今回の話ですが、都合上メインで出したいコマちゃんは名前だけになりそうです。申し訳ない!
「暇つぶしに何処か行こっかな……でも遠出したい気分やないし」
学校も休みなら用事もない、そんな今日は完全フリー。
東京に来てから行く事の無かった楽器店に向かうも良し、築地や豊洲までグルメを堪能するも良し。そういえば、月島に楽器店って見かけへんな?音楽教室はチラホラあるみたいやけどね。
高麗、ていうか桜庭家は家族揃ってキャンプ?バーベキュー?みたいでそもそも月島にはおらへん。肉に齧り付く自撮りが送られてきたから、そのーなんや、楽しそうで良かったわ。
小糸さんには神様の遊び相手でもしよか?なんて聞いたけど、今日は神社に来客があるらしく気にしないで!との返事。部外者が立ち入られへんタイプのお客さんなら、まぁしゃーない。
こんな調子で他の人脈も尋ねてみたけど、何かと多忙を極めてて、俺だけが暇な世界やった。電車でホンマに銀座とかの楽器店、行ってもええかもしれへんなぁ。銀座、降りた事もないけど。そんで当てもなくふらつき、辿り着いた場所は。
「何時もの商店街まで来てもうたわ……」
最早お馴染み、手伝いやバイトの為に良く立ち寄る商店街。四番街と入口に記されたそこは、もんじゃストリートとして月島の観光資源になってる。もんじゃ焼き以外にも、雑貨や和菓子、ジェラートまで様々な店構えで、やって来る人々を飽きさせへん。
それなりに見慣れた場所で、どないするか策を巡らせた。時刻は午後1時半、普段なら昼飯の用意をサボりたくなる時間帯で……そんな時は桜庭家でご相伴に預かったり、高麗に連れられてグルメを開拓したり。
知りうる限りの手札を眺めるものの、知略を巡らせる為の頭脳も胃袋も空っぽ。ごちゃごちゃ考える暇があったら、とっとと腹拵えでもするかぁ!なんて息巻いてた時やった。
「うっ……ひっく……どこいったんひまわりぃ?おなかすいたでぇ……」
通りがかった路地裏に、家主の趣味であろう植木鉢や、エアコンの室外機が並ぶ、下町の路地裏。薄暗い空間には似つかわしくもない上品かつ、何処かで仕立ててもらったであろう、呉服屋の跡取りって感じの子供が蹲っとった。
周りに人の気配もない、閑散とした時間帯に子供が一人。親御さん、若しくは保護者とはぐれたんかな?この辺りでは見掛けへん服装やし、観光でやってきたとは思うんやけど。
「そんな所で座って、ボク、どないしたん?」
この瞬間、俺は2つ間違えた。一つはいきなりボクと呼んでしまった事、もう一つは。
「関西弁……ひまわり!?」
腕と膝と長い髪に隠れて見えなかった──あのエルダと良く似とる、エルフ特有の長い耳に気付けなかった事。よーく視たらエルダより長いんと違うかこれ!?
「……エルダの親族、やろか?」
この場で素性を探るべきかと悩んだものの、脳のリソースは炭水化物を欲したまま。なんか面倒やしちょっと出費は嵩むけど、この推定エルダ関係のエルフの話を、落ち着ける場所で引き出すとしよか……しゃーないなぁ。
「もんじゃ美味しかったわ!ほんまおおきに……えーっと」
「食べながら教えたけど藤岡雅、やで。マサって呼んでな」
「ふじおか?マサって言うんやな!ウチの事はヨルデちゃんって呼んでな!いやーこっちで大阪と縁のある子に逢えると思わんかったで!」
開いているもんじゃ焼きの店で、お互いの空腹を軽く満たす事を最優先。蹲ってた事情とか、自己紹介は食べた後でもいけると思って、ただ無心で頬張るエルフ──ヨルデちゃんを見つめていた。その後は保護者が探しに来るとも限らへんから、って元いた路地裏に戻ってきたけど。
「なぁヨルデちゃん。さっきも言うてた『ひまわり』ってのは、なんの事なん?」
「ひまわりはな、今日一緒に東京に来たんやけどな、さっきはぐれてもうたんよ」
文脈的に、ひまわりって名前の人なんかな。随分と明るそうな場所に居そうやな。キラキラネームっていうか、キラキラした植物っていうか。
「あーなんやろ?話の流れから察するにひまわり、って名前の人と一緒に東京に来たんか」
「かしこやなマサ!でも、そのひまわりおらんようになってな、そんでな?この辺、ソースのええ匂いするやん?お腹も空いてるやん?」
それにしても、話し方が子供っぽいわ。エルフの中でも、幼いエルフやったりするんかな?まぁエルダしか実例を知らんから、比較しようにも難しい所やけどね!そもそも実年齢知らんし!
「わかるわぁーそういう時って頭の中ぐちゃぐちゃ、ホームシック状態!になって動かれへんくなるもんな」
「そういう事や!なんや〜?マサも迷子でホームシックなんか〜?」
「ホームシックにはなるんやけど、迷子とは違うなぁ」
いきなりギアを上げたと思ったら、調子乗りの一面覗かせてきたで、この推定エルダの親族ちゃん。聞いてる限りやと、普段はこっちが素の性格っぽいなぁ。
それはとりあえず置いといて、そろそろ寄り道から戻らなアカンわ。保護者のひまわりさん?って人を探したらなアカンねんから!
