今回というより次回ですが、原作とは大きく視点が変わる事になります。
観光ガイドの仕事って言えば、小さい旗持ってツアー客を案内したり、宿泊地に迷わへん様に道標になったり。真似事やったら月島でもそれ相応に経験あるから、月島限定で自称は出来る筈。
「なぁ小糸さん、俺の事は観光案内とかお礼も兼ねて連れてきてくれたんよなぁ?」
「うん、爺ちゃんも太鼓判捺してくれたし!それがどうかしたの?」
「いやぁその、案内って言う程大阪を熟知してへんし、地元すぎてあんまり立ち寄らへんかったからさ?案内出来ても廣耳神社位やなぁーとはなったんやけどさ」
そんな経験やら鶴の恩返し風の貸しを見込んで、大阪での案内を頼まれた。困惑しつつも二つ返事で返してもうたから、これでも責務を果たすで!と意気込んだんやけど。
「雅さんも、結構あれこれ考えるタイプなんやね」
「これでも理論派のつもりやで?そういう理由で観光ガイドとしての役割をさ、全うしようと思ったんやけど──」
新大阪に降り立って、向日葵さんとヨルデちゃんに出迎えられて、あれよあれよと『優先事項!』と力強く引き摺られた観光地ってのが。
「や……やっぱり歯医者こわい……!小糸〜!こ〜い〜と〜!!」
「向日葵〜っ!!手え握ってて向日葵〜っ!」
「──当初の目的通りとはいえ、大阪に降り立って一番最初に来たんが歯医者って、ガイドとしてどうなんやろなぁーって思ってな」
「あれはほら、え、エルダの自業自得だから」
「……小糸ちゃんも雅さんも、気苦労が絶えへんね」
今年で二度目の凱旋になる、大阪府のとある場所。江戸時代より400年以上の歴史を刻んできた『廣耳神社』のお膝元にて。そこに祀られてる御神体と、月島で祀られてる御神体は──来訪早々、歯医者のお世話になっとった。二人共震えてるけど、病院の椅子ってあんなに揺れる機能搭載してんのかなぁ?
「廣耳さんも高耳さんも、食べたらしっかり歯を磨くこと!エルフ虫歯は治るいうても痛いもんは痛いねんで!」
「「は~い……」」
大阪の巫女さん曰く、ヨルデちゃん御用達の歯医者さん、寺島さんからのありがたーい釘刺しに、治療箇所を抑えて長い耳を垂らすエルフ達。エルフ虫歯の治療の苦痛は想像でしか補われへんけど、地蔵の如く固まる二人の哀愁漂う背中が、その凄惨さを物語ってた。
「もう来たらあかんよ〜」
「はーい!お世話になりました!」
「お、お世話になりました……」
「ほなまたね先生!」
「もう来るな言うてるやん」
何時頃からとは聞いてへんけど、かかりつけの歯医者を後にする患者二人と巫女達、そしてガイド役。そもそも歯医者への先導は向日葵さんがしてくれたから、現状ただの一般人な男ですわ。
ほんなら俺の存在意義は何処にあるんや?
「お祭りの準備があるのにごめんね」
「かまへんよ、ウチらの出番は夜からやし」
「てことは昼間もお祭りあるん?」
「せやで、まあヨルデも落ち着かへんかったし丁度良かったわ」
「三人とも、ウチのお祭り勿論見てくよな!?」
大阪に向かうと連絡した際に教えられたけど、来院予定日がこっちの祭と被ってたらしく、晩は少し慌ただしいとの事やった。なんや慌ただしい訪問になったなぁ。
「案内を兼ねるから俺は見にいくで〜」
「い、いや夜はホテルに引き籠もる予定──」
「もちろん見に行くよ!赤竜祭!」
「ええ〜……」
その開かれるという祭の名は、赤竜祭。十年に一度行われるという廣耳神社の大神事、神社の御祭神である廣耳昆売命自ら商売繁盛を祈願する……。
「十年振りの赤竜祭や!!めっちゃめちゃめちゃアゲてくでー!!」
とにかくすんごい派手な祭らしい。ヨルデちゃんは然ることながら、あのクールな向日葵さんすら全身で決めポーズを披露してる。前々から勘付いてたけど、知り合った人間の中ではメッセでのギャップ第一位は……やっぱ向日葵さんやな!
