個人的には、凄く懐かしいサブタイです。それと、今回は視点と自己解釈の混じった可能性のある方言の都合上、普段の関西弁より読みにくいかもしれません。
「筑紫の日向の橘の、小戸の阿波岐原に禊ぎ祓へ給ひし時に──」
前日の曇り空が豪雨さ洗われで、絵の具で塗りづぶした様な濃い藍色の綺麗な空。冷房は効いでねぁーげど湿った空気、巫女服の首筋から入り込む。オレの意志も拝殿さ漂う空気も、背筋伸ばせど言ってぎだ。
「生りませる……はら……へ……?ぱ、パンニャ、これなんて読むんだっけ?」
祝詞読み上げる練習の前の意気込みどは裏腹に、詰まる度、奏紙睨みづげるオレ。顔近づげるのだがら、なじょしても背筋が曲がる。
「なりませるはらえどのおおかみたち」
「な、なりませるはらえどのおおかみたちっ!」
色褪せだ奏紙には振り仮名も無げれば、習った事の無え漢字ばがりが飛び込んで来る。その度さ淡々ど指導入っから、曲がった背中戻しながら奏上やり直す。
「いいが、つとめ?祝詞はただ奉書を読むんで無ぁ。お前の心から言葉を発するんだっちゃ」
「うっす!」
学校で受げる授業よりも粛々ど、そして含蓄の富んだ言葉さかげられる。打でば響ぐ太鼓みだいに張り良ぐして返事する。時々鋭ぐなるその言葉は恐れる物でねぁー、巫女になるって決めだ頃がらずっと、覚悟してだがら。
「んじゃ、今日はこのくらいにしておぐべ」
「ありがとうございました!!」
ほいな檄飛ばしてけるようになったのも、数ヶ月程前の事。頑なに認めでぐれねがった御祭神、どいな心境の変化がわがらねぁーんでも、月島への無断旅行きっかげに、巫女服さ袖通す事さ許してくれだ。
ほんにそれだげ拒まれ続げだがら、認めだあのパンニャの顔、あの瞬間だげは、今でも鮮明さ思い出せる。雅兄ぃも小糸センパイも、元気だべが。
「「さでと──」」
それはさでおぎ、最近のウチの神社では、ギブアンドテイクが成り立ってる。まだまだ新米のオレに巫女どしての指南受げる傍ら、オレも世間さ疎い神様へのお返しのづもりで、ある事教えでる。それは──。
「はい、んじゃ今日は──メールの使い方を覚えでいぐっぺ、パンニャ」
「よろすくお願いします、つとめ」
宮城県仙台市、江戸時代がら数えで400年以上も歴史のあるらしい『円耳神社』。祀られでるその御神体は……最近スマホさ買った、現代の技術にはてんで疎いエルフでがした。
「違う違う!それはショートメールでそっちはメッセ!メールはこっちだっちゃ!」
「な……何でメールが2個も3個もあんだァ……」
ウチのパンニャは、中々なすて機械さ弱え。文学に関しては本読まねぁーオレですら頭垂れる位の知識はあるし、神様どしても威厳がある。
それなのに先端技術さ触れさせだ途端、眉への字にしてる。最近の本も読むんだら、その辺の知識取り込んででもおがしくねぁーのに。なんでほいな所ポンコツなんだべ?
「うう……ネットに小説アップすんのも何とかやってんのに……エルフにスマホはハードル高ぇっぺよ」
「パンニャが始めたんだから仕方ねぁっちゃ。編集部とのやり取りにスマホが必要になったんだべ?」
ほいなパンニャの文学的な趣味ど知識高じで、東京の出版社がら書籍化の依頼さ舞い込んで来だ。
一度は顔合わせに上京したんでも、幾らなんでも話がある度さ出向ぐ訳にはいがねぁー。おらはほいな打ぢ合わせに詳しくないだけんども、文面で済む話は呼び寄せる意味は薄いはずだし、何より神社何度も留守にしてほしくねぁべ。
「エルダ様だってパソコンしたりゲームしたりしてんだぞ、パンニャができねえ訳ねぁべ」
「ん、んだっちゃだれ〜……(訳:仰る通りです)」
厳しく叱りづげる時のパンニャは、思わず泣ぎ出してすまう怖さがある。周りですら喋らねぐなった訛りに、眼鏡外して突ぎ刺してくる眼光……ヤンチャしてだ頃の名残がずっとある。
でも、その厳かさがマブいんだべ!そんなパンニャに憧れて、お小遣いで特攻服を仕立てて貰った程には憧れてる!