「まぁとにかくやヨルデちゃん、わざわざ月島で迷子になってたって事は、此処に目的地があるんやろ?今日暇やし案内したるわ!」
「ほんまに!?ええの!?」
「ほんまほんま、そのひまわりさん、先に行ってるかもしれへんやん?」
「ふふん、今日のひまわりはせっかちやな、マサ!」
「いや俺はそのひまわりさんを、顔すら見た事ないんやけどな……じゃあ何処行く予定やったか教えてくれる?」
「せやな、教えたるわ!実は今日はコンサート前に、たか──」
目的地がヨルデちゃんから囁かれようとした、その時。いる筈もないと思ってた巫女さんが、室外機の側で蹲る俺達に声を掛けてきた。
「あれ?藤君?」
「この声……おっ、小糸さんやん、こんちは〜」
ヨルデちゃんの台詞を遮る形にはなったし、噂のひまわりさんでは無かったけど、援軍がやってきた!助かった……捜し物は一人より二人、二人より三人、その方が見つかりやすいしな!
「うん、こんちは〜」
「なんでここにおるん?お客さん来るって話やったやんか」
「そのお客さん用に、お茶菓子を買いに来たんだ!今はその帰り。ところでそっちの和服の『ウチのことか?』……こど……も」
赤の他人がやってきたからか、少し固まってたヨルデちゃん。そんなエルフが小糸さんの方に振り向いた途端、巫女さんの目線はある部位に注がれた。台詞を遮られた事は、ある事実を前にした以上、最早どうでもええらしい。
わかる。言わんでもわかる。耳、長いよな?まだ疑惑の段階やし聞いてへんかったけど、エルダ関係の人だ!って巫女なら察してまうよな。
色々把握したであろう小糸さんが、無理矢理肩を組んできた。そして作戦会議を開く為、ボソボソ声で尋ねてきた。そんな事せんでも、多分耳大きいから声拾えそうやし、背伸びしてまで組もうとせんでええんよ?少し屈んだるから、な?
「ふ、藤君藤君!あの子どうしたの!?」
「いやー俺が聞きたいわそれ!昼飯どないしよ〜と思ってふらついてたら、そこにあの子がおってな?お腹空いてたみたいで昼飯奢って、自己紹介したり、事情とか色々聞いてたんよ。まだ核心は聞いてへんけど、あんな耳してるから、十中八九……」
「エルダ関係だよね、あの子」
「なんやなんやマサ〜?綺麗どころと仲がええなんて、案外隅に置かれへんな!」
ちょっとそこ、しょーもない茶々入れへんの!確かに小糸さんは綺麗やとは思うけど、本題が迷子になってまう!
「良くわかんないけど、懐かれてる?」
「多分な。関西弁のおかげで通じあったんか、お腹一杯で、機嫌良くなってきたからなんかは知らんけど。見つけた時は涙目でずっと蹲ってて……でも、ああやって立ち直ったし、連れの人と同じ場所行くって言うたから、これから案内しようとな?」
「なるほど……もし私の勘が正しければ、ここからは私の仕事だね」
そう言って肩を組むのを止めて、推定エルダ関係者こと、ヨルデちゃんに小糸さんが向き合った。八方塞がりでは無かったというか、手慣れた様子で話し掛けた。
「あ、あのね?私、小金井小糸って言うの。今日あなたが行くと思う、『高耳神社』の関係者なんだけど」
「ほんまに!?」
行き先、高耳神社。外見、長い耳。名前、以前聞いていた名前と部分的に一致。そこから導き出される答えは──そう、エルダの関係者。
「マサ、マサ!ひまわりおるかもしれへんで!そう聞いたら余裕出て来たな!」
「よ、良かったやんヨルデちゃん。ひまわりさん見つかるなぁ!──小糸さん……辛いもん……ああえっと、味の濃いもんじゃ焼き食べさせたから、道中でさ」
「う、うん。帰り道にジェラートでも、食べさせてあげよっか?」
意図せず迷ってた昼飯にありつけて、おまけにデザートにも付いて来るフルコースにありつけたけど、思った以上に長い休日になりそうやなぁ……前触れも無く月島に現れた大嵐によって、俺と巫女さんは、頭を悩ませる事になった。
同時刻、高耳神社本殿。
今日は菊次郎というより、高耳神社への来客があるらしい。出掛ける前の小糸から聞いた。問題はその来客の、出身地。何を隠そうここから西の……東京と双璧を成す大都市でもある、食いだおれの街として有名な!
「菊次郎と小糸曰く、大阪からの客……まさか、ヨルデが!」
『ごめんください!』
今のイントネーションは、マサに出会うまで久しく聴いていなかった、関西弁の『ごめんくだ↑さい』!月島の、東京の言葉と違って、抑揚でリズムをとる様な喋り方!出会った頃は、月島でも異端と思っていたが……マサの存在によって、すっかり馴染んでしまっていたぞ!
「や、やっぱりお前か!廣耳比売命……いや……」
「はぁ……はぁ……し、しんど」
「ヨル……デ……?いや誰!?」
ま、またしても知らない人が本殿に!!小柚子にマサ、そしてコマちゃん、最近、ウチに知らない人が訪れすぎやしてないか!?
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、何故か祀られてしまったこの私は、ただのエルフなんだぞ!?
今更ですが、アニメだと3話と6話のエピソードは原作だと真逆の話順だったりします。だからという訳でもありませんが、本作でも順不同……みたいな感じで読んでください!それと本格的なエルダとヨルデの絡みは後半に!