江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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今回、長いです。


GoWest!リターンズ そのさん

 

「思った以上に重労働やわ……」

 

 少々お怒りを顕にした大阪の巫女さんに首根っこを掴まれて、赤竜祭──十年前に一度行われたらしい、廣耳神社の大神事の手伝いにやって来た。具体的にはパイプ椅子とか、折り畳み式テーブルの設営。

 なんで地元に住んでて知らんかったんや昔の俺、と行動範囲の狭さを訝しむ程の規模。その証拠に、通天閣の一帯を貸し切り状態にして、そのシンボル毎お祭り騒ぎにしてたから。

 高耳神社も住民総出で祭を開催してたけど、その信心深さは畏れ入るなぁ……。

 

「雅さん、設営お疲れ様」

「おおきに向日葵さん。正直俺の手伝い要るか?って程設営終わってたし、主催と後援会の人達に比べたら学校の席替えレベルやで」

 

 二度目の帰省にして手伝いの元凶でもある、向日葵さんが労いにやってきた。出迎えてくれた時は高校の制服姿やったけど、装いを新たにこっちの巫女服を身に纏い、化粧に花の簪まであしらってる。

 以前帰省した時よりも着飾るその風貌は、恐らく赤竜祭での正装。紅い口紅に目尻の隈取が、会場に華を添えとった。

 そんなべっぴんさんを直視してると照れくさくなって、喧騒を出汁に話を逸らした。

 

「ヨルデちゃんは?何時もくっついてるイメージやで」

「今はその辺で氏子さんみんなに顔出し行脚やわ、そういうの好きやねん」

 

 さっきまで虫歯に苦しんでた神様とは思われへんなぁ。前回の帰省でも痛感したけど、切り替えるのが速すぎる!まぁでも、エルダと違ってやかましいのが好きそうやから、ええ薬にはなってそう。

 

「少しずつ騒がしくなってきたもんなぁ。月島の祭は本番になると静寂が支配してたから、これぞ大阪って感じするわ」

「祭自体がご無沙汰やったから、その反動はありそうやけどね。なんにせよ、神社の一大行事には変わらへんよ」

 

 一大行事と言うだけあって、そびえ立つ櫓に張り巡らされた提灯。見渡す限り大きな祭の代名詞ばかりで、こっちまで高揚感を覚えてまう。

 

「十年ぶりとなるとヨルデちゃんは勿論、後援会の人達も張り切ってるみたいやしなぁ。俺の事まで知られてて、喝を入れてきたんは予想外やったけど」

「ヨルデはお喋りやから、雅さんの事を話してるみたいなんよ。それに皆さん、この日の為に気ぃ張ってるからね。熱意のお裾分けやと思うで」

「なるほどなぁ。初対面でもあの気軽さ、やっぱり大阪の空気は美味しいなぁ」

「ほんなら良かったわ。ところで……ウチのこの装い、なんか一言台詞あってもええんと違う?雅さん」

 

 強請る様な口調で何かを要求する向日葵さん。地方こそ違えど、女子の褒められたがりで欲しがりな一面は変わらず。高麗や小糸さんのファッションを称えてきた語彙を以て、向日葵さんをおだててみせた。

 

 

「せ、台詞なぁ……口紅とか花の簪がに、似合ってるで!」

「ふふっ、意外と口下手やね?まあおおきに。そう言われると気合い入るわ」

 

 

 少なめの語彙力に対して、逆にこっちが気を遣われる始末。もう少し、褒め慣れとくべきやったか……!

 

「褒められてやる気出てきたし、後もう一仕事頼まれてくれへん?多分こっちの方が大切なんよ」

「まだあるん?設営自体は完璧に見えるで?」

 

 部外者としては、出張るような所が皆無に思える。男手としては出番が終わったんと違うかな?

 

「雅さんって、ギター弾けるんよね?小糸ちゃんから動画とか見せてもろたし」

「あぁうん人並みには弾けると思うけど、まさかあの櫓で弾けってか!?」

「ちゃうちゃう、ギターやないよ〜!あのリズム感を見込んで、和太鼓とか叩いてくれたらな〜って思って」

「わ、和太鼓?何故に?」

 

 会場の中心にある、二段構成で組まれた櫓の二段目。廣耳神社の社紋が側面に刻まれた、大きな和太鼓が鎮座してた。遠目に見てても、ドラムセットのバスドラムが霞む大きさ。

 

「そう、太鼓。本番は独自の祭囃子に合わせてウチが叩くんやけど、いざという時捌けなあかんくなったら寂しいやん?無茶なお願いなんは承知やねんけど、簡単な盆踊りと一緒に場を繋いでくれたら、ウチにとっては凄く助かるから。篠笛吹きの方々にも話は通してるし、叩き方も今から教えるし、どないやろ……?」

 

 急なお願いやなぁ、とは思った。無茶なお願いやなぁ、とも思った。他にも太鼓叩ける人居てる筈やのに、焦りすぎや。でも、断る理由にはならへん気がした。

 駄洒落を仕込んだ贖罪とかやなくて、決意を宿した小糸さんみたいな、相棒の頼みを叶えようと助力を願う高麗みたいな、そんな目で懇願されたから。

 

