江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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なんだかんだありながら、50話まで続きました。間隔が空きながらも、読んでくださってありがとうございます。今回は、元々書きたかった内容です。


燃えつきた男、マサ

 

 あたしは、巻き込みすぎたのかもしれない。

 

「なぁマサ!このクッキーうめーよな、紅茶との相性もバッチリだぜ!」

「あー、紅茶ね……」

 

 おんぶにだっこ、死なば諸共。同じ道を歩く、そんな意味合いの慣用句が、思いつく限り、あたしの脳内をよぎってはやって来る。まるで、海岸に打ち寄せる波みてーに。

 

「ぶ、文化祭から帰った後にさ!クラスのメッセで、あたしとマサのライブの話題になってさ!バンド組みなよって言われてさー、照れるよな!?」

「そう……」

 

 その波に足をさらわれそうになるんだけど、踏み留まって。背負わせたあれこれを荷解きしてやろうとしても、解き方がわからねーまま、時計の針が周り続けて。

 

「え、えーっとえーっと、そうそう!ゾンビメイクも、結構評判良かったんだぜ?男子に化粧なんて貴重な体験をしたってよ!」

「……」

 

 寸分もズレない時計の歯車を羨む位に、あたしの頭脳は回らないし、思考も纏まらない。以心伝心とまでは言えなくても、分かったつもりではいたけど……今ばかりは、読心術でも使える様になりてー、そんな絵空事ばかりが思い浮かんだ。

 

「き、今日は日曜日じゃねーか。折角だし何かしようぜ!?何が良い!?」

「……塗れたタオルで……顔を拭って……日光浴……」

「そ、そっか、なるほどなー。すまねぇマサ、一旦帰るわ!あばよ!」

 

 

 東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきた下町に住んでいる──あたしと、ある関西人の、文化祭での後日談。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ってな感じでマサが腑抜けててさー、もうどうすりゃいいかわかんなくなって、逃げてきた!」

「藤君は一日経って、本物のゾンビになっちゃったんだね……」

「ぞ、ゾンビウイルスに抗ったけど、駄目だったか……」

 

 文化祭があった次の日。何時もみたいにマサの家に遊びに行ったら、メイクもしてねーのに腐っちまった、腑抜けたゾンビが出迎えてきた。普段はあーだこーだ言いつつも、歓迎してくれるってのに、呻き声での空返事。持ってきたお菓子も紅茶も、眺めるだけで口すらつけないし!流石にどうにかしてやりたくて、知恵を借りようと……小糸とエルダ様の元へと駆け込んだ。

 

「昨日は帰り道も普通にしてたのによー、寝て起きたら腐ってました!なんてあるかフツー?片付けを手伝ってくれても尚、平気そうだったぜ?」

「うーん、エルダや小柚子は勿論、クラスの誰よりも体力はありそうだよね」

「と、特に喧嘩別れとかはしなかったのか、コマちゃん?」

「いーや?普通に雑談しながら帰った、かなー」

 

 三人寄れば文殊の知恵って言っても、直ぐには原因も治療法も思い浮かばず。思い当たる節を訊かれても知らんぷり──なんて平静を装ってるけど、公園でのひとときだけは言いたくねえ!肩を借りて寝てたなんて、幾ら小糸やエルダ様でも、恥ずかしくて言えねーよ!なんであんな醜態晒しちまったんだあたしは!!

 

「うーん、藤君の新しい塞ぎ込み方だね」

「一刻も早く立ち直って欲しいんだけどなー」

 

 それはまあそれとして、張り合いがねーんだよな。それなりに付き合いが続いた中で、休日で真っ先に訪ねるのが、小糸やマサの所だ。マサに至っては、物理的に距離が近いのもあるけど、心理的にも気楽だしな!何処かへ出掛けるのも、荷物持ちも、ゲームの遊び相手も。なんでも引き受けてくれるし!

