最新話が元になっているのですが、今回はちょっと怖い話です!つまりはホラー回!
あんまりこの話をするとな?色々寄ってくるから話したく無いんやけどね──これは、俺が物心がついてから暫く、小学校入学のお祝いと称して親に連れてって貰った……とある動物園での話なんや。
開花前線が押し寄せて、花見で盛り上がる頃、本格的な春を迎える時期でさ?他にも来園者が居るし、人も動物も沢山いて、賑やかなのが好きな人には絶好のシーズンやった。くしゃくしゃになる程パンフレットを読み込んで、何処から観て周ろっかなー!なんて思いつつ、いざ当日になって出発したんやけど……動物園の近辺は、地元の晴れ間が嘘みたいに雨が降ってたわ。車か電車に乗って行く場所やとしても、思ってたより人少なくて空いてるな〜って印象やった。
それはそれで快適に観て周れるやん!って気持ち切り替えてさ、当日券買って貰って、それはそれは色んな動物見て回ったで!その時は全く興味無かったんやけど、植物園もやってる所でな?葡萄みたいに上から吊り下がってた花とか、カッパが傘替わりにしてそうなスイレンとかもあったかな。あっ、そうそう!園内で開かれてた動物達のショーも楽しかったわ〜、餌やり体験もそうやし、今でも思い出したら行きたくなる位……ええ思い出やった!
全部やないけど一通り見て回って、子供ながらにちょっとはしゃぎ過ぎたな〜って思ったから、親にこう言うたんよ。『つかれた、やすみたい』ってな。そしたら『あのベンチに座っといて?ご飯買うてくるからな』ってよくある木製のベンチを指差してさ、それを見て俺はタタタッ、って駆け足で座りに行ったわ。
自称するのはおかしいと思うけどさ、言い付けは守れる方やったんよ。やからこそベンチで大人しく、言われた場所で休んどった。そんな時かな?ふと、ある違和感を抱いたんよ……休んでるのに、座ってるのに、後ろには誰も居らんかったのに、トン、トン、トン、と何か小突く様な音が聴こえたと思ったら──いきなり肩が重くなって……なんか肩こるなぁ、疲れるなぁ……とな。いやーちょっと待って欲しいわ、子供って荷物持たへんやん?親が代わりに持ってあげるやん?昔お気に入りのリュックがあったんやけど、一人で公園に行く為に背負ってたからその日は手ぶら、肩に重さを感じてる時点で、幼少期ながら変やと思ってさ。
そんな訳で周りをキョロキョロ、視線を周りに向けたんやけど、ベンチに座ってるのは俺だけ。確かフードコートみたいな場所やったんやけど、時計の短い針が真上を指してへんかったから……飯時では無かった筈、まだまだ園内のショーの方が盛況やった。それなら、なんで、こんなにも重く感じるのか?見たくないけど、確かめへんと……!と思って、なけなしの勇気を振り絞って、子供の俺を困らせる元凶の、肩へと顔を向けたら……そこには!
