江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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タイトルは原作のパロディ感をリスペクトしたつもりです、相応しいかどうかはわかりませんが!


瞬間、思いやり、重ねて

 

 産まれた頃から、メールを送る文化があった。物心ついた頃にはとっくに、普及しとった気がする。それと同時に、手紙を送る文化は廃れつつあった。携帯を持たせてくれへんかった頃は、友達に年賀状を書いてたけど……買い与えて貰ってからは、それがデータに置き換わった。手書きの文章を送る事はあっても、授業中にひっそり回すメモ程度。

 

「えっと……郵便番号よし、住所よし、宛名よし、差出人もよし」

 

 もう手書きに縁なんてあらへん。そう思ってた頃、ふとした提案で、一筆したためる機会が出来た。本人曰く『仕事用なんだけどね?』と言われ去り際に渡された、メールアドレスからの提案。

 

 連絡先は知ってるのに、手紙を?とは思ったけど、本人たっての希望というか、画面越しの熱意に負けた。雅君の文字を読ませて欲しい、的な中身やった。まぁええ経験やし、丁度ええか。なんて軽い気持ちで引き受けて。

 

「初めて調べたなぁ、時候の挨拶とか」

 

 軽い気持ちで引き受けたけど、俺なりの誠意を以て、俺なりに筆を運んだ。テンプレートをなぞっても良かったけど、その方が笑顔に出来る予感がして。

 

 郵便局にも、実家とのやり取り以外で足を運んだのは初めてやわ。時々振り込まれる仕送りとか、こっちのお土産を贈ったりはしたけど、他所様に、しかも手紙だけを贈る日が来るなんてなぁ。

 

「切手も貼った、中身は確かめた、っし投函!」

 

 ガコン、とポストがそれを受け入れた音が鳴った。実家以外に届けてもらうんは初やけど……全国津々浦々、数日から一週間?程度もあれば届くと思う。少なくとも、海は隔てへんし。

 

 投函したその直後、早く届け!なんて焦燥に駆られると思ってたけど、真っ先に浮かんできたのは、封を開けた相手の笑顔。つまり、焦りや不安よりも期待が勝った。メールやメッセみたいな技術に慣れ親しんでたから、もどかしくなると思ってたけど、そうでもないらしい。配達員さん、よろしく頼んだで!

 

「はーい、藤岡です」

『もしもし藤君、小糸だよ。ちょっといいかな?』

「用事済んだし別にええで、どないしたん?」

 

 帰りにお菓子を補充したいし、商店街にでも寄るか!と考えを巡らせた時、ポケットの中身が震えた。取り出してみたら、着信相手は小糸さん……どないしたんやろ?緊急事態にしては、声が穏やかやねぇ。

 

『藤君ってさ、エルダと話が合う方だよね?趣味的な話で!』

「ん?うんまぁ、合うといえば合うで?」

『だよねだよね!そんな藤君を見込んで、お願いがあるの!』

 

 何かと思えば、世間話で斬り込んで来た。それも、エルダと話が合うんか否かとは。趣味が合うといえば合うんやけど、守備範囲……広すぎてなぁ?最近の話もしてくれるとはいえ、エルダに着いて行ける、って言い方がしっくり来るわ。そんな俺にお願いねぇ?

 

 

『あのね、私にゴンゲムについて教えて欲しいんだ!』

「──小糸さん、とうとう拾い食いしてもうたんか?」

『してません!悪い物も食べてないですー!』

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体に仕える巫女さんが起こした──ご乱心の話。発端は、数日前まで遡る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近のエルダ、凄く頑張ってるんだよ!」

 

 文化祭に演者として、ゾンビとして助力してから少し。お互いの高校が、普段の授業に戻ってったある日。缶ジュースを片手に三人で羽を休めとったら、小糸さんが嬉しそうに、御祭神の話を始めだした。

 

「何を?」

「真面目に神事に取り組むし、ゲームで徹夜とかしない」

 

 普段のエルダからすれば、確かに頑張ってるなぁ〜とは思うんやけど……なんていうか、自然公園のナマケモノが、矢鱈と来客にアピールする様になったみたいな?企んでそうやな、何かをエルダが。

 

(マサ、マサ、小糸の感覚、マヒってねーか?)

(神様としては、通常営業であるべき範疇やもんなぁ)

 

 小糸さんには聴こえへん声量で、か細い声で囁く高麗。慕ってる神様の前向きな、張り切る姿に目を輝かせる相棒に、ツッコむ気力が無かったのか。まぁうん、小糸さんからしたら、進歩も進歩よな?

