚は勿論、メッセよりも速い。はてさて俺渾身の駄洒落は、お気に召すやろか?

 

「ふんふふーん、ウチとエルダに敵う作品なんかなぁー!」

 

 慎重に開いた俺と違って、破ってはないけど、プレゼントの包装紙を破る子供みたいな勢いで開いとった。そこまでするか!?駄洒落やで!?そんな勢いで開かれた、コピー用紙にしたためた、俺の駄洒落は──。

 

 

「さーてマサの作品は、っと……【板前に いいたまえ 雅より】」

 

 

 値踏みするかの如く、いや、巫女が奏上するかの如く、板前駄洒落は読み上げられた。すげぇ!駄洒落やのに、下らなさが全くない!ヨルデちゃんがそれっぽく読み上げただけで、こうも神聖な言葉に変わるんか……恐るべし、言霊!

 

「マサ──」

 

 品定めされる様な声で探られる感覚は、あまり好きやない。叱られるよりも、見透かされる所があるからやと思う。俺が老いるまでは全部信用せぇへんけど、エルフが遥かに歳を重ねてるからこそ、長命種の経験から……人間の価値を見抜いてくる。それなりにエルフとの付き合いも、人生経験も積み重ねて来たけど、神様とやらも、それを担うエルフも、俺からしたら底がしれない。今の俺を呼ぶ声を聴いて、そんな感覚を覚えた。

 

 

「どうや、俺の駄洒落は?ヨルデちゃんとエルダには、敵いそうか?」

「──経験に裏打ちされとる言葉選び、そして本気のウチとエルダとも渡り合える、この駄洒落。教える事はないで……免許皆伝や!」

「五円チョコより安っすい免許やな!!」

 

 

 おっかしいなぁー?俺の人生、駄洒落に賭けたつもりは無いんやけどなー……見透かされたというより、有るはずのない物を勝手に見られてた、そんな感じ。こうして俺の人生経験に、新しい知恵が刻まれた──エルフ相手に身構えるのは、大損こくから止めましょう……って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、一生分の駄洒落を練った気がするわ……疲れた……」

「マサ!マサ!さっきの『板前に言い給え!』ってやつ、ウチも使ってええか!?板前だけでめっちゃ使い回せるやん!」

「ああうん、ええで?布団が吹っ飛んだ並にフリーやからな……」

「やったー!おおきになマサ、後で向日葵にも教えたらな!」

 

 早速手に入れた免許を掲げて、二人の語彙を総動員させながら、思い付く限りの言葉遊びを尽くした。他の遊びも知りたかったけど、まぁその、まんまるお目々で、こっちを見つめてくる神様を前にしたら……止められなくてな?ああそれと、勝手に祈っとこう。後で駄洒落を浴びせられる、向日葵さんの無事を。

 

「なんか駄洒落ばっかり考えてたから、スイーツがより美味しく感じるわ!」

「せやな、糖分が沁みるわ〜」

 

 生物的なそれには詳しくないけど、運動の後のスポドリが美味いのと同じ理論なんかな?なんにせよ、エネルギーを使い過ぎて遊ぶ体力を補給したい……。

 

「いっぱい考えたし疲れたな、マサ?それじゃあ次の遊び……って言いたいけど、お喋りタイムでええか」

「賛成、出掛けるにしても、日の暮れそうな時間やし」

 

 まだ青空で、夕焼けに染まる程ではないけど、季節的にはそろそろ紅くなる。今からお外へゴー!ってのは、遊び的にも、ヨルデちゃんの安全を預かる俺としても……選ぶつもりはなく。エルダの言葉を借りるなら、『お家に籠ろう!』が捗る流れ。

 

「って言うてもヨルデちゃんとこうやって喋るんは、実は初めてやもんなぁ。月島で発見せぇへんかったら会う事もなかったし……高校も地元で通ってたら、会う事も皆無やったと思うし。結構思いつかへんな!」

「それならこうしよか!ウチがマサの疑問に答えたるわ!エルフの事、神社の事、それにウチのヒミツ。なんでもええで?」

「疑問ー?これはまた、補給した糖分が逃げそうな流れ……せやなぁ、それなら、一個だけ引っ掛かってるのがあったかなぁ」

「なんや?一個だけでええんか?まぁええわ、とにかくばっちこいやで!」

 