「俺の肩には、既に真っ赤に染まった死神の──」
「「「ひっ!」」」
「──鎌みたいな形をしたクチバシの、フラミンゴが肩にもたれかかってたんや……!」
「ふ、フラミンゴって、死神でもなんでもねーじゃんマサ!」
「ちなみにこれが戻ってきた親が撮影した、その当時の写真……の写真やで」
「えっ嘘、これ藤君!?すっごくカワイイ!」
「私よりも小さな頃だけど、かわいいねマサさん!」
「だ、男子三日会わざれば刮目して見よ、とは言うが……見違える物だな?可愛いじゃないか、マサ?」
「……写真を出すって決めた時点で覚悟してたとはいえ、もうちょい怖がって欲しかっ──」
「あっははははは!ち、ちっちゃい頃のマサがこんなに可愛いのにいっひひひひひ今じゃ見る影もねぇなんて、あー怖い怖いうえっへへへへへ!!後でお、送ってくれよひひひひひひ!!!」
「写真と一緒に罵倒も送ったるわアホ高麗ァ!!!」
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体として──異世界から召喚されすっかりひきこもったエルフが……本当に引きこもっとった。今日はそのエルフ直々に招かれて、怖い話を披露した時の話。
「とまぁ、怖い話なんて知らんから、それっぽく話してみたんやけど……どうやった?」
「な、中々良い感じだったぞ、マサ?番組の前説みたいで雰囲気は作れたと思う!」
「可愛いで作る雰囲気ってなんやろなぁ……てか可愛いんか?こんな俺の写真が……」
何もしない、予定もない、賑やかしも来ない。たまにはこんな日があってもええか、と身体を重力に任せて寝そべってたら、小糸さん経由でエルダからの着信が。怖い話をするから来て欲しい!って。そんな修学旅行とか合宿のノリみたいな……なんて逡巡したけど、珍しい誘い文句に心が踊って、暇そうにしてた江戸っ子を道連れにして神様のお膝元へとやって来た。
「まぁ俺の話はええわ。そろそろ教えてや、今日の話題が怖い話に焦点あててるのはなんでなん?エルダ、訊いてもええか?」
「そうだな……場も暖まった所だし、話しても良いか……小糸と小柚子には話したが、二人とも、これを知ってるか?」
「「これ?」」
そう言うエルダが取り出して来たのは、愛用してるノートパソコン。社紋のシールとかが貼られとる、何時ものやつ。サイトで動画が再生されてるけど、その動画に映ってるのは……毎度お馴染み高耳神社。よく見たら、髪がやたら伸びてた時のエルダが撮影されとるな?コメント欄で『高耳様じゃね?』『高耳様だな』『すごい猫背』ってツッコまれてるけど、視聴者ら全員、月島の住民やったりする?
「もぎたて!UMAちゃんねる……マサ、これ知ってるか?」
「さぁ?そもそも動画とか殆ど観ぃひんから、そういうのは知らんなぁ」
「違う違う、UMAそのものについてだ」
UMA……確か、Unidentified Mysterious Animal……やったっけ?つまりは未確認生物、都市伝説的に語られる生物がそれに該当する訳やけど、目の前に耳の長いUMAが居るって言うたら、怒られるかなぁ?
「知ってるぜエルダ様!ツチノコみてーな生きてる事が確認されてねえ、未知の生き物の事だろ?あたしも探してるんだ!」
「俺の中ではエルフがUMAみたいな物やったけど、エルダがそれを否定してくれたからなぁ……」
「そのUMAなんだが、江戸時代にもいたんだよ!友達の家康君が話してた、駿府城に現れた『肉人』とか、常陸国に流れ着いたUFOとか、熱田の海に出現したアザラシとか……!」
前二つはUMAっぼい話やなってなるけど、アザラシはなぁ……生存が確認されとるし、世界中の水族館とか自然界で暮らしてるの分かってるのでは?
「ちょっとエルダ!コマちゃんと藤君を呼んだ理由、そっちじゃないでしょ!百物語?をやる為なんだから!」
「百物語?」
「なんやエルダ、怖い話したいんか?」
「くっ、隠しきれなかったか……!」
ノートパソコンをしまうエルダに、向き直る俺と高麗。流れ的に、UMAの話で誤魔化そうとしてたみたいやけど、百物語と関連性でもあるんかな?
「エルダってば、オバケは怖いのにUMAは怖くない!って言っちゃってね?どっちも実在しないんだから、怖がる必要無いのに!」
「言っただろ!?UMAはロマンだけどオバケは理不尽に怖いんだから……!江戸の頃から怖い話するだけで出てくるんだぞ!?百物語を完走したら本当にオバケが!!」
「100話も話すの大変だし、みんなでワイワイ話せば怖くないって事でね、小柚子と二人も呼んだんだ!」
「うーんと要するに、実際に百物語をやってみたい!ってエルダが思ったんやね?」
「私じゃないぞ、小糸が面白がってやりたいって言い出したんだ!昔は武士の鍛錬として伝わってたのに──」
ふむふむ、高耳の巫女さんはポジティブすぎて、ホラーにも耐性があるとはなぁ……ワイワイ話すとか言い出す時点で百物語もへったくれもないし……多分やけど、神様よりも巫女の方が御利益あるんやないか?この調子やと除霊とかやれると思うで!
