江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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開幕の台詞回しは、あまり気になさらずに読んでいただけると幸いです。ではどうぞ!


明るい校舎の時は動く そのいち

 

「マダム。貴女の妹さんは、自供しました」

「違うわ、妹はやってなどおりません!作り話です!」

 

 同じ様な教室の筈なのに、どうやって創り上げたんだろう?そう思わされる様な、西洋の蒸気機関車の客車みたいな、教室の装飾。それから、熱意の合間に潜む鋭い声色と、真っ直ぐな芝居を武器にしている、藤君の学校の……藤君のクラスの劇。

 

「貴女の妹さんは、被害者の教授に頼まれて……こちらにサインを書いた」

「いいえ、先程から申し上げているでしょう!?この字は妹の字ではありません!私の物です」

「では貴女がそれを書いたと認めますね?」

「ええ認めますとも!父を失脚させられると思って!」

「では現場に居た事も、お認めになる?なるんですよ」

「なりませんわ!」

 

 本物の機関車や、本物の役者さんには敵わないかもしれないけれど。出し物に文化祭に、大切に時間を注いで来たんだぞって、この教室に混じり合う張り詰めた空気から、クラス全体の想いが伝わってきた。その想いは緊張感となって、本当に北欧の機関車に乗り合わせたような、そんな錯覚すらも覚えちゃって。

 

「いい加減にしてくださ──」

「まだ分かりませんか?その客室にその時間に、教授が居た事を貴女は何故知っていたのか?この紙切れが首長の失脚に繋がるとも、捏造された密告書とも言っていません……私はただ、貴女の妹さんが教授に頼まれて、サインをしたとだけ言ったんですよ。ここまで言えば、聡明でいらっしゃる名家の婦人なら、わかるかと」

 

 お芝居もいよいよ終盤。庭師さんや旅行客さん、観客として乗り合わせた乗客達まで、固唾を呑んで見守った長台詞。台本は知らないけど、全く噛まずに一字一句、冷静に研いだ言葉のナイフが、貴婦人さんを追い詰めて……。

 

「…………私の、敗北ですわね。探偵さん」

「人生という螺旋には、貴女みたいに、時々真っ赤な糸が混ざっている。それを解いていくことが、探偵としての責務ですから」

 

 その決め台詞を最後に、ブザーと共に幕が降りた。カ……カタルシス?っていう単語を私は知っている。詳しい意味ははわからないけれど、溜まってた感情を、解き放つ様な使い方……だと思う。その抑圧された感情は、幕が再び上がって、演者の皆さんを拍手で迎え入れるまで──この教室に、残り続けたの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーコマちゃん、藤君の学校の文化祭、面白かったね!」

「だな!『The・漢飯』のチャーハンも美味かったし、『ルーレット青汁』も仕掛けが面白かったし!」

「あはは、コマちゃん、ゲロマズ味引き当ててたもんね!」

「名前の割には拍子抜けだったけどな、単に甘ったるくしただけだったしよー」

 

 藤君の高校からの帰り道、一緒に遊びに来たコマちゃんと、ずっと思い出を語り明かしてた。本当は藤君も一緒に帰るのかな?って思ってたけど……打ち上げとかあるって言ってたし、今日ばかりは、うん。

 

「それにしても、ちょっと残念だったな」

「残念って、藤君と回れなかった事が?」

「そうだぜ!マサの奴が休憩時間に案内するんや〜って言ってたのによぉ、トラブルで裏に周るなんてさぁ……弓耳祭の時みたいな感じで……」

「ま、まあまあコマちゃん。藤君も、悪気があって約束取り消したんじゃないからさ、ねっ?」

 

 やっぱり。なんだか寂しそうに劇を観てたのはそれか……捲し立てながら、首を縦に振るコマちゃん。本当は私達を、公演の合間に学校を案内してくれる約束だったけど──壇上にある舞台装置が壊れて、その対応に追われてたみたい。劇場として使われた教室には、見渡す限り装飾が施されてたから、装置も気合いが入ってたんだと思う。それが壊れたってなったら、案内どころじゃないよね。

 

 

「でもその代わりに、ちゃーんと収めさせてもらったけどな──マサが活躍した証をよ!」

 

 

 夕日より落ち込んだのも束の間、楽しそうなコマちゃんが取り出したのは、スマホ。その画面に写っていたのは、劇場前に掲げられた豪華な看板や、役者さんが演じる壇上、座席として設置された……映画館にありそうなふかふかの椅子。どれもこれも、藤君と、そのクラスメイトが手掛けた装飾。フォルダの中身は、喫茶店のスイーツよりも──小さな劇場の内装の方が、たくさん。

 

「コマちゃん、一生懸命写真撮ってたもんね」

「まあな!探偵役から装飾担当に代わった以上、これ位してやらねーと浮かばれねーもん、マサがな!」

 

 藤君の事だから、私やエルダにも話してたとなれば、当然コマちゃんにも話してた訳でして。聞き捨てならねえ!とばかりに、事情はさておき、降板したお隣さんを……応援する為に練ってきた作戦なんだーって、会場へ向かう道中でも言ってたもんね!

