江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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祝・40話記念!という訳ではありませんが、節目に書きたかった特別編です!


風の街に生まれて ねこと月島と

 

 ぼくはねこ。ニンゲンからは『タマ』と呼ばれている。宝石の様に可愛く大切な存在、という意味らしい。ぼくにぴったりの名前だ、気に入ってる。

 

 とうきょうとちゅうおうく、つきしま──ニンゲンが海を埋めてつくった街。ここがぼくのナワバリ、気に入ってる。そんなナワバリのパトロールは、每日かかさずやっている。今日もつきしまの平和を、みまもるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぎしっトットッ、そこを歩く度に鳴き声がする。その木の板を踏みしめる音は、ぼくの気分に合わせて音を変えてくれるから、ここのパトロールは気に入ってる──ただひとつ、いや、ただひとりを除いて。

 

「あっ……やっぱり……!村井生花店のタマ……!」

 

 こいつはタカミミ、他のニンゲンよりも耳が長い。ぼくのご主人よりも長生きらしい。こいつ猫よりダラダラしてる、なのにぼくのご主人も、街のニンゲンも、こいつのことが好きみたいだ。

 

「ど、どうしたんだタマ……あっ、餌とか欲しいのか……?」

 

 確かにこいつの長い耳はけっこうイケてる。だけど……ぼくのしましま尻尾の方がもっとイケてるのに。每日パトロールするぼくの方がえらいしイケてるのに……こいつは、気に入らない。

 

「あ、ああ……もう行っちゃった……」

 

 パトロールを続けるには、こんなところで道草を食べてられない、タカミミの事はもういいから行かないと。証明しなきゃいけないんだ、つきしまでいちばんの人気者はぼくなんだ、タカミミなんかじゃないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえコマちゃん、文化祭でやるゾンビ喫茶ってさ、ゾンビのコスプレするんだよね?」

「そりゃゾンビ喫茶って銘うったんだし、ゾンビじゃなきゃ詐欺だろ」

 

 ちいさなニンゲンやおおきなニンゲン、色んなニンゲンが集まる場所にやってきた。ナワバリでも公園と呼ばれるそこは、ニンゲン同士が遊んだり、ぼーっとしたりする憩いの場所だ。

 

「エルダ様ってゾンビのゲームとかやんねーの?あたしもマサとやったりするけど、エルダ様視点なら参考になるんじゃね?」

「ないない!こないだ小柚子がお魚捌いてるの見て気絶したんだよエルダ──ん?あ!タマ〜!」

「今日も美人だにゃ〜、撫でさせてー!」

 

 今日はニンゲンも少なめ、そんな公園に奴らがいた。こいつはタカミミの子分とそのナカマだ。ぼくが知らない頃からいつも一緒にいる。どこで覚えたのかは知らないし、鳴き声はうるさいけど撫で方は悪くない、割と気に入ってる。

 

 このまま撫でられるのも良い……でも、ぼくには使命があるんだ、ほんの少し名残惜しいけど行かなきゃ。つきしまイチの人気者は、ぼくなんだ。

 

「タマ〜もう行っちゃうのかにゃ〜?バイバイだにゃ〜」

「またねタマ〜!ラッキーだねコマちゃん、ここでタマに会えるなんて!今日は良い事あるかも?」

「だな、帰りにピーノでも買うか!にしても勿体ねーなー、こんな時に限ってマサの奴……独りになりたいんや、なんて言い出してさ」

「ホームシックなんじゃないかな?出会った頃もそんな感じで、私達の事も避けてた時期あったしさ!それに、藤君ならバイトで通ってるし撫で放題だよ!」

「それなら良いんだけどよぉ……まっ、たまにはいいか、男の事情ってもんがあんだろうし──土産にマサの分も、ピーノ買っといてやるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食べ物の匂いがただよう、つきしまでいちばんニンゲンがふえる場所へとやってきた。ご主人は確か……もんじゃストリートと呼んでいる。そんなご主人も時々通っているらしい、店の一角に差し掛かった。

 

「オエェエ…………」

「ったく、昼間から呑みすぎなんだよお前は……ほら、水飲め」

「うるっさいわね〜あんたの店が潰れない様にお金落としてあげてんのよ〜マサを紹介したの、誰だと思ってんの?」

「おかげさまで潰れる予定はねーよ!ってかマサから働きたいって自分で来たんだ、お前の紹介でもなんでもねーよ!」

「あはっ♡二人とも、中学の頃から全然変わらないわね〜」

 

