【とある魔術の禁書目録】雷神伝 ~常戦飢闘のルサンチマン~   作:白滝

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久し振りの投稿。
短編しか書けない病になってきた気もします(汗)
感想・評価など気軽にお願いします。


VS銃火器

 

 嵐の夜だった。

 人が寝静まる深夜の山中。ゴウゴウと雨粒が肌を叩く、そんな篠突くような雨が吹き荒れる東欧の山奥に、人だかりができていた。

 各々が頭からローブを被り、祭壇に磔にされた少女を囲んでいる。

 一般人が見れば、まるで魔法使いの儀式のようだ、と感想を抱くだろう。

 事実だ。

 彼らは東欧を根城にする魔術結社の構成員であり、儀式『冬至の犠牲祭』を執り行っている最中だった。

 『冬至の犠牲祭』と言えば、北欧神話にしては珍しく、雷神トールを王座に配置し、その両隣に主神オーディンと豊穣神フレイを置く事で有名である。

 彼らの目的は一つ。

「心の準備はできたかね?」

 祭壇に立つ司祭の老人が、髭に隠れた口をもぞもぞと動かし、雨音にかき消されそうな低い声で呟いた。

 磔にされた少女は、全身を雨粒に叩かれ、全身がずぶ濡れになっていた。その頬に、雨粒以外の雫が垂れる。

「わ、私は何も悪い事なんてしていません!なのに、なのに!どうして私が『奴隷の少女』にならなくちゃいけないのですか、司祭様!」

 寒さに震える声を張り、懸命に乞う。

 助けをではない。許しを、だ。

 冤罪を押し付けられ、しかし少女は同じ魔術結社の仲間を恨みはしなかった。

 きっと何かの間違いだ。

 意思を分かち合った彼らなら、きっと私を理解してくれる。

 そう信じていた。

 しかし、

「罪のある無しなど関係ないのだよ。君には元々、『罪科』を与えるよう仕組み、今晩の儀式の生贄へするつもりだった」

「…………は?」

「元々、そのために君を我々の結社に引き入れたのだよ。何分、ゲルマンの血を引く処女は貴重な人材でね。拉致だと表舞台の警察共の介入がやかましい。君のように、自分の意思で生贄になってくれる人材をずっとずっと探していたのだよ」

 その言葉を理解するのに、数秒の時間が必要だった。

「な、ど、どういう……私は、一体、じゃあ……」

「ご苦労だった、ミス・パーミリィ。君の犠牲は忘れないよ」

 そう言って、司祭は一方的に会話を打ち切った。

(騙された……)

 身体から、血の気が引いていくのが分かった。

(騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された、騙された……ッッ!!)

 かつて人生のドン底にいた自分。

 手を差し伸べてくれた司祭様。

 救いとなった教え。

 仲間だと信じていた者達と共に歩んできた軌跡。

 その全てが、粉々に崩れ去っていった。

「あ、ァぁ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 ボロボロと、雨粒さえ洗い流すように、大粒の涙が溢れた。

 悔しい。

 カモにされた。

 そういった思いも確かにあるが、本当は違った。

 自己嫌悪。

 こんな連中に騙されてしまった自分に腹が立つ。

 なぜ騙された。どうして立ち止まらなかった。冷静に考える機会は何度もあっただろう。

 心中で次々と浮かび上がる後悔は、結局のところ全て自分へ行き着いた。

 そう、自分が悪い。

 騙される人間が悪い。

 世の中は弱肉強食だ。

 弱者に救いはなく、淘汰する側に罪はない。今更、正義だのなんだと喚く気力も湧かなかった。

 彼らに非を求めるのも、間違っているのかもしれない。

だって、人間だって家畜を飼い慣らし食事を摂る。私を利用した彼らも、同じ事をしているだけだ。

 それがこの世の理で、きっと、悪い事ではあっても『正しい』のだ。

 嗚咽と共に、叫ぶ事をやめた。悪足掻きだ。意味なんてない。

 自らの死を、冷静に受け止めようと努力する。ゆっくりと息を吸い、そして吐く。豪雨の冷たさが薄らいでいくような気がした。

 祭壇を囲う同士の魔術師達が、詠唱に詠唱を重ねて『歌』を生む。

 それは音程から外れた奇怪な声にも関わらず、不思議と心を洗うような心地のいい『歌』だった。

 それを聞き、徐々に気持ちが固まっていく。

(あぁ、つまらない人生だった)

 騙され続けた人生だった。

 結局、自分は何が悪かったのだろうか?

