江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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個人的に、これくらいの文量が書きやすくて読みやすいかもしれません。


江戸前スプレッダー達の妙技

 

「お疲れさん二人とも」

「おっすマサ、待たせちまったな!」

「藤くんおつかれー」

 

 暇だから待っとくで、或いは暇だし待っとくぜ!とお互いに待ち合わせをして下校する。それが月島に越してきてからの習慣として、強く根付いていた、そんなある日。

 

「どないしたん今日は?えらい遅かったやん」

「聞いてくれよマサ〜、文化祭の実行委員が思ったより大変でさ〜」

「文化祭?実行委員?」

「コマちゃんね、面白そうだからって立候補したんだって!文化祭の仕切り役に」

「つまり何時もの道楽やんか」

 

 いきなり何を自白するかと思ったら、面白半分で肩書きを着けた事への不満を漏らしてきた。ってか遅くなったのは自業自得かい!

 ああいうのって、やりたがる人とサボりたがる人で分かれるけど……やっぱり高麗はそっち側かぁ。女子高にもその手の祭を楽しみにしてる人達、居るんやろうな?

 

「なんか企画立案だの飲食の申請だの、どいつもこいつも好き勝手ワガママ通そうとしてくるし。面倒くさくなって来ちまってさ!」

 

 実行委員とか生徒会みたいな役職って、バイトでもないのにしんどい所しかないよなぁ?経験としては将来に活かせるみたいやけど、俺からしたら仕切る側にはなりたくないなぁ。

 

「んな事言われても知らんがな!仕切る人間が必要な所に首、突っ込んだんは高麗自身なんやからな?ちゃんと気張れや〜高麗?」

「わーかってるって!引き受けてみたら、野外ステージの出し物とかも決めなきゃいけなくて、すっげぇてんやわんやでさ!……なぁマサ」

「うん?なんや急に?」

 

 溜めて溜めて『なぁマサ』って言ってくる時の高麗は、大抵こっちにもしんどい話を振ってくる時の高麗なんよな……。

 あんまり邪険にする理由もないし、一応聞くだけ聞いたるんやけどね。

 

「ウチの文化祭でさ、アコギ弾いてくれよ!」

「あっそれイイネー!イェーイ!」

 

 悪ノリ女子達の台詞に、思わず飲んでたお茶を吹き出した。

 百歩譲って弾くのだけはええんやけど……よりにもよって文化祭で!?女子高で男が弾き語り!?どんな公開処刑やねん!何を歌うんや!?そもそもそんなステージでソロとか恥かきそうで怖いって!

 

「アホ言うな!そっちのギター弾ける誰かに頼めや、趣味で弾いてるだけやのに目立ちたくないねん!ってかそっちに軽音楽部とか、なんかこう有志のバンドでも募れや!」

「良いじゃん良いじゃん、何時もあたし達のリクエストでこう……バーって弾いてくれるしさ!」

 

 良い訳あるかい!ただでさえ高麗と小糸さんの二人で限界っていうか、漸く女子慣れ、いや、異性への免疫出来てきた所やのに!アカン、そんな場所でミスったら羞恥心で溶けてまう……月島どころか、自ら関東出禁を課してしまうレベル……!

 

「暇つぶしで弾くリクエストとステージに立つのとは訳がちゃうやろ!大体女子高に男が出し物として、男が出て良い訳ないやん!お前らの学校のお偉いさんやないけど、許可が降りると思うなよ!?」

「えー絶対面白いと思うんだけどなー、あたしが適当に開設したインスタでも、結構人気あるんだぜマサって!」

「はぁ、そんなに面白くは……あ?インスタで、人気?」

 

 あまりにも聞き捨てならへん台詞を、高麗が吐いた気がする。

 なんて言ったんやこいつは。何を適当に開設した?インスタを?あのキラキラなSNSを?なんで俺が人気って言ってるんや?──これは、問い質すしかあらへんな?

 

「あれ、藤君が知らないの?藤君がもんじゃ焼き作ってくれたり、関西弁で月島とか商店街を案内したりする動画流行ってるよ!……えーっと、ほらこれ!」

「これはまるで俺みたいな、っていうか俺やな」

 

 意気込む俺を制する形で、何故か得意気な小糸さんが、スマホでインスタを起動して画面を見せてきた。

 確かに俺が写ってる。アングルとか声的に、撮影者は高麗やな。写真だけやなくて動画もあるわ。それこそ、アコギを弾いてたやつだって──おかしいな、演奏に関しては二人のリクエストに応えただけやったはず。

 

「おい二人共、すこーしお話せぇへんか」

 

 インスタの相場っていうか、人気の指標はわからへんけど、反応はそこそこ貰えてるっぽい。それは一先ず置いといて……一番の問題はやね、俺がこの投稿の存在を知らんどころか、許可のきの字も出してへん事なんよ。

 

「おい」

「いやー楽しくてマサの動画撮影してたけどさ、あたしのスマホに自己満足で保存しとくだけってもの勿体ねーし!って思って色んな人に見せたらもっと面白いよな、って話になってさ」

「相談を受けた私がインスタに上げなよ、って助言して〜!」

 

 なるほどなるほど、勿体無い精神からの助言ねぇ。見事な助言やわ!他人にも見せたいって話となったら、現代ではSNS最強やもんな?

 

「おい」

「そんで小糸に教わってアカウント登録までして!いやー中々面白いもんだな、月島育ちの関西弁男子って!あっはははは!」

 

 面白がって高麗が動画撮影しとったのは……まぁ撮るだけやったらええかって気分で許しとったけど。助言に従って、まさか知らん所で?そんな道楽の為に消費される形で?無許可でアップロード?ほーん、殊勝な心掛けやなぁ。俺が宣伝する気もあらへんっていう、ただ一点を除いてはな?