 

「まあ確かに、文化祭でも苦手な呼び込みしてくれてたしなー」

「名付けてエルダゾンビ。小柚子ちゃんありきとはいえ、よくやれたよなぁ」

「うん、こんなに頑張ってくれてるからさ、私も巫女として何かしてあげたいなって」

 

 何か、なぁ……普通に玩具買うのを許すとか、休みあげるとかで簡単に喜びそうではあるけど、はてさて。

 

「んじゃ、エルダ様が喜びそうな事してやったら?ほら、前にゴンゲムを一緒に観た時、すげー喜んでたって言ってたじゃん」

「小糸さん、一緒に観たん?」

「う、うん!ほら、前にプラモ壊しちゃった時の罰でね」

「あぁ、高麗が強制労働の刑を受けた……」

「い、今はエルダ様の話だろ!変な事思い出しちゃうじゃん、あたしの話はいーんだよ!」

 

 少し懐かしいわ、拝殿を借りて、裁判ごっこを開廷したあの日。修理したプラモを渡しに来たけど、端から見てもハイテンションなエルダとは真逆の、沈みそうな船を漕ぐ小糸さんが居た。あれを喜んだって言えるのは、生来の優しさやねぇ?

 

「でもそれいいかも!エルダの趣味に歩み寄るんだね!」

「そうそう!仲良しでも、思いやりは大事ってわけよ」

「思いやりか〜!」

 

 ええ事言うてるんはわかるけど、カタカナ苦手な小糸さんが、サブカル神に何処まで歩み寄れるのか……そして実行に移せるのか……お手並み拝見って所やろなぁ。

 

 

「そういや今日、ずっと寝癖ついてるの気付いてる?しかも朝から」

「高麗ー!俺ですら黙ってたんやけど!?」

「前に言って!!なかよしでも思いやりは大事でしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの会議が数日前。そんな経緯があって、ゴンゲムの話を知ってる範囲で吹き込んだ……とはいえ、どう歩み寄るのかわからへんまま、俺は通話を後にした。小糸さんは、単に知見でも深めたかったんかなぁ?

 

「マサ。これがあの、完結編のブルーレイだ」

「ついこないだまで放映してた気がするけど、早いもんやねぇ」

 

 1995年に放送されたお風呂アニメ『新元号・ババンヴァババン』。それを現代でリメイクして、全三部作にして映画化された『シン・ババンヴァババン』。その完結編のブルーレイを見せてやるとの事で、巫女さん経由で神社に招かれた。

 

 遊び相手を引き受ける様になって、少し経った頃。通称『ババン』、曲だけは聴いた事あるで?と零した途端、あれやこれやと話が進んで、劇場版で良いから観てくれ!なんて言われながら……エルフ主催の、上映会が開かれた。

 

 所謂ロボット物かと思ったら、そもそもロボやなかったり、宗教的な内容も混じってて。エルダの解説ありきな内容やなぁ?と、配信で最後まで見終えた時は、感情を整頓する時間を要した。まぁ面白かったから、リメイク前も観てみたくなったけどな!

 

「は、配信では何度も観たし観せたが、ブルーレイはとにかく美麗な映像なんだ!マサには是非、コマ送りしてでも伝えたいシーンが沢山あってな!?今日は忙しくなるぞ〜!」

「この前のも十分綺麗やったで?でもそれだけ言うんなら、楽しみやわ」

「ふふふ、神事も無いし、今日は思う存分オタ活だ!」

 

 浮かれ気分なエルダがリモコンと箱を両手に、いざテレビへ!意気揚々と立ち上がったそんな時、ブルーレイの箱より先に、障子が開いた。

 

「ただいまエルダ〜!藤君はいらっしゃい、すっかりお馴染みだね!」

「おかえり小糸……」

「お邪魔してるで〜」

 

 上映会を開く前に、小糸さんが帰ってきた。お馴染み認定してるけど、貴女からの依頼やでこれ、元を辿ればな?

 

「何それ?アニメのぶるーれい?」

「う、うん……劇場アニメのブルーレイ……」

 

 おっ、早速歩み寄ってきたで?これまでやったら散らかった玩具よりも、怠惰な様子に口を挟む巫女さんやったのに。慣れへんカタカナを駆使してまで、エルダの玩具に興味を示すとは、なるほど!徐々にエルダの世界に足を踏み入れて──!

 

 

「私も一緒に観てもいい?」

「「えっ…………?」」

 

 

 俺は、それと恐らくエルダも、踏み込まれる距離を誤った。手が届くどころか、懐にまで迫ってくるとは……いや歩み寄るにしても、もうちょっと段階があるで!?ブルーレイを認識したのは素晴らしいけど、せめてどんな作品かってのをさぁ!