 

「じ、自覚してなかっただけで、疲れてたんじゃないか?アドレナリンが出てたから動けてただけで……」

「あどれなりん?なんだっけ、唐辛子に入ってるやつ!」

「それはカプサイシンだぜ、小糸。走っても疲れねー時とかあったろ?」

「それならわかるかも!50mを何セット走っても、まだまだいけるってなったりしたし!」

「アドレナリンはともかく、マサ本人の文化祭もあったんだよな?それに加えて、小糸達の文化祭にも出演して、ゾンビ喫茶も片付けまで手伝って……きっとマサ自身も、限界を迎えたんだ」

「マサ自身の、限界……」

 

 エルダ様の言葉を聞いて、あたしは考えた。その気楽さが、マサの許容範囲を超えさせて、気力を奪ってしまったのかもしれない。マサにはマサの事情とか、やらなきゃならねー事がある。それを無視して、マサの手を引っ張って、無理矢理振り回してきたと思うと。

 

「ほら、私みたいに、神事ばかりやらされて疲れるのと同じだ!酷いと筋肉痛になるし、もっと労って欲しい……」

「奏上も庶務もしてる私の方が疲れるわ!普段から、神事が無くても甘やかされてるでしょーが!」

「い、いつもありがとうな、小糸……そういう事だ、立ち直って欲しいなら、マサの事を労うのはどうだ?好きな物でも渡すとかさ……」

「それだエルダ様、ナイスアイデア!」

 

 なるほどな、元気になってもらうなら、それが一番手っ取り早いじゃん!それでいて日々の感謝も伝えられるなら……一石二鳥だぜ!

 

「で、どう労えばいいんだよ?」

「だから、マサの好きな物を……」

「ねえ二人とも、そもそも藤君のさ──」

 

 思い立ったのは良いけど、一つの壁が立ちはだかった。至極単純な壁。中学卒業辺りから、ご近所付き合いをしておいて、全く知らなかった、マサについての話。

 

 

「「「──好きな物って、何?」」」

 

 

 あたしのみならず、小糸もエルダ様も知らなかったらしい。小糸もだけど、エルダ様すらわかんねーのかよ!?あたしが言えた義理じゃねーけど、結構趣味とか合う方じゃん!

 

「みんな知らねーのかよ!」

「い、いやあ……基本的にどんなゲームも遊んでくれるし、アニメも同時視聴してくれるし、おもちゃやプラモだって、組むのを手伝ってくれるし……」

「出したお菓子だって、和菓子でも洋菓子でも食べてくれるからね〜」

「ちくしょー!またわかんなくなっちまった……」

 

 労うって所までは、良い線いってると思ったんだけどな?その方法をめぐって、また新しい壁が現れちまった。方法としては、確かに単純かつ明快なんだけど、その渡す物が決まらない以上は、渡すに渡せねーんだなこれが。

 

「こんな日が来るんなら、普段からマサの好きな物でも聞いとくんだった……」

「そ、そんなマサの事だから、案外なんでも喜んでくれそうだぞ?」

「なんでも喜びそうなら、とっておきのがいいよね……あっそうだ!ねえコマちゃん、藤君って大阪出身なんだし、タコパでもしてあげなよ!」

「タコパ?なんでだよ?」

「やっぱり大阪といえば粉もん?らしいし!月島だとたこ焼きよりはもんじゃ焼きばかりだから、絶対に喜んでくれるよ!」

 

 言われてみれば……安直な発想でも、それが一番効くかもな!マサがどんなたこ焼きを食べてきたとか、そこまではわからねーけど、たこ焼きそのものが懐かしいかもしれないし。元気出してくれるだろ!

 

「それならタコパで決まりだ!作り方は今から調べるとして……折角だし、みんなでやるか?」

「い、いいね、いいね!私はポテチとかチーズとか、色々……」

「駄目でしょエルダ。今日はこの後、ご祈祷の予約があるんだから」

「そ、そんなぁ!昨日はあんなに呼び込み頑張ったのに!?」

「それとこれとは話が別ですー。ごめんねコマちゃん、私達もタコパに混ざりたいんだけど……」

 

 どうせなら、って思ったけどそうもいかないらしい。まっ、しゃーないか!あくまでも目的は、普段のマサに戻したいって一点だからな。小糸達とたこ焼きで食卓を囲むのは、また今度だ!

 

「気にすんなって、あたしとマサで予行演習でもしてくるからさ……そうと決まれば、善は急げだ!」

「ああ、たこ焼きが……」

「コマちゃん、いってらっしゃい!藤君、元気になるといいね!」

 

 マサにしてやりたい事も決めたし、いざ旅立たん!たこ焼きに必要な物は、多分小麦粉だろ?卵だろ?具材も色々欲しいよな!それと鉄板じゃなくて、あの丸く凹んだ……あれ?マサの家、たこ焼き器なんてあったっけ……?