 それは、当時は深く考えず享受しとったけど……よくよく思えば釣り合わへん、天秤に掛けても一瞬で傾く、俺には公平に思えてなかったあの話。

 

「ちょっと前の話になるけどさ──なぁヨルデちゃん?俺なんかに、あんな上等な包丁に抹茶、なんで送ってくれたん?5桁はする代物をさぁ……俺が月島でやった事と釣り合い、取れてる気ぃせぇへんねん。俺の知らん所で、何を考えてたんや?」

「マサ、それは……」

 

 あの時、月島で拾い上げて、もんじゃを奢って、巫女の元に送り届けて。たったそれだけの事。その後は高耳神社の談笑を、聞き流してただけ。善意ってのは、金額やないのはわかるけど、たった一日の内の数時間。贈り物に見合う人助けとは、思われへん。

 

 その台詞を聞いて、駄洒落でひとしきり笑ったヨルデちゃんが、言い淀みつつも一変。何かを悟ったんか、淋しくも、優しくもある、小柄ながらに慈愛を含む表情に変わった。驚いた、ちょっとどころか、やんちゃ盛りの子供みたいなヨルデちゃんでも、こんな顔も出来るんや。マシンガントークが売りやのに、弾切れを起こしたかと思えば、とても重い重い……。

 

 

「────昔、マサも向日葵も産まれてへんかった頃。ちょっと西の方で、とっても大きな災害があってな?」

 

 

 感情を向けてきた。大阪の辺からちょっと西で、大きな災害……記憶が間違ってなかったら、よく学校でも歴史の授業とかで映像を観てた、親からも昔話として聞かされた、あの──。

 

「それが丁度起こっとった頃……偶々、当時の巫女と兵庫に旅行してたんよ。そしたら旅館で、朝から縦にも横にも揺さぶられてな?」

「一応訊くけど、今ここに居るって事は、無事やったんやね?」

「巫女も含めてな?揺れが落ち着いて、お互いの無事を確認した後に見た外の惨状、今でも脳裏に焼き付いてるわ。そんなん見てもうたら……芽生えてきたんよ。『廣耳神社は、大丈夫なんか!?』って。巫女もおんなじ気持ちで、とにかく帰らな!氏子さんも心配や!って。せやのに、徒歩ですぐに帰れる距離やない。交通機関も動かへん。これでも神様してるのに、どうしようもなくってなぁ……途方に暮れたで」

「元気いっぱいなヨルデちゃんでも、そんな気持ちになるんやな」

 

 小学校の遠足で、いや校外学習で行った事がある。その災害の様子を残す為の現場。復興の意志を示す為のモニュメント。綺麗な街並みが中継されたりしても、当時の映像が映された時は、同じ街とは思えなかった。

 

「それでもな、ウチらは救われたんや。奇跡的に、ホンマに奇跡的におんなじ旅館に泊まってた……ある人にな?誰やと思う、マサ?」

「泊まってた?それなら女将さんとかじゃ無さそうやね、誰なん?」

「月島旅行の後、ピンと来たけど……今やからわかる。マサの顔、名前、色んな所がよう似てるわ。名前は藤岡──で、歳は確か──」

 

 糖分は摂った。回復した。それでも、言葉を失くした。そのヨルデちゃんから出てきた人の名前は、同姓同名じゃ無かったら……絶対に。

 

 

「それは、その名前は、俺のじいちゃんの名前……」

「やっぱりな?そうやと思うたわ!ウチの予想は当たってたんや!!」

 

 

 俺の実家で今でも暮らしてる、じいちゃんの、名前。

 

「ウチらがずっとあたふたしてたら、『その発音、アンタら、大阪の人か!?丁度ええ、俺の車に乗っていき!電車は動かへんけど、藤岡の車はまだ動くで!』って。渡りに船や!そう思って二人で乗せて貰ったわ。巫女は申し訳無さそうにしてたけどな?」

