江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

58 / 61

今回は、用意してたプロットに準ずる部分があって早めに書けた気がします。ではどうぞ!


お土産行脚 ─月島遊歩道─

 

 強制大阪帰郷ツアーの次の日、佃小橋で二人と待ち合わせて遊びに行く事に。昨日の今日でゴロゴロしたいと思ったけど『ダラダラしてたらつまんねーだろ!』って首根っこ掴まれて。

 女子二人で遊ぶ日があってもええと思うで?なんなら俺疲れてるし。ってかエルダが虫歯やなかったら本来、一昨日の予定やったんよなぁこれ。

 

「小糸、何その大荷物」

「エルダからの大阪みやげだよ。遊ぶ前に配っちゃっていい?」

「いいぜ!」

「俺半分持つわ」

 

 肘に手に。幾多にも提げた紙袋は、大阪旅行での戦利品。駅のお土産屋さん連れて周ったもんな。

 

「大阪どうだった?」

「このTシャツを見ればわかるでしょう?」

「……まあ、大体わかったぜ」

(大阪出身の俺が言う事やないけど、月島とか神社への裏切りやないのこれ)

(大丈夫じゃねーか?そこまで考えてなさそーだし)

 

 恐らく史上初とも言える小糸さん渾身のドヤ顔、そしてお土産を持ちながら両手でTシャツを指すハンドサイン。そこには【I'm in ♡ with 大阪】の文字、♡と書いてloveって読む類いのそれ。

 小糸さん、意味分かってる?訳したら大阪に恋してる!とかそんな感じの意味やでその文章。半ば衝動買いしてたけど。

 

「お土産って本人が渡せたらええのにな。大阪行ける胆力出せたんやし」

「それがね、エルダってば帰って早々寝込んじゃってさ」

「また風邪でもひいたのか?」

「ううん、コミュ障が爆発したんだってさ。人にいっぱい会ったから」

「コミュ障って爆発すんのか……」

 

 月島に帰ってきた直後、全身の力を抜いたエルダの姿を思い出す。知恵熱みたいなんを出しとって、おでこに冷感シートまで貼って寝た。まぁ普段から人との接触を避けてた上に、あっちでも指折りの賑わう場所に祭、そして一悶着。余計にエネルギー使ったのは想像に難くないわ。

 

「そんで小糸がエルダ様のお土産、配って周ってんのか」

「うん!生ものもあるし早い方が良いかなって。エルダ、すっごく頑張ってみんなのお土産選んだんだよ」

 

 

 頑張ったかどうかはさておき、エルダなりに悩み抜いてお土産を選んでた。あれはそう、遡ること帰京前の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新幹線の時間的に、駅ナカやったら品定め出来るかな」

「うわー新大阪駅のお土産屋さん何でもあるね!見るだけでワクワクしちゃう!」

「こ、小糸……!あのチーズケーキ美味しそう……!な……生バウムもあるぞ……!」

 

 新幹線が来る前に駅で合流して、お土産を物色する事に。向日葵さん達は祭の後始末で少しだけ遅れるから、結局お土産選びも手伝う事にした。まぁ案内役の務めとして?最後まで果たさせて貰うで!

 

「小柚子とコマちゃんには買ったけど、お世話になってる人にも何か買いたいね」

「神社単位での縁となると、俺には想像出来ひんな」

「お、お土産か〜……旅行なんて殆どしたこと無かったから、なんか新鮮だ……!う~んどれがいいかなあ……色々あって迷っちゃうな〜……」

「少なくとも、エルダは宅配の人には渡すべきやな。段ボール山積みやし」

「そ……そこはお茶じゃ駄目?」

「「駄目」」

 

 目移りさせながらも駅ナカをうろつき、何処となく目星をつける。選択肢こそ多けれど前回と被らへん様に、慎重に記憶の糸を手繰り寄せた。

 

「宅配の人もだけど、エルダはお土産選び気をつけた方がいいかも」

「え……?なんで……?」

「四丁目の山崎さん。七五三の御祈祷中にギャン泣きしてたら、エルダがキャラメルくれたんだって──それからずっと神棚に上げてあるそうで……」

「ずっと……!?今年であの子還暦でしょ……!?」

「カビてるやろそれ!?」

 

 サラッと還暦の人をあの子呼ばわり。急に年齢のスケール感出してくるから心臓に悪い!60過ぎは子供扱い出来へんて!