 

「なぁ、小糸、エルダ様」

「ど、どうした?」

「……たこ焼き器とか、持ってねぇか?」

「……氏子さんが、色んな物を奉納してしてくれるけど、流石にウチにも無い、かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が抜けた。ニつ目の文化祭が幕を降ろしてから、完全に気が抜けた。高麗と駄弁りつつ、休みつつ、自宅の敷居を跨いで、玄関の扉を閉めた途端の出来事やった。

 

 元々、こっちの高校に通う為、月島で暮らしてる。生活費から、何から何まで自分で賄いたくて、それなりの頻度でバイトも入れてる。簡単な話、生きる為。月島の人達は、そんな俺を縁の下の力持ちと称してくれた。嬉しいんやけど、対価として少なくないお金とか、食べ物まで貰ったりするから、少し戸惑ってる。

 

 そんな生活を、中学卒業と同時に続けて来たからなのか、身体が限界を迎えたらしい。思わず玄関の……靴を脱ぐ場所で腰を抜かした。地べたに座ったら汚いやろ?アカンで?って教えられて来たのに、それを破ってしまった。

 

 普段なら、学校帰りにバイトがあっても、あー疲れた!で済んでたから……それだけ、あの文化祭のステージの事が、重荷になってたんやと、振り返ってふと思った。俺の学校の劇のみならず、自ら切った啖呵とはいえ、高麗の通う高校での大舞台。体育館よりも小さかったけど、一生に二度と無いやろうから、俺にとっては大舞台。その為の練習を、生きる為の時間、その合間を縫って詰め込んだ。

 

 練習を、数ヶ月以上は続けて来た。学業は勿論、生きる為のバイトに、俺の学校にも文化祭があったから、そっちの準備まで。そこに詰め込んだ成果は、あった。観客の歓声もあったけど、高麗自身が──これまでに無い笑顔を見せてくれたから。

 

 それでも力尽きた。こうして気の抜けた自分自身が、何よりの証。笑顔に釣られてゾンビ喫茶も手伝ったけど、疲労のピークが何時頃来てたのかは、よく分かってへん。憶測になるけど、舞台の後すぐ帰ってても、同じ事になってたと思うし。

 

 玄関でへたれこんで、意識を取り戻したと思ったら、沈んだ夕日が朝日に変わってた。しかも、無意識下で布団の中にも入ってた。記憶が無いのは怖いけど、寝るべき場所まで動けた自分に礼を言いたい。身体を起こそうとしたけど、起こす気力を絞りたくなかった。体力自体は回復したと思うけど、昔からの約束を果たせた解放感が、のんびりしろって言ってる気がして。

 

 怠惰に暮らすのも別にええよな。それでも起きた方がええんかな。そうして意識が落ちつつあった、そんな時……二度寝をさせねぇとばかりに、玄関のベルが鳴った。俺の肩を揺らすみたいな、大きな音。

 

 

「おーっすマサ、文化祭の打ち上げしようぜ!なんせ、バンドを組んだ仲だからな!」

 

 

 お隣さんがやってきた。日々の習慣ってのは恐ろしい物で、普段通りに迎え入れた。ただし、ゾンビみたいな表情で。リビングで、何か喋った記憶は残ってる……けど、腑抜けた受け応えをしてた気がする。高麗が持ってきたお茶やお菓子にすら、無反応なまま。

 

 高麗の性格上、理解しきれない場面に遭遇すると、逃げる。だからなのか、俺が朧げに返事をした後、逃げる様に立ち去った。日本語ですらなかったかもしれへん。

 

 流石に邪険にし過ぎたかなぁ、でも気分的に疲れたしな。いや、もう布団から出た以上は、日常生活を営まへんと──何度も高麗に、逃げられたくないし。そう思い至ってからは、少しずつ気力が湧いてきた。着替えて、顔を洗って。化粧はしてへんけど、憑き物や疲れを落とすつもりで。

 

 一通り用事を済ませた後、遅めの朝食を摂ろうとして……テーブルの上に残された、焼き菓子を手に取った。紅茶も既に冷めてるけど、手をつけへんのも高麗に悪いしな。朝食にしては小洒落てるけど、これはこれで。

 

 後の祭りを片付けるつもりで、口に放り込んでたそんな時……再び、玄関のベルが鳴った。揺らされるんやなくて、肩に軽く触れるみたいに。

 

