アニメ範囲外のネタが少し混ざってます、ネタバレになる程ではありませんが!
「んー切れ味ええなぁ、サンキュー向日葵さん!ヨルデちゃん!」
消費期限の近そうなパン、ケチャップ、スライスチーズにトマト。こいつらを一纏めにして消費したると思い付き、大阪の廣耳神社からの贈り物、出刃包丁の試し斬りも兼ねて、朝食作りに勤しむ事にした。最初のターゲットは、リコピン豊富なトマト!
いやいやいや何こんな高いもん贈ってきてんねん!アドレス交換してから初のメッセが『下宿先の住所教えて欲しいんよ〜!』って、なんか周りに絵文字でデコレーションされたやつ送ってきて、詐欺か何かなん?って警戒したで!
『ウチの御祭神がな?マサさんをえらく気に入ってな〜?もんじゃ焼きのお礼とか色々兼ねて贈りたいねん!って言うて聞かんのよ〜!』てな訳らしく、2日後に煎茶と出刃包丁が贈られてきた。フットワーク軽すぎて空飛べそうやな?
越してきてからはスーパーで調達した安物で満足しとったけど、推定数万円の白刃の光に切れ味に魅入られてしもうた以上、後戻りは出来ひんかった。地元に住んでたのにこんな高級包丁、お目にかかれへんかったし。
茶葉はなんやろ、お茶漬けとかが合うんかな。お茶が合う料理のアイデア思いつかへんし、今度商店街でそれとなく聞いてみよか。
後はトースターに入れて、小麦が焦げるのを待ってたそんな時。自分では押す事のない呼び鈴が、トースターよりも先に鳴り出した。宅配は昨日届いたばかりで通販は頼んでへんし……とくれば来訪者の候補は、俺には一人しか思い浮かばへんかった。
「おはよー高麗、朝からどないし……あれ?」
居らへん。遊びに来たはずの高麗が居らんかった。誰もいないって事はまさか、俗に言うピンポンダッシュ?俺の家に?いや高麗ならワンチャンやりそうやな、はい時間の浪費。なんて思ってドアを閉めようとして、次の一手を待ち構えようとした瞬間──閉めようとした玄関の隙間から、何時かワクドで見掛けた蛍的なあれが、発車寸前の電車に滑り込む客の如く、入り込んできた。
「これって確か、エルダの精霊魔法ちゃん?」
なんでこの家に?小糸さんは?そもそも使い主は?なんて疑問を投げかけるより先に。
“いえで してきた”
ってご丁寧に頭上に文字を光らせて、俺にもわかる形で救難信号を送ってきた。便利やな~って呑気してたけど、口にせぇへんだけで、巫女でも神様でもないのに意思を伝えてくる技術、そしてその季節外れの蛍に驚かされた。いえで、家で、家出。なるほどなぁ?
「家出か、ほなしゃあないなぁ。って日本語対応してんの!?」
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体として──異世界から召喚されすっかりひきこもったエルフに……反旗を翻す精霊がいた。
「あー冷めたけど美味し……えっと、もし俺の言葉でも意思疎通出来るんやったら答えてな。トースト食べたい?」
精霊ちゃんとの初対面の時、ワクドで見掛けた時は小糸さんとは会話してたけど、何も聴こえへんし、部外者は話せない。そんな秘匿性ばっちりの回線があると思ったら、俺にもわかる言語で意思を型どり出した。
“だいじょうぶ おなかすかない”
“でも ありがとう”
“これは ほんのおれい”
うん、意思疎通図れるわ。さっき玄関に入ってきた時もそうやったけど、これなら俺でも会話出来るやん!俺の言葉聞き取ってるやん!いよいよ俺も、スピリチュアル的なあれの仲間入りか?とか思ったり。
ていうかお礼ってなんや?と思いつつも、冷めたトーストに齧り付いたその時。
サクッ。およそ冷めた筈の、熱を失ったトーストから、聴こえる筈のない音が鳴った。はぁ!?なんで!?冷めてるよな!?会話出来る事以上に混乱してもうたけど、その答えはあっさりと返ってきた。
“こうぼきんちゃんに おねがいした”
“そうすれば さめてもサクサクだよ”
「菌にお願い?理屈がわからへんし、それがほんまやったら本格的に魔法やん。そんな魔法モリモリのパン食べてええんか……?」
化学やろか、生物やろか。一つ屋根の下で巻き起こった、超常現象を引き起こした家出っ子に……感謝しながらも困惑を隠せそうになかった。
しかしどうしたもんかなぁ?精霊とやらに機嫌があるなんて思わへんかったし、事情がわからへん。俺の所に来たのも謎。なんせ道を教えた記憶もないし。いや、酵母菌云々の方が謎やけど……とりあえず、登校時間が迫ってる、家出精霊ばかりに構ってられへん。
「えーっと精霊ちゃん、今から学校いかなあかんねんけど、どないする?」
そういえば関西弁って通じるんかな?方言は聞き取れるか?普段からこの喋り方してるけど、標準語やなくてもいけるんか?