 

「これだけ見てくれたって知ったら、きっと藤君も喜ぶよ!」

「へへっ、そうかな」

「絶対そうだよ!間違い無いってば、相棒!」

「サンキュー、相棒。マサの打ち上げの二次会、あたし達でさ、開いてやるか!」

「いいねーそれ、今日は藤君も誘って、ウチでご飯にしよう!」

 

 それなりに、長い付き合いになってきた藤君を、コマちゃんなりに気遣うその姿が、なんだか……微笑ましくて。そんな相棒の姿が、なんだか……誇らしくて。

 

「なぁ、小糸」

「どうしたの?」

 

 誰から充てられた熱意だろう。そんな誇らしい幼馴染の、何気ない一言は、その熱意と一緒に、私の心にまで届いた。

 

 

「──あたし達の文化祭も、頑張ろうな」

「っ……うん!最優秀賞、絶対に獲ろうね!」

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、その神社に仕える私と、その相棒のコマちゃんは、遠く大阪からやってきた男の子の影響で、より強く──文化祭への想いを募らせたのでした。頑張るぞ、私達も!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、小糸さんとこのステージで演奏するのはこの3曲やで。どうやった?」

「う、上手いじゃないかマサ……!初めてギターを聴かせて貰ったが、三味線とは違う味わいが、面白いな?」

 

 割と忙しかった文化祭から、数週間。普通やったら年に一回の文化祭やけど、俺にとっては──

 

「エルダ、ギター聴いた事無かったん?アニメでもテレビ番組でも、演奏してる人沢山居るで?」

「い、いや生演奏をって意味だ……三味線なら、江戸時代に沢山聴こえて来たんだが、アコギ自体、見るのも初めてだよ」

 

 ──二度目の文化祭。それが、明日に迫ってる。リハーサルを兼ねて、エルダの元でセットリスト通りに鳴らしに来た。今日も高麗から『合わせようぜ!』って言われてたけど、やれる事はやってきたつもりやし……前日になってまで、あんまり詰めるのも良くないと思って、断った。実行委員としての仕事もあるのに、無理させたくない!

 

「江戸時代に三味線あったん?」

「ああ、元を辿ればもっと前になるそうだが……江戸時代に一気にな?最初はお偉い方の嗜みだったんだけど、段々庶民にも広まって、習い事として人気が出たんだよ」

「ほー、習い事レベルで普及したんやね」

「当時は三味線が上手い人は、異性からの人気を集めるとされたんだ……何か芸事に秀でれば、良縁にも恵まれるからと、弦を弾く音が聴こえたよ」

 

 折角のリハーサルやし、観客ありでやりたいと思って、高耳神社へとやって来た。一曲目はエルダと反りが合わへん様な、ノリのええ曲を弾いたけど、意外と喜んでくれて何より。

 

「だ、だからマサも、ギターのお蔭で縁に……恵まれるかもしれないぞ?」

「んー、なんとなく趣味にしてるだけやし、そんなつもり無いんやけど……まぁ、気長に待っとくわ」

「ふふ、それがいいな」

 

 お礼として、江戸時代の音楽事情を語ってくれたけど、趣味で師事するつもりはあんまり無いかな?良縁目当てでやるギターも、個人的にはなんか違うし。いずれにせよ、俺より上手い人なんて、星の数程居るからなぁ。

 

「エルダ……藤君……」

「ん……?」

「小糸さん?」

 

 演奏と雑談が一段落したその時、障子の向こう側から俺達を呼ぶ小糸さんの声が。障子を挟んでるとしても、やけにか細い声やな、元気無いんかな?