 しかし、答えなんてない。

 一際高く魔術師達が詠唱を謳った瞬間に、天から雷が落ちた。

 儀式の終わりに、雷神トールが『奴隷の少女』を『撃つ』のだ。

 目を瞑る。

 死を受け入れる。

 

 しかし。

 

 しかし、

 

「あ、れ……?」

 

 痛みはなかった。

 雷が直撃した気もしない。

 耳に、ざわざわと慌てる魔術師達のざわめきが聞こえる。

 ゆっくりと、恐る恐る瞼を開いた。

 そこには、

 

「……あっぶねぇー、ギリギリセーフってトコか。こいつらが『雷神トール』を利用する術式でラッキーだったぜ。俺自身を『雷』として術式に割り込みかけて、ワープできなきゃ間に合わなかった」

 

 いつ間にか、磔にされていた自分が抱かれていた。

 縄の拘束も解けている。というより、引き千切られていた。

 バチバチと身体から紫電を弾かせるのは、少年というか、少女というか、判別のつかない中性的な顔立ちの人物だった。

「だ、誰だ貴様!!」

「あ?」

 しかし、本能で察する。

 その奥に潜む、野獣のような豪気。威圧されるように揺らめく双眸。

 胸に楔を打ち込まれような鋭利な恐怖が、血管を伝って全身から熱を削ぎ落としていく。気付けば自分の体がガタガタと震えていた。

「誰だ、ってのは失礼なんじゃねぇの?仮にもたった今テメェらが拝んでる神サマだぜ?敬語使えよ、敬語」

「ふざけるなよガキが……どうやって此処に辿り着いたか知らんが、我らの儀式を知った以上は容赦はしない」

「ハッ、粋がるねえ。残念な事に今回ばかりは俺もブチキレてるんだ。楽しむ前に、ブッ潰す」

 少年の腕に抱かれた少女が、祭壇の床に降ろされた。

 茫然と呆ける少女に、少年は声をかける事はない。

 代わりに、一歩前に踏み出した。

「つーかよぉ、『奴隷の少女』なんてエグイ記号使ってんじゃねぇよ。仮にも俺の名前を使ってんなら、もうちょっと後味の悪くないやり方しろっての」

「貴様に言われる道理はない。咎を決めるのは私達だ!業も、罪科も、懺悔も、決めるのは私達だ!!」

「テメェら外道が審判を語るんじゃねえよ。善悪なんてどうでもいい。だが、後味の悪い奴ってのは見ててイライラするんだよ」

 少年が両手を広げた。

 その十指から、電光の刃が伸びる。

 雨粒を焼きながら膨張し、一気に祭壇全てを捉えるような長さまで伸長する。

 ビリビリと、魔術師達は神経を逆撫でするような威圧感に襲われた。

 まるで、神を怒らせたような。

「テメェらの善悪はつまらねえ。尚且つ、後味が悪ぃんだ。だから俺の基準で決めてやる」

 裁くは雷神。

 轟くは雷轟。

 揺らぐ道理は叩いて潰す。

「畏怖して詫びろ。でなきゃテメェら地獄逝きだ」

 怒りは神鳴り、覇気吹き荒び、輝く紫電に大地が震え、

 

「――――さぁ、テメェの罪を数えろ」

 

 今、雷神がその槌を握る。

 

 

 

 

