原作では区切られてた箇所を一話に纏めると結構な長さになる、みたいです。ゆっくり読んでください!
「うわあぁあん向日葵──!」
「全く……勝手に動き回ったら迷子なるていつも言うてるやろ?あんた方向オンチやねんから」
ヨルデちゃんとジェラートを食べつつ高耳神社へ行ったら、女子にしては珍しいツーブロックの女子高生が先回りしてて……率直に言うと、その女子こそが件のひまわりさん。要するに合流できましたとさ、めでたしめでたし。
それにしても向日葵さん、俺の関西弁よりコテコテな感じやね。どの辺の出身やったらあんな関西弁身に付くんやろか?
「ウチの神様がお騒がせしました……こちらが廣耳神社御祭神──廣耳比売命様でございます。ウチはその15代目巫女、小日向向日葵です」
ヨルデちゃんと話した時も感じてたけど、久しく生で聴いてへんかった関西弁。東京月島では俺しか話す事の無かった方言を聴いてしまって、みっともないかもしれへんけど、ノスタルジーを感じざるを得なかった。ちょっと帰りたくなったけど、ヨルデちゃんを案内した責任者として、帰るのは無責任ってやつかな!
「はじめまして。高耳昆売命(たかみみひめのみこと)の巫女、小金井小糸です」
真横から向日葵さんに抱き着くヨルデちゃんに対して、真後ろに引っ付くエルダ。巫女を盾にすると言っても性格の違いっていうか、社交性みたいなもんが見えてくる。八方美人とまでは言わへんけど、ねぇ?
「ご丁寧に、おおきに。それで、えっと、ヨルデをおぶってくれてたそちらの男性は……本殿にいらっしゃると言うことは、神主か何かですか?」
「そんな大層な肩書きありませんわ、なんて名乗ればええんやろ。えーっと、一般人の藤岡雅です、小糸さんとは同い年で友人やってます」
「小糸もマサもええ子やで向日葵!マサはもんじゃ焼き、小糸はジェラート食べさせてくれてん!!」
小糸さんは見てへんかったけど、まぁなんや、べそかき続けてたもんなぁ。時々故郷の向日葵さんを思い出しては、『ひまわりぃ……』って背中で呟いててな?いや子供か!実年齢知らんけど!
「東京で関西弁聴くとは思わへんかった……お腹空かせて泣き止まへんかったんですね、すんません。ってヨルデ!?ウチを出し抜いてもんじゃ焼き食べてたん!?一緒に食べるって約束したやんか!」
「し、しゃあないやん!困ってた所に恵みという名の貢ぎ物を無下にはでけへんし!」
「言うて良かったんやそれ、ていうか完全に選択肢間違えてるやん俺」
気軽に奢った昼飯の、もんじゃ焼きが原因で水面下の争いの火種を作ってしまったらしい。なんかその、すんません。
勝手に感じてた郷愁とか罪悪感とか、色んな感情が渦巻いていた俺をそっちのけで、神様同士の対話の火蓋が切られた。
「き、客ってやっぱりお前だったかヨルデ……相変わらず方向オンチの癖に活動的だな」
「200年ぶりか、お前こそ相変わらず引きこもってるみたいやな〜エルダ」
前出てしゃべれ、はよはなれ。とは巫女同士の呟き。小糸さんも向日葵さんも辛辣やな、仮にも仕えてる身分なんやろ?……西の神社も力関係的に、巫女の方が上なんやな。
「ねえ、ヨルデ様とはどんな関係なの?」
「お……同じ時期に召喚されたエルフでな。私は徳川家康くん、ヨルデは豊臣秀吉くんに召喚されたんだ」
「偉人を君付けする人初めて見たわ」
俺からすればそもそも召喚ってなんやねん、どうやったん?喚ばれたとしてどっから来たん?その召喚方法が確立されてたとして、戦国武将はエルフに頼りすぎ問題!とか思わなくもない。当時の侍さんは何がしたかったんや?
特殊メイクでもなく動く耳、それだけがエルフという存在が現代に生きている。って考える判断材料の1つになっとった。寿命?正直、200年ぶりと言うても未だに半信半疑やわ……200年前言うたら、1800年初頭か?一応江戸時代やな。その場しのぎで口裏合わせてる訳でも無さそうや。
「ってことは、ライバル陣営?」
「エルフ同士が軍を率いて合戦とかあったんかな?」
「も、もう少し複雑で合戦と呼ぶ程の物は無いんだが……ヨルデは何かと私に突っかかってきてな」
合戦ではないにせよ、何が突っかかってくるのか?その答えはすぐさまヨルデちゃんが体現してくれた。
「エルダ!ウチ新幹線乗ってんで!?お前は乗ったことあるん?ん〜〜??」
ここにきて新幹線に初めて乗ってきた事をアピール仕出したでおい!?夏休み明けに親と旅行した事自慢する小学生みたいやな!