 

「オマケの玩具集めててめっちゃ余ってたキャラメルだよ……!?またあげるから処分してほしい……!」

「そういう事だから、慎重に選ぼうね!」

「うう……一体何を買って帰ればいいんだ……!」

「神様向け!お土産シリーズとかあればええんやけどなぁ。小糸さん、スマホになんか書いてる?」

「ちょっと待ってて!えー、ネットによると『相手が好きな物を考えるべし』『凄く高価い物は避けるべし』『大きい物は避けるべし』」

「ふむふむ……」

 

 小糸さん自身も迷ってたみたいで、スマホでお土産の選び方を検索してた。そこにはありきたりな指南が示されてたけど、今のエルダにとっては一番大事なやつ。

 

「アンケートもあるよ!『いらないお土産を貰ったことはありますか?』『ある、65%』『ない、35%』」

「よ……よ~し65%に入らないようにするぞ〜……!」

 

 そう決意すると少しだけ輪から外れて、単独で品定めを始めた。成長したのか、見知らぬ土地で一人で歩けて偉いなぁ!いやこれ偉いんかな?

 

「さて、俺もお土産を……おっ」

 

 エルダに後押しされた様にお土産屋に入ってすぐ、そいつを発見した。ある意味旅行の定番というか、男の子が欲しがる定番というか。なんで何処でも売ってるのかが不思議なあれ。

 

「どうしたの藤君?……ふふっ、これって」

「小糸さんも知ってるん?この……剣に竜が巻き付いたタイプのキーホルダー」

「うん、懐かし〜!こういうの、小学校の修学旅行で買ってる子いたよ〜」

 

 噂には聞き及んでたけど、全国の子供が衝動的に買いたくなる代物やったかぁ、正式名称なんなんやろ?この竜が巻き付いた剣のキーホルダーって。

 

 

「そのキーホルダーいいな…………」

 

 

 気配遮断はエルダの十八番。談笑する俺達の背後に忍び寄り、軽く手に取った剣を羨んできた。そっかぁー、そういう趣味してたわ貴女。てっきり木刀とかも欲しがる……そっちはパンニャの領分か!

 

「ま、まぁ俺も一瞬欲しくなったけどお土産やし?自分用やないし?予算の都合もさ」

「そ、そうだよ!それに人をちょっと選ぶかも〜?」

「ええ!?こんなにカッコいいのに!?」

「カッコええけど、なぁ」

「まあまあエルダ。気をつけようとは言ったけどさ?お土産くらいでそんなに思いつめなくても……」

「い、いやそうはいかないぞ二人共……!」

 

 ここでひとつ、エルダの語る江戸知識。お土産の語源のひとつに『よく見て選び差し上げる物』、その見上げが転じて『みやげ』になったとか。エルダ曰く、これぞという逸品やないとお土産とは言えないらしい。

 

「そ、そうだ!amazinギフトカードとかどう……!?」

「それはエルダが欲しい物でしょ!」

 

 現金よりは生々しくないけど、土地の有難みがまるでない……貰えたら嬉しいで?でも剣のキーホルダーとは別方向で違う!

 

「やっぱりさ、エルダがあげたいお土産を選ぶのが一番いいよ。私の為に選んでくれた、そう思ったらきっと何だって嬉しいもん。余ってたキャラメルだとしてもね」

「これだけ悩んだんや、有難みってのは増してる筈やで」

「小糸、マサ──」

 

 迷いは晴れたらしい。もう心の中では何買うか決めてたんかな!

 

 

「わかったよ二人共……!私はこのキーホルダー凄くカッコいいと思う……!まずはこれを買おう」

「オ、オッケー……」

 

 

 薄々分かってた、店売りの聖剣が購入されるって。こうして竜と神様?の加護が与えられたキーホルダー、誰に渡すんや?なんなら巫女の後押しもありますが?

