江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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今回の登場人物は完全にアニメの範囲外ですが、このキャラがいたからこそ今の小糸があるのかも?なんて思ってしまいます!


kawaiiは作れる?

 

 髪の毛ってのは、タンパク質から出来ている。他にもメラニン色素、キューティクル、構成する要素は色々あるらしい……爪にも同じタンパク質が使われているんだとか。人体って凄いな、同じ栄養素使ってんのに別もんやんか?

 

「でさ〜小糸の弁当箱がさ〜デカすぎてみんなが中身欲しがっちまって!」

「実質、重箱持ち込んでるって訳か……」

 

 その髪の毛も、男女で伸び方が違うらしい。遺伝的に、或いは生物的に長さの上限みたいなのがあって、どれだけ健康な人でも……足で踏める程の長さにはならないんだとか。

 

「ってか女子高でも昼飯で盛り上がるんやな?」

「昼飯、って言っても『小糸の』昼飯だけどなー」

 

 そういう前知識もあって、童話とか、漫画にもあったりする……引き摺る程に髪の毛長い人に、ちょっとした偏見があるんよな?モップみたいに埃巻き込んでそうとか、どうやって洗ってるんだ?とか。楽しむ事に於いては、まぁ野暮ったいから、そういう人も居る……って感じで流してるけど。

 

「小糸さんじゃなくて、小柚子ちゃんの昼飯やないか?」

「へへっ、確かにそうだな!……ところでよぉマサ、一個だけ訊いても良いか?」

「ん?別にええけど?」

 

 まぁその……ライブで髪の毛を振り回したり、引っこ抜いて苦無や手裏剣みたいな、飛び道具にして戦う訳じゃないとしても。生きる以上は、その髪の毛の手入れとかは、客観的には欠かせない訳でして……。

 

「──マサ、髪切らねぇの?最近サボりがちじゃねぇか?」

「サボりというか……俺は別に困っては無いんやけどねぇ、自分でやるのがちょっと面倒になってきてな?今はそんな季節やわ」

「そう言われると、あたしもズボラになったりするからなんも言えねぇけど……あんまり伸ばしすぎても大変だろうから、どうにかした方が良いぜ?」

「ぜ、善処するわ」

 

 ファッションリーダー?の高麗に下された判定は、サボりがち。洗うのは欠かして無いんやけどね?流行りの髪型に憧れる訳でも無ければ、特に拘りもなく……変わらない帰路を辿る俺の、今日の議題として、頭の中に残り続けた。

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から発信される──江戸と浪速の入り交じる、そんなお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「月島お抱えの美容師、とは言うけどなぁ」

 

 帰宅してから、洗面所に新聞紙を広げて、いざセルフカットを!と考えたまでは良かったものの……見た目に気遣うよりも面倒くささが勝ってしまい、意気揚々と手にした櫛もバリカンも、そっと棚にしまってしまった。元々は東京での生活に慣れる為、節約する為、他人に切ってもらうのを止めて自分で切る!そんな心持ちで、道具一式を揃えとったから……所謂1000円カットは勿論、美容院なんて行こうものなら懐事情が!俺の勿体無い精神が……!

 

 それでも伸ばしすぎたら、高麗の言う通り大変やと思って……いざ美容院へ!なんて素人の浅知恵で出掛けたまでは良かったけど、理髪店とは何が違うん?1000円でええやん?なんて偏見を持った人間には、髪を切ってもらえる然るべき店構えなんて、分かる筈も無かった。

 

「あの人面白いんやけど、掴みどころがないんよねぇ」

 

 なので、これまでの口コミや記憶を頼りに、とある美容室までやってきた。曰く『可愛いはあそこで造られるんだよ!』とか、『私の祖母の代から続いてるからガチだね』とか。正直、知ってる店ではある。店主も知ってるし、バイトがてら手伝った事もある。だからこそ躊躇う節があって……見違える程になりたくはない、ただ髪を整えたいだけの俺が来たら──店主の方針に反した仕事をさせてまうかもしれへん、そんな感情が脚を引っ張った。

 

 

「居らんっぽいし、やっぱり自分でやろっかなぁ……ごめんなりーちゃん」

「呼んだかしら〜?」

「うわっ!」

 

 

 謝罪を聴き取られたのか、はたまた忍者の末裔か、その美容室の店主──りーちゃんに背後を取られとったらしい。心臓に悪いから止めてそういうの!?