「完走したらって事は、途中で止めたらええんやないの?」
「そ、そうなんだよ……大体途中で止めるんだ。本当に出るからな」
「止めるっていうか、ネタ切れするもんなぁ」
「ふーん?とにかく、一人ずつ怪談を話してけば良いんだな?」
正直、今ので俺はネタ切れなんやけど……ちゃんと百物語を始める流れになったらしい。ん、待てよ?まだスタートしてなかったんなら、さっきの俺の過去話は一体!?もしかして話し損では!?
「うん!電気消して蝋燭立てるんだよ!」
「わ……私怖い話苦手だし、怪談なんて良く知らないよ〜」
「心配ねえって小柚子、本当にオバケが出たらマサが庇ってくれるからよ!」
「小柚子ちゃんを庇うのは当然やけどさ、高麗に言われるのはなんかちゃうんよなぁ……」
「マ、マサさん!大丈夫だよね!?みんなを守ってくれるよね!?」
「──任しとき、オバケだろうとゾンビだろうと……万難を排して守ったる!」
「かっけー台詞なんだけどさ、マサが吐くのはなんかちげーんだよなあ……」
本当失礼極まりないなこの江戸っ子は……!小柚子ちゃんの前ならそういう台詞の一つや二つ、言いたくなってもおかしくないやん?月島の宝やで?庇護すべき愛されし存在やで?そんな存在に言われたら、どんだけ怖くてもやるしかないよなぁ?
「別にちゃんとした怪談じゃなくても良いんだよ……怪談はうらめしや〜な話じゃなくて、説明のつかない不思議な話とか……さっきマサが話してくれた様な、語りの雰囲気が怖い。そういうのもアリなんだ」
もしそれでも大丈夫やったら、このエルフ……中々に策士や。正直オチが怖くもなんともない……俺の過去で雰囲気作れたぞ、なんて言っておいて、怪談のハードルを先んじて下げる事に成功したんやからな!小柚子ちゃんに配慮したってのもありそうやけど、自分が苦手だからと、巫女の妹までも利用した可能性が……!?
「行灯の火が燃え続ける『消えずの行灯』っていう狸に化かされる話とか、夜中に祭囃子が聴こえてくる『狸囃子』、とかな?」
「エルダ様、タヌキ多くね?」
「う、うん……タヌキが化かすの多めなんだよ、江戸の怪異……」
「化かすって言うたら、狐は?どっちもそんなイメージあるで」
「そうだな……狐が化かすなら、『狐の嫁入り』が有名かな?」
狐の嫁入りって言えば、晴れとるのに雨が降ってたり、そんな時に虹が掛かる現象とか。童話にも同じ名前の奴あったよな?内容は確か……鶴の恩返しみたいな。
「それってあれやろ?助けた狐と結婚して幸せやったけど、狐側が正体バレて手紙残した〜ってやつ」
「ざ、ざっくりしてるが、マサがそっちを知ってるのは意外だな……『狐の嫁入り』に関しては呼び名も説も色々あるが、江戸の頃は神様として、狐は祀られたりしたんだぞ?」
「へーっ、じゃあエルダみたいに御神体をやってたの?」
「狐は元々、悪さをして懲らしめられて、憎まれ役をしてたんだ。でも江戸時代になって商売が発達すると……元々あった土着信仰から、稲作とか商売繁盛の神様として地位が上がってな?」
小糸さんがエルダみたいに、って言うけど……それだけ聞いたらまんまエルダやな?お賽銭無駄遣いして叱られて、神事でだらけては叱られて、悪事?を働いたエルダにしゃんとせい、って巫女が懲らしめてる図が目に浮かぶ……それでも月島で愛される、そんな神様。本人は、ご利益は無いのにな!と言い張ってるけど。
「単なるエルフから神様になった、みたいなもんか……ほんなら後でエルダに買って来たるわ、油揚げ!」
「わ、私は狐じゃないからな!化けてないからな!?」
「エルダ様エルダ様、今日の夕御飯はいなり寿司にしてもいい?なんだかお供えしたくなっちゃった!」
「おお、それは楽しみだな!屋台で売ってたら思わず食べる位には好きだぞ私!」
掌を返すのが速すぎる!幾ら小柚子ちゃんの提案とは言え……いや、小柚子ちゃんの作る料理やからしゃーないといえばしゃーないんやけどさぁ……!