「西も東も、無茶振りするんは変わらへんねんなぁ」

「ま、雅さん?やっぱりアカンかな?」

「──叩き方のコツ位は、きっちり教えてな!」

「っ、勿論やわ!本番まて後3時間、みっちり教えるで!」

 

 大阪府のとある場所。江戸時代より400年以上の歴史を刻んできた、『廣耳神社』の大神事『赤竜祭』の会場で──祭と巫女さんの熱気に充てられて、闘志を燃やした男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも、こっちやで」

「間に合った〜!」

「こ、こいと……あしはやすぎ……おなかが爆発する……!」

 

 赤竜祭の開始時刻は、星が夜空に灯る頃。それまでの数時間を、和太鼓のいろはと曲のレクチャーに費やしてもらった。

 向日葵さんの教え方が上手いから、太鼓をきちんと叩けば響く様にはなった。篠笛吹きの方々が吹けるっていう炭坑節まで教えてくれたけど、にわか仕込みで盛り上がってくれるもんかなぁ?そもそも出番が来ないのが一番なんよ、とは向日葵さんの言葉。

 

「どうやった?たこ焼き美味しかった?」

「うん!すっごく美味しかった!チーズたこ焼きでしょ?明太子たこ焼きでしょ?お出汁の効いたたこ焼きもみんな美味しくて!」

「そら良かったわ、エルダはうん、聞かんでもええか」

「お、美味しすぎたけど、今はそれどころじゃ……」

 

 元が付いても陸上部、そんな巫女さんに生活圏が境内の神様が追いつける訳もなく。逆流しそうな程の個数を食べたのも大したもんやけど、同じだけ食べた小糸さんがピンピンしてるのも、大した巫女さんや。フードファイターになれるで?

 

「それにしてもすごい人だかり!」

「だ、大盛況だな……」

 

 エルダ、無理して感想言わんでもええよ?胃の中のたこ焼き破裂するで?

 

「ひまちゃんがメッセで言ってたけど、藤君も出るんだよね?」

「補欠やけどな?なんかあったら頼むわーって感じで、今は櫓から降りてるで?その証拠に、ほら」

 

 エルダの何倍も背の高い櫓の二段目。社紋の刻まれた和太鼓が鎮座するその手前に、祭囃子のリズムを打ち込む奏者が威風堂々といった面持ちで登ってきた。

 

「今日の打ち手は、準備万端や」

「あ!ひまちゃん!」

 

 訪れた来客達が、一人また一人と視線を会場の中心へと注ぐ。舞台に上がったら、祭の合図やと聞いてた通りに、交差してたざわめきがその一点へと向かっていった。

 

「こっち見たよ、エルダ!藤君!」

 

 流し目で俺達を見つけて、微笑む向日葵さん。頼まれた通り、櫓の正面から望める場所へ案内した甲斐があったってもんやわ。全方位に開けた会場の、いわば特等席やし!

 そんな会場をものともせず、和太鼓を打つ構えを取った。ただ打つだけの楽器じゃなく、本番はその打ち姿も楽しんでもらうって言うてた。打ち手のパフォーマンスも、和太鼓には必須らしい。付け焼き刃とはいえ叩き込まれたからよう分かる。

 

「ち、ちょうど始まるみたいだな……」

 

 そんなエルダの台詞が皮切りになったかはさておき……左手のバチでドン、と一拍。音量に反して身体に心地ええ響きが轟いた。

 たった一拍で会場の喧騒を鎮め、次第に一拍、また一拍。音と音の間隔は段々狭くなって、唾を呑み込む音にすら邪魔させへん程の律動でこの場一帯を支配した。

 やがて打つ前の構えに戻って、静寂が訪れて見る人全てが一息つこうとした拍子を狙い、それは起こった。

 

「櫓に、なんやあれは……炎か!?」

 

 建てられた櫓の、祭の心臓部とも言えるその場所へ。飾られた提灯や街の灯りが鬼火のように揺らめき、一筋の光となって集まり出した。

 夜を晴らしそうな光が集まって炎となり、その炎のまわりに輪をかけながら渦を巻いた。それはまるで、小さな台風のように。

 光源が炎だけになって、夜空をひとしきり荒らした頃。その台風の目は、満足したとばかりに火の粉をバラ撒き──。

 

 

『しょーばいはんじょー!!火ぃもってこ──い!!』

 

 

 赤竜祭の主役にして火の主でもある、廣耳神社の御祭神が腕を組み、打ち手よりも堂々たる佇まいで姿を見せた。

 登場と台詞は宣誓となり、静寂は開会前よりもうねりを上げて、より大きな喧騒へと包まれた。前から聞いてたけど、あれがヨルデちゃんの火の精霊か……見た目も振る舞いもど派手やなぁ!