 

「うふふ、久しぶりね〜マサ♡」

「り、りーちゃん久しぶり……前と相変わらず、可愛らしい格好やね?」

「ありがと、男の子から可愛いって言われると嬉しいわね♡」

 

 このりーちゃんという人、とにかく可愛いを求めて生きている。小糸さん位のショートヘアに、メイドさんが着けそうなヘッドドレス。中世の貴族が身に纏う様なフリルを全体にあしらった白いトップスと、それに色調を合わせたタイツに膝下まであるロングスカート……俗に言う、ロリータファッション。全身フリルまみれやとふわふわとした印象になりそうやけど、腰元に身に着けたリボンが全体を引き締めとって、髪型以外の可愛いにも余念がない。

 

「今日はどうしたの?アルバイトでもしに来てくれたのかしら?」

「あーいやその、バイトはバイトでやりたいねんけど……今日はちょっと、初めてりーちゃんに切って貰おうかなー?なんて」

 

 ここに来た理由が、暫く散髪をサボり気味だった事を伝えてみた。今までずっと自分でやってきたから、こういう美容室には馴染みが無い事も含めて。それでも美容師の性なのか、新しい顧客に目を輝かせていた。

 

「あら〜♡てことはマサも可愛くなりたいのかしら?」

「出来れば普通に、男の髪型にしてほしいんやけど……」

「うふふ、冗談よ?男の子用のカットも出来るから任せて頂戴♡でもごめんなさいね?これからお得意先に出張サービスがあるの」

「出張?そんな事してたんや」

「ええそうなのよ……そうだ、良い事考えちゃった!マサ、これから同行してお手伝いしてくれないかしら?」

「お手伝い?俺散髪の技術は無いで?」

「大丈夫よ、ただ小道具の準備とか、出張だからシートにケープ掛けとかしてもらったりね?もしやってくれたら、カットモデルとして無料で散髪してあげるわよ♡」

 

 シャンプーの仕入れとか、店内清掃程度ならやった事あるけど、業務の根幹に触れた事は無いなぁ……でもカットモデル、てか無料かぁ……バイト代としてお金もええけど、それは魅力あるなぁ?それなら是が非でもやってみたいし、素人がやるより綺麗に仕上がるわなぁ?よし、決めた!それなら引き受けない手はないわな!

 

「よっし!了承したで、その出張サービス手伝うわ!」

「あら、突然のお誘いだけど良いのかしら?助かるわ〜♡」

「因みにその出張先やけどさ、どんな所なん?」

「それはね──高耳神社よ♡マサにはお馴染みらしいわね?」

「……高耳神社?」

 

 聞き慣れた場所、通い慣れた場所。出張と言う程の距離とは思われへんけど、出張サービスの準備の為、りーちゃんと臨時休業の店内に、そそくさと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高耳様久しぶり〜♡」

「う……うん……急にごめんなりーちゃん……マサ、遊ぶのは後で良いよな?」

「りーちゃん今日もカワイイ!」

「うふっ♡ありがとコイちゃん!」

「藤君は、美容師見習いって感じ?」

「見習いも何も目指してへんよ?ってかやっばり、エルダ向けのサービスなんやね……」

 

 俺はてっきりその、足の悪い人とか、怪我をした人向けにそういう出張散髪?やってると思ってたんやけど、行き先が高耳神社って聞いた時点で内心……訝しんだんよな。小糸さんはそういうの自分で行きそうやし、小柚子ちゃんに至っては自分でやれる……と思う。菊次郎さんは態々呼びつけるとは思われへんから、消去法でねぇ……?