「……じいちゃんの車に乗せて貰って、無事に神社へ?」

「うん、廣耳神社の場所を伝えたらな?それくらい寄り道したるわ、同じ大阪やしな!って言うて、瓦礫やひび割れで走りにくい悪路やったのに……何時間も運転してくれたんよ。暴れ馬よりも揺れたなぁ」

 

 昔話は、よくしてくれた。それこそやってた仕事の話から、その当時の話まで。でも、そんな人助け、エルフ助けもしてたなんて……一言も、聞いた事ない。そんなタクシー運転手の真似事の話も。

 

「お蔭様で戻って来れたけど、神社も神社で荒れとってな?鳥居は無事やったのに、木は折れて、屋根瓦は剥がれ落ちて。境内に踏み入られへん位には滅茶苦茶やった」

「今日見た外観からは、想像もつかへんな……」

「それを見たマサのおじいちゃんがな?車のトランクから鋸持ち出して来て、何回も何回も切り分けて、切り株にしてどかしてくれたわ。ウチらも一緒に運んでん!」

 

 じいちゃん、そこまで手を貸してたんや。車に鋸積んでたんは驚いたけど、俺が思ったよりも遥かに……廣耳神社に肩入れしてる。旅は道連れ世は情けなんて次元やない、想像より、もっともっと上の話。

 

「その様子を見掛けた氏子達も気付いてくれてな?割れた瓦を集めてくれたり……鋸が通らん様なのも、植木屋がどかしてくれたり!その日は境内全体とはいかんかったけど、賽銭箱まで歩ける様になったんやで!」

「苦労、したんやね?」

 

 こういう真面目な話に、上手く挟み込める言葉を、まだ持ち合わせていない。挟み込まないのが正解かもしれへんけど、一対一でずっと喋らせるよりは、明るく出来そうな気がするから。

 

「参道をひとしきり綺麗に出来た後、神社まで運んでくれて、その神社の足の踏み場も開けるのに力貸してくれた……マサのおじいちゃんにお礼言わな!ってなったんやけどな?」

「けど?」

「振り返った時にはもう、車は走ってたんよ。照れ屋やな、って思ったけど……向こうも家族の事も引っ掛かってると思ったら、ずっと重荷抱えたまま、ウチらの神社の面倒見てくれてたと思ったら……引き留める声が出なくてな?ただ見送る事しか出来ひんかった」

「お礼も聴かんと、せっかちでごめんな?俺のじいちゃんが」

「なんでそないな事言うねん!あんな状況に遭ったら、急かされて当然やで!」

 

 じいちゃんらしい、かは微妙な所。親はさておき、俺は産まれてもいない頃の祖父母なんて、口づてや写真でしか知る由もない……何十年も経てば、性格やって変わってもおかしくはないし。似たりよったりって印象かな?

 

「でも、それでもまだ、おおきにの一言すら言えてへんのが心残りなんよ──そんなウチでも、マサんとこのおじいちゃんに、会えるかなぁ?贈り物やなくて、直接お礼言えるかなぁ?」

「そら会えるやろ!なんなら連れてきたるで?流石に明日帰るから……直ぐとは言われへんけど」

「ホンマに!?ホンマに会わせてくれるん!?やっっっと、お礼言えるんかなぁ……!あっでもウチがマサの家に行った方が早い──」

「それは向日葵さんが困るからやめたげて?ていうか迷うからな?」

 

 直接って言うから、ビデオ通話越しやと味気ないと思って提案したけど。向日葵さんはこういう流れで、大阪中を駆け回るのか!……ちょっとだけ罪悪感生まれたし、スポドリを箱で贈ろっかな?それはそれとして、今までの話を経て芽生えた、新しい疑問が一つ。

 

「まぁその……急かされてたじいちゃんが、廣耳神社を救ってたのは良く分かったわ。それならなんで、俺がじいちゃんの孫って分かったん?名字が同じ、地元が同じ、そんな人ぎょうさん居るよ?」

 

 そんな疑問には、直ぐ様返答が返ってきた。ついさっき言い淀んだ、ヨルデちゃんとは別人の様な速度で。

 

 

「それはな──勘や」

「か、勘!?」

 

 

 ここに来て勘!?これまで散々自分の過去を語っておいて、勘やて!?このエルフ、荒唐無稽って四字熟語知ってるか!?今まさにそういう状況なんやけど!?