「だがオレだって日々進歩してんだ、雅君に手紙で教わってSNSだって始めだんだぞ」
不慣れながらも、雅兄ぃに教わりながらも、自らスマホ買ったりして迎合する姿、オレには誇らしい。本人の言う通り日々進歩すっぺどする(訳:しようとする)姿勢は、エルダ様がら聞いだ武勇伝ども違う輝ぎ放ってる。
ほいなパンニャの発信するSNS、中身がいぎなり(訳:凄く)気になる!自撮りどが風景どが、案外ヤンチャな衣装さ身に纏ってだり!
「へーやるじゃんパンニャ!雅兄ぃもナイスだべ!見せで見せ、で──」
現代さ馴染むべどけっぱるパンニャのSNSに映し出されでんのは、パンニャ本人も確がに載せられではいだげど──数ある投稿されだ写真はどれも、既視感のある姿さしでて。どの写真も写ってんのは、毎朝鏡で覗いでぎだ、オレの顔……!
「ネッドリデラスイ!!(訳:ネットリテラシー)」
物心づいでねぁー赤ぢゃんのオレや、ランドセル背負う笑顔のオレ。泣ぎべそかいでるオレまで、SNSに放流されでだ。何やってんだパンニャ!?ネットはアルバムでねぁーんだぞ!?こいなおしょすい(訳:恥ずかしい)写真さ勝手に!!
「雅兄ぃに何教わっだんだべ!?」
「何って、インスタだっちゃ。雅君のアカウントもばっちりフォローしたんだ、こいなのを相互フォローって言うんだべ?」
「雅兄ぃのアカウントも気になるどもそうでねぁー!写真の話!!」
「つとめの赤ちゃんの頃がらの写真さアップしたんだ、先代巫女のスマホから送ってもらっで」
「個人を特定でぎる物をネットさアップすんな!」
その『やるもんだべ?』な顔やめろず!ちっとも威張れる要素無えんだがら!全ぐ……こいな未知の世界さ足踏み入れで威張るパンニャは、ちっっともマブぐねぁーんだよなあ。
「そ……そうなのが?」
「おぼこな私の写真なんておしょすいけど!仕方ねぁがら、このアカウントは円耳神社の公式アカにすっぺ。写真はアップしてもいいけど、オレが検閲すっからな!」
アイコンも神社のロゴにして、プロフィールも変えで……なんでごう、変な方向さ思い切りが良いんだが。エルダ様も、こいな風さ振り回されで来だんだべが。数日どはいえ、雅兄ぃもよぐパンニャど意気投合出来だなあ。
「ったく……まるでおばあちゃんだべ……」
「小馬鹿くせ、まだピチピチの五百代(いおじ)だっちゃ」
五十路ならまだわかるけど、五百代って初めて聞いたべ……エルフの尺度は相変わらずよぐわがらねぁーよ……。
教え教わりな時間も終わり巫女どしての肩書ぎがら切り替えで、神社の娘さ戻った後。パンニャどおぢゃ飲みだぐなって、お盆さ急須ど湯呑み乗せで本殿へど赴いだ。巫女服も良いども、気合いの入った特攻服は落ぢ着ぐべ!
「村本屋さんのずんだ餅が食いでぇな……」
「パンニャ甘こい物好ぎだもんな。お母つぁんに乗っけてって貰えば?」
「今日畑だべ?車出して貰うのも悪いべ」
オレの家では畑さ田んぼに、農作物も色々ど手掛げでる。上手ぐいった作物は、道の駅にも出荷してるみだい。巫女不在だった頃は、そっちで生計立ででだ位だべ。
「あ~オレも速く免許とりてぇな〜、したらパンニャも色々連れでってけんのに」
「そりゃあ楽しみだな」
「車はパンニャの痛車にすんだ!」
「やめんさい(訳:やめなさい)……そもそもつとめ、ほいなお金無ぁべ」
「それが問題なんだっちゃ……じゃあ家の軽トラを痛車にすっぺ!」
「やめろず(訳:やめなさいと言っているでしょう)」
実際、窓さ開げで風切り、ブイブイ言わせながらパンニャど走り回んのは夢だったりする。今の愛車ば自転車だがら、一緒に走り回るには向いでねぁーのが……悲しい話だったりする。
それにしても、急さ甘え物食いでえど口がら漏らすだなんて、何があったんだべ。パンニャにしては珍しい弱気な口調だ。月島旅行がら迷いが晴れだ感じがあっから、直近の悩みだど思う。んだらば!