 

「間近で見たらえらい事なってんな!後ろから持ってきてへんって事は、全部前髪か?」

「あ、ああ……伸びてたのをずっと放置してたんだが、小糸が何も言わないから……」

「エルダってば、変なチャレンジ精神発揮しちゃってさ!爪切り失くしたりリモコン冷やしたり──」

 

 髪を伸ばすのが、なんで爪切り紛失とかリモコン冷却に繋がるんや?いや、なんでもかんでも関連づけようとするのは駄目か!関係あるようで別の話です〜って事象はいっぱいあるからな!

 

「そ、そっか?あのサンタさんですら隠れるの顔の半分までで、しかも前髪やなくてそっちは髭やし……実質サンタさんに勝ったで?チャレンジ精神報われたやんエルダ!」

「小糸小糸、私褒められたぞ!やっぱりもっと伸ばしても──」

「それは慰めって言うの!藤君も変にポジティブになるの駄目!」

「うふふ、賑やかね〜?あっマサ、下準備ありがと♡」

「ん、これで俺は用済みかな。後はりーちゃんの職場見学とでも洒落込むわ」

 

 ケープにドライヤー、カットに使うヘアピンまで……ハサミだけですら何種類も持ってきた。散髪には必要な道具が多いなぁ?俺のセルフカットですら面倒やのに、客の注文通りやろうと思ったら、これ全部駆使せなあかんの?美容師って器用やないと出来へん奴やな?

 

「それじゃあ高耳様、今日はどんな感じに?思い切ってイメチェンしてみる?」

「い、いや、いつも通りでお願いします……」

 

 拝殿にエルフの髪を湿らせる霧吹きの音が響く。慣れた注文に慣れた手付きを見る限り、ここが会場になったのは一度や二度じゃないらしい。どうでもええけど、エルフの髪ってハサミで切れるんかな?もしかして特注の業物やったりする?

 

「そうだエルダ!折角だし、オシャレな髪型にしてみれば良いじゃん!」

「それええな、伸びまくってるから遊び放題やし!」

「え〜……例えば、どんな?」

「そうね〜、思い切ってコイちゃんくらいバッサリ切っちゃう〜?」

 

 小糸さん並の短さとなると、確かに新鮮かもしれへん。前髪を半分だけ耳に掛けて、明るさと暗さを出してる感じ……掛けてへん方の前髪が目に掛かってる所が、大人っぽさを演出してる。本人が大人に見えるかはさておき。

 

「良いかもそれ!私とお揃いの髪型にしようよ!」

「う、う〜ん乾かすの楽そうだし、別にいいけど……私の神御衣も、小糸の巫女装束も、お揃いコーデみたいなもんだしな」

「やったあ!髪型までお揃いなんてきっと楽しい……楽し、たの──」

「……小糸さん?もしもし?」

 

 さっきまであれだけエルダの髪型に想いを馳せて、破顔って単語がピッタリの笑顔やったのに。別人ですか?ってレベルで伏目に、前髪で掛けてへん方のおでこにも、影を落としていた。

 

 

「──やっぱりいつも通りでお願いします」

「小糸!?」

 

 

 散髪に子供を連れてきた親みたいな台詞吐き出したでこの巫女……なんとなく、小糸さんヘアーのエルダを想像してみた。伸ばした手足を見越したコート、あれを着てた時も思ったけど……エルダは眉目秀麗って言葉がよう似合う。そんなエルダが、自分と同じ髪型で、エルダ自身の魅力を引きたてよう物なら……出てしまう、格差が!種族間って理由だけでは片付かない格差が!普段のエルダですら、ちょっと尻込みする程綺麗やもんねぇ?まぁそういう事やから頑張れ小糸さん、いつかコートも似合う様になるからな!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高耳様って、ウチのひいグランマからのお付き合いでしょ?それより昔はどうしてたの?自分でカット?」

 

 尻込みした小糸さんに光が戻り、長すぎるエルダの髪がある程度切られつつあった頃。美容師特有の営業トークが始まった。俺は嫌いとまでは言わへんけど、どんな話されるかわからへんからしんどいよなぁ。

 

「ううん……『女髪結い』の人にお願いしてた……」

「おんなかみゆい?」

「江戸時代の美容師みたいな人?」

「う、うん……昔は自分で髪を結うのが女性の嗜みと言われててな?」

 