“ついてくね”
“きょうは かえらない”
“かんさいべん おもしろいね”
「そ、そっか。はぐれへん様にな?」
とりあえず、方言にも対応してる事態に安堵した。それはさておき、家出してきた精霊ちゃんの事はエルダは勿論、小糸さんにも、黙っといたるか。なんせ、主の元から離れる程の、決意でやって来た訳やしな!
俺は小さな家出っ子の、確固たる意志を尊重した。
精霊ちゃんと過ごした学校で、判明した事がある。
本人曰く、風に関係する精霊らしい。自白を信用するなら、今朝のインターホンも自分じゃ押されへんとの事。だから空気を揺らして、それっぽい音を響かせたとか。すっかり騙されてたし、超常現象すぎてわからん。まさかエルダも、そういう風を司る魔法を使えるとか?
学校での精霊ちゃんの行動にも、目を見張るもんがあった。友達が落としそうだった消しゴムを、ギリギリ地面に付かない程度に浮かせたり、俺が迷っていた小テストの難問の答えを“のぞいて きたよ”と伝えようとしてきたり。
いや前者は風使いやなーって思うとしても、後者はただの使いっ走りやん!用紙に『教えなくてええよ』って書いて断ったけど、小糸さんはこれに頼ってへんよなぁ!?なんにせよ、俺の元へやってきたのも、反抗期でグレてるからやと思いたいわ……。
そんなこんなで帰り道。今日の用事も終わったし、家出してきた理由でも聞き出そうと思って、水筒に残ったお茶を飲みつつ、公園でお喋りに興じる事にした。相手は実質筆談やけどね?
「あー精霊ちゃん?朝は俺も色々あって、聞かれへんかってんけどな?」
曲線だけを頭上に表し、自分の胴体を点に見立ててはてなマークを型取っていた。器用やな!
「なんでその、家出なんてしたん?それに俺やなくて小糸さんとか、他にも候補とかあるんと違うん?シマデンの婆さんとか。昔から精霊ちゃんの事知ってそうやん」
“エルダ まほうじゃなくて スマホでれんらくとりだした”
“こいとが おさがりわたしたから”
“だから ふたりからはなれたかった”
“まさ つきしまでふたりとしたしいからきた”
「つまりその、雇い主が自分を頼ってくれずに、スマホに夢中になって?間接的には巫女も加担しとって?二人に愛想尽かしたけどどないしよーってなって、小糸さんと立ち寄った記憶を頼りに、俺の所に来たと」
端的に纏めると、スネたんやな。物言わぬ、使役されるだけの物体かと思ってたけど、思ったより自立してるんやねぇ。しかも、スマホとは何かってのも認識してる!技術革新にも対応してる!
そんなハイテク家出っ子に、どんな解決策を提示してあげるべきかなぁ。スマホ捨てる様に促すのは多分無理や。エルダなら移植されたゲームで遊びそうやわ、ドラ○エとか、クロノ○リガーとか買ってると思うし。
折衷案として共存も、望み薄やと思う。部屋に何度か遊び相手に行ったからわかるけど、ガジェット方面にも目がなくて、下手すれば新型のスマホも買いかねへんしなぁ。
「ちょっと考えさせてな精霊ちゃん。う〜ん、どないしよ」
“まさ がんばれ”
いや強いて言うなら最後に頑張るのアンタや!とか思案してたら、朝の来訪者候補が一人、高麗が制服姿で話し掛けて来た。
「おっすマサ、お疲れ!」
「高麗お疲れさん。今帰り?」
「ああ、なんか小糸の面倒にまきこまれそうで早めに帰ってきちまっ……あー、こっちも面倒そうだし先に帰るわ!後で晩飯食いにウチに──」
こっちもやと?どんな面倒から逃げてきたか知らんけど、逃げてきた先が悪かったな!こっちはこっちで、今!丁度!困ってた所なんよなぁ!?
「おいおいおいおいおい、今見えたやろ?精霊ちゃんが見えたやろ?出くわした以上は死なば諸共。付き合って貰うで」
「け、結局こうなるのかよー!」
丁度ええわ、一人じゃ困ってた所や。三人寄れば文殊の知恵!死なば諸共!高度な柔軟性を以てして、名案を絞り出して貰うで?
