原作では実在する商品がそのまま出てきたのですが、ハーメルンの規約的にはどうなんだろう……と思い、ちょっともじりました。ガッツリ企業名まで出ていたので、どんな商品か気になった方は、原作をどうぞ!
その日は珍しく、数学が自習の時間に置き換わった。言われた通りに教科書に目を通すクラスメイトや、問題集や塾の宿題を片付ける秀才達。机に突っ伏す人もいたけど、早弁をする馬鹿には雷が落ちた。家庭科の自習なんです!ってそれっぽい言い訳は、数学的な証明にはならんかったらしい。先生的には、居眠りの方がマシっぽいなぁ。
そんな授業中の居眠りは、学生の特権やと思ってる。失礼な話、朧げに聴こえた先生の言葉を板書出来ずに、チャイムに起こされる時は至福の時やし。勿論、前置きに不可抗力って置かなアカンけど。
今日最後の授業が自習やったからかはさておき、少し眠い。高麗抜きのゲームが捗ってしまって、気が昂った。横になるだけでも回復するとは聞いたけど、それで寝られへんかったら、起きて次の日に寝まくる!ってのが今の習慣。一人やないと、こうはいかへんのよな。
「缶コーヒーでも買って飲み干すかぁ……」
小テストの範囲を抑えてたつもりが、気付けば目頭を抑えてた。流石にほぼ徹夜ってのは、身体が悲鳴を上げるわ……エルダに夜更かしの極意でも、学ぶべきかぁ?
そんな眠気増々の帰り道。月島の駅から徒歩数秒程度の所で、見慣れへん番号からの着信が届いた。高麗でも小糸さんでもあらへんけど、誰やこれ?
「はーい、藤岡です」
「ようマサすけ、文化祭ぶりだな」
「その呼び方にその声……もしかして、ミカさん?」
電話の主は、志村水鏡さん。俺にとっては、ほぼ隣人のクラスメイト程度の認識の人が、わざわざ俺に電話?番号を教えた記憶はあらへんけど?
「元気そうやね、なんで番号知ってるん?教えてへん筈やで?」
「それはコマすけから聞いた。ついでにメッセも登録させて貰っていいか?」
「あ、ああ、かまへんで」
淡々と告げられる事実に、為すがまま返答してもうた。高麗の理論やと、あれだけ関わったなら平気だよな!とか思って教えたんやろなぁ……文化祭手伝っただけで、そこまで関係深めたとは言い難いと思うねん、俺としては。
「それはええとして……なんで電話なん?登録するだけやったら、メッセでスタンプ一つでもええんよ?」
「悪い、なんせ急を要する頼み事だからな。力を貸して欲しいんだけど、今はもう帰りか?」
「せやで、丁度月島に帰ってきたとこやわ」
「頼む、ウチの高校に立ち寄ってくれ!私達じゃ運べそうにないんだ──寝たままのコイすけを」
「……とりあえず、歩きながら事情聞くわな?」
東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきた下町にある高校の──とある居眠りさんの話。
「ホンッマ、疲れたで今日は」
「ず、随分と苦労を掛けてしまったな?ウチの巫女が……」
眠たい目をこすりつつ、寄り道感覚で小糸さんの学校へ。アーチは撤去され、文化祭の賑わいは鳴りを潜めてたけど、部活に勤しむ生徒達がその代わりを果たしてた。
今回は敷地に入れる理由も無いから、校門で待つかぁ。なんて意気込んだその時……女子にはしてほしくなかった、情けない姿を目撃してしまった──校名が記された看板を背に座らされてる、寝息を立てる小糸さんの姿を。そしてそれを取り囲む、相棒や電話の主達を。
事情は把握出来へんけど、人としてその扱いはナシと違う?って第一声を放った所、あたし達じゃここまで運ぶので限界だったんだぜ!とかなんとか。
ミカさん達が言うには、朝から欠伸が続いとった小糸さん。昼飯以外で目を醒ます事はなく、下校時刻を過ぎても机に突っ伏して、自分で帰るそぶりも見せへんかった。校門前で寝てたのは、汎ゆる手を尽くして運んだ結果らしい。
これ以上はみんな帰路もバラバラでどないする?となったその時、現月島在住、かつ力仕事もやれる、そんな俺に満場一致で白羽の矢が立った。結果論やけど、寄り道せんで良かったわぁ。
「その元凶は、SNSで見た紅茶の美容法を試しとって?カフェイン効きすぎて生活リズムが狂って?学校どころか神事も疎かになってたと……らしいっていうか、らしくないっていうか」
「まあ小糸も、そういうのを気にするお年頃だからな……マサ、爆弾持ってるか?私の弓で起爆するぞ!」
「デカいの二つやね、了解!」
肩車をする形で、俺は巫女さんを送り届けた。小柚子ちゃんには平謝りされ、菊次郎さんからはお菓子を礼として渡された。そこまでせんでも!とは思ったけど、人間一人があんなに重いとは夢にも思わへんくて……もうちょい色付けてもええんやで?と心の俺が囁いた。
それやったらせめて報酬に見合う理由が知りたいと思って、ゲーム機を鞄に詰めてエルダの元を訪れた。神様が一番活発な時間帯である、深夜を狙って。重大な事件やなくて安心したけど、ゲームで夜更かしした俺、片や紅茶で眠れなくなった巫女さん。元を辿れば、似たりよったりな感じやな?