 

「はい、じゃあこれ小糸に。歯医者に付いてきてくれてありがとう……!」

「あっ私!?私にく……っ、れるんだね……!ありがと〜……!」

 

 選ばれし聖剣は、選ばれし巫女の手元へと授与された。小糸さん、これからは弓だけやなくて剣技も磨いていこうな!

 

 

「マサにも買ったぞ!なんとこっちは鞘付きだ、小糸のと違って竜はいないが……」

「……畜生、これはこれで唆られる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、エルダの趣味全開になりかけた感じでね」

「お疲れ小糸……」

 

 本物の剣やと持ったら危ない刀身の部分。そこを握ってキーホルダーを見せびらかしつつ、新大阪駅での思い出が振り返られた。あの後でお土産選びも捗ったから、ええかアカンかで言えばええ方かな?

 

「んじゃ、とっとと配りに行こうぜ。マサもいるし、あたしも付き合ってやっからさ」

「ありがとうコマちゃん、藤君!」

「旅は道連れやで〜」

 

 そうと決まれば月島中を歩く訳やけど、何処から渡しに行くんかな。神社の付き合いとかも兼ねたら、俺の時とは違う道順辿るやろうし。

 

「あ、そうだ!コマちゃんにはこれ!」

 

 いや、最初は誰なんて決まってたようなもんか。家族や顔馴染みの店よりも、真っ先に巫女から相棒へ。何時も思うけど、こんなに思い遣れる関係ってええよなぁ。ところで小糸さん、高麗へは何を買ってたっけ──。

 

 

「私とお揃いのTシャツ!」

「サンキュー!パジャマにするわ!」

 

 

 その場の勢いで二着買った現場には居合わせた。その時はエルダとペアルックにでもしたいとばかり。神様に着せると思ってたTシャツは、小糸さんイチの相棒の手に渡った──遠回しに『外じゃ着ねーよこれ!』って言われてるけど、気付いてるやろか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ〜!あのエルダが大阪に!コイちゃんやるねえ」

「えへへ」

「いま寝込んでるけどなー」

 

 小糸さんの一番手はシマデン。エルダを除けば多分最高齢やし、納得の人選ではあるわな。大阪へエルダを引きずった理由を話した所、軽快な口笛を吹くように感心された。シマデンの婆ちゃんでも、エルダが月島を出た所は見てなかったんやねぇ。

 

「あははチーズケーキだ!あたし大好きなんだァ、よく憶えててくれたねエルダの奴」

「チーズケーキ好きなんやシマデンの婆ちゃん!昔、エルダに駄々でも捏ねた?」

「ちびっ子の癇癪みたいに話したつもりはないんだけどねえ、あんな憧憬まで拾ってくれるとは予想外さ」

 

 何気ない交流で勢い余ってとか、思いがけずエルダが拾った声か。目尻に皺を寄せるシマデンの婆ちゃん。エルダ、ちゃんと想いは届いてるで。

 

「おもたせだけど三人とも食べていきなよ。今お茶淹れっからさ」

「いいよばあちゃん、あたしやる!」

「私も手伝う!」

「じゃあ俺は……なんか仕入れた家電ある?荷解きするで!」

 

 

 かくしてシマデンのチーズケーキを皮切りに、お土産配達が始まった。世間は案外狭いのか、小糸さんの見知った顔は大抵俺も知ってる状況が続く。そんなシマデンの次も。

 

「よーうおかえり巫女さま!」

「小糸〜コマすけ〜マサまで〜!一緒に呑も〜?」

「茜ちゃん、まだ三人とも未成年よ」

 

 俺も見知った顔ぶれ。もんべぇ店主カドちゃん、医者のアカネちゃん、そして美容師りーちゃん。カドちゃんとアカネちゃんどころか、りーちゃんも幼馴染。月島三人衆って呼んだら怒るかな?