 

「エルダ……藤君……」

「こ、小糸……?」

「大きい荷物なん?開けよっか?」

 

 影が透けて見えるから、障子の前には居るんやけど、一向に入ってくる気配がない。両手が塞がる程の荷物持ってるんなら、置いてから開けそうな人やのに。不審に思ったのか、炬燵から這い出たエルダが迎えに行った。

 

「エルダ……藤君……」

「な、なんで入って来ないんだ、小糸──」

 

 神様が障子を開き、何時もみたいに迎え入れようとした……その油断が、エルダにとっては、命取りやった。何故なら、向こう側に立ち尽くし、呼びかけてきてたのは、巫女でもなんでもなく──

 

 

「がお〜〜っ!!ゾンビだぞ〜!」

「ぴゃあ────!!!!」

 

 

 ──ゾンビに扮した、小糸さんやったから。うん、知ってた。メイクの予行演習するとか言うてたもんな?俺には計り知れへん化粧の世界、普段やらへん手法やと、馴染ませるのも一苦労らしい。化粧自体は馴染んでて、肌色はゾンビ感あるけど……その『がお〜』は、惜しいなぁ?

 

「おー、メイク終わったんや。血の気の無さがゾンビっぽくてええな!」

「えへへ、でしょ!そこは意識したんだーってあれ、エルダ?」

「……脈はあるわ、気ぃ失ってる……」

 

 炬燵と障子を挟んだ空間で、仰向けに倒れてるエルダ。ホンマに命取りやったんか知らんけど、口から精霊ちゃんみたいな何かが立ち昇ってる……様に見えた。成る程な、エルフ的にはゾンビは駄目か。

 

「おーい、起きんと風邪引くで〜?」

「エルダ!エールーダ!」

「…………はっ!」

 

 誰かが気絶する、なんて現場も初めて見たから、流石に不安になって、ゾンビな小糸さんと呼び掛けた。

 

「ぴゃ──」

「これメイク!ただのゾンビメイクだから!!」

 

 ついでに、天丼芸も見せてもらった。なんていうかエルダって、おとなしめな割に、表情豊かやんな?もしここがお化け屋敷やったら、仕掛け人的には堪らんやろこれ!

 

「も、も〜……ビックリするだろ!ついに東京がゾンビウィルスに侵されたのかと……!」

「その理屈やと、俺が来た時点で終わってるで」

「あはは、ごめんごめん!明日文化祭だし、メイクの練習したくて」

 

 息を吹き返したエルダが炬燵へと入り込み、一息。ウィルスというか、ゾンビな小糸さんに耐性が出来たらしく、普通の会話が始まった。

 

「エルダ、UMAはアリでもゾンビは駄目なん?」

「だ、だって別物だろ……!?前者はロマンだけど、後者は理不尽なんだから……!もしもマサや小糸がゾンビになったらどうしよう……噛まれてやるしかないのか!?って考えちゃうし」

「気遣いの塊やな」

「だよねぇ」

 

 こういう気遣いの塊みたいな神様やったら、ゾンビも噛みたくなるんかな?映画とかゲームのゾンビは、見境なく襲うイメージあるけど。

 

「ところで、明日文化祭なんだよな、小糸。ゾンビ喫茶だったか……?」

「うん!私もメイクして接客するの!メニューもゾンビに因んだ物になっております」

「ち、因んじゃったか……」

 

 そう言って、小糸さんのクラスのメッセ画面を見せてくれた。部外者が覗くのも失礼な気もするけど、掲げてきたってんならまぁ……えーっと何々?『血みたいなトマトジュース』、『脳みそっぽいゼリー』、『丸太みたいなチュロス』、『はらわたベーグル』……すげぇ、チュロス以外が食欲を削ってくる!発想の源がわからん!丸太にしてもゾンビに関係あると思われへん!直後の『ナイスゾンビ』って返信も意味が……って返信したこのアイコン、高麗やないかい!!

 

「へ〜、随分凝ってるじゃないか……」

「く、腐るって単語でよく許可下りたなぁ?」

「コマちゃん、実行委員も頑張ってたしさ。クラスの皆で賞、獲らせてあげたいんだ!」

 

 それは……確かに俺も知ってる所ではある。めんどくせーとボヤきつつも、遅くまで学校に残ってたり、休日も学校に出向いたり。お菓子をつまみながら、文化祭の裏側について──高麗節たっぷりで聞かされたから。

 

「俺のとこはそんなん無かったけど……高麗から聞いたで、パンフが投票用紙になるんやろ?」

「うん!一般のお客さんに一番人気だったクラス企画がね、最優秀賞になるんだ!」

「し、賞品とか出る感じ……?」

「出ない。我々が得るのは栄誉のみさ」

「かっこいい……」

 

 まるで正義のヒーローみたいな、言い回しをする小糸さん。うん、まぁ、下手に商品とか出ても困る事になるし?栄誉だけにした委員会は英断よな?