「地元大阪でそんな規模の祭があるとはなぁ。井の中の蛙ってこんな時に使うんやねぇ」
「楽しみだな〜!よその神社のお祭りって行く機会なかったし!ねっエルダ!?藤君!」
「え、ええ〜……人がいっぱい来るんだろう?私がよそのお祭りに来てたら気まずいじゃん」
「……せやな、案内とはいえ初見やから楽しむつもりやで」
逡巡して芽生えかけた薄暗い心を、言葉のカーテンで覆い隠した。俺は大阪の、しかも田舎同然の地元で育った。そこで成長期の一部を完結させてたが故に、廣耳神社も赤竜祭なんて盛大な祭も知らんかった訳やし……微かに残る罪悪感のせいで、ヨルデちゃんの笑顔が眩しい。
仮に噂を聴いてたとしても、神社とかへの信仰心なんて皆無やったから、片手で冷たくあしらってたかもしれへん。今はエルダと接してきた自分やからこそ、御祭神が主役っていう祭に興味と期待を寄せつつあるけどね?
「アホやなあ!!ここは大阪、ウチのシマやで!!誰もエルダのことなんて知らんがな!!」
そんな薄暗い過去は置いといて、大阪で知らん事は無いで!とも取れる宣言をするヨルデちゃん。どこまで縄張りを拡げてるかはさておき、月島での初対面のあの日や帰省中に交わした雑談からは、全域とまでは行かなくても大阪への造詣の深さが窺い知れた。
「ヨルデちゃんの理屈が通るんやったら、月島もエルダのシマやないか?もっと主張して行かなお賽銭減るで」
「た、確かに……地元のみんなに愛されすぎて油断していた……!」
「ウチは可愛いからいける思たけど、シマやない東京ではいっこもチヤホヤされへんかって……ショックやった……」
「御祭神あるあるなのか……」
「たまには冷や水ぶっかけた方がええやろ」
ストロングスタイルに突き放す大阪の巫女さん。サバンナの獅子と違って、バンジージャンプみたいに回収はするけど、飛び降りて少しは痛い目には遭って欲しい……そんな言葉が見え隠れしてた。うーん冷酷!
「ほなウチらはお祭りの準備に戻るね」
冷たく御祭神をあしらったのもそこそこに、余裕たっぷりに戻ろうとする向日葵さん。普通の日に来てたらヨルデちゃん主導で大阪巡りになると思ってたけど、ある意味間が悪かった。
それでも普通の日にさせなかったのがエルダという存在。偶々虫歯になり、偶々治療出来る医者が大阪にいると知り、偶々出発日が祭日と被り。オタマジャイロを何個もダブらせた運勢はこんな形で還元された。
「それなら何か手伝える事ある?」
全方位に優しさと責任感を提示するのが小糸さん。遠く離れた土地でもその片鱗を見せたものの、向日葵さんも優しさを以て善意を巧みにあしらった。
「お客さんにそんなことさせられへんよ。折角やし大阪観光でもしたらどう?」
「えへへ、実は観光もしたいなーって思ってたんだ!藤君にはそのつもりで着いてきて貰ってたり!」
「じ、じゃあ漫画喫茶とかどう……?個室のやつ」
「隙あらば引きこもろうとするな」
「幾ら俺でも大阪限定の漫画喫茶は知らんなぁ」
「地元だからってボケないで!」
「んー、じゃあどこ行こか?」
そこそこ付き合いを重ねたからではなくて、主に月島の相棒仕込みのツッコミが大阪に轟いた。
小糸さんで遊んでるつもりはないんやけど、高麗に鍛えられたツッコミ力?は時々試したくなってしまう。高麗、お前の相棒は異邦の地でも輝いてるで……!
「ほんなら通天閣登りぃな!!ビリケンさんもおるねんで!!」
「ヨルデは通天閣好きやもんなあ」
そんな悩める月島からの客に、助け舟を廣耳神社が出してくれた。
スカイツリーには高さは及ばへんものの、エンタメ方面では引けを取らへんと思うしな。ええチョイスや!