 女、と付かへん『髪結い』は、男性の髪を結う……つまりは整える人達の事らしい。でも大河ドラマとかでも見掛ける髪型は複雑で大変、とてもやないけど自分じゃ出来なくなってきて……そこでプロの女髪結いがどんどん増えたそうな。

 

「まあ私はそんなに複雑にしたい訳じゃ無かったから、自分でやろうとしたんだが……エラい事になってな?それからプロにお願いする様にした……」

「エラい事って、どれくらいなん?」

「察してくれマサ!言うのも恥ずかしい……!」

「わかる、私もよく前髪切りすぎる……良い線狙おうとして前髪が、眉毛を隠せなくなっちゃって、パッツンパッツンになって……」

「自分で色々する前にお店に来てくれると助かるわ〜♡」

 

 女性のお洒落ってのは、男が思う何倍も、苦労が絶えへんらしい。てことは高麗も気ぃ遣ってるんかな?色々と。今度なんか変わってたら、褒めたらなアカンなぁ。

 

「女髪結いの成り立ちは面白いぞ?歌舞伎役者専属の人が、遊女の髪も担当するようになったのが始まりなんだけど……女髪結いを職業として確立させたのは、弟子の甚吉くんって人なんだ」

「甚吉『くん』って事は、男性っぽいなぁ。その弟子が確立って言うけど、独立でもしたん?」

「そうなんだよ、独立した甚吉くんが女性の弟子をとって、その弟子達が更に結う様になって……半額を継ぐ半額にもなった結果、大流行してたなぁ」

 

 役者の髪型に憧れて、それを聴いた甚吉って人がその願いを叶えてあげて、それがどんどん広まって。流行の発信源ってのは、何処から来るかわからへんな?

 

「カワイイがわかる男の人だったんだね!」

 

 そう言って両手でハートマークを作る小糸さんに、少しだけドキッとした。アカン、そのポーズは可愛いを分かってる人のそれや!ていうか大人じゃないからこそ似合うねん!小糸さん、多分そのままの小糸さんの方がええと思うで?

 

「そうそう……甚吉くんは男なのに、仕草や声がまるで女性みたいだったそうだしな……」

「あはは♡その甚吉くんって〜」

 

 思わぬ場面でドキッとさせられたのはさておき、今のエルダの話、ちょっとどころか、物凄く既視感が湧いた。カワイイというか、女性のお洒落も分かってて、仕草も声も女性みたいで。その甚吉って人が格好まで当時の女性と同じ!かどうかは知らんけど……。

 

 

「まるで私みたいね♡」

 

 

 そう、今日俺に手伝いを持ち掛けてきた──りーちゃんそのものやった。初めて出会った時も驚いたし、なんならもんべぇ店主のカドちゃんに医者のアカネちゃんと同級生って話にも驚いた。もんべぇでのアルバイトで、ちょっとした思い出話も聞かされたっけ。それで、りーちゃんの本名は確か──。

 

「ああ、そういえばそうだな……龍仁(りゅうじ)……」

「その名前で呼んじゃダメ♡」

「カワイイは正義だよ!りーちゃん!」

 

 ──本名、哀川龍仁。難しい方の龍に、仁義の仁。これぞ男や!みたいなりーちゃんの名前。本人は『りーちゃんって呼んでねマサ♡』と念を押されたし、本名を教えてくれへんかったけど……幼馴染の二人がその名前を口にした瞬間、持ってたヘラをもんじゃ焼きに落とした記憶が──笑わへんかっただけ、自分でもよう耐えたと思ってる。

 

「うふふ♡後は全体的に空けば終わりだから、マサも高耳様の後でやっちゃいましょうか?」

「へっ、ここで?」

「あら?切って欲しいから手伝ってくれたんでしょ♡戻るよりここでやれば早いわよ、二人も拝殿借りて良いかしら?」

「藤君も切るの?勿論良いよ、ねっエルダ!」

「あ、ああそうだな……手伝ってくれたし、マサがどう可愛くなるかみたいし……」

「ならへんからな!?見世物ちゃうからな!?この長さでツインテになれると思うなよ!?」

「誰もそこまで言ってないよ、藤君……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「視界が明るい……!」