「……似たようなもんやな」
「どうかしたか?」
「いーやなんにも。設置したから、ド派手に頼むで〜」
「ああ!こいつの素材が、あと3つは欲しいんだ!」
徒労とは思わへんけど、事情聴取は、何時ものゲーム大会に変貌した。不思議なもんで、深夜に遊ぶゲームっておもろいんよなぁ!背徳感に背中を押される感じが!
「エルダ起きてる?入ってもいい?」
「ん?小糸……?」
狩猟を終えて帰還を待っていた間に、昼間に背負った巫女さんがやってきた。一瞬焦ったけどそらそうか、ここは小糸さんの家でもあるしな?そんな巫女を、神様は優しく受け入れた。
「どうした小糸?もう夜中の1時だぞ」
「いやあ、今日も眠れなく──って藤君!?」
「こんばんは小糸さん、パジャマ派なんやね!」
「えっあっ、そ、ソウデスネ」
言葉も態度も固くなる小糸さん。侵入者と接する態度やないのは嬉しいけど、そこまで驚かんでもええのに……いや驚くわな、深夜に学校の違う同い年が、自分とこの、それも御祭神と一狩りしてるとは思わへんもん普通は。
「ご…………」
「「ご?」」
「ごめんね藤君!コマちゃんやミカちゃんから聞いたけど、わざわざ寝てた私を運んでくれたんだよね!?」
「えっ?あーまぁせやね」
なるほど、驚きよりも罪悪感の方が上やったか。俺としては寝すぎやろ!?とは思ったけど、普段から神事とかやってるし、そんな状態でリズム崩したら、誰だってなぁ?
「なっちから写真が送られてきたんだけどね、背負われた私、すっごく脱力してたよね!?爆睡してたよね!?私、人より食べるから体重も──」
「あーそこまでや小糸さん、そんなに気にしてへんからな?重いとかどうとか言わんでええからな、なぁエルダ?」
「え、えっと、そうだな!マサが良いって言うんだ、気にするな小糸」
「でも……学校から家まで、背負わせちゃった訳だし……」
高麗はともかく、あのクラスの人達やったら、起きるまで見守ってくれると思うんよなぁ。俺が背負わんでも、目が醒めるまで待ってくれてたと思うし。遅かれ早かれ、起きて帰れました……ってのが俺の持論。それでも責任感強めやから、ちょっと譲歩したった方がええかな?
「まぁまぁ、そこまで言うんならさ?今度は俺が困った時に助けてや。それでチャラにしようや、な?」
「……わかった。じゃあ何かあったら、力になるねっ!」
とりあえず、貸し一つって事にしてこの場を締めた。ちょっと強引やけど、勢いこそ正義やな!
「じゃあこの話は終わり。話変えるけど、最近眠りにくいん?」
「うーん……学校で寝過ぎたのもあるけど、なんか夜起きてるとさ、モヤモヤしちゃって」
「そうか……?私は夜の方が色々と捗るけどな!ネット徘徊に素材集めに!」
「夜中のエルダって、こんなにイキイキしてるんだね」
「しかもやってる事が俗っぽいんよな。俺も加担してるけど」
探りを入れに来たついでとはいえ、そんな俗っぽい習慣の片棒を担いでる点は、見逃して貰えると幸いですわ小糸さん……もう貸し借り無しで結構ですんで……!