 

「うわ〜!!あれがヨルデ様の精霊ちゃん!!」

「う、うん……精霊もパリピなんだよ……」

「類は友を呼ぶ、とはよく言うたもんやなぁ」

 

 併設されたスピーカーから流れる曲に合わせて、笛を奏でる後援会の人達。より叩く力を込める向日葵さん。それらをコーラスにして観衆を煽り、応えられ、踊る。廣耳神社の祭としての在り方に、俺も興奮を隠せずにいた。

 

「あははは!高耳神社とは全然違ーう!フェスみたいで楽しいね!」

「ホンマやね!小糸さんがカタカナを理解してるのとか、そんなんどうでも良くなる位に盛り上がってるなぁ!」

「相変わらず、ヨルデのとこは派手だな……」

『ほなそろそろ始めるで〜……赤竜祭や──!!』

 

 始めるで〜ってこれでイントロ!?まだ始まってなかったんか!?なんてツッコミを他所に、歓声が会場を埋め尽くした。派手やし意表は突くし、やる事が違うわぁ!

 

『あ、ちょい、待って?』

 

 開会宣言をした口と同じ口からの待ったの声。和太鼓は勿論、笛もスピーカーも、観客すら静まり返った。あれだけ騒いでたのに行儀ええなぁ?

 そもそも何が待ってなんや?と思ってヨルデちゃんの一挙手一投足を見守ってたら……。

 

 

『おトイレ行くの忘れてた!!!!ひーまー!!おトイレ行くの忘れてたわ!!!!』

 

 

 やる事成す事が爆弾みたいに派手やと思ったら、向日葵さんの手からバチがすっぽ抜ける程の発言が飛んできた。爆弾発言そのものっていうか、恥を恥と思わへんっていうか。

 慌てて櫓からヨルデちゃんを下ろし、抱えて走り去る向日葵さん。青ざめながらも叱りつけるその顔は、すっかり手馴れた様子ではあった。うん、俺にキレてたのはまだ可愛い方やったんやな!

 

「何してんねやヨルデ!!マサさんお願い!!」

「堪忍やで〜!マサがしばらく太鼓打つから、ちょい待っててな〜!!」

 

 器用に怒鳴りつつ、しれっと爆弾発言そのにを放り投げた巫女さん。それに乗じてそのさんをぶち込んだエルフ……地元大阪で叫ばれた自分の名前を、今だけは変えさせてくれ、と内心で手を合わせた。

 

「ま、マサ……呼ばれたぞ?」

「あははは!ひまちゃん、ヨルデ様のお姉ちゃんみたい!」

「トイレ位は済ませとけ!」

 

 法被を着た後援会の人達が俺を探してる姿はすぐに見えた。設営の際に顔も覚えられてたから、目線が一致した途端の驚愕と、手招きも見えた。あれが招き猫やったら、どんだけ良かったか。その視線を辿られて、観衆にまで見られる始末。どうやら逃げ場、無さそうやね?

 

「ま、マサとは他人のフリしてような、小糸?」

「藤君、頑張ってね!」

「弓耳祭といい、結局こうなるんか……エルダは後で覚えとけ」

 

 

 トイレへ駆け込む神様と巫女さんに、笑って見送るこっちの氏子さん達。それに法被を着せようとしてくる後援会や、他人行儀な高耳神社の二人。

 あまりにも混沌を極める会場でただ一人、和太鼓のバチを握る手に力の入る自分がいた──この力の源は、何処から来てるんやろなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行くで──!!ヨルデちゃんの赤竜祭や──!!』

 

 和太鼓歴数時間の叩く炭坑節もそこそこに、おトイレを済ませたヨルデちゃんが復活。打ち手も向日葵さんと交代して、早々に櫓から下りた。素人でええんかな?と不安や勇気を乗せて打ち鳴らした結果、観衆の皆さんは思い思いに踊ってくれた。

 ノリのええ氏子さんに救われたというか、ヨルデちゃんが顔を利かせてくれたというか。法被を貸してくれたおじさんの『気張りや!』と優しく叩かれた背中が少し熱い。

 

「あー身体痛、明日筋肉痛かもしれんわ……」

「あ、お疲れ藤君!盆踊り盛り上がったね!」

「お疲れ、マサ……ヨルデの奴が迷惑かけたな」

「どーも。こっちこそ、水差した感じにならんで良かったわ」

 

 案内した特等席に戻って、高耳神社からの労いを受けた。そんな最中にも太鼓が空気を揺らし、笛が華を添えて、精霊が心に火を灯して行く。誰が考えた曲目かは知らんけど、主役の復帰直後から場の雰囲気は最高潮に達してた。

 そんな雰囲気の中に居ても、居るからこそ様子のおかしい、エルフが一人。

 

「こ、こわい……やっぱり帰ろう小糸、マサ……!」

 

 肩に指が食い込──まへん程度に小糸さんの肩を掴み、背筋を曲げて隠れたつもりになっとった。小糸さんが後数センチ伸びればいけそうやのになぁ。

 

「落ち着いてエルダ!まずは深呼吸だよ!」

「安心しいエルダ、俺は実質帰ってるようなもんやから」

「い、いまはそういう冗談は求めてないぞ……!」

「エルダってば、こわいものリストの第16項が【パリピ】で第23項が【大きい音】なの!」

「よう分からんけど相性最悪やな」

 

 閑静な自室とはおおよそ相反する性質を持つ、エルダのこわいもの。俺の視点やと、それがリスト化されているという事実と、23個は存在してる怖がりなエルダが怖いんやけどね?