「初代もエエけど二代目もベリグーや!屋上展望台なんて吹きっさらしでめっちゃアガるで!」
「い、いやだから私は高い所が怖いんだってば……!」
「ええやん!高い所楽しいやん!」
「登ったこと無いから詳しくは知らんけど、大声の測定器もあるで?一緒に行こうや!」
「それなら余計無理だろ!声にか細さしかないこの私だぞ!?」
アカンなこれは、ついでに初登頂したろと思い付きで画策したけど逆効果やわ。室内ですら高麗に『声ちっせー!』って言われる程やもんな、魅力にすらならんか!
「ほんなら食べ歩きは?大阪は食い倒れの街やで」
「それだっ……!ナイス向日葵……!」
「そうだね、折角大阪に来たんだし!」
「無難やけどそれが一番楽しいよなぁ」
食べ歩きと決まった途端、心で涎を垂らしつつ食欲を全開に料理名を挙げて行く面々。所広しメニュー多しな大阪で、被る事も無く食の談義に華が咲く。
「大阪いうたらてっちりやろ!!」
「お寿司やったらバッテラもええで」
「串カツも食べたい!」
「その合間にミックスジュースもアリやない?」
「確かにどれも捨てがたい……だけど」
次々と浮かび上がる料理に食欲を掻き立てられつつも、エルダは横に大きくゆっくりと首を振った。なんや?生モノも油モノもジュースですら気分やないんか?確かに歯の治療の後には染みる可能性はあるけど……。
「私が大阪で食べたい物は────たこ焼きだ〜!!」
一周回ってベタな料理来た!まぁ確かに月島はもんじゃ焼きばかりやし、お好み焼きは当然ながら粉もんの文化に触れる事あんまり無さそうやけど!溜めに溜めてまで食いたいのがたこ焼き!?いやまぁ全国に向けて名物を謳う料理ではあるけど!
「なんやエルダ、自分たこ焼きでええんか?それやったらそこら中でお店やってるで!」
「それなら善は急げだ!行こう小糸にマサ!」
「うん!私も食べてみたかったし行こう行こう!」
「お、おう!あんま知らん土地やけど案内したるわ!」
エルダの一存により気分はたこ焼きで食いだおれ、胃袋もたこ焼きを迎える準備に取り掛かったその時。
「あーみんなちょっとだけ待ってくれへん?特に雅さん」
「へっ?」
まるで俺だけに用事あります、とでも言いたげな台詞で呼び止めてきた。声色もいたって真剣なトーンなのも相まって、釣られて小糸さんもエルダも脚を止める。
「どうしたのひまちゃん、特に藤君だなんて」
「エルダ様と小糸ちゃんは知らんと思うんやけど、ウチらは雅さんに約束してたんよ。『次はちゃんとおもてなししたいわぁ』って」
「マサが新幹線乗る前に言うた言うた!ウチも忘れてへんで!」
振り向いた先におったのは、口惜しそうに裾を掴むヨルデちゃんと、何故か手首を掴む向日葵さん。高麗とは違うタイプのスキンシップに少しばかり鼓動が速まった。
世間的な休暇から敢えてずらして帰省したあの日、社務の合間に駄弁っただけやん。と後ろ髪を引かれつつも新幹線の切符を買ったっけなぁ。俺からしたら、神社の敷地内に招かれただけで十分やってんけど?
「あーそういや言うたような気もするなぁ、帰省した時に……」
「勿論三人とも大事なお客さんやけど、雅さんはとーくーに、大事なお客さんやからなあ」
「あのー向日葵さん?俺、ここ地元。小糸さんとエルダ、月島在住。大事にすべきはどちらかなんて明白やで?」
ましてや同じ巫女という肩書きに、同郷らしいエルフ達。丁重に扱うべきは高耳神社の二人やと思うで?俺が巫女でもそうするよ?