 

「じ、じゃあ始めるぞ」

「うん!」

「わ、わーい?」

 

 そんな善意十割の笑顔に気圧され、ディスクが挿し込まれ、上映会が開かれた。戸惑うエルダを知ってか知らずか、曇りなき眼で映画を観る小糸さん。ゴンゲムとは別物やけど、楽しめるんやろか?そもそもゴンゲムですら、小糸さんにとっては、楽しめるか怪しいのに……。

 

「なかなかゴンゲム出て来ないね」

「これはゴンゲムじゃなくて、ババンヴァババンだよ巫女よ……」

 

 しまった、選択肢を間違えた。ゴンゲムの授業を開講した際、俺までややこしくなって、ロボは大抵ゴンゲムやで?とか伝えてしまった!これじゃあ幾ら無機物が描かれても、全部ゴンゲム扱いしてしまう!親がゲーム機をなんでもファミ◯ンって呼ぶ、あの現象や!

 

「あの羊羹みたいなの、美味しそうだね!」

「れ、レーションのこと……?」

「包みだけ見たら、羊羹っぽいけどなぁ」

「あっちのお弁当も美味しそう!」

 

 ババンやゴンゲムよりも、食事に目が行く食べ盛り。まぁでも、船を漕いでたあの日よりは、楽しんでるっちゃ楽しんでるか……飯だけに注目するとか、ニッチな楽しみ方してんなぁ。

 

 一方エルダは、ソワソワしてた。コマ送りしてでも伝えたい!なんて言うてただけあって、一時停止のボタンに指を伸ばして、でも巫女の様子を伺っては引っ込めて。さっきのも、これまたさっきのも、コマ送りしたいシーンやったんかなぁ?傍目に見たら、映画より、客が気になる客って印象を受けた。

 

 アカン、観るって決めた以上、映画を楽しまな!一度観た事あったから、ここから迫力ある戦闘シーンが来るってのはわかってる。終盤にも入った。ソワソワしてたエルダは目を輝かせてるし、案外楽しそうやった小糸さんも、きっと。

 

 

 ──ふと、目線を配った彼女の顔に表れてたのは……理解からはあまりにも遠い表情。まるで、英語の勉強の為に図書館で広げた英字新聞を見つめる、俺みたいな表情を浮かべてた──これあれや、ぜんっぜん分かってへん顔してるわ。

 

 

 剣戟、銃砲、建物の破壊。あらゆる効果音と役者さんの台詞が部屋に轟く中で、口を半開きにしたままの小糸さん。そらそうや!ゴンゲムですらあらへんし、初見の作品の、しかも完結編を見せられてるんや。理解のしようが無いわな?

 

 初見は置いてかんとばかりに、物語はクライマックスへ。忘れてたけど、俺も観衆の一人なんや。楽しまんとな?結構迫力あったし、このシーンは注力して──!

 

「ねえねえエルダ、藤君」

「「…………えっ」」

 

 エルダと俺の視線が、小糸さんに向けられる。そんな小糸さんの視線は、テレビどころか、御祭神へと向けられていた。

 

「え、なに……?なんか言った……!?」

「この怪獣が敵なの?」

「せ、せやで。あの宝石みたいなの付いてるやつな?」

「う、うん、そうそう……怪獣じゃないけど……」

 

 巫女さんにとって、誰が敵かもわからへんまま、破砕音が続けざまに鳴り響く。気を取り直してババンに向き直ろうにも、無邪気が故の質問は止まらず。

 

「ねえねえ二人とも、さっきのロボットはやられちゃったの?」

「さっきの?ってかやられたんやなくて、補給に戻っただけで──」

「ま、待って、そもそもババンヴァババンは、ロボットじゃなくて人造人間で──」

「あ、映画終わっちゃった」

 

 展開や、カタカナすら読めなくても、テレビの隅に出てきた終劇の文字は読めたらしい。凡そ二時間、シン・ババンに興味を示したのは、僅か数十秒の食事シーンのみ。

 

「じゃあ私、宿題あるから!ありがとエルダ、藤君。楽しかったね!」

「あ〜、う、うん……そうだな……」

「せ、せやな?」

 

 ゴンゲム一気見の罰を受けてた時とは真逆で、成し遂げた様な、晴れやかな表情で立ち去った小糸さん。食べ物が映るだけで喜ぶ人類は、多分貴女が初やで?