「あ、マサさんもコマちゃんもご馳走するねっ!折角だもん!」
「ええの?そういや食べてへんかったから嬉しいわぁ!」
「ありがとな、小柚子!でもなんで、狐って言えば油揚げなんだろーな?」
「そ、それも諸説あるが、狐が鼠を狩る事から、鼠の油揚げをお供えしてな……宗派的に殺生が駄目になったから、大豆を揚げた物を供えた、というのがあるんだよ。だから『油揚げ』という名前が付いた訳だ」
その理屈で行くと、現代で鼠を食べる文化が存在してた可能性があるのか……うえっ、想像もしたくない!好きとか嫌い以前に、口にしたくないタイプや……!
「まあ狐の歴史に関しては、歌舞伎や人形劇のネタにされたり……時代を経て招き猫が後々流行る理由にもなってな?現代の招き猫は、その影響を受けたりもしてるんだよ」
「マジで!?狐が猫にもなっちまうのか!」
「招き猫ならぬ招き狐かぁ──すっかり忘れとったけど、怪談は?動物の話が盛り上がるのはかまへんけど、百物語はもうええの?」
「そ、そうだったな……危うく私まで化かされる所だった……」
狸の影響か、狐のいたずらか。姿形どころか会話の内容までも逸らして来るとは、伝承ってのは大したもんやね?
「まあとにかくだ、百物語には細かいルールがあって大変だからな?今日は真似事くらいでやってみよう……」
「よ~し、じゃあ電気消すよー!」
「あわわわわっ」
場の空気を暗く、怖く、より怪談を語るに相応しい雰囲気を作る為……エルダの私室は真っ暗になった。目を凝らせば誰が居るか分かるけど、窓がなくて、障子以外で外に通じてへんから日が暮れる程……より暗くなる。
「あ!蝋燭持ってくるの忘れてた!」
「心配するな小糸!私がバッチリ用意しておいた……!」
そういうエルダの手元にあったのは、リモコンかな?裾から取り出したんか知らんけど、ピッ!とそのリモコンから音が鳴ったかと思ったら、部屋一体が、仄かに……いや、何かのパーティーを思わせる様な装飾が、俺達の居る空間を灯してくれた。
「明るいんやけど、蝋燭にしては、電飾っぽいというか……」
「わー!クリスマスみたい!」
「エルダ、これってもしかして……」
「うん、蔵にあった小金井家のクリスマスツリーのやつ」
時期でもないのに、木に巻き付けて光らせる奴を拝めるとはな……電気代掛かりそうやし、菊次郎さんに怒られへんかこれ?そもそも蝋燭消していくのが百物語やのに、これじゃあ少しずつ消されへんやん!ほらーあの高麗ですらあんぐりしてるがな……。
「ホラーどころかハッピーな雰囲気なんだけど!」
「まあ小柚子も喜んでるし、いっか……」
グダグダというか、高耳神社らしいというか……恐らく一番怖くない雰囲気の百物語が、今、始まった。先頭話者は、小糸さん。
「じゃあ私から話すね、これは私が実際に体験した話なんだけどね?二ヶ月位前だったかな、そろそろ寝ようとお布団に入ったら……どこからともなく“バシッ““ビキッ“って音がしたの」
語り口調は堂々としてて、高麗が思わず感心してる。その証拠に小柚子ちゃんは怯えてるし、『家鳴り(やなり)』だと呟く神様。俺も思わず喉を鳴らして……照明の効果は確かにあるらしい。
「何だかその音が妙に気になって、眠れなくなっちゃって。何処から音がするのか確かめようと思って、押入れを開けようとした時、あることを思い出したんだ。昼間、新しい服を買ったな、って。眠れないし、試しに着てみたの──そしたら……思ってたよりサイズが小さくて!!ピッチピチで!!」
「家鳴りは!?サイズ間違えた服なんてどうでもいいんだよ!音の正体はなんだったんだよ!!」
「音?さあ……」
「さあ!?」
「『家鳴り』は家の木材が伸縮する時に出る音なんだって、小柚子?」
すっとぼける小糸さんの台詞に、肩の力を抜き取られた。思ったより古風で正統派な怖い話で来たと思えば……ただの採寸ミスとは。いやぁさっき話した俺の話もあれやったけど、エルダの家鳴りの解説無かったら、結局謎のままやもんなぁ?口調だけは怖かったけどな!