「頭が軽い……!エルダエルダ、ハイタッチや!」

「え、あ、え?……い、イェ~イ?」

 

 エルダの断髪式を見学してから、俺もついでだと言われて髪を切って貰った。衆人監視の下での散髪ってのは初体験……というより、何処か懐かしい感覚があった。小学校の授業参観、或いは三者面談。自分以外にやってもらうのもそうやけど、第三者達に髪型の変貌を見せるのは、どうもねぇ……?小糸さんに至っては写真撮ってたし。なんにせよ、然るべき人にやってもらったのもあって……開放感は段違い、隣の神様と合同で柏手をする程に心は軽くなっとった。

 

「さっぱりしたね二人とも、お茶も淹れたしワッフル食べよ〜!」

「俺もええの?いただきまーす!」

 

 カットモデルとしての役割……を果たせたかはさておき、道具を片付けて帰るつもりやったけど、『職場見学は終わり〜♡ここからは高耳様と遊ぶのが、マサの仕事でしょ?』って可愛げたっぷりにりーちゃんに言われて、神社で美容師を見送った。撤収作業も仕事の内やと思ってたんやけどね?

 

「りーちゃん今日も可愛かったな〜、私ああいう服似合わないから羨ましい……」

「高麗も言うてたけど、カジュアルな奴の方が似合うもんな?小糸さん」

「そうなの!大人にもなれないし、フリフリも駄目だし……う~ん」

「べ、別に小糸も好きなの着れば良いじゃないか……今日のりーちゃんみたいな」

「そう?本当に?」

 

 三人で唸り、ジト目になりながら……もしも小糸さんが、ロリータファッションを身に纏ったらどうなるか?それを妄想した。体格的には小さめでも、大きなヘッドドレスやふわふわとした上着にスカートが、それを補ってくれる。そこに小糸さん自身のウインクとか、モデルっぽい佇まいが合わされば……きっと!

 

「まあ私は大人っぽくてカッコイイ女を目指してるから!五年後にはきっと!」

「俺には駄目とか言うたのに、俺よりもポジティブよな?小糸さん」

「がんばって、手足伸ばしていこうな……!」

 

 脳内会議の結果、満場一致でアリよりの無しの判決が下された。他人事とはいえ言わせてもらうか──何時の日か、小糸さんが憧れの存在になれると信じてるで!!

 

「そう思うと、いつの時代もカワイイは努力の結晶だよな……」

「エルダも可愛いを目指してたん?」

「そ、それは違うが……江戸の頃に玉虫色の高価な口紅が流行ってな」

「たまむし色?」

 

 玉虫色、反射で緑や紫に光る色の事。上等な紅(べに)を重ねないと出せないらしくて、セレブ的な象徴として、遊女がリップメイクに取り入れたんだとか。江戸時代の流行の最先端って所かな?

 

「でも庶民には重ね塗りも紅も出来なくてな?下地に黒、その上に安物の紅、そんな裏技で玉虫色を再現したんだ」

「色彩検定でありそうというか……廉価版口紅って訳やね」

「へー!おもしろい!エルダからメイクのこと、教えてもらえるとは思わなかったよ!」

「え……?そ、そう……!?」

 

 大人になりきれないとは言うても、小糸さんも女の子やなぁ?お化粧の話になった途端、こんなに目を輝かせちゃって!それの出処があの、あのぐうたらエルダから出てきたもんやから、反動で声にもハリが!

 

 

「プ、プラモでもメタリック塗装をする時は下地にブラックを吹き付けるんだ……!下地をゴールドにすればキャンディ塗装なんてテクも──」

「それなら俺もわかるで!そのキャンディ塗装に研磨剤を使って磨くと鏡面仕上げになって、研磨スポンジで水研ぎを──」

「へーそうなんだー二人とも、その知識はまた今度で大丈夫です」

 

 

 悲しきかな、塗装と化粧は別物らしい。より輝きを求めるプラモの塗装は、小糸さんから発せられる輝きを塗り潰してしまった。エルダ、それと俺。女性から理解を得られへんのは、こういう所らしいで?