 

「ぜ、ぜんぜん集中して観れなかった……」

「こんだけ周り気にして映画観るんは、中々苦行やな……」

 

 肩を落として、炬燵に突っ伏す俺とエルダ。早戻しもコマ送りもして、見返す気力は湧いてこず。その日はもう、お茶を啜る音……それだけが虚しい部屋を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー高麗、小糸さんは?」

「おっすマサ、まだ来てねーな」

 

 地獄の観賞会から数日後、週の初めに学生としての本分を果たす為、制服に身を包んでた。下校が同じ通学路なら、当然登校する道も同じ訳でして。

 

「早起きやのに珍しいなぁ……そういやこの前のさぁ、関東で売ってへんスナック菓子の話、覚えてる?あれ、明日届くんよ。食べにけぇへん?」

「マジかよ!あのおじさんみたいなキャラの奴だよな?ぜってー食べたい!!あれってさ、コーラが合うのか?それともオレンジが正解だったり?」

「心配せんでええ──どっちもキンッキンに冷えてるで!」

「さっすがマサ!用意がイイ!って小糸じゃねーか。おっす小糸!」

「おはよー小糸さん」

「……うん、おはよう」

 

 摘むお菓子談義で時間を潰してたら、珍しい光景を目撃した。低血圧とは無縁な小糸さんが、寝坊か夜更かしか、眉も肩も落として……端的に表現するなら、ゲッソリしてた。

 

「なんだよ小糸ー、朝から元気ねーな?」

「ホンマに悪いもん、食べたんか?」

「えっとね……」

 

 曰く、エルダがまたゴンゲムを観たがっていた事。曰く、同じアニメを何度も観るのに疑念を抱いた事。曰く、あれを昨日で四回も観た事──曰く、全部思いやりで提案した事。

 

「んで結局、四回も観たんか」

「うん……藤君は観たと思うけど、なんか難しいお話でさ……やっぱり、エルダの趣味を一緒にだなんて無理なのかも……」

「ま、まぁネットの普及より前から、考察飛び交ってた作品らしいからなぁ」

 

 正直な話、俺も細かい部分はわかってへん。どうしてお風呂がテーマなのか、作中の機関が結成された理由とか、挙げ出したらキリがない。それでも楽しめてるのは、雰囲気とか、戦闘の迫力とか、あの辺の功績が大きいかな?

 

「なぁ小糸さん?そんなにゴンゲムに拘らんでもさ?カエルパンツァー程度の、可愛気のある方面から──」

「おいおい、らしくねーぜ小糸……」

 

 エルダの趣味を、一緒に楽しもうとする小糸さんに、別の切り口あると思うで?なんて伝えようとした途端、巫女さんの相棒が待ったを掛けた。らしくないってか、十分、らしさは発揮してへんか?

 

 

「あたしの相棒だってのに、たった一度の失敗で諦めるなんてよ!!」

 

 

 そう来たか!この江戸っ子、ここに来て根性論で乗り切らせるつもりや!こいつ、自分が関わってへんのをええ事に……ってか、四回と違うん?一括りにしてええんか?

 

「そうかな……そうかも……私、たった一回の失敗で弱気になってた──」

 

 乗せられた!このアホ巫女、アホ高麗の根性論に乗せられた!自己申告を信じるなら、四回やなかったんか?それ一括りにされてええやつなん?

 

 

「もう一度、エルダと一緒に観るよ!!それが私の──巫女としての思いやりだから!!」

 

 

 俺は、恐怖した。お隣さんのぶっ飛んでる思考回路に。巫女さんの、後退って選択肢を選ばへん前向きさに。俺が引っ越して来る前から、そんな二人が、コンビを組んでたという事実に──。

 

「おーい小糸さーん……行ってしもたわ」

「流石あたしの親友、こうじゃなくちゃ!」

「高麗、ええんかあれ?お前の言う、無闇なポジティブになってるで?」

「問題ねーぜ?迷ってるなら背中を押す。それが相棒としての責務でもあり、思いやりだ!」

「押したせいで滑落しかけてるけどな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も観る……!?こないだのゴンゲム!」

「ああ……ゴンゲムじゃなくて、ババンヴァババンだけどな!」

「心配になって、着いてきてしもたわ……」

 

 根性論に乗せられた巫女さんと、恐らく楽しめてへんかったであろう神様の、互いの仲が不安になって、下校して直ぐに上映会へと赴いた。エルダもエルダで、変に気を遣ったんか知らんけど、やけに乗り気やし。なんやこの二人?