 

「待ってやヨルデちゃん、勘って一番根拠の無い時に出てくる言葉やで!?駄洒落とは違うんやで!?」

「でも勘は勘としか言われへんもん!揺れる車の中で、孫が出来たら俺の名前から取るのが楽しみとか、家が大阪の南の方にあるとは聞いたけど……やっぱり勘やな!月島で迷子やったウチに話し掛けてくれた顔、旅館で声掛けてくれた顔とそっくりやったもん!」

「その当時のじいちゃんよりも、歳下やと思うねんけど──老け顔なんかなぁ、俺」

 

 自分の顔は、後で鏡で眺めるとして。エルフに対する経験は積んできた……人よりは多めとは思っとったけど、ここに来て一番信用度の薄い選択肢を頼るなんて──やっぱりエルフは、底がしれない。

 

「敵わへんなぁ……まぁそこはええわ、それならこれが最後の疑問な?この前の贈り物さ、めっちゃ嬉しかったけど……話の流れ的に俺が孫やから、間接的にお礼になるとでも考えたんやろ?」

「おっ察しええな、正解やで!」

 

 

「もし、もしも俺が名字と名前の一部が同じだけの、出身が同郷なだけの……赤の他人やったら?どうするつもりやったん?」

「それはそれやん!あの時声掛けてくれて、ご馳走してくれて、向日葵のとこまで道案内してくれたのはマサやんか!それにお礼するのは、間違っては無いと思うで?」

「──ホンマ、敵わへんなぁ」

 

 

 じいちゃんがヨルデちゃんの困難に居合わせて、助けて。そして今度は俺がそれに居合わせて、助けて。俺が知らんだけで、俺みたいにじいちゃんもエルダやハイラとも出会ってたりしてな?なーんて。1を訊いたら10も返ってくる程、思わぬ過去を聞かされたけど……じいちゃん側の視点も、気になる話やったなぁ。

 

「そろそろ日も傾きそうやね?スイーツも食べ切ったし、どないする?向日葵さん、思ったより遅いもんなぁ?」

「……ええ事思いついたで、今から向日葵の部屋行こか!後で合流する言うてたけど、こっちから行ったら面白くなると思わへん!?」

「男にはハードル高いでそれ!面白そうやけど、差し入れはあるけど!まだ宿題とか終わってへんのと違うん!?」

「そんなん平気やろ!だってウチやで?ヨルデちゃんやで!?せやから着いてきてなマサ、向日葵の部屋はこっちや!」

「自己肯定感が高すぎる……万が一着替えとったらアカンし、そもそも社務所に居る可能性も……ってヨルデちゃん速いって!差し入れ差し入れー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連休最後──ではないけど、月島に戻ると決めた日。新大阪まで、向日葵さんとヨルデちゃんが見送りに来てくれた。

 

「えらい悪いなぁ二人共、こんな朝早いのに」

「気にせんでええよ、どうせ今日は神事も無くて暇やったし。なぁヨルデ?」

「せやで!ついでに新大阪で美味しいタルト買いに来たかったからな、並ばな売り切れるって評判なんやで!」

「ホンマか、俺もお土産それにしたら良かったかなぁ」

 

 帰省中、廣耳神社の二人と色んな話をした。学校での出来事、神社での日常、言葉遊びに家族の過去まで……それから向日葵さんの部屋に乱入して、騒ぎながらも宿題を手伝ったのが、つい昨日の事の様……いや、本当に昨日の事か!