「付き合わせたマサもだが、明日は学校だろう……なるべく寝た方がいいぞ?」
「わかってるんだけどさ〜、眠らなきゃって思う程、眠れなくなっちゃって」
「わかるわぁ、寝たい時に限って雑念がなぁ」
「だよねだよね!なんだか不安になるの!」
性別こそ違えど、人間として意気投合。恐らく今後も湧いてくるであろう課題に対して、答えが見つからないと余計に眠れなくなって。困るよなぁ堂々巡りって。
そんな俺達を見かねたエルダが、立ち上がって何をするかと思ったら……障子の向こうを指差して、こう呟いた。
「じゃあさ、ちょっと夜遊びにでも出掛けるか」
弓耳祭みたいな神事以外で、境内からは出ないと豪語するエルダの『夜遊び』。イケない事であろうと無かろうと、思わず立ち上がってしまう引力が、その言葉にはあった。
「ほら早く、小糸にマサ」
「待ってよエルダ〜!」
「わ、悪い!」
神事に奥手とは思えない程に早足で、かつ堂々と夜の月島を闊歩するエルダ。そんなエルダに呆気にとられながらも、二人でその後を着いていく。人通りが無いと、ここまで堂々と歩けるんやな……なんか泣きそうやわ!
「わざわざ着替えなくても……」
「だってエルダ行きつけのお店でしょ?パジャマって訳にはいかないじゃん!」
出発前、最近こっそり夜中に出掛けてる。って言われた事を思い出す。『行きつけの店』があるみたいで、そこへ行くのが、夜遊びらしい。どないしよ、深夜に開いてる店とか……高速道路のサービスエリア的なのとか、コンビニしか知らんで!?
「あっ……誰か来た!隠れるぞ二人共!」
「お、おう」
高校生として、深夜徘徊してるとあれば、説教コース確定やろうし。もしもパトロールしてる警察で、条例云々で色々言われたら……そんな時にエルダは頼りないんよ……!
「え?なんで?」
「も、もし知らない人が挨拶返してくれたらどうするんだ!」
「こっちも返せばいいでしょーが!」
「ほ、ほら……もっと身体くっつけて」
「え?う、うん」
間近で見てるけど、小糸さんはチョロい。あり得へん話やけど、エルダに悪事を働こうと抱き寄せられたら、あっさりと堕ちる位には。そんな神様と、掌で転がされる巫女さんと隠れてその誰かを見張った。
「かどいぃ〜おみずぅ〜……」
「帰って水道水飲んでろ。ったく、呑み過ぎなんだよお前は」
「っさいわねぇ……マサならそんなこといわないわよぉ〜……」
「マサでもそんな事言うわ!」
「……俺、あっちに行った方がええんかな」
「あはは……知ってる人だったね」
「これはこれで気まずいので……」
酔っ払いを介抱したい、そんな想いに後ろ髪を引かれて見上げた月は、心なしか大きく見えた。なんていうか、夜も月島は平和やね?
「こうやって夜の月島を歩くのは、継承の儀以来だね」
「継承の儀?俺等が外出たらアカンっていうあれ?」
「あ、ああそうだよ……あの日は寒かったなあ」
あの日は確か、高麗に手を引かれて、高麗の家でコーヒー片手に二人を見守った。継承のけも知らずにボサっとしてたけど、高麗の相棒を想う気持ちを知れて、暖かくなる一日やった──ちょっと揺さぶられた煩悩は、墓まで持っていくけどな!
「それにしても、結構歩いたなぁ」
「そうだよエルダ!そろそろ何処に行くか教えてよ!」
「着いてからのお楽しみ、だよ」
こんな風にエルダが俺達を引っ張る事なんて、今まで無かった。俺の知るエルダは、小糸さんに拝殿へと引き摺られ、小柚子ちゃんに胃袋を掴まれ、端的に換言すると、威厳が無い。
そんなエルダが、俺達を先導するかと如く前を歩き、進むべき道を示してくれる様は……ちょっとええな、こういうギャップが。
「この高架下を抜けたら、目的地だ」
「ここって……」
この高架の側には、少し小さな公園がある。学校からの帰り道として通ったりするから、土地勘の無かった頃に真っ先に覚えた場所や。こんな周辺に、店なんてあったか?