「えへへ、怪談って思ったより難しいね」
「じゃあ次は小柚子の番な!」
「え〜!わ……私やっぱり怪談なんて難しいよコマちゃん!」
「安心しろ、姉ちゃんよりひでーのはない」
「オバケやなくても、びっくりした事とかでええんやで?そんで驚いた所だけ大声で話すんよ。それ以外はボソボソ声やと効果的やで!」
「びっくりした事……びっくりした事……うん、わかった!」
そんなこんなで二番手は、小柚子ちゃん。それっぽく助言を送ったけど、聴くのも話すのも怖い歳頃なんかな?なんだか自らの声に驚きそうな、オドオドとした語り部が現れた。
「じ、じゃあ……私がびっくり、怖い思いをした事を話すね……?これは一昨日の事なんだけど、お夕飯の買い物に行ったのね」
なるほど、身近に有り得そうな、それでいて小柚子ちゃんらしいシチュエーション。身近であればある程、恐怖がすぐ側にいるって印象付けられるから……続きが聞きたくなってしまう。ええで小柚子ちゃん!
「スーパーで玉ねぎが特売だったから、たくさん買ってお店を出たの。だけどその後……お肉を買いに寄った富士マートで──玉ねぎが!!富士マートの方が20円も安かったの!!!」
恐らく出会ってから史上初、豊洲の競りなんか?って位、小柚子ちゃんの大きな声。盛大に怖がらせようと必死やった筈やのに、本人の意思に反して部屋の空気は……照明が不要な位、朗らかな暖かさに包まれた。
「そっかぁ……それはこわかったねぇ……」
「な、なんでみんな微笑んでるのー!?」
子供な見た目に年齢、それに加えて言動と行動。料理下手に自堕落な神様がいるせいだといえばそれまでなんやけど、カルガモの子供が必死に泳ぐ姿を見てる、そんな気分にさせられた──普通なら、それで終わる空気。
「……小柚子ちゃん、ちなみにやけどさ、それは玉ねぎ1個の値段なん?」
「ま、マサ?どうしたんだよ……?」
でも、俺にとっては、今の話には、もっともっと気になる部分があると思ったんや……!
「え、えっと……ううん、3個だよ?」
「お肉、お肉は富士マートやとグラム何円やった?」
「……さ、348円!」
「まさか、スーパーの方やと、お肉のグラム単位の値段は……!!」
「398円だったの!!」
「うわああぁぁぁぁ俺が今でも苦しんでる、品物によって安い店が変わる現象やぁぁぁ!!!!!」
なんて恐ろしいんや、小柚子ちゃん!怖い話は苦手!?怪談はわからない、やと……?理解した途端、そこら辺の語り手が土下座で懇願するタイプの怖い話やんかこれは!料理が出来る、手先が器用、向かうところ敵なしやなぁおい!!
「ツッコミがなげーよマサ!ってか怖がるのかよ今ので!」
「高麗お前、今の話が怖くない訳ないやろ!?引っ越してきてから散々一人で東京の物価に加えて、月島中の店舗という店舗をほぼ毎日歩いて節約してたんやぞ!?ただでさえ食品なんて毎日値段変わるのに、実例を交えて話とかされたらさぁ!ニワトリ8羽分の鳥肌が立つ位怖いに決まってるやん!オバケに今まで溜めたレシートの束見せたら除霊出来るレベルやで!実際にやったろかおい!??」
「わ、悪かったよ……怖かったんだな、スゲー怖かったんだな?マサにとっては……」
「小柚子ちゃんにとってもや!──小柚子ちゃん、今度の休み、一緒に夕飯の買い出し行こか……もしかしたら逆転現象が起きてるかもしれへん……」
「うんっ!良かったら豊洲市場も行こう、マサさん!お魚さん、先週より安くなるかも?って市場の人が言ってたの!」
「よ、良かったね小柚子!怖がってくれる人いたね?」
「す、少し大袈裟な気がしなくもないが……まあ怪談だしな、盛るのも怪談か……」
確かに説明口調で驚いてしまったのは事実やけど──俺のアドバイスなんて不要な程の、こわーい怪談を披露してくれた小柚子ちゃん。敬意を表して、自宅の買い出しも含め……荷物持ちをすると言い出してしまった。負けた戦士はな、勝者に従うのがルールなんや。今勝手に決めたけど。
「じゃあ次はコマちゃん!」
「よっしゃ!みんなトイレに行けなくしてやるぜ!」
忘れてた、今は百物語の真似事の最中やった……格安の衝撃で記憶が消えてたけど、高麗の怖い話、聞いたらなアカンな……さぁ来い!