 その店の前にいるのは、そこの店主とナカマたち。あの顔の青いニンゲンは、病院で働くらしいけど、とてもそうには思えない。ハデな服のニンゲンは……ご主人が僕の毛並みを整える様に、ニンゲンの毛並みを整えている、らしい。割とデキる奴だ。

 

「りーちゃんはだいぶ変わったよな」

「うん、カワイくなったわ」

「ありがと♡それはそれとして、お休みに飲みつぶれてちゃもったいなくな〜い?茜ちゃん運転好きだし、また3人でドライブ行こうよ〜」

 

 こいつらは、よくこうやって集まっては喋っている。こんな景色をみまもるのも、人気者のツトメだ。ぼくはそう思う。思うけど、何処か気に入らないのは理由がある……。

 

「あれ母さんの車だもん……旧くて乗りづらいし……」

「あ?お前こないだすげーゴツいの乗ってたじゃん、高耳様と小糸をスカイツリーまで送ってたろ」

「あんな送迎用の外車、レンタカーに決まってんじゃない……幾らすると思ってんのよ?高耳様の為にちょっと奮発でもしないと乗れないんだから!」

 

 こうやって、タカミミの話をするからだ……どいつもこいつも、気に入らない気に入らない!

 

「とにかく、今度の休みまで禁酒な、ドライブ連れてけよ」

「私お弁当作ってくわ〜♡」

「え〜確かにドライブは好きだけどさ〜……お酒も好きだし……そうだ、お酒を飲んで車に乗ればいいのでは……!?」

「いいわけねーだろ!」

「色々一発アウトよ、茜ちゃん♡」

「ったく、こればかりはマサにも頼めないしな……あ、村井生花店のタマ」

「どこどこどこ!?触りたい触りたい癒やされたい──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 店を離れて、商店街まで見回りに来た。この通りもニンゲンが多くて、パトロールの甲斐がある。何故ならぼくの家──ご主人の店もあるからだ。

 

「タマ、ちょっと寄ってきなよお」

 

 この声は……こいつは、シマデン。ぼくのご主人のナカマだ。こいつはご主人の次だけど、気に入ってる。膝の上が暖かくて、撫で方も上手いからだ。そうそう、そこ。その辺りが気持ちいいんだ。

 

「今日はもう、高耳神社には行ってきたのかい?エルダは相変わらずダラダラしてたろ?」

 

 折角撫で方を褒めているのに、そんな時に限って、またタカミミのはなし……シマデンもご主人も、タカミミの事を話す時は笑ってる。なんであんな奴の話がそんなに楽しい事なんだ、ぼくがここにいるのに。

 

「おや、もう行っちまうのかい?良かったら、マサの事も探してごらん。今日はあいつ、独りで暇してるだろうからね」

 

 気に入らない、タカミミの事ばかり話すこいつらの事が気に入らない──まあ、頼み事くらいは、その撫でに免じて、覚えといてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つきしまは、海を埋め立てて作られた。それなのに、ぼくがやってきたここは、海ではなくて川と呼ぶらしい。川は海につながっているらしいから、どっちもおなじにきまってるのに。

 

 ぼくは歩いた道を引き返して、パトロールをはじめた場所に戻ってきた。元いたを見て周るのも、大切だからだ。そんなここは、すみだ川。この川の向こうは、ぼくのナワバリではないけど……つきしまの端っこだから、ここだってつきしまだ。

 

 とくに理由はないが、シマデンに言われた事を思い出して、戻ってきた。ニンゲンだって、おなじ所にずっとはいないけど。ぼくがそいつに出会うとすれば、ご主人の家か、このすみだ川のほとり。そして、ほとりにいる時は必ず──こうやって、ニンゲン自身からは鳴る事のない……少し寂しい音が、聴こえてくる。

 

 あいつはマサ。いつだったか、ナワバリの外からやって来た。つきしまのニンゲンとは違う、ふしぎな喋り方をする。初めて出会った時も、こんな寂しい音を鳴らしていたけど、ご主人の店を手伝う時は……別人みたいに笑ってる。ぼくはあいつだけは、わからない。

 