 

「ラッキーみんないるじゃん!」

「今日はエルダの大阪みやげ渡しに来ました!」

「マジで!?」

「ええリアクション、流石カドちゃん!」

「じゃあまずはカドちゃんからね!」

 

 紙袋をごそごそと漁り、綺麗にリボンが結ばれたお土産を手渡した。そのお土産とは。

 

「鉄板焼きの、ヘラ……?」

「ヘラなんてもんじゃ屋に売るほどあるでしょ……」

「エルダからの添え状があります」

 

 添え状なんていつ用意したんや?なんて思う暇もなく、小糸さんが神事とは違う厳かさを以て朗読してくれた。

 

「『いつもお世話になっております 高耳昆売命です 大阪ではヘラのことはテコと呼ぶそうです これを使ってこれからも美味しいもんじゃを作ってください』以上です」

 

 本職で奏上をこなすだけあって透き通る声してんなぁ。店内はそこそこ賑わってるのにちゃんと聴こえた。そんな巫女さんの代読を聞き遂げた店主といえば。

 

「お店に飾る」

「使えよ」

「使わない。飾る」

 

 天を仰ぎ、握り締める程に感銘を受けてた。へ……テコ一本でそこまでなるのは信仰心の深さ、その現れか!

 

「次はりーちゃん!」

「これは、たこ焼きソース?」

 

 次の代読は高麗が。何も言わずに代読を引き受ける所は流石、相棒の成せる技って感じ。

 

「『たこ焼きソースはお好み焼きソースと同じ だと思われがちですが 甘みと粘り気が強い特徴があるそうです 独自の価値観を持ち スイートでもあるカワイイ龍二でいてください』以上だぜ」

「や~ん嬉し〜♡どれも大阪らしい、いいお土産ね〜♡」

 

 食品やし飾る訳にもいかへん、強いて言うなら添え状も言葉遊びっぽいけど、前向きというか褒め上手なりーちゃん。然りげ無い龍二呼びもものともせずに喜んだ。美容師のプロやな──。

 

「じゃー最後は茜え!添え状はマサな!」

「よっしゃこい!!」

「はいよ、読めばええんやね?」

 

 トリを飾るアカネちゃんへのお土産を漁ろうとして、いきなりその手を止めた小糸さん。渡す方までウキウキしてた勢いは、瞬きせずとも見失ってた。

 

「……まず、怒らないって約束出来る?茜ちゃん」

「怒る?なんで?高耳様がくれる物ならなんだって嬉しいでしょ」

 

 こんな前置きがあるのはきちんと理由が。添え状を渡される段階どころか、お土産選びに加担してたから正直知ってるし。

 思い遣りといえば思い遣りやけど、問題はある種の煽りが入ってる、その一点に尽きるんよな。

 

 

「えーじゃあ読むで……『肝臓 大事にしろ』以上やわ」

 

 

 たった7文字。しかも命令形。そしてあれが、エルダが贈るアカネちゃんへのお土産でもある、ウコン入りの栄養ドリンク。てかこんな添え状、読む必要あったか?

 ゆらゆらと髪を逆立てて、無表情で立ち上がり、呑んでたにしては確かな足取りで。

 

「……ちょっと高耳様と話、してくるわ」

「お、怒らないって約束しただろ茜え!」

「あ、茜ちゃん!エルダは本当に茜ちゃんの心配をしてるんだよ!」

「添え状の中身は同情するけどさ!ほら、大阪限定ソース味やでそれ!効能とか詳しくないけど肝臓にええんやろ!?味やなくて成分が!」

 

 怒れる女医を宥めようと、とにかく言葉を連呼した。現地で思わず口にした『不味そう』という単語を使わずに。

 

「ま……まあそうね……肝臓大事だもんね」

「そうそう、良薬口に苦しやで」

 

 引き戸すら引かせる事もなく、再度座らせる事に成功。素面でも酔ってても怒るけど、後者の時は割と素直なのが救いやわ。

 

「門井!ビール追加!」

「ウコンを飲めよ」

 

 

 ……こんな医者に救いとか、あるんかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、やっと配り終わったけどもう夕方だね〜。ごめんね二人とも」

「まあ結構面白かったぜ。なっ?」

「せやな、これまでの荷物持ちに比べたら軽かったし。同じように楽しんでたで」

 