 

「マサ、さっきぶり。もし良かったら、タコパしようぜタコパ!打ち上げパーティー、テイク2!」

「……その袋は?」

「たこ焼きの中身だ!ソースとかマヨはあったよな?」

「……たこ焼き器、あったかなぁ」

 

 

 俺は再び、高麗を迎え入れた。突拍子もない発案に呆れながらも、打ち上げ会場になる……自宅のリビングに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竹串でひっくり返せるかなぁ…………ほれ」

「すげー!やっぱり関西人って、みんなたこ焼き作れるのかよ!?たこ焼き器まで常備してる位だしさー!」

「偏見って言葉知ってるか、高麗?」

 

 引っ越して以来、開けることの無かった棚の奥に、それはあった。初めて荷物を運び込んだ時やったかな、親が『友達と仲良くなる為に使いや!』とかなんとか言いながら、これを渡してきた記憶がある。月島でも高校でも、それなりに交友関係は築けたから出番は無く、外箱が埃を被ってた。

 

 まさか、初のお披露目がお隣さんとの、他校の文化祭の打ち上げで使われるとは……夢にも思わへんかったやろうなぁ、たこ焼き器側も。待たせてごめんな?

 

「関西ってか大阪に住んでても、たこ焼き器置いてる家庭がどんだけあるか……これやって、俺が持ってきたんとちゃうねんで?」

「でも、たこ焼きひっくり返すのうめーじゃん」

「一個一個回すだけなら、見様見真似でな?店先とかでやってるのをイメージして……」

「あー待った!あたしもやりたい!」

 

 高麗が持ってきたのは、あくまでもたこ焼きの材料だけ、ソースとかの調味料は俺持ち。今は食卓を囲んで、ちょっとした調理実習の時間になってる。

 

「火傷せんようにな?にしても、高麗が踵を返してくるとは思わんかったわ」

「ふふん、あたしに感謝しろよ?あまりにも覇気の無かったマサを、励ましてやろうと思って動いたんだぜ?大阪の名物でも食えば、元気になると思ってな!」

「それは……おおきに」

 

 高麗には高麗なりの、思い遣りってのがあったんやな。

 

「嬉しいっちゃ嬉しいけど、よく具材だけ持って来ようと思ったなぁ……俺ですらこいつが、置いてある事を忘れてたのに」

「あたしも、マサの家にあるのは知らなかったぜ?だから最初は、ネット通販とかリサイクルショップで買おうとしたんだよ。でも……」

「でも?」

「前者だと数日は掛かるし、後者は売ってるかわかんねー!しかも物が物だからな!それに一刻も早く、マサに元気になって欲しかったんだ。善は急げって言うだろ?」

「んー、高麗にしては、えらいお心遣い頂いて」

 

 確かに言うけど、急ぎ過ぎやないか、それ……なんなら高麗が帰った後に、元気を取り戻しつつあったんやで?あのまま寝てたら、明日か明後日には体力回復してたってのに。まぁお蔭さまで、惰眠を貪る日曜日には、ならずに済んだけど。

 

「分の悪い賭けやなぁ」

「へへっ。カドちゃんの店より、可能性はあったと思うぜ?」

「そらそっちは、もんじゃ焼きの専門店やしなぁ……とにかく、おおきに高麗。そろそろこの列、ひっくり返せるで」

「よっしゃ!さっきのマサみたいに…………ほら!」

 

 懺悔する事でもないけど、家でたこ焼きを作るのは、初めてやったりする。食べるとしても、お店とか、冷凍物とか、縁日で買うし。

 

「やべっ、焦げたか?」

 

 ──せやから、少しだけ。

 

「いーや、ええ感じやで?向こうではしっとりさせるかカリカリにするか、派閥があってな?俺はカリカリ派なんよ。その調子で残りも焼こうや」

「そっか、マサはこれ位が好きなんだな。それじゃあ任せとけ、このまま焼いてくからよ!」

 

 見栄を張った。それっぽい事を言うて、高麗を傷つけない様に。折角、善意で動いてくれてた訳やし。その優しさが沁みたから、少しだけ、見栄を張ってみた。多分これは、優しい嘘。

 

「ええ感じの焼き加減、頼んだで?」

「ああ!」

 