 

「小糸、マサ。始まるぞ」

「待ってました!」

「お、おう」

 

 そんな中、リモコンの再生ボタンをエルダが押した。二人が心配なんもそうやけど、映画も楽しみな自分が居てる。繰り返し観て理解が深まるっていうか、解説無しでもやっと理解してきたっていうか。

 

「憶えた、あれは羊羹じゃなくて、れーしょん!」

「そう……あれはレーション。野戦食な……!」

 

 おお、あの小糸さんが、カタカナを憶えつつある!これは所謂、歴史的瞬間って奴では!?そう思ったのは刹那、巫女さんのメッキはすぐに、剥がれていった。

 

「あれ?こんなシーンあったっけ?」

「寧ろ超重要なシーンでしょ……!待って早戻しする……!」

「中々ゴンゲム出て来ないね」

「い、いやだからこれは違う作品で──」

「なんで味方同士で戦ってるの!?」

「違う違う!こっちが敵のババンでこっちが味方!」

「わかんないよ〜!なんで同じ形してるの!?」

「ぜ、全然違うだろ!?」

 

 上映前の、息ピッタリな二人は何処へやら。ちぐはぐな問答が、作中の銃撃戦の如く飛び交って、シン・ババン以上の迫力を体感した。文字通り、目前で。

 

「も〜!!ストーリーもキャラクターも、難しくてよくわかんないっ!!」

「そりゃ完結編だけ観たって分かるわけないでしょっ!!」

 

 そんな口撃に割って入れる隙なんて、ある筈もなく。限界を迎えたんかして、とうとう……お互いが胸の内を暴露した。

 

 

「「そっちが喜ぶから一緒に観てたけど、ごめんもう限界!!」」

 

 

 ここにきて、俺抜きで四回も観てた理由が判明した。エルダ的には、折角巫女が興味を抱いてくれたから。小糸さん的には、神様と一緒に楽しみたいから。二人の良心が変に噛み合った結果、過剰なまでの思いやりへと至ったんやろうな……ホンマ、仲のええお二人さんや。

 

「え、えっと……マサはともかく、小糸は別に、観たい訳じゃない、のか?」

「え?……えっと、そう、だね?」

 

 すれ違う想いを互いに理解した瞬間、黙りこくってしまった。こればかりは二人の問題やと思って映画に集中してたら、試験の誤答を正すように、小糸さんが恐る恐る口を開いた。

 

「もしかして、藤君はともかく、エルダは一人で観たかったりする……のかな?」

「そ、そうだな……ま、マサはどうだ、観たいか?」

「俺?俺は別に、観たいといえば観たいけど……二人がやりたいように、やればええんやないか?」

 

 指先をもじもじしながら、意見を擦り合わせる二人。ついでとばかりに俺の心境も求められた。けど、第三の勢力でもあらへんし……巫女さんと神様の橋渡しになるつもりで、柔軟に回答してみせた。

 

 

「「じゃあそうしよっか〜!!」」

 

 

 そんな軽めの発言が、今の神道には刺さったらしい。行き過ぎたばかりの思いやりは、こうして終わりを迎える事となり……小糸さんは好きな事を、エルダはオタ活を満喫する運びとなった──おめでとう、なんかおめでとう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね?ゴンゲムじゃなくて……れーしょんの奴を最初から観るんだー、って張り切っちゃって!」

「レーションの奴って……でもそっか、楽しそうで何よりやね」

 

 俺はどうするか迷ったけど、エルダの意志を尊重した。俺とアニメを観てくれたり、おもちゃで遊んだりする事はあっても、一人で遊びたくなったならそうすべきやし。

 

「ところで、今から何処行くんやっけ?」

「えっとね、なっちが教えてくれたんだけど──」

「なるほどな、了解。高麗の分も含めて引き受けたで」

 

 小糸さんは古着屋巡りで、季節の変わり目に備えて沢山買い揃えるつもりらしい。相棒も誘った所、二つ返事で了承した辺り、丁度行きたかったんやと思う。そんな二人の荷物持ちとして、同行を願われた。

 

「高麗の合流を待つとして……映画の後は買い物かぁ、まさしく休日って感じやな」

「ホントだね!……ねぇ、藤君?」

「うん?」

「──色々と、ありがとねっ!」

「──お互い様って事で、ここはひとつ」

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』。祀られたる御神体とその巫女は──紆余曲折あろうとも、お互いを尊重し合えるコンビやった。思いやりって、難しいもんやねぇ。




一緒に鑑賞するオチも考えたのですが、こっちの方が高耳神社らしいかな……?と思ったので原作に沿う形になりました!
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