「一事が万事こんな感じでな……正直マサと初めて会った時も……関西弁だけで性格を警戒したもんだ」
「あーまぁ、関西弁話者の中でも印象だいぶ強い方やわヨルデちゃん」
過去に何があったかさておき、エルダの中では関西弁=ヨルデちゃん、って認識になるのも已む無しやね!俺の知る大阪の知人でも、そこまで濃いキャラの人は居らんよなー?誰か居ったかなーとか一人で唸りつつ考えてたら、エルフ同士の盟約か、はたまた密書か。一枚の紙切れを挟んで二人が向かい合い──健闘を称え合っていた。
「ぼけっとしてる間に何をやっ──」
「それただの三目並べだよね!?」
「はぁ?三目並べ?」
紙切れを覗いて見ると、井戸の井みたいな盤面に、バツ印っぽい記号と菱形の記号が……三つ以上並ばない様に記されていた。なーんか既視感あるなぁこのフォーマットは。
「まさか、合戦と呼ぶ程の物じゃないってのは」
「リングベリ・ビョルリング、要は三目並べやねん」
「──俺の身内やとマルバツゲームって呼んでたわ、小糸さんはともかく同郷の向日葵さんも?」
「ウチの周りは少なくとも、三目並べやったよ?マルバツゲームでも通じるんやけどね」
地域的な呼び方ではなく、端的に言えば個人差。なんにせよエルフ同士の合戦は、紙切れと筆ペンで終わる平和な世界らしい。魔法であれこれ凌ぎ合う戦いじゃないのは、平和でええな!
「これで通算399回の引き分け、怒涛の攻めだぞ……ヨルデ」
「お前こそ鉄壁の守り……なんぼやっても倒しきれへんわ」
「いや、攻守とか関係なくお互い間違えなければ必ず引き分けになるでしょ?」
「「え……………………!?」」
記念すべき?399戦目の戦いの後、巫女から神様に突き付けられた何気ない残酷な真実。それは二人のエルフ史に大きな大きな──メスを入れる事になってしまった。小糸さん!事実とはいえなんて残酷な!
「ひ……向日葵は!?向日葵は知っとったん!?」
「…………知らんかったで」
「なんや今の空白は」
「せやんなぁ!知っとったら教えてくれるもんなぁ!」
「アタリマエヤン」
「小糸さんが医者なら、向日葵さんはカウンセラーやなぁ」
その残酷な真実を縋る様に確かめるヨルデちゃん。それに対して、子供をあやすかの如く、いや諭すかの如く、向日葵さんは少年漫画みたいな言葉を紡ぎ出した。
「ええかヨルデ?最早勝ち負けは問題やないねん。激闘を重ねてお互い背中を見せて振り返ったその時──しゃっ……ひゃん……さん目並べは、2人の友情の形をした!轍となってるんや!!」
「さっすが向日葵や!!!ええ事いう!!!せやな、友情のすだちやんなぁ!!」
噛んだ!なんか可愛い感じの甘噛みした!クールな人がこういう一面見せてくるとなんかこう、ええよね!
「ちょっと新喜劇で聴けそうな台詞やったなぁ。てかすだちって」
「なんていうか……ヨルデ様ってかわいいね」
「小日向の巫女はストロングスタイルだな……噛み噛みなのに言い切る所とか」
そんなこんなで勝負の余韻に浸る2人を他所に、小糸さんがお茶と羊羹を出してくれた。当然の様に俺の分まで出してくれたけど、本来俺が居る空間じゃなかったんだよなぁ、今日この場所は。そして話は、エルフ同士の趣向の話に。
「ウチ旅行は好きやで!東京は久しぶりやけどな!」
「ヨルデはあんまりじっとしてられへんタイプやから、一人でもあちこち行くんよ」
「江戸の頃も旅行とかしてたん?」
1から10まで疑う訳やないけど、江戸時代を生きてきた……という証言を確かめてみたい気持ちが湧いてきて、なんとなく俺から話題を切り出してみたくなった。
「え、江戸の頃の藩は独立国家みたいでな。関所もあって自由に動けなかったんだ」
「それを通る方法とかはあったりしたん?」
まぁ鎖国が云々言われてた時代やし、国内でもそんなんあるとはいえ……もし本当に江戸時代を生きてたなら、多少はその辺の知識持ってるやろ?ってちょっとした懐疑心が働いて。
「それには通行手形が必要やってんマサ!でも裏技があってな?神社仏閣を巡る信仰目的って言い張ればユルめに手形を貰えて……お参り行きます言うて参拝済ませたら宿場町でヒャッハーしたんや!!」
「なるほどな、今でいうパスポートとかビザの発行みたいな事やね」
エルダに訊いたつもりが、思わぬ方向から知識の援護射撃が飛んできた。同じ時代を生きたらしい証言が、なんとなく強固にさせられた。正直、200年ぶりっていう単語のインパクトが抜けきれてへんけどな?