 

「そういえば雅さん、親族の方々は?見送りに来ると思うてたんやけど……」

「ああ、家族なら実家の前で送ってくれたで?来れへん訳やないけど、新大阪まで遠いからってな!」

「結構あっさりしてるんやね?」

「総出で『いってらっしゃ~い!』ってのは趣味やないからな、これがええんよ!」

 

 本音を言うと、じいちゃんを連れてきて、ヨルデちゃんと向日葵さんに引き合わせる案もなくはなかった。でもそれは、今じゃないと思って……直ぐに没にしたけど。

 

「さてと、俺はそろそろ行くわ」

「えーもう行くん?もっと喋りたいのになぁ」

「ごめんな、早めの時間で切符買ってもうたから……」

「雅さん、次はいつ帰ってくるん?次はちゃんとおもてなししたいわぁ」

「うーん確約は出来へんけど、長期休みになったら、かな?」

「聞いたか向日葵!?今の台詞、忘れたらアカンで!」

「せやな、言質取ったしな」

「ええんかな……こんな曖昧な言質で」

 

 まぁ、ええか。今回は無計画に廣耳神社に来てしまったから、次の帰省になったら連絡入れるとしよう。どういう類いのおもてなしが待ってるかは、知らんけどな!

 

「もうすぐ新幹線来るからホンマに行くで?それじゃあまたな、向日葵さん、ヨルデちゃん!」

「宿題手伝ってくれておおきに、次はゆっくり話そうな?」

「ほなまたなマサ!駄洒落使わせて貰うで!」

 

 ヨルデちゃんの一言に、頭上にはてなマークを浮かべてそうな向日葵さん。俺が見えなくなった所で……駄洒落のシャワーに気を付けてな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マサ、帰ってしもたな」

「せやな、雅さん帰ってしもたなぁ」

 

 嵐の様に現れて、ウチんとこの嵐と一緒になって大嵐にまで膨れ上がり、嵐の様に去って行った雅さん。現れたとは表現したけど、同じ車輌に居合わせた雅さんに、ウチから話し掛けただけで……廣耳神社にお参りしに来る事には、変わり無かったと思う。要するに、天候が荒れるのは確定やった訳で。雅さん自身は、台風の目ではないのにね?

 

「エルダのとこやなくて、ウチで喋ってたんよなぁ……濃密すぎて昨日の事の様に感じるわ」

「そら昨日の話やからなぁ」

 

 昨日の事が余程、楽しかったんかな。なんだか一昔前から喋り続けてたみたいな台詞には……思わずツッコミを入れたけど、ただ単に事実を述べただけかもしれへんし……うーん。

 

「なぁ、向日葵」

「どないしたん?」

「──また、会えるかなぁ」

 

 雅さんの実家は大阪やし、さっきは約束も交わした。それに、連絡先は知ってるから、喋ろうと思えば幾らでも喋れるけど──。

 

「そら、会えるやろ。さっきも約束したやんか」

「──せやな、せやんなぁ!会えるよなぁ!なんか今から楽しみやわ!!」

「テンションの上がり方凄っ、さっきまであんなに喋ってたのに……ウチんとこのお姉ちゃんは、ほんま可愛いなぁ」

 

 本当は、預かり知らぬ時に何話してたんか……めっっちゃ気になるけど、なんかこの時間が、ヨルデとの時間が、ウチには心地良かったから──訊くのは、止めといた。

 

「ほらヨルデ、楽しみなんもええけどケーキ屋並びに行こ?限定タルト売り切れてまうで」

「せや、楽しすぎて忘れとったわ……整理券無いと限定物買われへんらしいからなっ、はよ行こ向日葵!」

 

 

 ウチの故郷でもある大阪府のとある場所……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『廣耳神社』、祀られたるそのご神体は──その日の気分であちこち動き回って……人々と交流を深める、明朗快活なエルフやねん。




ここまで本作品を追ってくださっていたり、原作も読んでいらっしゃる方ならお分かりだと思いますが……前編含め全部オリジナルになりました。それに合わせて、これまでの話を数行だけ訂正した箇所があったり。元々オリジナル比率多めの話は何話か執筆していましたが、それでも元にした原作のエピソードありきでした。
そろそろ雅のちょっとした過去話や、出身地に沿って廣耳神社の話をどうしても書きたくて今回投稿しましたが……楽しんで頂ければ幸いです!

執筆中、マガジンエッジさん休刊日に原作最新話が更新されたのですが、コマちゃんが可愛すきてハートを掴まれました。コマちゃんはすーぐそういう格好する……!
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