 

「ヨルデのお祭りも、こわいものリストに追加しようかな……」

「こらこら」

「因みに、そうやな……第7項は?」

「【大きめの魚影】だね!」

「あーうん、隅田川で泳がんようにな?」

 

 泳ぐわけないだろ!?とのツッコミは、祭囃子とその観衆達の盛り上がりに掻き消されてしまった。大丈夫や、返さへんけどちゃんと聴こえたで!

 

『商売繁盛ー!火ぃ持ってこーい!商売繁盛ー!火ぃ持ってこーい!』

 

 ライブのコールの様に御祭神を囃し立てる氏子さん達。そんなコールに返す形で、櫓の上から何処へともなく指を差した。

 それが合図になったのか、周囲を燃え盛りながら飛び回る火の精霊が急カーブ……吊り下げられた提灯をなぞる様に飛び始めた。なぞられた提灯は火を灯されて、やがて会場を昼間以上に照らしていった。

 

「綺麗〜!どんどん火が灯ってくよ!」

『じゃんじゃん行くで──!あはははは!!』

 

 さっきからいちいちカッコええな火の精霊ちゃん!風の精霊ちゃんは蛍みたいで可愛いんやけど、こっちは攻撃呪文みたいな?燃やさへん火炎って言うの!?それと奔る閃光って言葉がしっくり来る。堪らんわー!閃光ちゃんって呼んでもええかな!?

 提灯を灯し終えた閃光ちゃんは、観衆の元まで降り立って、自分の存在感とその軌跡を見せつける様に迸り。

 

「うおっ近っ!」

「わっ!あははは!」

 

 俺達の元にも飛んできた。ほんの少しエルダの精霊ちゃんと呼応したかと思ったら、また別の観衆の元へ去っていった。間近で見てもカッコええなぁ!一直線に飛ばすだけやなくて自在に飛び回れるって所が素晴らしい、多分戦闘力も高いであの子!

 

「火の精霊ちゃん元気〜!でも火事になったりしないのかな?」

「大丈夫だろ……精霊は属性のコントロール上手だし……」

「そういや提灯も通り過ぎてたしなぁ、燃えるかと思ったけど」

「確かに!しかも近く通ったのに熱くなかったね!」

 

 得意科目は満点取れます!みたいな理屈やね、それは確かにあり得る話やわ。エルダの部屋も年中空調要らんし、廣耳神社の台所は、ガスも電気も──。

 

『のぼりに燃え移ったで!』

『消火器や!』

『よっしゃー!!』

 

 前言撤回、ガスも電気も必要そうです。

 

「燃え移ってますが……」

「エルダさんや、燃え移ってるで」

「だ、大丈夫だろ……多分……」

 

 よし来た!とばかりに消火活動に勤しむ気の良い氏子さん達。手慣れてるけど、精霊ちゃんによるボヤ騒ぎは慣れっこなんかなぁ。ってかこの場の人みんな、精霊の存在は周知の上なん……?

 

 

『メインイベント行くで──!!かりゅうとぎょや──!!』

 

 

 かりゅうとぎょ、聴き慣れへん単語に思わず頭を傾げた。とっておきがあるんやで?って向日葵さんから聞かされてたけど、今からそれが始まるんかな!

 

「かりゅうとぎょ?」

「えっと確か……大阪の各所に置かれた提灯に、精霊が火をつけて周るんだったかな……私が観たの、もう400年は前だから……」

「ほんとだ、ホームページに書いてある!」

「ちょーっと見して?どれどれ……そう書くんや、へー」

 

 小糸さんがスマホで開いた廣耳神社のホームページには、赤竜祭の目玉として、最後は通天閣の上まで駆け昇る【火竜渡御】という演目の説明が載っていた。商売繁盛を願うらしい。

 

 

『行っくでー精霊!!飛んでけ──!!!!』

 

 

 読む暇あったらこっち見ぃ。なんとなく、そう言われた気がした。

 人は高く跳ぶ為には膝を曲げて力を溜める。飛行機も飛び立つ前に滑走路を走る。そんな感じで足元を周り出し……飛んでけ!!って離陸許可が降りた途端、ヨルデちゃんの両腕をカタパルト代わりにして、通天閣へと飛び立った。

 

「火の精霊やけど超クールやわぁ……なぁ小糸さん、思わぬ涙が……うん?」

「これって……」

 

 通天閣に向けて飛び立った閃光ちゃんを見て、感嘆の声を出した直後の事。あまりの感動に泣いてしまったなんて思い込みは、直ぐに是正された。

 それは頬や腕を濡らし、小糸さんやエルダにも降りかかり、次第に水滴は雨へと名前を変え、街全域に降り注いだ。

 

『め……めっちゃカッコええとこやったのに……』

 