 ひとつわかるとすれば、ここに来る回数が減っている。昔は毎日の様に、悲しい音を鳴らしていた。それが気がついたら、ご主人の店を手伝って、ぼくのナワバリを走り回って、タカミミの子分たちともつるみだして。そうやって少しずつ、ナワバリに馴染んでいった。だから、減った。それでもここへ、寂しい音を鳴らしに来る。

 

 最近は、寂しい音の後に、明るい音を鳴らす事ようになった。ぼくのナワバリを象徴するような、太陽が沈んだ夜から、それが昇ってくる朝のような、聴いてると元気にさせてくれる、いい音。少し、撫でさせてやりたくなった……でも、今日は顔を出すのはよそう。まだまだわからない事の方が多いけど、あいつは今、ひとりになりたいんだ。上手くは言えないけど、きっと。

 

 今度、ご主人の手伝いに来たら、撫でさせてやろう──気に入るかどうかは、それからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……!やっぱりまたタマ……!」

 

 パトロールの終わりに、唯一気に入らない、ダラダラしてるタカミミの所へやってきた。あいつの音で、気分が少し良くなったから。そういう事にしておこう。

 

「き、今日はどうしたんだ……?二度もウチに来てくれるなんて……!!」

 

 床が鳴らない程度に、そっとタカミミの方へ歩みよってみる。なんでみんな、こんなだらしないやつが好きなんだ?いい匂いがするからか?

 

「お……おぉおおぉ……!?」

 

 ぼくが近寄っただけでこれだ。怯えと喜びが混じった、だらしない顔をして。全く、こんなタカミミのどこがみんなを惹きつけて──。

 

 

「む、昔は野良猫ももっといっぱいいてな……タマみたいにウチにも、よく遊びに来てたんだ。ま、まあ私は怖くて撫でられなかったけど……でも、あの頃は小夜子──巫女がいなくなったばかりだったから──嬉しかったな……」

 

 

 ──タカミミは、いい匂いがする。春に咲く花みたいな、懐かしいような、すこし悲しいような、いい匂い。その匂いに免じて、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、撫でさせてやろう……かな。どうせタカミミからは来ないから、ぼくがこうやって頭を膝に近付けてやれば──。

 

「ヒッ」

 

 シュバッ、ピシャリ、ガラリ。せっかくぼくが気を遣ってやったのに、撫でさせてやると思ったのに、近付けた途端、すぐに部屋に閉じこもって……ぼくなら通れる程度の隙間を開けて、おそるおそる覗くけれど、今日はもうこれ以上……距離を縮める気にはなれなかった。やっぱりこいつは、気に入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらよマサ、ピーノ買って冷やしといてやったぜ!」

「ほーん、高麗にしては珍しい……おおきにな」

「良いって事よ!にしても今日は勿体ねー事したな、マサ!」

「勿体ないって、なにが?」

「公園でタマに会えたんだぜ!マサがあたし達と帰ってたら、一緒に撫でられたのになーって思ってさ。あ、でもマサはバイトしてるから普段から撫でてるか!」

「それがなぁ……撫でた事無いねん!」

「マジかよ!?折角タマの家で働いてるのになんで!?」

「タマが汚いって言うてへんで?ブラッシングとかされてるから寧ろ綺麗や。でも外飼いされてるし、一応生花店やし、食べもん扱ってるから……見掛けても撫でるのは止めとこうって方針でな?撫でたろうとしても、バイト終わったらどっか行ってて居らへんし」

「なんて可哀想なマサ──ほら、このピーノ食って元気出せ〜」

「子供か!撫でてへんからって落ち込まへんわ!……まぁその、猫って気分屋さんやし、何時か向こうから来るやろう?気長に待たせて貰うわ」

「へへっ、その意気だ!」

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』の神様らしい、エルダ。そして、月島のアイドルらしい、タマ──人気を二分する争いが、もしかしたらあるんかもしれへんな?




大好きな作品とはいえ、よくここまで二次創作を書き続けられたなと、目次を見た時に並ぶタイトルを見て思います。アニメの範囲に至っては拙さがありながらも毎日書いてたし……。

色々ありまして、今回の更新で今年は最後になるかもしれません。執筆自体は行っているので、早ければ年内にもう一話!と行きたいのですが……そんな感じではありますが、来年も読んでくださるのであれば、どうかよろしくお願いします。
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