江戸っ子と浪速っ子   作:コーヒーまめ

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私が高耳様の巫女

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、深夜2時。

 

「なぁなぁ高麗、ホンマに月島中の人達はそれが終わるまで外出たらあかんの?」

「ああ!高耳様とその巫女と、特別に讃歌を歌える人とか警備の人とか以外は家の中でそっと見守る。そんな決まりらしいぜ!」

「ほーん?バイト帰りに公園でボサっとしてて、居場所を聞き付けた高麗が慌ててやってきた時はその、何事かと思ったけど」

 

 どうやら今日は、高耳神社の巫女となった──

 

「継承の儀ってのが、そんなに大掛かりな祭り事やったとはなぁ」

「あたし達は口頭で巫女になった、って教えられたけどな!それでも風習として正式に、月島中にお披露目するってのは必要だぜ!」

 

 ──小糸さんの、巫女継承の儀をとり行なう日。らしい。

 

「理由はわかったで、大事やな。でも……」

「でも?」

「わざわざ外にパジャマ姿でやってきてやな、手を引っ張ってまで高麗の家に連れられる必要、無かったんと違う?」

「何言ってんだ、何も知らないマサ一人だと寝ちまうかもしれねぇんだ!それなら事情をわかってる、あたしといた方が起きてられるだろ!」

 

 この世話焼きの江戸っ子は!いや確かに、バイト帰りにぼけーっとしてた心地良い疲労感をそのままに、帰って寝てたと思うけどやねぇ……何度もお邪魔するようにはなったけど、夜に異性の自宅で駄弁るんはハードル高いで?

 

「高麗が大事にしてるさぁ、友達の一大行事やって教えてくれたら、普通に一人でも起きてるっちゅうのに」

「水くせぇなマサ?どうせなら良い事も悪い事も一人より二人で共有したほうが、嬉しいじゃねぇか!」

 

 考え方としては、幸せのお裾分け。若しくは友達の良い所自慢。面倒事とは訳が違うし、退屈なのはあんまり好きじゃ無さそうやから、継承の儀までの暇潰し相手が欲しいとか。はたまた眠くなったら起こして欲しいとか?まっ、聞いてやるか。

 

「で、本音は?」

「相棒がここぞって時に見守ってやりたい。そんな時に多くの人に、あれがあたしの幼馴染だ!すげーだろ?って事をマサには教えたい。ってのが嘘偽り無い気持ちだぜ?隣にいればその凄さをリアルタイムで説明出来るしな!」

「──そっか、意地悪な質問して堪忍な?高麗」

「何謝ってんだよ?変なマサ!」

 

 いつもの高麗の事やから、眠りそうだからウトウトしてたら叩き起こしてくれ!なんて考えてたと思った俺が馬鹿やった。月島に来た頃から、幼馴染コンビしか見てへんかった俺は……まだまだ月島に馴染めたとは言われへんのかもな。

 

「ところで教えてくれた時間通りやったら、もうそろそろ始まるんかな?」

「おう、最もあの引き籠もりな高耳様の事だ、駄々こねてスタートダッシュが遅れてるかもしれねぇけどな」

「要するに、エルダのご機嫌次第な訳やな」

 

 なんにせよ、コーヒーも淹れてもらって起きてる準備はしてる。多少虚ろな気分ではあるけどな?

 飲み干したからおかわりを、高麗の親御さんにコーヒーをせがもうと立ち上がろうとしたその時。しゃりん、しゃりん。と錆一つ無さそうな鈴の音が、白い息を吐きたくなる外から聴こえてきた。人っ子一人出歩かへんこんな時間に鳴り響くこの音、もしかして?

 

「お、来た来た。マサ!高耳様と小糸だ」

 

 月島中の殆どの人が起きてるとはいえ、継承の儀はスタートラインに立ったらしい。カーテンを開けて、小声になって高麗が窓の外を眺めとった。それに釣られて、俺も高麗の隣に立つ。こんな時に考える事やないけど、高麗からシャンプーのいい香りが……アカン、小糸さんの大事な日やろ集中しろ俺!