「え?こんな場所にバーなんてあったっけ?」
「そもそも店らしき店がなぁ」
「何の事だ二人共……私の『行きつけの店』は……ここだー!!」
ででん!と効果音の付きそうな自慢をする、エルダが紹介してくれた店は、360度何処からどう見ても……自販機。これなら確かに、24時間、深夜でも稼働はしてるけど。行きつけの店というよりは、行きつけの機械。或いは筐体。半開きになる小糸さんの目は鋭く、ジト目って言葉が似合う表情をしてた。言いたい事はわかる。肩透かしやんな、どう見ても。
「……自販機ですか?」
「……自販機だが?ここにはなんと、不○家のネク○ーが売ってるんだ!!あまり自販機では置いてないレアアイテム!!」
「うわぁめっちゃ熱弁してる」
オタクスイッチというか、好きな物を教えたくて仕方のないという、オタク気質。『行きつけの店』の正体が分かった途端、一気に眠気が押し寄せて。
「自販機は店員さんと話さなくていいし!24時間やってるから便利だよな!ここでネク○ーを買って飲むのがマイブームなんだよな!はい、小糸とマサの分」
「あ、ああ、おおきに?」
返事を返す間もなく、それを受け取る俺と小糸さん。横目にジュースを渡される小糸さんを見たけど、その顔は、眉間に皺を寄せまくり、ただ只管に苦虫を噛み潰してた。
「小糸?なにその顔」
「浅はかな自分を戒めてる顔!!!」
「ほーん、こいつは温めるのもアリなんや」
エルダ流『夜遊び』の正体が明かされた後、神社に戻る理由も無いから二人に別れを告げて、店から直接帰る事にした。ゲームのクエストも終わらせたし、言われた通り明日も学校やし……小糸さんも多分、明日は通常営業に戻るやろ!戻る、よな?
本音を打ち明けてええんなら、少しワクワクしてた。小糸さんを背負って、眠り耽ってた原因を探りに来ただけやのに、思わぬ果実に出逢えた気分で──蓋を開けたら缶ジュース一本とかいう、対価もへったくれもあらへん、大言壮語な遊びやったけど。
眠気と肩透かしで頭が回らへんってなりつつあった夜更け過ぎ、住んでるアパートに到着した。階段を上り、自宅の扉まで歩こうとして。
「よっ、マサ。どこほっつき歩いてたんだよ!」
何時ものお隣さんが、玄関の扉にもたれ掛かってた。
「どこって言うても月島やけど?高麗こそ、日付はとっくに変わってるで」
「分かってるぜそんな事。ちょ〜っと目が醒めちまってさ。夜風にあたるのも悪くねーけど、折角だし相手が欲しいと思って」
「つまりは起こしに来た、って訳か。起きてたから良かったものの……」
随分とまぁ、無計画にやってきやがって。昼間に呼び鈴を鳴らすのとは訳がちゃうってのに。今頃夢の世界に旅立ってたら、どないするつもりやったんや?朝まで玄関に居座るつもりか?そんな時位一人で過ごせや!……いや、今日は俺が言えた義理やないわ。
「無闇に大声で呼んでへんよな?流石に」
「あたしもそこまで非常識じゃねーよ。インターホンでも反応が無いから、電話で起こそうとした所にマサがな?」
「それなら良かったわ、危うくアパートで居場所無くす所やったし」
こういうのって、普段からの心象が大事やし。高麗以上にご近所付き合いがあるとは言われへんけど、月島での居心地にも繋がるからな!
「でもそっか、マサはジュースを買った帰りかー。あんまりやる事も無さそうだし、無難に公園で喋ろうぜ」
ジュースを飲むか冷やすかして、今日は眠りたい所やけど。こんな日に、こんな時に、偶然起きてる者が二人。習慣通りに駄弁り過ごすのは、少し勿体無い予感がした。
「やる事、かぁ……なぁ高麗?『夜遊び』って単語に惹かれるもんはある?」
「夜遊び!?なんか面白そうじゃん!でも、悪い事はやってほしくねーな」
「あー悪事的な奴やないで?とりあえず歩かへん?ワンコインで通える、面白い店があってな。夜風に当たりつつ、散歩とでも洒落込もうや!」
「それなら賛成!今夜は寝かさねーからな?」
「寝る為の散歩やけどなー?」
東京都中央区月島……隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てられて、繁栄してきたその下町から発信される──江戸と浪速が『高耳神社』と織りなす、そんなお話。夜はまだまだ、これから。
夜ふかしはこれから!
原作を読み進めて来て思ったのですが、小糸達の文化祭が終わってから明確に時間軸が進んだな〜と感じてしまいます。これまでこの回は何時頃とか季節とか、明言される事は無かったので……不思議な感覚です。