 お土産を渡す為に月島を歩き巡り、気が付けば夕暮れ。遊びというよりは、運送のバイトって感覚の方が近かった。

 そんなお土産行脚の終点は何時もの高耳神社。俺も高麗も、自分の家みたいに本殿へと上がって行く。

 

「ただいまー、お土産配って来たよ〜」

「オッスエルダ様〜!」

「こんばんは〜」

 

 障子を開けたら、チーズケーキとは違う甘い香りが。そこには小柚子ちゃんも居て、手元にはクッキーが。焼いたばかりってとこか。

 

「お、おかえり小糸……ご苦労さま……」

「おかえりお姉ちゃん、コマちゃん、マサさん!クッキー焼いたから食べよ!」

「ええの?それじゃあごちそうになろっかな!」

「あれ、もう起きて大丈夫なの?」

 

 小糸さんの心配はごもっともやった。まだ剥がしてへん冷感シートがその証左、ホンマに寝といた方がええよ?

 

「う、うん……コミュ障爆発からだいぶ復活してきたから……」

「みんなエルダのお土産喜んでたよ!」

「記念に飾る!なんて言い出す位には喜んでたで〜」

「そ、そうか……よかった……!いざ自分で選ぶとなると、お土産選びって難しいもんだな……」

 

 大阪旅行の緊張の糸は既に解けて、自分の選択に安堵したエルダ。添え状まで用意する所が、このエルフ本来の優しさって感じがする。

 

「江戸時代に旅行した事無かったん?」

「あるにはあったが、江戸の頃の旅行は、寺社参詣が殆どだったからさ……お土産には『ご利益』と『お札』あげれば良かったし……私、ご利益ないけど」

「あはは!廣耳神社のお札、お土産にする訳にはいかないもんね!」

 

 神職的には譲れへん部分なんかな、代理で遠方にお参りするって習慣もあるらしいし、お札もお守りでもお土産になりそうな気もするけど。

 

「まあ、あとは『土産話』だな……私は聴くのが専門だったけど……」

「じゃあ、今日はエルダ様の話聴かせてくれよ。あたしエルダ様の話もっと聴きたい!」

「いいよ。何から話そうか……」

「たこ焼きを食べてる写真撮ったよね!例えばこれとか!」

 

 

 神様のお土産で喜び、雑談で賑わう。神聖な高耳神社の日常は、朗らかな風に包まれて、日が沈むまで語り尽くした……改めて写真見せられたけど、ホンマにたこ焼きばっかり食べたんやな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー今日は歩いたな!」

「そうか?二人と遊びに行ったら大抵こんなもんやで」

 

 優しい小柚子ちゃんは、遅くなったら夕飯も勧めてくれる。けど、小金井家の負担が増えるからそこで席を立つ。

 

「この前俺も大阪土産渡して周ったけど、手渡した時の表情。あの顔見るの好きやわぁ」

「あたし達まで得した気分になれたしな、徳を積むってこういう事なんじゃねーか?」

「積むのはええけど崩れへんようにな」

 

 幼い頃はどないしてたかはさておき、その辺は高麗も共通認識らしい。一人じゃつまんねーと連れ歩くのも、神社へ一緒に来た日の習慣。余程気まずくない限りは、こうやって言葉を交わしてる。

 

「貰ったTシャツもちゃんと着たりや!カドちゃんみたいに飾るのはナシやで」

「ちゃんとパジャマ代わりにするからさ!まあ本音を言えばよー」

「本音?」

「マサの方が似合うかもな、このTシャツ!」

「徳の崩れる音が聴こえそうや……」

 

 性格的に悪口を言う奴じゃないからまぁ、これはそのままの意味ではあるとしても。俺は着ないからな?室内でも着ないからな!?