 その両手を振るった時には、魔術師の身体が木端微塵に吹き飛ばされ、焦げ付く肉塊へと変わり果てていた。

 まず初めに、雷神トールがその場で一回転する。

 ただそれだけで、十指から伸びる溶断ブレードのような電光の刃が祭壇を木端微塵に切り裂いた。

 咄嗟に横っ飛びに逃げようとした者もいたが、そもそもに置いて雷神トールのリーチは広い。電光の刃が、祭壇どころか辺りの木々さえ焼き裂きながら蹂躙する。

「ふぅ。歯応えがねえな」

 『優雅』なんて言葉は男の頭にはない。荒々しく、猛々しく、轟々と。

 一瞬で魔術結社を制圧してみせた。

 しかしトールは慢心しない。目の前に屍の山に視線を落とす。

「……死んだ振りが下手だな。胸を動かさず呼吸する練習をした方がいいぜ?」

「バレていたか……なるほど、戦場に慣れているようだ」

 むくり、と肉塊だらけの死体の山から、老人が立ち上がる。確か、祭祀様とか少女に呼ばれていた男だ。

「まさか『雷神トール』を名乗る男が我々の野望に立ち塞がるとは。これも数奇な運命だ」

「クソジジイに運命感じられても嬉しい要素がねえな」

 トールは一言で切り捨てた。

 言葉を追い抜いて殺意が飛び出す。電光の刃が遅れて殺意を追いかける。

 雷神トールはそういう男だった。言葉よりも拳で語る奴だった。

 だからこそ盲点だった。

 きっと言葉で距離を測る慎重な人間だったなら、回避できたかもしれない奇襲。

 腕を思い切り振りかぶるトールの眼前で、祭祀が取り出した物は場違いな武器だった。

 呪符ではない。

 象徴武器(シンボリックウェポン)でもない。

 そもそも霊装ではない。

 それは黒光りする金属で、有り体に言えば、

 

(――――銃ッッ!?)

 

 銃声が耳に届く前に、弾丸が雨粒を弾き飛ばし空を裂いた。

 ミニガン。

 秒速一〇〇発オーバー。痛みを感じる前に即死させる事から『無痛ガン』とも揶揄される、戦場制圧用の凶悪な重機関銃である。

 そんな速度の銃弾を視認できる訳がない。運よくトールが躱せたのは、電光の刃が空気を焼いて爆発的に膨張させていたからであった。

 即死の凶弾が、爆圧に押されて数ミリずれる。その数ミリで命を繋ぐ。

 

 ――――それが数発で済むのなら。

 

 秒速一〇〇発を超える重機関銃を相手に、そんな甘さは通用しなかった。

 トールの後ろにはためく髪に、銃弾が掠った。

 たったそれだけで、トールの華奢な身体が後方へ吹っ飛ばされた。

 ブチブチと髪が引き千切れ、首があらぬ方向へ強烈に引っ張られる衝撃を受ける。転がりながら首をへし折らないように注意し、崩れた祭壇の瓦礫の影へ身を隠す。

「く、っゥ――――」

 頭皮から血が滲み出るが、直ぐに豪雨が洗い流した。激痛に顔が歪むが、既にトールは『そんな事はどうでもよくなっちまう』段階まで進んでいた。

「魔術師が近代兵器かよ。不釣合いなモン引っ張り出してくるじゃねえかオイ。事実、俺を仕留めきれてねえぞ」

「ミニガンは三脚で固定しなければ反動で骨が折れる機関銃だ。それを我が身一つで降り回しているのだから努力を評価して欲しいものだな」

「する訳ねえだろ。魔術師の自覚あんのか?」

「ないな」

 祭祀は即答した。

 それに驚くよりも先に、ポシュッという間抜けた音が豪雨の中に響く。

「――――迫撃砲かよッッ!?」

 簡単に言えば、手榴弾の投擲装置。上空に爆弾を打ち上げ、円弧を描いて敵を上方から爆撃する投射砲。

 上方から迫る爆弾から逃れたいが、だからと言ってトールが瓦礫から飛び出る事はできない。そんな事をすれば、待ち構えていた祭祀がミニガンで彼を蜂の巣にしてしまうだろう。

 身を隠す盾から動けない。

 上空に打ち上げられた爆弾も、小さすぎて夜空じゃ全く見えなかった。

「だったらこうすりゃいい」

 トールは背中を預けていた祭壇の瓦礫を両手で掴み、

「オラァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 まるで相撲のように、巨大なコンクリートの瓦礫を押しながら突進した。