 

「そういえば小糸も中学までは髪、伸ばしてたよな……?」

「初対面の時もめっちゃ伸びてたよな、小糸さん!」

「え?あー……う、うん……まあね」

 

 エルダの台詞で思い出したけど、確かに伸びてたなぁ、小糸さんの髪。引っ越した頃、俺が高麗や小糸さんと初めて出会った頃……その後の対面では、バッサリ切ってて誰ですか?なんて訊いた気がするわ。当の小糸さんは今、何故か言葉に詰まってて……目元だけを切り取れば、物憂げな美人とも言えるような。映画やと、主役がハンカチでも渡しそうな、そんな顔。

 

「小糸さん?」

「…………また、伸ばしてみようかなあ。エルダくらいに……」

 

 髪の毛を弄るって行為には、色々と深層心理なんてのがあるらしい。甘えたいっていう不安から来てたり、緊張感からだったり……占いと同じく、あんまり信用してへんタイプのこじつけとは考えてる。でも、今目の前で、構って欲しそうに後ろ髪を触る小糸さんを見ると、そのこじつけも……少しだけ信じてみたくなってしまった。

 

「ん?そうなのか……?確かに長いのも似合ってたけど……」

 

 どう声を掛けようか、なんて言ってあげようか。付き合いが浅いからなのか、距離感を測りあぐねて、掛ける言葉が見つからへんかった。そんな中、流石は高耳神社で祀られとる神様なだけあって、微小な声でも躊躇いなく……巫女の髪に、心に触れた。

 

 

「──小糸は今の髪型の方が、カワイイよ」

 

 

 小糸さんが背伸びして買ったコートを着せた時、話にも部屋にも華が咲き、巫女は連射機能すら不要なカメラウーマンになっとった。今目の前で繰り広げられてるドラマはその、あの日とは訳が違う。そそくさと立ち上がってお茶を淹れ直すね!なんて言葉で誤魔化してるけど、そんな場面、見せつけられたら……。

 

「……白い人、か」

「マサ?どうしたんだ?き、今日は二人とも変だな」

「いいや、なんでもないで。このワッフル美味しいなぁ」

「そ、そうだろ?茜が奉納してくれたんだが、紅茶と良く合うだろう?」

 

 本人からの自白もなく、捜索に協力した事も無い。ただ『白い人』に憧れてると聞いただけ。それでも、幾ら鈍い俺でも、コートの日や今の様子を見せつけられたら……欠けてたパズルのピースが埋まってしまった。小糸さんの言う『白い人』ってのは、きっと──。

 

「こ、小糸、遅いな……?」

「やかんの湧いてる音、してるのになぁ。呼んでみたらどうや?」

「そ、そうだな……小糸?なんか時間掛かってるけど、平気か……?」

「ごめんごめん、今行くね」

 

 暖簾をくぐり、併設されたキッチンから出てきた小糸さんは、身体はこっち向いてるのに……髪型のせいで後ろ見てるんか?なんて思ってしまう程、急速に前髪が伸びとっ──いやこれあれか、後ろから持ってきてるだけやなこれ?うん、その、あれやな、照れ隠しってやつやな?

 

「おまたせー」

「ど……どうした小糸!?何かテレビから這い出てくる怖い女みたいになってるぞ……!?」

「小糸さん、せめて前見て運んでな?」

 

 長く時間を共有したり、相手が敬ってたり好きなあまり、口癖が伝染ってしまう現象がある。ミラーリング、って言うらしいけど……髪型まで、伝染るとはなぁ。

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、異世界から召喚されすっかりひきこもったエルフと、仕える巫女の間で──髪型のミラーリングが起きとった。仲がええってのは、ええ事やね!




原作で一番驚いた、りーちゃんの初登場回です!最新話まで含めても、元になった回以外は無言だったりチョイ役程度の出演ではあるのですが……登場人物としての印象は、一位二位を争う感じがしています!
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