 

「藤君は勿論だけど……エルダも来るよね?文化祭!ぜひ清き一票を!」

 

 俺は出番貰ったから行くけど、エルダはどうなんや……?耳長くね?の一言で神社に籠もりっきりの生き物やのに。てか身内に頼む一票って、清いんかな?知らんけど。

 

 

「え、え〜……私はいいよ〜……」

「お願いお願い!ゾンビ喫茶、エルダにも来てほしいの♡」

 

 

 ち、ちくしょう!可愛さに全振りした小糸さんは強敵すぎて、贔屓目に見なくても可愛いからこう、胸の奥が熱く……手を組んで、ちょっと首を傾げて、猫撫で声で。もし俺がエルダの立場やったら、前日から並ぶレベルで絆されそうになる……!流石は小柚子ちゃんの姉!

 

「ろ、露骨に媚びてきたなぁ」

「可愛くお願いしてもダメ……今ゾンビだし……」

「まあ文化祭には、氏子さん以外にも人が来るし?エルダにはハードル高いかあ、ちぇっ」

 

 悔しそうにしながら、化粧を拭い去る小糸さん。つい失念してたけど、頭には刺さった様に見せかけた、カチューシャ型の包丁が。それもしかして、手品喫茶で使おうとしてたやつと違う?

 

「っていうか、目的地が喫茶店って本末がコケてないか?休憩しに行く所なのに、行く為に疲れるなんてさ……」

「え〜?爺ちゃんなんか、わざわざ日本場の方までコーヒー飲みに行くじゃん!ほら、レトロ喫茶って言うんだっけ?」

「レトロっていうか、まあ昔ながらの喫茶店だな……ここらじゃもうあんまり無いみたいだな……」

「昔はもっとあったのにって、爺ちゃん嘆いてたよ」

 

 菊次郎さんより長生きしてるエルダからしたら、レトロはレトロの内には入らんか。俺達の言うレトロは、エルダから見れば最新式……とまで行かんくても、江戸時代と比べたら新しいやろうし。それよりも、気になった点が一つ。本末転倒って言いたいのは分かったけど、そこじゃなくて。

 

「なぁエルダ、何が本末コケてるん?俺はやらへんけど、コーヒーが美味いからとか、ナポリタン目当てとか、そういう理由で喫茶店巡る人居るよ?」

「江戸の頃は、交通手段が徒歩だったからさ……宿場や峠の辺りに、休憩所として水茶屋がいっぱいあったんだ。目的地じゃないってのは、そういう事だな……」

「ああ!茶屋娘がいたっていう?」

「日本各地に『茶屋』と付く地名があるのは、それが由来だな……」

「三軒茶屋とか、お花茶屋もその名残なんだ!」

「そういや梅田の横も、茶屋町って言うてるなぁ」

 

 成る程ねぇ、渡り鳥が羽を休めるみたいに、ふらっと立ち寄って休憩するから、本末がコケてると。そう思ったら、小糸さんの高校までわざわざ向かうのは……うん、無理やな!羽がズタボロになるわ!

 

「ちなみに菊次郎な……ああ見えて、若い頃は随分喫茶店に入り浸ってたらしいぞ……!」

「知ってる!婆ちゃんと出会ったのも、喫茶店だったらしいね!爺ちゃんにも青春があったんだねぇ」

「青春ってか、うーん……」

 

 それって俗に言う、ナンパでは……いや、親しいとはいえ、家族じゃない人の出会い。深堀りするのはよそう。思ったより黒歴史に近いかもしれへんし、女子ってそういう話好きやなぁ?

 

「私は行くならお洒落なカフェがいいな!エルダと藤君は?レトロ喫茶かお洒落なカフェ、どっちに行きたい?」

「う~んとそうだな……家、かな……?」

「この前高麗や小糸さんに引き摺られて入った喫茶店、妙に高かったし、自販機で買う」

「せめて二択から選べ、二人共」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイクを落とした小糸さんは台所へ、エルダはゲーム、俺はギターと、思い思いの時間を過ごしていた。誰かが喋る訳でもなく、神社らしい、落ち着いた時間。本音を言うと、前日ってのもあって、少し緊張してる。

 

「エ、エルダ様〜マサさ〜ん……」

「ん、小柚子か……?入っていいぞ?」

 