 火は水を掛けて消火する。小匙程度やったら蒸発するやろうけど、さっきの元気な閃光ちゃんが引き返してしまう程の雨量に雨足。雨天決行とはいかへんらしい。

 

 

 軒下に避難する人や、機材が濡れへんようにシートを掛ける後援会の人もいる中で──ただ一人、普段通りの表情で曇天の空を見上げる、簪を挿した巫女さんの顔が……酷く脳裏にこびり付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかくみんなが月島から来てくれたのに、ごめんな……」

 

 一先ず、三人で設営されたテントに入らせて貰う事にした。そこで今日の役者達も確認出来たものの、髪も装束からも雨は拭われたのに、向日葵さんから湿っぽさは拭えず。ヨルデちゃんに至っては、大きな泣きべそをかいとった。当代の巫女との大神事を、ええ所で止められた悔しさを滲ませて。

 

「そんな落ち込まんでも、こういう雨はすぐ止む……と思うで」

 

 断言は出来へんかった。なんせ自然現象で、確証もないから。経験則に過ぎへん。

 

「なんやったっけ?ゴリ……ゴリラ……」

「ゴリラ豪雨!」

「それや小糸!」

「ゲリラ豪雨な……?」

「みんなこんな調子やし、だーれも気にしてへんで。気楽にしようや」

「……せやね」

 

 宮司の方から赤竜祭一時中断の放送もあり、じっと晴れるのを待つ事に。

 他愛ない雑談で時間を潰しても、屋根には大粒の雨がドラムロールより速く打ち付けられて、地面を冷やし、テントの淀んだ雰囲気はより一層濁っていった。黙ってるのは苦じゃないねんけど、重苦しいのとは違うんよね……。

 

「すごい雨だな……」

「うん……天気予報は晴れだったのにね」

「おまけに長引いてるしなぁ……」

 

 高耳神社の二人に釣られて、思わず溜息を吐いてしまった。吸い込む空気が重くなると、吐き出す空気まで重い。

 

「実は小糸ちゃん達には、内緒にしてた事があんねん。この雨──ウチのせいなんや」

「ど、どないしたん急に?話が見えへんで」

「ひまちゃんのせい……?」

「うん。実はウチな──」

 

 そんな俺達の様子を伺って向日葵さんが、それはそれは申し訳無さそうな口調で、胸の内にある隠し事を暴露してきた。

 

 

「ウルトラスーパー雨女やねん!!!!」

 

 

 割としょーもない暴露や!実は神事が嫌やったとか、そういう類いの暴露じゃないだけ安心したけど!可愛気あるっちゃあるけど!

 いや、内心でも茶化すのは止めとこう。向日葵さんのメッセの文面より声がデカいから、本人にとって、それはそれは苦渋の決断やったに違いないし。友人と神様の前でキャラ崩壊するレベルやもんな……!

 

「前日までどんだけピーカンでお天道さん出ててもな?イベント当日に絶っ対雨降んねん!!絶っっっ対やで!?」

「また言うてるわ!そんなんひまの思い込みやっちゅーねん!」

 

 また、かぁ。雨が降った日には割と、自罰的な感じで言うてるみたいやな……。

 

「そうだよ!ただの偶然だって!」

「ちゃうねん!遠足も修学旅行も楽しみにしてたら絶対大雨降るねん!ディズシー行きたかったのに!せやから推しのコンサートも野外公演は行けへんねや!!」

「……和太鼓の素人なんかに、炭坑節の盆踊りを頼んできたんも、この状況を見越して?」

「……駄洒落吹き込んだんを怒ってた訳やなくて、これやったらお願いする口実になる思て、咄嗟にね……結局、それもストップかかったんやけど」

 

 なんで頼まれたかは判明した。そして、怒らせてたんやないと安心したんも束の間、口調の落差が激しく、テント外の雨音が邪魔して消え入りそうになる言葉。普段のエルダよりもか細くなっていく声量に、屋根の下まで曇り空が広がってくる。

 

「呪われてんのやろか……お祓いしてくれへん?小糸ちゃん」

「う、う〜ん……」

 

 そのお願い、自分とこの神様への信用問題に発展せぇへん?だからこそ切羽詰まってるお願いなのは、痛い程伝わって来るけど……俺の頭で思いつく範疇には収まらへん想いを、この赤竜祭に込めてはる。焦りも懸念も、その裏返しなんやろう。

 

「赤竜祭の日ぃこそは、雨女返上したるて、思ってたのにな……」

「ひまちゃん……」

 

 全く似合ってへん。名前に反して俯いて、涙を堪らえようとするなんて。作り笑いもそうや、そんなんやったらメッセで絵文字ペタペタしてる方が、よっぽど向日葵さんらしいがな!