 そんなこんなで、その継承の儀とやらに専念する。月島中の人間が普段は寝静まる午前二時、静寂が支配した月島のビル群に、彼女達がいた。

 

 

「──綺麗やなぁ」

 

 

 ああこれは、高麗が自慢の幼馴染って言いたくなるのも分かるなぁ。

 巫女としての装束に、儀礼用の装飾品、それから此処にいる事を教える為なのか。錫杖を携えた小糸さんは──女子高生とは違う、高耳神社の巫女としての小糸さんが、そこにいた。

 

「だろ?起きてて良かったじゃねぇか!」

「ああ、間違いないわこれは。これから歩き回るんやろ?月島中をエルダと」

「ゴールに着いたら小糸が教えてくれるから、それまでは遠くから見守ってやろうぜ!」

「せやな。これはその、本当に門出になるんやし、見守ってやらんとな!」

 

 高麗宅の窓から見えなくなってからも、二人で夜の月島を周る神様と巫女を見守った。

 開幕早々現れた、真冬でもないのに防寒対策バッチリやったもこもこお化けは……見なかった事にした。何枚着こんだらあそこまで膨れ上がるんや?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌詞的に、その長命っぷりを讃えてるらしい。遠くから時々聴こえる神様を讃える歌が風に乗せられて、俺達の耳に届けられた。

 そんな歌と鈴の音に耳を寄せつつ黙って過ごしていると、高麗のスマホに着信が入ってきた。小糸さんは確か、ゴールに来たら連絡するって言うてたっけ?

 

「おっ、小糸からメッセだ!」

「ゴールに無事着いたんかな?」

「だと思うぜ!何々?『練り歩いた後のカップ麺は最高だよ、コマちゃん!』だってさ」

 

 深夜に食うカップ麺って旨いもんなぁ、わかる、滅茶苦茶わかる。背徳感ブーストが堪らないんよね!

 

「添付された写真を見る限り、エルダも一緒に食べとるな?深夜にその大きさは太るでおい」

「あっはは!運動の後ならセーフじゃねぇか?それでもなんか、幸せそうで良かったぜ」

「良い笑顔やね……せや、連名で返事送ろう」

 

 旨そうに食べてるなぁ二人とも。なんか見てるこっちまで食べたくなってきたなぁ?まぁ今は、労ってやるのが先か!

 

「良いぜ、なんて送る?」

「うーん、『改めて、巫女に就任おめでとう!』とか」

「おっ五七五で景気も良いな、『改めて、巫女に就任おめでとう!高麗&マサ』っと!」

 

 親友の正式な巫女就任のご神饌どうすっかなー、なんて台詞を聴いた途端、俺の緊張の糸が切れたらしい。カフェインで抑えたつもりの眠気がどっと押し寄せてきた。

 日本人には緑茶の方が眠気覚ましに相応しいらしいけど、後の祭りやし半信半疑。もう眠いもんは眠い。

 

「送信確認良しっと。ふぁ〜あ、もう深夜の3時過ぎやん……コーヒーだけではこれが限界やわ」

「あたしも〜、小糸が頑張ってるとはいえ、返事を待つのもそろそろ厳しいなぁ」

「ゴールに着いたなら流石に帰る為に外から出てもええやろ。というわけで高麗、またな。親御さんにはコーヒーご馳走様って言うといて」

「そんなウトウトしたまま帰れるのか〜?あたしに何もしない、ってんなら敷き布団位はこの部屋に敷いてやるぜ?」

 

 やめろやめろやめろ!神秘的な気持ちになったばかりやのに変な事言うな!いわゆる同禽ってやつやんか!幾らなんでもそこまでは……なんかカフェインよりも眠気覚ましな一言やったな。

 