「…………」
「…………」
「…………」
「おーい、高麗?」
「…………え〜〜〜〜っと……」
高麗にしては珍しく、たっぷり間を取ってるなー?と思ったけど、一向に話し始める気配がない。急に意識飛びました、とかの方が余程怖いから声を掛けたけど、生きてはいるらしい。言葉に詰まりすぎて黙る、そんなタイプやないから……もうちょい待とか?
「…………これは、実際に、あたしが体験した話なんだけど、そろそろ寝ようと思ったら、“バシッ““ビキッ“って、音が……」
「それさっき私がした話した実話だね!?」
「ね、ネタ切れ以前の話やんか……」
トイレに行けなくするっていう威勢の良さはどこ行ったんや!?後先考えへんのが高麗の美徳、そう思ってたけど、考えなさすぎるパターンまであるのか……対桜庭高麗の説明書に追記せんとなぁ?
「いやマジで怪談って難しいな!」
「こんなのじゃ百物語って言えないね〜」
「真似事とはいえ、瓦解寸前やでこれ?」
「じ、じゃあ、今度は私だな……!よ、よ〜し……!」
もし俺の話も含めてええなら、一巡目最後はエルダ。勝手な想像して申し訳ないけど、出会った事も見た事もない、森羅万象に怖がるエルダの事やから……。
(なんかエルダの怪談、全然怖くなさそうだね?)
(うん!)
(あたし、飽きてきた!)
この三人組からはこんな評判が。身を寄せ合ってはいるけど、怖さより面白さを分かち合う寄せ方してるなぁ?気持ちはわかるけど、もう少し怖がってやらへん?高麗に関しては……うん、飽きるには早い!そんな俺達を無かったかの如く、御祭神がポツリポツリと、語り始めた。
「あれは確か──15年くらい前の事だったか──」
怪談の冒頭に入った途端、部屋の空気が支配された感覚を覚えた。エルダの声質に依る物なのか、或いは手品の時みたいに、精霊ちゃんや風の魔法でも使ってるのか。囁く様に、しかし確実に耳に届く声に、怖気づく自分が居た。
「あの年の夏はやけに暑くてさ?9月になってもいつまでも蒸し暑くてな?だからなのか、夜中に喉が乾いて──ほら、そこのさ、キッチンにフォンタを取りに行ったんだ」
怖い話を語る時の、常道みたいな物はある。間の取り方を普段より伸ばすとか、動作に擬音を挟むとか、精々俺が知ってるのはその程度。でも、この語り部は……エルダは……。
「その時、なんて言うのかな──なんとな〜く…………“何か“に視られてる気がしてさ」
(な、なんか怖いかも……)
(う……うん……!)
(あわわわわ……)
怪談を語る際のあらゆる技法を知った上で、それを悟られない様に駆使しつつ、俺達に届けてる。神社全体は知らんけど、少なくとも、今、この部屋を支配してるのは、間違いない。エルダや……!
「ふと──目に入ったのが、冷蔵庫とキッチンの間の“隙間“。なぜか、どうしても、その“隙間“が気になるんだよ。気になり始めたんだよ」
円を作る様にして、みんなで座ってた筈やのに……面と向かってエルダの顔を見てたのは、俺だけになっとった。暗がりとはいえ、いつの間に!?その俺以外の聞き手は、あろう事か、俺を盾にする形でエルダを覗き込んでいた。肩に掛かってる手から、三人の震えが感じ取れる──あのなぁ、庇うだの守るだの確かに言うたよ?でも、有無を言わさず人に庇わせるのは……ちょっと違う気がするで?特に巫女さん、自分の仕える相手にそれは不敬って言うもんやないか?とりあえず、小柚子ちゃん以外は離れとけ!