 

「小糸からはシャツ、この前のマサからは肉まん……豚まんか。同じ旅先でもお土産が違うって、なんかいいよな」

「確かにな、そこは同感や」

 

 そういえば、俺もお土産があった。予算的にもネタ被りも気にして高麗の分しか用意してへんけど、渡しに行った流れですっかり忘れるとこやった。

 自宅への別れ道に差し掛かったし、今がチャンスか。

 

「もう着いちまったよ、そんじゃなマサ。また明日」

「また明日ー、の前にほらこれ」

「へ?」

 

 小糸さんと選んで買った包装無しのぬいぐるみ。たこ焼きをモチーフにしたキャラクター物の、少し大きめな人形……多分、サッカーボール程度のサイズ感。

 

「あげるわ。自己主張強めのシャツとか豚まんより、こういうの好きやろ?ほらそのさっき、姉妹のお土産、羨ましそうに見てたし」

 

 土産話の最中、姉が妹へたこさんのぬいぐるみを渡してた。あたしにもそういうの買えよ……と目で訴えかけてたものの、相棒でも通じへん意思疎通はあるらしい。距離感近すぎても困るもんやねぇ?

 

「え、あ……いやいや、すげー嬉しい!ぬいぐるみサンキューな!羨ましかったのは間違ってねーけどよ、なんでそんなの持ってんだ?通販?」

「俺も二人と大阪に行ってたから。地元やからって案内頼まれてな、黙っててごめん」

 

 冷静になると隠す理由も無かったし、二度目の帰省がバレてへんのが奇跡やった。思い出話の中身も、全部が上手い事俺の存在を隠匿してあった。偶然にしては重なりすぎて。

 嬉しさと戸惑いが混在してた高麗の顔は、隠してた事実を告げられてからは一転。難解な事件の謎を解いた探偵みたいに微笑んでみせた。

 

「そっか、なるほどな。なんかモヤモヤしてたんだよなー!なんで小糸はシャツ一着渡さなかったのかって。案内してくれてありがとう、で渡す性格してるぜ?」

「俺から断ったんよ。出身地のお土産貰ってもしゃーないって」

 

 嘘は言うてへん。交通費だけでも相当やのに、付き添いの礼なんて貰われへんし。鞘付きのキーホルダーで譲歩しただけでも、踏みとどまれた方やと自負してる。

 

「土産話の時も変だったぜ?二人で写ってる写真も、エルダ様にしてはぜんっぜん、笑顔が硬くなかったからさ。マサよりも明るい現地の人に頼んでたら、もっと引き攣ってたろ」

 

 なんて信頼関係や……自称名探偵の推理を浴びせられ、むずむずした後頭部を軽く掻きむしった。少ない情報から、その背景まで読み取ってる。

 

「また探偵役でもやりたくなった?犯人はお前だーって」

「それは思うけど、今回は事件でもなんでもねー。だから推測ってやつだな、楽しかったぜ!」

 

 隠してた訳じゃなかった。高麗に対して後ろめたくはあったから、言い表すと蟠りが解けた、って感じ。

 

「湿っぽい雰囲気はいいんだよ!それよりこのぬいぐるみさ、小柚子が貰ったのと同じシリーズ?カワイイじゃん!」

「同じ売店で買ったしな。俺の家に置いてもええけど、これは高麗の部屋の方が合うやろ?ぬいぐるみ結構持ってるやん──せやからほら、黙って受け取り!」

 

 好みは相棒程詳しくない。遊びに来た江戸っ子が置いていくクッションとか、何度かお邪魔した桜庭家と、そこの自室を思い浮かべて選んだ一品。これも推測になるけど、押し付けられたぬいぐるみを抱きしめて、愛おしそうにして……出逢ってから初めて見る女神みたいな表情に、心の底からホッとした。

 

「へへっ、ありがとな。シャツも着てこれ枕元に置いて、今日はゆっくり眠らせてもらうぜ!──なぁマサ、ちゃんと置き場所考えたいし、ついでに土産話も」

「それこそまた明日。俺のもちゃんと話したるから、な?」

「りょーかい、今日は沢山楽しんだしな!明日ゆっくり聴かせてくれよ?」

 

 

 東京都中央区月島──土砂が埋め立てられて繁栄してきたその街で、江戸と浪速がなんやかんや織りなしていく、そんなお話。今度帰省するんやったら、高麗も連れてったろか。




違和感なく、オリジナルシーンを書けていたら良いのですが……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。