 

「おい高麗!」

「なんだよ?」

 

 これはあれやな、お叱りをすべき場面やな?法律とかそれ以前に、女子に迫るのは気が引けるけど……咎めてやろう、男として。人として。

 

「別にな?俺は高麗が楽しそうやから、ってカメラで撮ってもええかと思って撮影だ・け・は、許したで?でもそれだけに飽き足らず、お前は、人の肖像権とか諸々を、無視して、無許可で、ネットの海に、晒したんか?勝手に、おもちゃ扱いしたんか?」

「ま、マサ、どうした?なんか見たことねぇ、般若みてーな怖い顔してるぜ?」

「ほーん今の俺が怖い顔に見えるんや、そんなつもりあらへんけどなぁー」

 

 顔やと?知るかそんなもん。俺は今、冷静に、怒りを増してるんや。顔よりやらかした所業について問いただしてるんやで?アホには言葉以上に態度で示さな伝わらへんから、それはそれは良かったわぁ。怒ってる事が伝わった訳やしなぁ!

 

「俺に許可を取らず、勝手に、晒したんか?」

「えっとぉ……」

「か・っ・て・に!晒したんやな?」

「ハイ、サラシマシタ」

「はぁ……今ん所それっぽい実害出てへんからええけどさぁ」

「この投稿、藤君の預かり知らぬ所でやってたんだ……コマちゃん」

 

 物的証拠と自白ありで犯人確保。さて、どないしよか……ただ怒鳴りつけるのは趣味と違うしなぁ?まぁ自白してくれたから多少はマシかぁ。この感情が伝わったんなら、ホンマに多少は許さなくはない、うん。

 

「俺は優しいからな。高麗の凶行を許す準備があるんよ、しかもそっちに有利な条件を呑んでくれるならな」

「本当かよ!?呑む呑む!流石懐の広いマサ……愛してるぜ!」

 

 ん"ん"っ!最後のプロポーズもどきはともかく、言質取ったで、巫女を名乗る第三者のおる場所で。

 

「文化祭、そっちの学校が許可さえ出したらステージに立ったるわ」

「マジかよ!言ってみるもんだな!」

 

 交渉する時は、譲歩しつつも、相手の感情を昂らせた上で、こっちの要求を確実に飲ませる条件を提示する。こうやって、交渉前よりも良い状況へと持って行く──探偵とか刑事ドラマでやってた、ドア・イン・ザ・フェイスってやつ。

 

「その代わり、今俺が見てる前でインスタのアカウント消せ。なんならアカウント消した後にアプリもやで」

「なんでだよ!?折角こんなに人気が」

「すぐ消せや、ステージ出ぇへんぞ」

「何時もの関西弁と違って、今日の藤君怖めだね……」

「で、でもよぉマサ」

 

 折角ステージの、しかも女子高の文化祭の空きを潰してやろうと思ったのに。しぶといなぁこいつ?こうなったら、法の裁きを受けてもらうしかないな?

 

「肖像権、風評被害、肖像権、肖像権、多分……弾いた曲の著作権」

「け、消す消す消しますって!悪かった!」

 

 そしてこういう時は巻き込んで、死なばもろとも。さぁくらえ高麗、そして共に苦しめ!これが俺なりのカウンターや!

 

「後お前もボーカルとしてステージに立て」

「立ちます消します!今すぐやるから!」

「然りげ無くコマちゃんが歌う事になったね……」

 

 こうして俺の侵害された肖像権の爆心地は露と消え、死なばもろとも。流れ作業で高麗をステージに、同じ舞台に引き摺り出す事に成功した。

 俺だって高麗の可愛い所が写った写真、自慢したくても我慢してんのに!

 

「よーし確かに消したな」

「うん、私のアカウントからも見えなくなったね」

「もったいねーよ、本当……」

「高麗が個人で動画撮るんやったら許したるから、それで堪忍してくれや」

「あそこまで言われたら仕方ねー、それで我慢するかぁ」

 

 正直ある程度広まってしまった以上、消した後にもなんかあるかもわからへん。それと文化祭の話も咄嗟の思い付きっぽさ満点の口約束やし、どうせ許可出ぇへんし十中八九立ち消えやろうからええけど。

 

「ホンマ、ここから何も無い事を祈りたいわ」

「ど、どんまいだね藤君!じゃあ私はさっさと帰ろうかな!」

「待てやアホ巫女、お前も拡散する方法を教えて背中を押した時点で有罪や」

 

 無断で拡める方法を教えた時点で、全世界に伝わる手段を薦めた時点でなー?この巫女もアウト寄りのアウトなんよなー?まぁ実行犯やないとしても、ちょっとだけ痛い目に遭って貰わへんとなぁ?

 

「わ、私はどうすればお赦しを……」

「主犯やないからワクド奢る程度で堪忍したるけど、どないする?」

「ん〜お腹空いてたし、それくらいなら良いよ!今から行こっか!」

「へへっゴチになるぜ、小糸!」

「コマちゃんは自腹!」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町に住む──江戸と浪速の入り交じった、そんなお話。

 

 

「そういや小糸さんがさっきから持ってたその本、何読んでたん?」

「ああこれ?ギフトカタログ。長野に引っ越した氏子さんから林檎貰ってさ、お返しを贈る事になったの!」

「林檎か、ええやん!お返しは決まったん?」

「「牛肉!」」

「へ、へぇ……果物のお返しがガッツリくる脂質かぁ。うん、その氏子さんも喜ぶとええな?」




アニメだと3話の序盤を拡大解釈したお話。肉食女子ーズって感じです。
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