「だぁんだんと、目が慣れてきてさ?少しだけ、“隙間“の奥が見えるようになったんだ」
わかる、怖いのはわかる。百歩譲って隠れるのは許したる……だから、誰かわからへんけど、肩や腰を服ごとつねるのはやめてくれへんかなぁ!?怖さより鈍痛で涙出そうなんですよ!!
「真っ暗な冷蔵庫と、キッチンの間には、あったんだ──」
多分、隙間の違和感に迫ってオチが来る!と思うけど……ごめんなエルダ、俺だけ怯えてええんか薬箱開けてええんか、もうわからんわ。
「返した覚えのない……5月に借りたレンタルDVDが────」
隙間の暗闇に潜む正体が暴かれた瞬間、血の気が……いや、痛みが引いた。うん、まぁ、知ってた。幾ら歴史に造詣が深かったり、現代の遊びに俺より精通してるとはいえ、臆病な気質のエルフ族。怖い話なんて、知ろうともせぇへんのは道理かなぁ?
「延滞料取られると、小夜子に怒られるから言い出せなくてさ……それが、15年前の話」
えっと、5月に借りたDVDが9月になって漸く出てきたから、およそ4ヶ月。1本とは言ってへんから、仮になんらかのシリーズを纏めて3本借りてたとして……映画が新しいか古いかでも料金変わるらしいから……。
「……それ、ちゃんと返したんだよね?」
小糸さんからの質疑に答える事もなく、ただ微笑みを浮かべただけ。返したとも、最悪の手段として、買い取ったとも言ってへん、物言わぬエルフ。
「エルダ……?ねえエルダ!なんか言ってエルダ!!」
本場のそれが、どれ程話し込むのかはさておき。高耳神社の百物語は、一巡目で現地解散となった。俺の前説を込みにしても……引き籠もり生活で培ったウィスパーボイス。先入観を覆す、神様らしくもない現代風の怪談──ある意味、エルダの話が一番怖かった。DVD,どうなったんやろか……?
「いやー怪談って難しいんだな、マサ!」
「難易度以前に、お前は語る努力せぇよ高麗……普段の雑談は楽しいのにさぁ」
「へへっ、善処するぜ!──だから努力の為に訊くけどよぉマサ、今日そんなに怖がって無かったじゃん?もしかして……ゾンビとかも怖く無かったりするのかよ」
「ゾンビ?んな訳無いやん」
「嘘だろ!?あたしの家でやってるゾンビゲー、死ぬ程ビビってるじゃねーか!」
「確かに脅かす様な箇所は苦手やけど、ゾンビ単体はそんなにやな」
「マジかよ……文化祭であたしのクラス、マサをビビらせたくてゾンビ喫茶提案しちまったじゃん!その提案で申請通っちまったぜ!?どーすりゃいいんだよこれ!!」
「……ごめんなエルダ?神様よりも、お隣さんのノリで生きてるクラスの方が、よっぽど怖いかもしれへんわ」
東京都中央区月島──隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられ、繁栄してきたその下町に住む江戸っ子は……クラスメイトを利用してまで、俺を怖がらせようと躍起になっていた。月島人は、色々と規模がデカいなぁ?
文量に比例するかはともかく、更新間隔がそれ以上に伸びてる気がする……原作から割と変えたつもりの所がありまして、詳しくは先月更新された#132〜134を読んでみてください!原作を読んだ後、違和感なく書けていれば嬉しいのですが……良かったら感想、お聞かせください!
連休中は慌ただしくなるので続きの執筆に取り掛かろう、そう10月30日に思って小説のページを開いてみたら……ありがたい事に、本作が10000UAを突破していました!5桁超えた!?私の作品で!?見掛けた瞬間、夢だけど夢じゃなかった……となりました。こんな遅筆の私の作品ですが、読んで下さってありがとうございます!原作である江戸前エルフのついでに、これからも拙作をよろしくお願いします!!