「急に甘こい物食いでぇなんて進んで無ぁのか?小説の執筆」
「んだ、これまでファンタジーばかり書いできたからな。そろそろ現代劇に挑戦しでみようと思うんだ──しかも恋愛小説」
「ヒュー!ハカハカすっぺ!(訳:ドキドキするね)」
親指ど人差し指でハートマーク作りながら告げられだジャンルさ、オレも思わず胸ドキドキしてすまう。
何百年も生ぎだパンニャがら繰り出される恋愛模様、気になって仕方ねぁーよ!
「だがどうも若げもんが使う、若者言葉がしっくり来ねェでな」
確がにパンニャの言葉は、周囲でも殆ど耳にしねぐなった訛りだし、ましてやスマホですら不慣れなエルフのばっぱ。こごはオレ一肌脱ぐが!
「若げもん言葉なら俺が教えでけるよ」
「それは助かる」
どうやら普段のネタ帳にも恋愛小説の草案しただめでるらしく、見慣れだ手帳開いでページパラリど捲る。オレさ相談すっぺどネタの選別する顔は、先程祝詞の練習で覗がせだ、威厳のあるあの顔だった。
「んだらば失恋した主人公の心情を表現する台詞『そうしてあの人は行ってしまった──至りて私の恋心は泡と消えてしまったのだった──』」
台詞からして、なんだかかだこい(意訳:堅苦しい)。主人公が貴族って感じなら、至りてってかだこい台詞も有り得そうだけど、泡と消えてって所が、なんだか人魚姫みたいで。古いというより絵本の世界みたいな?
「う~ん、『泡となって消えた』ってのがちっど固えかなあ」
「んだな、じゃあ若げもん言葉でいうと──『気分はチョベリバ』とか」
──若げもん言葉だけど、それは“昔の”若げもん言葉だ、パンニャ。もっと若げもんの使う、チョベリバに相当する言葉といったらそこは……!
「いや、『ぴえんだよ』だべ!」
「なるほど!『そうしてあの人は行ってしまった──至りてぴえんだよ』……っと」
「一応雅兄ぃにも小糸センパイにも確認しとくべ!『泣ぐだぐなるとぴえんは同義語っスよね?』っと!」
交換しておいだメッセで、エルフ慣れした雅兄ぃど巫女の小糸センパイにも確認とる。一応二人も歳は近えし、この手の話も通じっぺ!世代の近さに手合わせでだら、両者ども直ぐに返事返ってぎだ。たがぐべぎ(訳:持つべき)ものは先輩達だべ!
「えーっと、小糸センパイからは『何一つわからないよつとめちゃん!』……雅兄ぃからは『聞きたい事は察したで?でも欲しがってる場面でぴえんはアカン』って返ってぎだ」
「雅君の察しの良さは助かるが…………後にすっぺ、この話」
諦観の交じる表情で、ネタ帳勢いよぐ閉じだパンニャ。パンニャにも解決出来ねぁー課題は、先輩方でも厳しいらしい。
後にするって言うんだら、オレも話切り替えっぺ。前々がら疑問視してだ所聞ぐ、良い機会だ。
「そういや何で、ウチの社紋は眼鏡掛けてんだ?パンニャ、昔は眼鏡掛けてなかったんだべ?」
「ああ、これは眼鏡じゃ無ぁよ」
円耳神社の社紋は、エルダ様の高耳神社と似てはいるものの、あちらと比べて目の部分がとても大きい。自己主張が激しすぎてやすこい(訳:わかりやすい)といえばやすこい。
「江戸の頃は眼鏡は高級品だったし、何より……それを掛けてるとインテリぶってるとナメられだしな」
「ナメられるのはいけねぁな!」
伊達者どして振る舞う立場どしては、堂々と胸ば張るっづー所は何よりも優先される。オレどしても、パンニャさ虚仮にされるの黙ってはおげねぁーし!
「じゃあこのまん丸いのはなんなんだ?」
「ああこれはなあ……あの頃のオレは目がまん丸く、ギラギラ光っていたからなんだと。『奥州ナメてっどあすぱねかげっど!』……って具合で、江戸の頃はちったあ荒れてたからよ」
そっか、社紋にはほいな意味があったんだ……だどしたら、今のオレにも良ぐわがる気がする。叱りづげる時どがにやる、黒目ゴマ粒程度さ小さぐなる程さ睨みづげるあの眼力。月島んでも、そのまなぐで(訳:その目で)着いでぎだ事さ叱られだ。背筋が凍る!