 今日はこのまま、出来上がりを待とうかな。もう一次会の俺は居らんし元気出たけど、こうやって甘えるのも、たまには悪くない。高麗が楽しそうにしてくれるんやったら、それがええ。

 

「このまま腕を磨いて、二人でたこ焼き屋でも開くか?月島初のたこ焼き店として!」

「少なくとも、もんじゃストリートには造られへんかなぁ」

 

 数分後には違う答えになりそうな話題をまぁ。然りげ無く、俺まで巻き込んで……後はただ、出来上がりを待つだけの時間の中で、他愛もない会話が広がる、そう思ってたら。

 

 

「たこ焼き屋じゃねーとしたらさ……マサは将来、どうすんだよ?」

 

 

 突然、個人的に核心を突かれた様な、考えても見なかった話題にすり替わった。気力を削がれる内容でもないけど、少し、言葉にするのを躊躇う様な、そんな話題。

 

「どうするって、何を?」

「東京の高校へ通う為に、月島に住んでるんだろ?その後だ。卒業したら、マサはどうすんのかなーって思っててさ」

「どうやろな……元々、高校の間はこっちで住むって言うて、越して来たから……」

 

 その辺は正直、偶然でしかない。別に東京に行きたい!とは思わんかったけど、適当に出願して、受験して、そしたら通って。月島で住めたのも、親のツテとか発案とかいう、偶然でしかない。

 

「卒業したら、シマデンやもんべぇで働くとか?それとも大学へ行ったりして、キャンパスライフってやつ?」

「さぁ、そこまではなんとも。全然別の可能性もあるで」

「ふーん……じゃあさ、あたし達とは関係ねー所に行ったり、地元へ帰ったりもするのかよ?」

「そりゃああるやろ。今も残ってるとはいえ、生涯大阪で……なんて掲げてた時期もあったし」

「そっか、そうなんだな」

 

 高麗は、たこ焼きの焼き加減を見る事も無く。光ってへん電球が設置された、天井を見上げて。

 

 

「──いてくれよ、月島に」

「高麗?」

 

 

 出会って初めて体感した、高麗の束縛。後ろ手を縄で結ぶ物やないけど、心の中に、楔を打ちそうな欲望。言い方は変わるけど、可愛げのある独占欲。

 

「つまんねーじゃん。あたしは嫌だ。別に、働くのも進学も、どんな道を選んでも良いからさ……此処にいてくれよ、今までみてーに、放課後も休日も、のんびりダラダラ過ごしてさ、な?」

 

 部屋にはただ、生地の焦げる音だけが残った。腑抜けてへんのに、答えを用意してなかったから。何がつまらんの?とか、聞き返す手もあったけど、高麗の欲しい答えには……繋がるとは思えなくて。

 

 

「まぁ、その……」

「……」

「考えとくわ、選択肢の一つとして。これや、って決めた将来もあらへんし」

「──ありがとな、マサ!」

 

 

 月島で、住み続ける未来もある。大阪に、戻る未来もある。正解か不正解か、高麗のみぞ知るって所やけど…………答え合わせは、未来の高麗に託すとしよか。元気貰ってる最中に、うだうだ考えてたらまた逃げるしな!

 

「へへっ、良い感じに焼けたな。はい、あーん!」

「雛鳥か!あーんは、い、要らんって!自分で食えるから!」

 

 たこ焼きが突き刺さった爪楊枝を横取りして、口に運ぶ。直は熱いのも忘れてたけど、熱を以て熱を制す。照れ隠しには丁度良かった。

 

「はふっはふっ、あちち……うん?」

「どーよマサ、あたし初のたこ焼きだぜ!」

「焼き加減はええな、カリカリふわふわを体現してるわ。でも……何入れたんこれ?随分甘ったるいけど、食った事あるような……」

「そこにあったのならチョコレートだな!こっちはマシュマロ、隣にはレーズン!」

「せめて魚介にせえや!!」

 

 

 東京都中央区月島──隅田川の下流に溜まった土砂を、埋め立てられて、繁栄してきたその下町で……お隣さんが、打ち上げと称して励ましてくれた、文化祭の後日談。糖分多めのたこ焼きも、たまにはええか!




執筆活動がこれだけ続いたのは、正直奇跡だと思っています。50話も書けた事も、個人的には奇跡です。そんな節目の50話は、完全にオリジナル回になりました。掲載当初から書きたかった内容なので、やっと書けたぞ、という気持ちです。
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