「エルダ様と小糸ちゃんは普通に観光楽しんで欲しいけど、雅さんは地元の人やからこそ出来るおもてなしがあるから、それで大事に、それはもう大事に迎えてあげたいんよ〜なぁヨルデ?」
「うん!!ずぅ〜っと相談してたもんな!!」
「ひ、向日葵さん……心做しかおどろおどろしくなってません……?」
「通常営業やわ〜こんなん、それより、小糸ちゃんから色々聞いた筈やで?駄洒落の件で話があるんよ〜って」
ポーカーフェイスが基本の向日葵さん、逸らしてた目を合わせて漸く気付けた。目尻は下がってる、そして口角は釣り上がってる。経験則っていうより一般論で語るなら向日葵さん、ちょっとキレてる──そして確信した、逃げ場がない。
掴まれた手首も可愛いもんで、軽く振りほどいても逃げられる握力やのに。
「マサ、ほんまおおきに!あれから駄洒落ぎょうさん浮かんでな?エルダとの対決前にずっと向日葵に発表し続けてきたから、もう向かうとこ敵なしやわ!」
駅で出迎えてくれた時は駄洒落のだの字も無く、歯医者の話題があったその日にお詫びの一報を入れた。あくまでも小糸さんから聞いたって体で。
その時は多少叱られたけど、『あんまりヨルデを調子乗らせるのはごめんやで?』と軽く釘を刺されて終わった。なんなら世間話の方が長かった。
それやのに掴んできた手のひらから伝わるのは、捕縛するタイミングを窺う程の計算された怒り、電話で敢えて話を打ち切ったと見せ掛けた罠。つまり、大阪に戻って来た時点で既に向日葵さんの術中に嵌ってたって事か?高麗は怒るなら直情的になるけど、この手の理論派な怒りは初体験や……向日葵さん、怖。
「こんな調子でな?それはそれはウチのお姉ちゃんが世話になったから、今日しか出来へんおもてなしをしてあげたいんやけど……どないやろ?」
「え、あ、そのー、今日は観光ガイドとしての拝命を高耳神社の神様と巫女から授かった訳でして。また先送りになって申し訳ないけど……遠慮させてもらうわ!なぁ小糸さ──居らへん!?いつの間に!?」
「小糸ちゃんやったら、ついさっきそそくさと食べ歩きに行ってしもたわあ。それで、どないやろ?廣耳神社流のおもてなし、受けてくれたらウチもヨルデもとっても嬉しいわあ」
「…………謹んで、受けさせていただきます」
今年で二度目の凱旋になる、大阪府のとある場所。江戸時代より400年以上の歴史を刻んできた『廣耳神社』のお膝元にて──一人だけ、巫女さん流のおもてなしを甘んじて受け止める羽目になってしまった。ヨルデちゃん、駄洒落は程々にしてな?
この作品を執筆するにあたって廣耳神社のモデルとなった神社があったのですが、最近アニメ等を見返したり色々調べていくにつれて、原作で描かれてる神社って明らかにここでは?と確信を得るレベルの神社が出てきました。アニメ放映時にどうして気付かなかったの?とか最新話の描写的にどう考えてもここだったんだな……となってしまう程の類似性がありまして。
この作品では特に明言はしていなかった上に、原作でも特に言及されていなかったので、身勝手ながら話を書きやすい場所の神社をモデルとして設定し、執筆を続けて来ました。ですが、下手したら雅のバックボーンが崩れかねないぞ?と個人的には危惧しているレベルで原作の廣耳神社とは食い違っており、内心で動悸が止まりません。
ただ、50話も超えて連載を続けてきた以上は今更練り直し様が無いので、『江戸っ子と浪速っ子』本編の中では当初の設定のまま書いていきます。雅という存在が出ている時点で齟齬があると言われればそれまでなのですが、原作と廣耳神社組の設定違うんじゃない?みたいな違和感が今後も出てきてしまうかもしれません。ここまで読んでくださっているのに本当にごめんなさい。
極力原作を尊重、準拠して執筆するつもりなのですが……もし今後も原作と違うんじゃない?登場人物の設定的に噛み合ってなくない?となってしまった場合、そこは拙作の独自設定だと思って頂ければ幸いです。
後書きでの長文で失礼しました、それではまた次回。