「アホ言うな帰れるわ!ドのつくレベルの近所なんやから……ほなまたな、おやすみ」

「ちぇっつまんねーの、ついでにお泊まり会でもしようと思ったのに!……おやすみ、マサ」

 

 お泊まり会なんて小糸さんとやってくれや、なんて捨て台詞は吐かずに桜庭宅を後にした。サンキュー俺の自制心、ちょっと魅力的で柔な精神やと危なかったで?心臓の鼓動心なしか速いし。

 継承の儀が済んだ後の月島は、エルフと巫女が通ったであろう道筋は、なんとなく清らかで。足音さえも騒がしく思えてしまう、耳でも塞いだんか?とツッコミを入れてしまう程の静けさ。やからこそ思い付くのは、男としての当然の疑問。

 

「高耳神社って、煩悩とかも祓ってくれるんやろか」

 

 俺のやり場のない感情を呟いただけでも、勝手に浄化される……そんな気にさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、呟きを聞かれたはさておき。いきなり小糸さんに電話で呼ばれて高耳神社にやって来た。

 協力してくれた関係各所へのお礼でここを空けるから、神様の遊び相手をしてほしいんだ、って。何気に初の遊びが落ちものパズルとは、けん玉とか折り紙やと思ってたけど、現代的な遊びですなぁ?

 

「──そんな感じで袖振り合うもなんとやら、継承の儀は見守らせて貰ったで。はい4連鎖」

「くっ、やるじゃないかマサ……袖振り合うも多生の縁というのは、室町時代に産まれたとされることわざでな?まぁ仏教の教えから出て来たから、神道的には使ってもいいか微妙な所なんだが……フフフ、カウンター7連鎖だ!」

 

 この神様、ゲームが上手い。引きこもってるからなのかはさておき、上手い。個人的にもそこそこやる方とは自負してたけど、俺よりは格上にいるっぽい。近所のゲームが上手い兄ちゃんならぬ、近所のゲームが上手いエルフ。

 

「んなっ、雑学喋りながらやのにえげつないな!?余裕こいてたら負けたでおい、落ち物パズル上手いなぁエルダ」

「ふふんそうだろうそうだろう!昔から遊びに関しては目がなくてな!……昨日の継承の儀を見守っていたなら聴こえたと思うが、あの歌も今みたいにパズル上手い!ゲーム上手い!とかそっちを讃えて欲しかったなぁ」

 

 月島はこれでええんかな、めちゃくちゃ俗世にハマってゲームの達人?いや達神?を自称してますけど。対戦して確かに上手いのはわかったけど。個人的には親しみやすくて、堅苦しくないから助かるけどな?

 

「悩みを解決する側の神様とやらも、生きてると悩みが出てくるんやな。お賽銭ではどうにかならへんの?」

「ま、まぁな。寧ろお賽銭が悩みの種だったりするぞ!プラモや新作ゲームが出るから前借りしたいーって悩みとか、それも菊次郎や小糸が貸してくれるかわかんないーとか」

「気楽なんか悩み尽きないんか、見当もつかへんなそれ」

「これでも苦労してるんだぞ、マサ?──そういえば、初めてマサの関西弁を聴いた時からその、気になった事があってな?」

 

 なんや、神様が一般人に興味を示すなんて?神社に籠もってると、外の方言に興味が湧くんかな?

 

「関西弁がどないしたん?」

「同じイントネーションの関西弁を操る、廣耳比売命(ひろみみひめのみこと)──ヨルデリラ・リラ・フェノメネア、通称ヨルデ、というエルフを、知っていたりするか?」

「ひろ、ヨル、よりら……なんて?」

「お、大阪から来たって小糸が教えてくれたから……大阪のエルフを、知ってると思ってな」

「ご当地エルフ、って事なんかな?」

 

 

 東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、そこ以外にも祀られたるそのご神体として──異世界から召喚されたエルフが、他にもいるらしい。




次回、西のエルフが!
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