 土を捲り上げながら、巨大な瓦礫がタンクローリーのような勢いで祭祀に迫る。

「メギンギョルズの伝承か……なんと強引な」

 しかし祭祀が慌てる事はなかった。

 今、トールは闇雲に瓦礫を押して突進しているだけだ。つまり、前方が見えていない。

(浅はかだな……瓦礫の突進を躱し、横からミニガンの掃射で消し飛ばしてやる)

 祭祀は横に移動する。

 前方が見えていないトールは気付かない。

 瓦礫が自分の真横を通り過ぎたタミングで、祭祀は瓦礫の影へミニガンを叩き込んだ。

 引き金はフルオート。秒速一〇〇発オーバー。

 本来は対戦車兵器用の凶悪な武器を、たった一人の生身の人間相手に使用した。

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!と。

 骨すら砕き飛ばす必死の銃撃が飛び出した。空間そのものを抉るような規模だった。

彼らの後ろで、迫撃砲の爆弾が落ちる。

 ミニガンの掃射と迫撃砲の爆風。二つで挟撃するようなチェックメイト。

 爆風が泥を捲り上げ、辺りを舞った。

 人体は消し炭になっているだろう。並大抵の魔術でも、この脅威は防げない。

「くく、ふははははははは―――――――――ッッ!!甘い、甘いんだよガキが。既存の古臭い魔術師だからこうなる。私は違うのだ。安易に科学を否定しない。長所は長所として取り込む。お前のようにカビ臭い伝承に縋り付いたりしないのだ!!」

 祭祀の勝ち誇る笑いが木霊する。

 そして、

 

 

 ―――――ザクッ、と。その身体が六等分に切り飛ばされた。

 

 

「―――――え?」

 

 思わず、下顎しかなくなった口から、そんな間抜けな声が漏れた。

 土煙の中から伸びる電光の刃が祭祀の身体を焼き切ったのだ。

 しかし、片方しか見つからない彼の目には、もはやそんな現実もピントが合っていなかった。痛みを感じる機能さえ、既に失っていた。そのレベルで致命傷だった。

「タネ明かししてやろうか?」

 そう言って、トールが瓦礫の影から現れた。

 正確には、その真下から。

「瓦礫を押して突進したら、テメェが横へ躱して銃で攻撃するのは予測できたぜ。だから、俺は『瓦礫を斜め下に押しながら突進していた』んだよ。ちょうど豪雨で地面はグズグズにぬかるんでたし、簡単に沈んだぜ」

「あ、な、を……掘っ、て……」

「ご名答。爆風も銃弾も、沈み込んだ地面に寝そべって回避させてもらった」

 爆風は指向性を持つ。そして、地面に寝そべれば衝撃を極限まで逸らす事は簡単だ。

「残念だったな、ジジイ。テメェは近代兵器に頼り、魔術の世界から外れたいい戦い方をした方だとお世辞は言っといてやる」

 だがな、とトールは一言付け加えた。

「心構えができてねえな。後味の悪い陰謀ぶら提げて覚悟のない殺意で意志を奮い立たせてるんなら、テメェの方こそガキだ。それじゃあ俺の『戦争』まで届かない」

 彼の十指から伸びる電光の刃が振りかぶられ、

「全てを背負う覚悟をしておくべきだったな。そうすりゃ、善悪関係なく気持ちのいいバトルになったろうよ」

 肉塊だった彼が、肉塊ですらなくなった。

 

 

 

 

 




という訳で、魔術だけだとつまらない気もしたので、近代兵器を相手にバトルしてもらいました。
……モブ相手の戦闘ばっかですみません(汗)


戦闘描写のみにしたかったので詳細は省きましたが、今回の事件の真相。
この魔術結社の目的は、「科学と魔術の線引きをやり直す」ことです。科学と魔術の境界をもう一度決め直し、自分達の領域を広げることだったりします(幾何学は魔法陣の形成として成り立った学問だが、現代では数学として科学の分野に奪い取られている。だから自分達の分野を奪い返したい、みたいな話です)。
オーディンではなくトールを主神に添えるのも、魔術文化の一時的な崩壊&立て直しをを図る強行策の一環だったりします。
生贄の少女は巨乳です。


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