「ああ、あのおっかねえ眼なァ……今でもほいな眼をする時あるよ」
「あん?今じゃオレもすっかり丸くなったっぺ?もうそんな眼をすることなんで──」
「──自分のより面白ぇ小説を読んでる時どが、まん丸の眼してっべ……あとオレを叱る時も……」
「ほ、ほいな事……あるがも……べっこした嫉妬心で……」
「ただいまパンニャ〜」
「おがえり、つとめ」
髪ほどいで、眼鏡掛げで、世間的さ言うんだら品行方正。学校さ行く時は後ろで髪縛らずに流すのが、オレの通学スタイル。
本当はバチバチさキメだ特攻服で通いでえども、お嬢様学校だがら止めでる。お母づぁんにも、パンニャがらすらも許可降りねがった。
「今日も祝詞の練習すんのが?」
「もぢろん!でもその前に──はい、パンニャ」
そう言いながら渡したのは、学校帰りに仙台駅で買ってぎだ……村本屋のずんだ餅。昨日食ったがってだし、日頃のお礼どが、感謝籠めで手渡した。
「村本屋さんのずんだ餅でねえだが!!」
パンニャの表情は、いぎなり豊がで好ぎだ。叱りづげる時はおっかねえども、こうやって喜色満面の笑み見せでける時は、こっちまで微笑ましくなる。
「こないだ食べたがってだがらな」
「今日もお客さん並んでだろ?どうもなつとめ」
立で掛げられだ屏風の裏で、制服がら巫女服さ着替える。照れ隠しのづもりでねえんでも、労う言葉聞いだオレの顔は、絆されだ瞬間のそれだがら。
「ん?こっちは……そうが、雅君がらも手紙来てだんだな」
「パンニャは雅兄ぃの手紙さ読む時、ずっと微笑んでるのが気になるんだ、今度オレにも読ませで!」
「気ぃ向いだらな〜」
スマホ買ったどはいえ、未だにメッセのやり取りは出来ねぁーパンニャ。慣れだら雅兄ぃにもパンニャの指導さ付ぎ合って欲しいんだけんども、引ぎ受げでくれるといいだべが。
「つとめ、練習終わったら時間さ作れ」
「なじょしたパンニャ?」
「若げもんの好きそうな物も贈りたいから、知恵貸してけろ──手紙には返事とお礼が必要だろ?」
「んだ!それならオレも一筆書きでえ!」
んでもパンニャは、幾度が積み重ねで来だ封書の束見る限り、エルダ様と同じ様に、雅兄ぃども文通続げるんだど思う。ほいな交流続げでける事へのお礼兼ねで、オレの手紙も同封してもらうべ。
「ふっ……雅君も甲斐甲斐しいが、つとめがオレに、お土産を買って来てくれるようになるどはな」
「なに言っでんだ、それはお土産なんかじゃねえって」
しみったれだ声で零した御祭神の言葉は、オレには聞ぎ捨でならねがった。着替え終わった巫女服で、屏風の裏がらのお目通り──そのずんだ餅は、小椿木家の娘どしてではなぐ、円耳神社の巫女どして、パンニャさ捧げだんだがら!
「──神饌だべ!オレはパンニャの巫女になったんだから!」
ただの神職の娘でねぐで、神様さ仕える巫女になったんだ!と親指向げで示してみせだ。これはあの日、駅のホームで決意固めでけだ、パンニャへの意趣返しのづもり。
面ど向がって口にしたのは初めでだけんども、少しだげ釣り上がった口角は、頑なに巫女になる事認めねがったあの頃のパンニャだら、絶対さ浮がべねぁー表情だった。
「──神饌なら、三方さ置かねどな」
「あっ!んだっちゃだれ〜!」
「そろそろ七夕まつりの準備も始めにゃばいげねぁぞ?忙しくなるぜ、巫女さんよ」
「うっす!!」
宮城県仙台市、江戸時代がら数えで400年以上も歴史のあるらしい『円耳神社』。祀られでるその御神体は……最近スマホさ買った、現代の技術にはてんで疎いエルフだべ!
自分なりに調べて書いたつもりの仙台弁ですが、話者的には通じるかどうか……そうでなくても、意味が通じたかどうか……なんというか、主観視点で書いてきたツケが回ってきました。途中で何度も括弧で括って訳を書きましたが、それも読みにくさに拍車をかけたかもしれません。ごめんなさい!