「せや、旅行といえば。おみやげお渡しするの忘れてたわ……ふじ、雅さんは食傷気味かもしれへんけど。こちら皆さんで召し上がってください」
「食傷って?……いや、この匂いは!」
大阪に住んでいた頃、親が晩ご飯として買って来てくれたり。店舗によっては通年でアイスキャンデーも売ってたりする。そんな名物を売る企業の、豚まんが、まさか月島でお目にかかれるとは!
「ごごご、5○1の肉ま──」
「あー!一年以上ぶりやんこの匂い!ええの!?俺、高耳神社の人間やないけどええの!?」
「私の、台詞……」
ごめんなエルダ、東京に来てから耳にもせぇへんかったこれを眼の前に置かれたらさ、そりゃあ台詞やって被せにいきますがな!被りとか知らんそんなもんって勢いなんよ!今日ばかりは諦めてな?
「そんなケチ臭い事せえへんよ雅さん、迷ってたヨルデを保護してくれた恩人やし。そんな殺生な事言わへんて」
「おおきに向日葵さん!長い事大阪帰ってへんかったからごっつうれっしいわぁ!!」
「こんなに喜ぶ藤君初めてみたかも、コマちゃんがいたら動画撮りそう。ありがとう、この肉まんのお店関西にしかないんだよね?」
「向こうでは豚まんいうんやで」
数刻前に感じていたノスタルジーな俺は何処へやら。今はお土産として目の前にある思い出の味に、俺はただ盲目的になってしまっとった。
「マサ、マサ!……5○1の豚まんが?」
「ある時ぃ!わははははは!無い時ぃ……はぁ」
「!……雅さん、これなんて読めます?」
「かーんさいっでーんきほーあんきょーかい!」
ヨルデちゃんはまだしも、向日葵さんからもネタ振りが来るとは。近畿全域となると流石に知らんけど……大阪の人間なら必ず染み付いた、ノリとメロディー。どこまで懐かしくさせたら気ぃ済むねんこの二人は!!
「もんじゃ焼きのお店で聞いた通り、やっぱり大阪出身なんやなマサ!」
「正直、関西弁を完コピした東京産まれかと思ってたんやけど……本物やね。ウチの神社キタやねんけど、雅さんは大阪のどの辺なん?」
「キタの方の神社かぁ、こっちは思いっきりミナミもミナミやで」
「てことは利休ちゃんの所が近いかもなマサ!宿院で食べたかき氷ぜんざい、めっちゃ美味しかったで!」
同じ大阪で、こんな癖の強い神社とエルフが居ったら流石に有名やろ!なんて思っとったからまぁ納得。大阪の中でも北側の大地、こっちは南側の端っこ在住。個人的にはキタの方まで行く用事がない。電車もバスも乗り継がな行かれへんし。
「え〜っと、3人とも?どういう趣旨の話してるの?」
「趣旨というか、強いて言うなら……関西人炙り出しテストやろか?」
「言うなれば踏み絵やで小糸!」
的確と思ったものの、小糸さんは要領を得なかったらしく、頭に疑問符が浮かびっぱなしやった。
「え?今の何処に踏み絵要素が?」
「関西、大阪で放映されてるCMネタなんよ。雅さんがヨルデの言葉にCMネタで返せてたから……ウチもつい、振ってみたくなって」
「か、関西人ってノリが良いよね!」
初対面かつ異性ではあるけど、この時ばかりはシンパシーを感じざるを得なかった。ごめんな小糸さん、正直ベタな振りやった。ベタやったけど乗っかるしかあらへんのよ!