今朝からの事のあらましとか、どうして俺がエルダの精霊ちゃんと行動を共にしてるのか。ざっくりと高麗に説明を果たした後、エルダと小糸さんを反省させようぜ!という目的を掲げた、作戦会議が始まった。作戦名は『私、怒ってます』!
「そんな訳で、朝からエルダの所の精霊ちゃんが俺の家にな?」
「ほーん。つまりは反抗期なんだ、精霊ちゃんが」
“はんこう してる”
「精霊ちゃんって、文字も出せるんだな」
「なんと関西弁も対応、というか聞き取ってる反応出来るんよ。凄ない?」
“えっへん”
「なぁ高麗、えっへんって発言する事ある?」
「言わなくもねぇと思うけど、擬音っぽいし微妙だな?当て字とも違うし……そうだ!」
「お、なんか閃いたか?」
流石高麗やな!こういう悩み事をスパッと解決できる、アイデア閃く月島の便利屋。やっぱり道連れにして良かったわ!罰ゲームみたいな言い方してもうたけど、精霊ちゃんにテレパシーとかでバレてへんよな?口止め料とか必要かなぁ?
「色んな意味で鈍いエルダ様にもわかりやすく、スネてます!って分からせれば、考え直してくれるかもしれねぇからな。こういうのはどうだ?」
「これは……今風とは思われへんけど、効果的かもしれへんな」
“これで また たよってもらえる?”
「ああ!これならあのエルダ様でも、スマホを手放す事間違い無しだぜ?ウチらは手放さねぇけどな!」
「そういうとこ余計やぞ高麗。まぁ、精霊ちゃん?これ見てちょっと俺も思い付いたから、今から遠出しよか」
“まさのいくところ ついてく”
「うっし!これであたしの出る幕は終わりだな!それじゃああたしは先に帰ってるぜ。晩飯、後で食いに来いよ?マサ」
「おう、引き止めて悪かったな高麗。なんだかんだ付き合ってくれる高麗の事、俺は好きやで〜」
「わ、分かったからとっとと行きやがれアホマサ!」
高麗を褒めつつ少しからかった後、文殊の知恵を授かった俺は、エルダを精霊依存にさせる為、とある場所へと向かう事にした。自分で言うのもなんやけど、精霊依存ってなんや?
“まさ どこへいくの”
「俺は魔法なんて使われへんけど、精霊ちゃんの表現力、それに磨きをかけようと思ってな。目指すは家電量販店や!」
そんなこんなで、色々策を講じた翌日。何時もみたいに仲良し幼馴染達に捕まって、帰路を共にしていた最中。唐突に小糸さんから部下に反旗を翻された、スマホモンスターの顛末が語られた。
「それでね?結局エルダにあげたスマホは──」
「神社の奥底に封印、精霊ちゃんとは仲直り!と」
「よくわかんねーけど、解決したみたいで良かったな!」
「音楽聴いてたんなら、別に封印せんでも良かったんと違う?」
「それだとまたエルダが興味持つかもしれないし、封印が一番!」
「小糸、それ損してねぇか」
およそ深夜3時。エルダに叩き起こされたと思ったら、繁華街より眩しく色彩豊かな精霊ちゃんが、寝床に姿を見せたらしい。
巫女と神様には伝えてへんけど、それが俺と高麗立案の『私、怒ってます』作戦!昭和か平成かは知らんけど、深夜に暴れ回るワルっぽく振る舞う事で、仕える主に反省を促そうって寸法や!
光れる体質も利用して、自己主張をしようとも提案した。具体的にはネオンサインみたいに、蛍光色での『夜露死苦』を表現。そうやって不良を想起させる事で、神様にグレてる事を判らせようと試みた。
結果は会話の内容から察するに、功を奏したみたいやな?頑張ったなぁ、精霊ちゃん!
「あはは……あっ精霊ちゃんだ、えっ?……はぁ」
「念話モードやと、秘匿性高くて分からんな。小糸さん、エルダからはなんて?」
「レッド○ル、帰りに買ってきてって」
「やっぱり、損してるの小糸だけじゃね?」
小糸さんが何か決意を固めていた表情で、青空を見つめていたその横で。巫女さんからは見えない様に、精霊ちゃんが感謝を伝えて来た。
“まさはいっぱい コマもいっぱい ありがとう”
東京都中央区月島……江戸時代より400年以上の歴史を刻む『高耳神社』、祀られたるそのご神体として──異世界から召喚されすっかりひきこもったエルフに仕える……精霊ちゃん自身の言葉を、俺と高麗は見逃さなかった。
アニメは観たけど原作は未読の人、ごめんなさい!アニメではやらなかった範囲かつ原作ネタの独自解釈をほんの少しだけ盛り込みました……詳しくは原作で!