 結局、高耳神社の二人に同行した目的とは違う。雨が降ったのも偶然でしかない。それでも向日葵さんは、俺にいざという時の為として、助太刀を頼んでくれた。和太鼓は叩かへんけど、きっと今がその時。

 

「ヨルデちゃんヨルデちゃん、ちょっと」

「……マサ?」

 

 あやす様な口調で、ヨルデちゃんを呼び寄せる。そういや初めて路地裏で出くわした日も、こんな感じで声掛けたっけなぁ。

 

「少しだけ、理科の授業しようや」

「理科?あんまりわからへんで?」

「大した事やないよ。ヤカンでお茶沸かした事ある?」

「それならあるで、湯気吹いてピーッて言うねん!忘れて遊んでたらひまに怒られたけどな!」

「サラッと何してんねん……水って火を焚べたら蒸発して無くなって行くんよ。んで、ヨルデちゃんには火の精霊ちゃんがついてる訳や──この理屈なら雨も、パーッと燃やせるとは思わへん?」

 

 無茶振りとは思ってる、大雨で中断された祭がその証拠。でも、根拠のない自信ならあった。何故なら──。

 

「!……行くで!向日葵、精霊!!」

「え?」

「ウチ、もう待つの飽ーきた!!」

「ちょっ、ヨルデー!?」

 

 閃光ちゃんに慕われるだけあって、へこたれても直ぐに持ち直す即燃性ヨルデちゃん。小さな火種になっても、焚き付けたらこの通り。後は、彼女らの底力に賭けるだけ。

 

「お姉さんに任しとき!!廣耳神社は雨になんか負けへんて証明したるわ!!」

 

 祭を盛り上げるのは、何時だって心意気やからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みんな──っ!いちびり雨が止むのなんかやってられへんよな──っ!?』

 

 メガホン片手に櫓に立つ御祭神。バチを握り直し再び構える巫女さん。そして、二人に降りしきる雨を燃やそうと奮闘する閃光ちゃん。そんな二人に沸き立った観客達が軒下やテントから、傘すら刺さずに櫓を取り囲み。最早濡れようとも躊躇わず、雨音と張り合う様に雄叫びをあげた。

 

「ま、マサ……あいつに何を吹き込んだんだ?」

「何も。ただちょーっとばかし、背中押しただけでな」

「で、でもどれだけやる気でも、火の精霊ちゃん飛べるのかな?」

「どうするんだ、ヨルデ……」

 

 打つ手は無くてもええ、これだけ盛り返して、会場のボルテージを上げてきた以上は、曇天でも成功したと思ってる。

 

 

『気張っていくで〜!!纏え、精霊!!』

 

 

 単なる発破を掛けただけ、気合いを込めただけに聴こえたであろうその言葉は……まるで引鉄。神御衣を一枚脱ぎ捨てたかと思えば、御祭神が登壇した瞬間とは比にならへん火炎がゴァァッと渦を巻き。

 

『こっから先は危ないからな!火傷で済まへんかもしれへんで!!』

 

 その小さな腕で炎の壁を振り払い、何処からともなく生み出した炎を意匠にあしらった、真紅の神御衣を纏って再び姿を現した──は、早着替えにしても程があるやろ!?

 

「は!?なんなんそれ!?」

 

 向日葵さんの太鼓を打つ手が止まる衝撃。そらそうや、脱ぎ捨てた筈の神御衣の代わりに新衣装を身に着けて、素人目に見ても火力を増し、肥大化した閃光ちゃん。

 ゲームとかやったら、これは強化イベントってやつでは!?カッコよさが天井知らずやんクッソー!!

 

「何あれエルダ!?ヨルデ様の服が変わったよ!?」

「あれはマナで出来た神御衣だよ、エルフが大きな精霊魔法を使う時に纏うんだ。確かにあれなら、この大雨でも飛べるかもしれない……」

 

 何その設定!?ここにきて変身形態を残してたってパターン!?ハチャメチャが押し寄せてきて、俺の少年心がパンクしそうや!

 

「マナってなに!?」

「魔法の源的なやつかな……」

「RPGのMPみたいな!?」

「MPに近いような遠いような、ちょっと説明が難しいんだけど……まあニチアサのフォームチェンジみたいなもん」

「マアニチアサノフォームチェンジミタイナモン!?」

 

 ニチアサは未知やけど、ヒーローが変身する的なもんときた……遅く起きてるエルダが見てるのは意外やったけど、なんにせよ本気出したって事か!

 

『今度こそ行くで!!火竜渡御や!!飛んでけ精霊────っ!!』

 

 晴天を貫くのが飛行機雲なら、曇天を穿つのが、本気を出した焔の閃光。降り頻る雨を貫いて、軌跡に残された炎ですら、雨粒を燃やし蒸発させる。

 駆け巡る速さも凄まじく、軌跡を辿らへんとまるで追いきれず。俺達は当然、観衆達も数拍遅れてその道筋を目で追った。

 そうして通天閣に到着した火炎。櫓よりも遥かに幅が広いけど、塔の一帯をぐるぐると漂い始めた。この距離でも視認出来る辺り、ホンマに大きくなったんやな!

 

「あとは昇りきるだけ……!がんばれ火の精霊ちゃん!!」

 

 昇りきるだけ、見守る誰もがそう願ったのも束の間。火炎が昇ろうとする意志に反して高度は上がらず、やがて同じ場所を回遊し始めた。あんな遠くまで飛べたのに、この豪雨やと流石に限界が……!?