 障子の前で、ただ突っ立ちながら、こちら側に呼び掛ける小柚子ちゃんの声。か細さもやけど、なんやこのデジャヴは!つい先程、同じ事を仕掛けて来た巫女さんが居たような……。

 

「エルダ様〜マサさ〜ん……」

「フフフッ、エルダ?開けたりや」

「あ、ああ、わかった」

 

 これがデジャヴなら、小柚子ちゃんの考えてる事……なんとなく把握した。エルダには悪いし、悪戯心が働いたのもあるけど、小柚子ちゃんを助けてやろうと思って。エルフに立ち上がる様、促した。

 

 

「なんだ小柚子……今更遠慮なんて──」

「がお〜〜ゾンビだよ〜〜!」

「ぴゃあ────!!!」

 

 

 ごめんなエルダ、小金井家のゾンビ、パート2やわ!これはもう、菊次郎さんも感染してるパターンですわ!

 

「な、なんで小柚子までゾンビなんだ……!」

「ああ、小柚子もやってみたいって言うから、ゾンビメイク」

「あわわわごめんなさいエルダ様っ!」

「よう似合ってるで、小柚子ちゃん?」

「あ、ありがとうマサさん!」

 

 可愛らしいとは思うけど、『がお〜』はあれか、お姉さんの演技指導なんかな?いやそれが可愛らしさを強調してるのかもしれへんけど、今日だけで、ゾンビの定義が曖昧になりつつある……!

 

「どしたの小柚子?」

「ちょっと、エルダ様にお願いがあって……」

「お願い?」

 

 小柚子ちゃんにとって、何やら切実な感じのお願いらしい。ゾンビというよりは、ブリーダーから貰われて行く子犬みたいな、寂しげな表情をしていた。八の字になった眉からも、それが見て取れる。

 

「あ……あのねエルダ様、お姉ちゃんの文化祭、私と一緒に行ってくれない……?」

「え、なんで私……!?」

「あれ?みーちゃんと来るんじゃなかったっけ?」

「小糸さん、みーちゃんって?」

「小柚子のお友達だよ、藤君。誕生日会とかも一緒にやる位には仲が良いの!」

「みーちゃん、風邪引いていけなくなっちゃったの……」

 

 なんていうか、切実な理由。お友達が一緒に行けなくなったから、だから一緒に来て欲しい、そういう事なんやろうね。会場入りのついでに、俺が連れてってもええけど、どう考えても友達と行きたがるお年頃やし。そういうお祭りって、誰と行ったかの方が記憶に残る。ホンマに俺と行ったとしても、歳上に気を遣える子やから……要するに、みーちゃんって子の代わりにはなられへん。

 

「お姉ちゃんの学校までは、お爺ちゃんが車で送ってくれるっていうし……そ、それに……それに私……エルダ様とお出かけしたい!ってずっと思ってて──!」

「小柚子ちゃん……」

 

 だからどうしよう……そう考えた時、白羽の矢がたったのは、きっと、そのみーちゃん並に身近な人である、エルダ。でもエルダは、大きな神事でもないと外に出ない。そこで、ずっと叶えられなかった願いを、ここぞって時に懇願する様子が……俺にはとても、いじらしく見えた。

 

 

「かわいくお願いしてもダメなんだってさ、小柚子〜うちの御祭神は筋金入りの引きこもりで──」

「じ、じゃあ一緒に行こっかな〜……」

「やったあ!大好きエルダ様!」

「あれ!?私の時と反応違うんですけど!?」

 

 

 頼み方、想い、目的。伝え方もあったかもしれへんけど……無機物にすら愛される妹の前では、姉に勝てる要素は微塵も無かった。小柚子ちゃんの真っ直ぐな瞳は、何時ぞやのゴールデンカエルパンツァー並の、そんな威力があるのかもしれへんなぁ?

 

「小糸さん、認めよう。これが格差や……!」

「ま、まあ、エルダなりに外に出る抵抗が無くなったと思えば……」

「その代わり文化祭終わったら200年引きこもるから!!」

「そうでも……」

「無かったね……」

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体は──異世界から召喚され、すっかり引きこもってたけど……外出への第一歩を踏み出そうとした、エルフやった。良かったなぁ、小柚子ちゃん!




原作最新話の#140〜142が更新されましたので、文化祭編のプロットを新たに練りつつ執筆しました!今回は9巻の内容ですが、分けようと思ったので途中で区切っています。原作でもここから文化祭本番になりますので、次に回しました!

次回の舞台は、小糸やコマちゃん達の高校へ。
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