「そういや知っとるか小糸!?これは『下りもの』言うんやで!」
「くだりもの?」
それはさておき、ヨルデちゃんの気が良くなったらしい。小糸さんに知識をひけらかし始めた。下りもの──確か、幕府が江戸に移って中心が京から変わったにも関わらず、天下の台所として称された大坂や、京といった上方で職人が作った漆器やお米、お酒といった品物が作られて江戸に送られる。上から下に降りるから『下りもの』、なんて。
映画の悪役とかが良く言う、流通させる価値もないという意味から来ている『下らない』、という単語はその下りものから来とるんや!って中学時代の国語の先生が、しきりに持ちネタみたいに言ってたっけなぁ。
「い、いや5○1は『下りもの』じゃなくて『名物』っていうんだよ。お、お店があるのは上方限定だから……」
「え?」
ヨルデちゃんの知識を反論する形でエルダの解説が入ってきた。大方俺の知識通りやったけど、それにエルダの説明を加えるなら……『下りもの』は正式な形で上方以外にも、早い話日本中に流通しとった物の事らしい。そして、5○1には東京に店舗がない。『下りもの』の言葉の定義だと江戸に流通しないといけないのに、5◯1は東京では店舗を構えないので流通しない。だから『名物』と呼称したって話。まぁその5○1も含めて通販サイトが台頭してきたから、あんまり使われる事の無くなってきた言葉だけどな……ってエルダが言い切って。
エルダの江戸時代講座が終わってから、ヨルデちゃんの様子がおかしいと思って顔を覗き込むと、涙を両目からぽつぽつと溢れる程に零しとった。あれぇ?
「うぅぅわぁぁあああん!!!ウチのほうがエルダよりお姉さんやのに!!!ウチのほうが凄くなくちゃあかんのに!!!エルダのほうがかしこや────!」
「お姉さんって、やっぱり姉妹やったりするん?」
「ていうかヨルデ様のが年上なの!?」
「私が621歳でヨルデが622歳だから、いっこだけな……」
人間の尺度とは比べ物にならへんスケール感、文字通り桁が違う。数百年生きてて年齢覚えてるのも凄いな?俺やったら誤差で間違えそうになるわ!
「待ってやこれってエルダの勝ちやん!?0勝1敗399引き分けや!!ウチ、負けたやーん!!!」
エルフには、エルフのプライドがあったっぽい。人間の俺には実感ないけど、悠久の時を過ごしたらしいヨルデちゃんにとって、たかが1敗どころの騒ぎではなかったんやな……数百もの戦いの1敗はデカいわ!
「ヨルデ様!お菓子、新しいお菓子あるから一緒に食べよ!ね!?」
「あ、あーえっと、ヨルデちゃん!アコギ弾いたるわ!最近の曲も弾いたる。アガる事間違い無しやで!?」
「ごめんな小糸ちゃん、雅さん」
勝敗って形で傷が着いた以上、小糸さんと俺みたいな励ましは、ただ誤魔化そうとしてるだけに過ぎないわけで。幾ら聞き分けの良い子でも……勝負の傷は勝負で埋めるのが一番の治療法やと思ってるから、人間からの言葉は意味を成さない筈──そんなエルフに、エルフから。
「き、今日はさ、ヨルデが突然来てくれて私は凄くビックりしたんだ。つまり……その……一本、取られたから……えっと……」
人間の言葉が効かないなら、エルフの言葉なら──きっと。
「だからこれで私も1敗。また、引き分けだ」
ぐうたらで怠惰で、小糸さんを困らせる東のエルフの顔は何処へやら。自らの敗北を告げるその微笑みは、負けを認めているってのに、信心深くない俺の目線でも、本当の神様みたいに思えてしまった。
「ほんまや、ほんまや!!!」
「よかったなぁヨルデ、これで1勝できたやん」
「うん!!」
「藤君、藤君」
「小糸さん?どないしたん?」
「エルダ、本当にお姉さんみたいだね!」
「せやな、これは月島のみんなに愛される訳やわ」
エルダのお姉ちゃん属性が発揮された事により、ヨルデちゃんは完全復活。巫女さんの名前にも負けない、ひまわりの様な笑顔が本殿で開花した。
「まあエルダに会いに来たんはついでやけどな!」
そういえば目的地を聞き出そうとした時に、もっと大きそうな場所に行く。みたいな事を言ってた様な……なんのついでなんやろ?