 

「あかんヨルデ、雨が強すぎや!てっぺんまで行かれへん!」

『……ッ』

 

 打ち鳴らす手を止めずに叫ぶ向日葵さんと、歯を食いしばりながら、飛ばした一点を凝視するヨルデちゃん。一番精霊の事分かってるであろうエルフがあんな悔しそうな顔、本気でも限界が来てるんか!?こんな時に雨なんて降りやがって、天気の馬鹿たれ!!

 待てよ?変身前は会場内で引き返したけど、今は通天閣まで飛べた。言うなればあの火力を後押し出来れば、昇り切れると思う。そんな火力を、後押し出来る存在、着火剤になりそうな存在、火と同等の力を使役する──居るやん!今日この場に、偶然とはいえ居合わせたデカブツエルフと精霊が!

 

「「──エルダ!!」」

 

 閃いた名前を口にした刹那、小糸さんとその叫びは一致した。お互いに向き合い、頷いて。

 

「……エルダも、ヨルデ様みたいな大きい力?使えるの?」

「え?う、うん……まあ」

 

 出来る。エルダがそう言い切った途端、俺と巫女さんからのお願いは既に決まってた。

 

「ほんなら頼むわ!この通りや!」

「手伝ってあげて!?このままじゃひまちゃん可哀想だよ!」

「え、え〜……凄く疲れるんだよあれ……それに手を出したらヨルデも嫌がるだろうし……」

 

 本気を出したら疲れるのはわかる。マルバツゲームや駄洒落対決が続いてて、ずっと蟠りが残ってるのもわかる。苦手な一面があったとしても今はただ……!

 

「MP回復するスイーツ買うたるから!!新しい駄洒落も考えたるから!!今日だけは力、貸したってやエルダ!精霊ちゃん!!」

「ま、マサ……」

「お願い!!──掛けまくも畏き高耳昆売命、御君の巫女が願いを聞き届け給え畏み畏み申す……」

「き、急に畏むのズルいぞ巫女よ……!」

 

 目を閉じて、合わせた手のひらよりも深く頭を下げた。櫓に立つ二人の想いが、無下になってほしくは無かったから、御利益の無いエルフだろうとなんだろうと、ただ只管に祈りを捧げた。

 

「……ヨルデにバレないように、別の場所に行こう……見通しがいい所がいいな」

「っ!うん!」

「よし来た、こっちや!」

 

 

 人の波をかき分け、豪雨のカーテンをくぐり抜け。二人を先導して会場を後にした。ちょうど良さそうな雑居ビル、そこにあるしな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急いでエルダ!通天閣はあっちだよ!!」

「ひ、ひいいい〜……た、高いぃ!!」

「こんなん通天閣より低いで!我慢やエルダ!」

 

 会場の近くに建てられた、何処にでもありそうな雑居ビルの屋上。視界のええ場所があったのは僥倖やったけど、ヨルデちゃんの本気がどれだけ保つかも分からへん。エルダには悪いけど、急いで貰うしかない!助ける算段は付いてるんやろうけど!

 

「じ、じゃあ始めるか……マサ、念の為小糸に掴まらせてやってくれ。小糸、羽織を頼む」

「つかま……わかった!」

「う、うん!藤君お願い!」

 

 長い耳を隠す頭巾を解き、羽織った神御衣を一枚脱いで小糸さんへと預けた。風を司る精霊の本気、そんなにか!?

 

 

““まかせて””

「そっか……精霊も友達、助けたいのか……」

 

 

 その一言を皮切りに、精霊ちゃんが主の周囲を旋回し始めた。ビルの屋上の空気を巻き取り、小さな嵐となって、エルダの巫女装束を翻す。打ち付ける雨水すらも弾く様は、普段のそよ風とは似ても似つかへん暴風やった。小糸さんの抱えてる神御衣も、下手したら飛んでくでこれ……!

 やがて暴風が収まってエルダの姿を確認出来たかと思ったら、淡い葱色を基調とした暖簾みたいな外套に、裾には風を記号化した様な紋様。肩からはそれを束ねる様な合羽を纏って。

 

「綺麗……」

「これが、エルダの……」

 

 月島の御祭神は、変身を遂げた。

 然りげ無く渦巻きの中から出てくる演出、こんな時まで張り合いやがって!どこまで仲ええんやアンタら!

 

「いくぞ〜っ……」

““かしこまり””

「それ〜〜〜〜っ……」

「わっ!」

「小糸さんしっかり!!」

 

 人間や陸上生物は、走り出す時に地面を蹴ってる。その反動で勢いをつけて前へ進む訳やけど……風の精霊ちゃんは、地面やなくて空気を蹴った。

 蹴られた空気は気流となって、俺や俺に掴まる小糸さんが、その残された爪痕を受け止めた。危な!気ぃ抜いたら倒れる位の風速出てるやん!でも今は、怯んでる場合やない!!

 

「っと、精霊ちゃんは……よし、届いた!」

 

 屋上の欄干を前のめりになりながら掴み、精霊ちゃんの飛び立った方角に視線を送る。通天閣の中腹辺りで停滞する炎に、街一帯の空気を押し退けて光の筋を残しつつ、風が合流したのが見えた。

 

「精霊ちゃん!エルダ!」

 

 小糸さんの願いを、風が受け取ったのか、主が受け取ったのか。勢力を増して上昇気流が確認出来る程の勢いを作り、二柱と二匹の合体技は、やがて塔の頂上へと辿り着き。

 

「「行けーっ!!!!」」

 

 

 小糸さんと想いを一つに、迸る火炎と暴風にエールを贈った。

 精霊ちゃん達に届いたかは定かやないけど、どす黒い曇天に、廣耳神社の社紋を象った花火が、通天閣を中心になって咲き誇り。それは浄火の花火となって、辺り一帯に商売繁盛の祈願が届けられた。

 階下で湧き立つ歓声が、無事届いたっていう何よりの証拠。

 

 

「こんな時は、せやなぁ。たーまやー、やろか」

「それなら私はかーぎやーだね、ねっエルダ!」

「は、ははっ……それは江戸時代の、屋号の……まあ、上手くいって、良かったよ……」

 

 

 見てるよな、ウルトラスーパーな雨女さん。誰がどんなにウルトラで、スーパーな雨を降らせる雨女やったとしても。どんな一大行事でも──神様とふたりやったらぜーんぶへのカッパ、やで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てくれてありがとうね小糸ちゃん、エルダ様、雅さん」

 

 火と風の入り交じった赤竜祭から、翌日。お土産を調達し終えた俺達は、駅のホームで新幹線を待っとった。勿論、見送ってくれる廣耳神社の二人も一緒に。

 

「こちらこそ色々ありがとう!赤竜祭楽しかった〜!」

「ホンマにな!エルダが虫歯にならへんかったら、大阪来る事無かったし。来年もよろしく!」

「し、暫く歯磨きは徹底するからな……?」

「当分、開催は未定やけどね」

 

 どうやら来年の赤竜祭は未定らしい。それもそうか、十年ぶりって言うてたし、とてつもない根回しが要るんやろう。その日を気長に待つとしよか。

 未来のスケジュールを埋めた所で、東京行きの新幹線がホームに止まる。じゃあ乗り込んでそろそろお別れ、といった所で。

 

「間に合った〜!これ持ってき、エルダ」

 

 ある紙袋を片手に、ヨルデちゃんが駆け寄ってきた。紙袋って普通、ブランドとか社名が印刷されてて、ガワだけで何処の商品かが分かる。

 

「こ、これは……5◯1の豚まん……!どうしたんだ!?ヨルデがこんな良いものをくれるなんて!」

 

 大阪で一番知名度のあるであろう、5◯1の紙袋を引っ提げてきた。向日葵さんと初対面やったあの時も、お土産として分けてくれたけど、今回は少し違う。

 中から取り出されたのは……出来立てホカホカな、豚まん入りの箱やった。

 

「お前にホカホカの食べさせたろ思てな!そこの売店で買うて来たんや!“新幹線”で食べるとええで!!」

「ヨ、ヨルデ……!」

 

 美辞麗句を放つヨルデちゃんの笑みは、気前のええ神様にしては邪悪。絆されて見抜けてへん二人組からこっそり離れて、無関係を装う向日葵さんの隣へ。

 

「なぁ向日葵さん。止める手立ては無かったん?」

「豚まんは前渡したから別のにしぃや、とは散々言うたのにね……諦めの境地なんよ」

 

 宿泊先へ高耳神社からの客を送った直後。実家で寝ようとした所で、祭の主役二人からお土産について相談があった。

 相談とは言うても、一方的に『車内でアッツイ豚まん食わせたいねん!!』と告げられて。他にも名物あるやろ?って向日葵さんと案を出し続けたけど、結果がこれ。

 密室で蓋を開ける現場に居合わせたくないから、帰りは俺だけ自由席にしてもらった。善意で指定席を薦めてくれてごめん、帰りだけ他人のフリするわ……。

 

「ほなまたな、エルダ!」

「ああ、またな、ヨルデ……!」

 

 エルフ同士の堅い握手と盟約を、朗らか、諦観、傍観。人間達が三者三様に見守った。

 

 大阪府のとある場所……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『廣耳神社』、祀られたるそのご神体は──異世界から召喚され、すっかりパリピになったエルフやった。“昨日”のヨルデちゃんは、カッコよかったで!

 

 

 

 

 

「に……匂いが凄くて他の乗客に食べてるのバレてる……どうしよう小糸!」

「藤君ってば、こうなるのを知ってて自由席にしたんだ……!」

「ヨルデのやつも知ってて豚まんをくれたな……!気まずい……でも美味しい……!」

「はやく!早く食べちゃおう、エルダ!」




火の精霊ちゃんですが、エルダの精霊と区別しやすくする為に呼び方を変えたりしています。どっちも精霊ちゃんが故……。
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