「これから東京ドームで!推しのコンサートやねん!!」
向日葵さんも揃ってキャリーケースから何を取り出したかと思ったら、団扇に『愛してる』『こっち向いて』『幸せをおおきに』と印字された──アイドルのコンサート映像で必ず見掛ける団扇を俺達に見せびらかしてきた。間近で見るとゴテゴテしてんなぁ!
「わ、私があいつをめんどくさがる理由、わかったろ?」
「爺ちゃんも、ヨルデ様に会いたくなくて逃げたんだな……」
「そうか?俺は久しぶりに生の大阪に触れられて良かったで!」
「──小糸、今度急にヨルデが来たらマサを呼んでくれ」
「うん、絶対呼ぶ」
「俺はベビーシッターやないねんけど?」
「ほなまたね!」
夕日が月島を照らす中、物販がー!急ぐでー!と叫び、嵐の様に遭遇して嵐の様に去っていく西のエルフと巫女さんを、俺達はただ……見送るしかなかった。
「いやーコンサートも盛り上がっとったし、東京観光楽しかったなぁ!」
「ほんまやね、昨日のお昼にもんじゃ焼き食べたけど良かったわ」
「どうやった?マサから教わったもんじゃの焼き方!」
「いや、雅さんから教わったってヨルデ……途中でわからへーん!ってなって店員さんにやってもらってたやんか」
「ま、まぁ美味しかったから丸く収まったやろ?もんじゃ焼きもなっ!」
「ほんまにもう……すんません、雅さん」
一波乱あった東京観光からの帰り道、ウチらは新幹線の座席に身を預けとった。本当は時間無かったけど、ヨルデだけ先に食べとったのがちょっと癪に障ったから……浅草で食べようとしたお蕎麦を止めて、もんじゃ焼きのお店に入ったんよ。お好み焼きの親戚みたいなもんかと思ったけど、あれはあれで美味しかったわ。
「マサ、かぁ……なぁ向日葵」
「うん?」
「マサの苗字ってなんやった?」
「確かふじ……藤岡って言うてたね」
なんやなんや、いきなり苗字なんて訊いてきて?小糸ちゃんならまだしも、そこに居合わせてた宮司でもあらへん人の名前なんて……なんか引っかかる所でもあったんか?
「ふーん、苗字が藤岡……名前が、雅……あーっ!?」
「うるさっ!他にも人おるんやから静かにしぃ!し、失礼しました!」
「ご、ごめんなぁ向日葵、でもそうか──マサが、藤岡の、あの藤岡の所の……まさか東の土地で孤軍奮闘しとるとは」
「ヨルデ?雅さんの、藤岡って苗字に心当たりでもあるん?」
謝るのに夢中になっててヨルデの呟きが聞き取れへんかったから、ひとまず当たり障りのない疑問をぶつけてみた。そこまで叫ぶ程に記憶に染み付いてた名前なん?マサさんの名前が。
「……」
「ヨルデ?」
「……向日葵、いや廣耳神社の巫女よ。ウチからの頼み事や」
「えっなっ、はい」
返事がないと思っとったら……神事でもあらへんのにいきなり格式高くなった御祭神に、思わず背筋を伸ばしてしもうた。なんやろ?
「マサに、抹茶とかこっちの包丁でも送ったって欲しいんや」
「へっ?一応アドレスは交換したから宛名は書けるけど、なんで?」
「ええから。ウチのお願いや、向日葵!」
「わ、わかったわ。贈ればええんやね?」
「頼んだで!じゃあ新大阪に着くまで寝るから、着いたら起こしてな!」
突然のお願いにしどろもどろするウチを他所に、ヨルデはシートに揺られながら寝息を立てだした。雅さんに、藤岡の苗字になんの因縁があるんか知らんけど。
「……お茶よりも、刃物って宅配で贈れるんかなぁ」
御祭神としてのお願いを叶える為、宅配の規定調べから贈り物の品定めまで。浜松をウチらを乗せた新幹線が通るまで、その調べ物は続きました。
大阪府のとある場所……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『廣耳神社』、祀られたるそのご神体は──異世界から召喚されて気分であちこち動き回る……エルフなんよ。
作中で言及されてなかった廣耳神社の場所を、新大阪でタクシーを使いそうな距離かつ……それっぽい神社がありそうな場所としてぼかしつつ地図を見て決めたのですが、ヨルデ様が一人勝手に梅田に行ってたりした描写を思い出して──これでどうしよう?なんて書き終わってから思いました。なるようになれ!